765 / 830
中村家キャンプ 編
執事とプライベートジェット
「……秘書さんたちは、私の事をどう思ってるでしょうね」
「誤解を恐れずに言うと、なんとも思っていないと思うよ」
「はぁ……」
思いの外手応えのない返事を聞き、私は生返事をする。
「彼らは会社に雇われている身であって、俺が私生活でどんな女性を選ぼうが、意見できる立場じゃないんだ。実家に執事の我孫子がいるけど、彼はどっちかというと、プライベートな秘書という立ち位置だしな……」
「なんと! 執事!」
私の脳内で、とっても高い所から紅茶を注いでるおじさんが浮かび上がる。
「執事さんって、どういう事をするんですか?」
「……子供の頃は父の代わりに運動会に来てたな。めっちゃ動画撮ってた。あと、送り迎えとか」
「あー……」
そうか。涼さんクラスになると、親が忙しすぎて学校行事に関われなくなるんだ。
「俺たちが学生の頃は、親の代わりに学校関係者とのパイプ役になってたね。習い事をする時も、一流の先生とかを紹介してくるんだよ。彼らが属してる会社は、富裕層を相手に商売してるから、情報も専門的なんだよね。あとは学校のOB会が開かれるって分かったら、参加できるように調整するとか」
「OBと会って、なんかあるんですか?」
「学校的に、大企業の息子とかが多いから、仕事の面でも〝色々〟役立つ情報が聞けるんだ。投資家バーは一般の人でも投資を囓っていれば行けるけど、名門校のOB会ならではの情報はまた別だからね。経済的な話ができるのは勿論、色んなところに顔利きできる。だからよく『連れて行ってほしい』と言われる事はあるよ」
「へぇー……」
「今は祖父も父も現役だけど、いずれ世代交代する時は、メンターを手配するとか執事が繋ぎの役割をしてくれる事もある」
「……なんか現代の執事さんって凄いんですね。私、紅茶を高い所から注いでるイメージしかなかったです」
「ははっ、そういう事も一応するけどね。アートやワイン、車の維持、管理とか、オークションに代理で出てくれるとか、不動産の管理、海外に行く時も本人が煩わしい手続きをしないように、事前に整えてくれるよ。万が一、入院する時はVIPルームを手配してくれるし」
「病院にVIP……!」
私は思わず、下唇を前歯で軽く噛んで「ヴ」の発音をする。
「食べる物もホテル並みだよ」
涼さんはニヤリと笑って言い、私はうなる。
「いいな……」
「あと、ぶっちゃけると、うちにプライベートジェットがある」
「あるんかい!」
私は手首のスナップを利かせ、突っ込みを入れる。
「まぁ、でも、ケアンズ行きは四人でワチャワチャ楽しみたいから、航空会社を使う予定だけどね。そういうのも含めて〝休み〟と思ってるし」
「……なんか凄いですね~……。別世界だ」
「まーね。タイムイズマネーで過ごしてるから、家事を含め手間のかかる事は、お金を払って人にやってもらってるんだ。その分、俺らは仕事で億単位のお金を動かしていく」
「……涼さんと話してると、五百円玉貯金してる自分が馬鹿みたいに思えます」
「いーじゃん。そういう堅実なところ、好きだよ」
私はしばし、目を閉じて思考を休める。
目蓋を閉じても、夏の容赦ない日差しが全身に降り注いでくる。
(そんな忙しい人が、こうやってうちに家族に会ってくれるの、感謝しないとな)
うん。
私は一つ頷いたあと、目を開けて言った。
「今日はお付き合いありがとうございます。お礼に孝兄か恭兄を好きにしていいですよ」
「いや、そこ、商品は恵ちゃんじゃないの?」
「安く切り売りすると、いざという時に価値がなくなるので……」
私は涼さんに掌を突きつけ、首を横に振る。
「切り売りなんて、豚肉じゃないんだから」
「涼さんはサシの入った牛肉でしょうね……」
「そこ、対抗しなくていいから。俺は鶏も豚も好き」
「はー……」
私は浮き輪の上で脱力し、しばしプカプカと浮いてから言う。
「……涼さんの事、一筋縄でいかない人だと思ってますが、ご両親から許可をいただけたら、責任もって幸せにしますからね」
「やだ……、男前……。トゥンク……」
「そこ、バカ兄の真似しなくていい」
突っ込みを入れると、涼さんは朗らかに笑った。
「誤解を恐れずに言うと、なんとも思っていないと思うよ」
「はぁ……」
思いの外手応えのない返事を聞き、私は生返事をする。
「彼らは会社に雇われている身であって、俺が私生活でどんな女性を選ぼうが、意見できる立場じゃないんだ。実家に執事の我孫子がいるけど、彼はどっちかというと、プライベートな秘書という立ち位置だしな……」
「なんと! 執事!」
私の脳内で、とっても高い所から紅茶を注いでるおじさんが浮かび上がる。
「執事さんって、どういう事をするんですか?」
「……子供の頃は父の代わりに運動会に来てたな。めっちゃ動画撮ってた。あと、送り迎えとか」
「あー……」
そうか。涼さんクラスになると、親が忙しすぎて学校行事に関われなくなるんだ。
「俺たちが学生の頃は、親の代わりに学校関係者とのパイプ役になってたね。習い事をする時も、一流の先生とかを紹介してくるんだよ。彼らが属してる会社は、富裕層を相手に商売してるから、情報も専門的なんだよね。あとは学校のOB会が開かれるって分かったら、参加できるように調整するとか」
「OBと会って、なんかあるんですか?」
「学校的に、大企業の息子とかが多いから、仕事の面でも〝色々〟役立つ情報が聞けるんだ。投資家バーは一般の人でも投資を囓っていれば行けるけど、名門校のOB会ならではの情報はまた別だからね。経済的な話ができるのは勿論、色んなところに顔利きできる。だからよく『連れて行ってほしい』と言われる事はあるよ」
「へぇー……」
「今は祖父も父も現役だけど、いずれ世代交代する時は、メンターを手配するとか執事が繋ぎの役割をしてくれる事もある」
「……なんか現代の執事さんって凄いんですね。私、紅茶を高い所から注いでるイメージしかなかったです」
「ははっ、そういう事も一応するけどね。アートやワイン、車の維持、管理とか、オークションに代理で出てくれるとか、不動産の管理、海外に行く時も本人が煩わしい手続きをしないように、事前に整えてくれるよ。万が一、入院する時はVIPルームを手配してくれるし」
「病院にVIP……!」
私は思わず、下唇を前歯で軽く噛んで「ヴ」の発音をする。
「食べる物もホテル並みだよ」
涼さんはニヤリと笑って言い、私はうなる。
「いいな……」
「あと、ぶっちゃけると、うちにプライベートジェットがある」
「あるんかい!」
私は手首のスナップを利かせ、突っ込みを入れる。
「まぁ、でも、ケアンズ行きは四人でワチャワチャ楽しみたいから、航空会社を使う予定だけどね。そういうのも含めて〝休み〟と思ってるし」
「……なんか凄いですね~……。別世界だ」
「まーね。タイムイズマネーで過ごしてるから、家事を含め手間のかかる事は、お金を払って人にやってもらってるんだ。その分、俺らは仕事で億単位のお金を動かしていく」
「……涼さんと話してると、五百円玉貯金してる自分が馬鹿みたいに思えます」
「いーじゃん。そういう堅実なところ、好きだよ」
私はしばし、目を閉じて思考を休める。
目蓋を閉じても、夏の容赦ない日差しが全身に降り注いでくる。
(そんな忙しい人が、こうやってうちに家族に会ってくれるの、感謝しないとな)
うん。
私は一つ頷いたあと、目を開けて言った。
「今日はお付き合いありがとうございます。お礼に孝兄か恭兄を好きにしていいですよ」
「いや、そこ、商品は恵ちゃんじゃないの?」
「安く切り売りすると、いざという時に価値がなくなるので……」
私は涼さんに掌を突きつけ、首を横に振る。
「切り売りなんて、豚肉じゃないんだから」
「涼さんはサシの入った牛肉でしょうね……」
「そこ、対抗しなくていいから。俺は鶏も豚も好き」
「はー……」
私は浮き輪の上で脱力し、しばしプカプカと浮いてから言う。
「……涼さんの事、一筋縄でいかない人だと思ってますが、ご両親から許可をいただけたら、責任もって幸せにしますからね」
「やだ……、男前……。トゥンク……」
「そこ、バカ兄の真似しなくていい」
突っ込みを入れると、涼さんは朗らかに笑った。
あなたにおすすめの小説
<完結>金貨5000枚で売られた王太子妃
ぜらちん黒糖
恋愛
「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」
甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。
旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。
「それは本当に私の子供なのか?」
(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。
「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」
私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。
姉の婚約者に愛人になれと言われたので、母に助けてと相談したら衝撃を受ける。
佐藤 美奈
恋愛
男爵令嬢のイリスは貧乏な家庭。学園に通いながら働いて学費を稼ぐ決意をするほど。
そんな時に姉のミシェルと婚約している伯爵令息のキースが来訪する。
キースは母に頼まれて学費の資金を援助すると申し出てくれました。
でもそれには条件があると言いイリスに愛人になれと迫るのです。
最近母の様子もおかしい?父以外の男性の影を匂わせる。何かと理由をつけて出かける母。
誰かと会う約束があったかもしれない……しかし現実は残酷で母がある男性から溺愛されている事実を知る。
「お母様!そんな最低な男に騙されないで!正気に戻ってください!」娘の悲痛な叫びも母の耳に入らない。
男性に恋をして心を奪われ、穏やかでいつも優しい性格の母が変わってしまった。
今まで大切に積み上げてきた家族の絆が崩れる。母は可愛い二人の娘から嫌われてでも父と離婚して彼と結婚すると言う。
夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。
佐藤 美奈
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。
三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。
だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。
レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。
イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。
「子供の親権も放棄しろ!」と言われてイリスは戸惑うことばかりで、どうすればいいのか分からなくて混乱した。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました
歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。
昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。
入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。
その甲斐あってか学年首位となったある日。
「君のことが好きだから」…まさかの告白!
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。