【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

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ケアンズ最後の夜 編

休憩

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 ケアンズへのフェリーの時間まで、私たちは例のレストランで少し休んだあと、船に乗ってグリーン島をあとにした。





「疲れただろうから、一旦ホテルで一休みしてからディナーにしようか」

 涼さんに言われ、私たちは賛成してそれぞれ部屋に戻る。

 ケアンズを訪れた当初はしっかりメイクをしていたけれど、今日は海に入る事もあり、日焼け止めを塗って眉毛、リップだけで済ませている。

 きっと帰国したらまた色々と「きちんとしないと」と思うだろうけど、外国に来ているからか、「自然体のままでもいいや」と思ってしまう自分がいた。

「こっちの女性って、ノーメイクが多いですよね」

「あー、日本人女性ほど『メイクしなきゃ』という気持ちにはなってないだろうな」

「私、好きでコスメ買ってますし、メイクも好きなんですけど、外から日本を見ると、社会全体的に〝女性は綺麗に着飾っているべき〟みたいな思想を、無意識に植え付けられているように感じます」

「確かにそれはあるな。俺もあちこち海外に行ってるけど、ほぼノーメイクと言って良く、服もベーシックな物しか着ていない人は多い。逆に、体型や年齢を問わず〝隠す〟事をしない。体が大きくても脚を出すし、歳を重ねていても谷間を出す。そういう所はいいと思ってる。……日本人は体が大きかったら、脚や腕を出すのを悪と考えている風潮があるし、〝年齢や体型に応じた服装をするのがマナー〟みたいな考えが根付いてる」

「……私も無意識に、それに染まってる気がするなぁ。日本が悪いって言う訳じゃないんですが、海外に来て凄く『楽だな』って感じました」

「『これだから日本は』って言う人もいるけど、日本は治安がいいし、病院を安く使えるし、水道水を安全に飲めるし、とても恵まれた国だと思ってる。だから、日本と欧米と、どっちが百パーセントいいって話でもないんだよな。外国にだって体型や年齢、人種で人を判断する人はいるし、キリスト教の考えが根付いて同性愛に厳しい人たちもいる。銃の問題とかもあるしな」

「うんうん、分かります」

 こうやって真面目な話を、自然にできるところも尊さんの美点だと思う。

 比べる必要はないけれど、昭人は割と外見至上主義みたいなところがあって、通り過ぎざまに『見た? さっきの人』と冷笑していた事があった。

 私はそれが嫌で、でも向き合って『そういうの良くないと思う』と言うのも面倒臭くて、ずっと無視してきてしまっていた。

「私、沢山外国の綺麗な景色を見て、美味しい物を食べて、素敵な部分に触れても、やっぱり日本が好きだなってなると思います」

「俺も。まず飯が美味いからな。それぞれの国の飯も美味いけど、やっぱり生まれた国の物が口に合う」

「美食の国は他にも沢山あるけど、日本って凄く色んな料理が混在している国で、何料理を食べたいと思っても、美味しいのを食べられますよね。お得」

「だな」

 私たちはベッドに寝転がりながらそんな話をしている。

「……十八時ぐらいまで、一眠りするか。アラームかけるから」

「ん、はい」

 私は尊さんの隣で、モソモソと寝やすい体勢をとる。

 明日の夕方には飛行機に乗っているなんて、信じられない。

 この数日非日常の中にいたから、日本での日々がとても遠く感じる。

 でも、世界中どこへ行っても側に尊さんがいてくれるなんて、最高すぎる。

 恵も涼さんもいてくれるし、狭く深くの人付き合いでも、私は十分に幸せだ。

「尊さん」

「ん?」

 彼はクーラーの効いた室内で、布団をフワッと被せて返事をする。

「楽しい所、連れてきてくれてありがとうございます。大好き」

 すると彼は嬉しそうに微笑む。

「俺も朱里がいるお陰で毎日楽しいよ」

 尊さんは私の頭を撫で、大切そうに額にキスをしたあと、手を握って隣に寝転んだ。

(いつまでもこの幸せが続けばいいな)

 結婚も目前で、私たちは幸せの絶頂にいる。

 けれど本当の意味で幸せになり、彼と夫婦になるためには、些細な事であっても隠し事を打ち明けなければならない。

 尊さんなら、私の言う事をすべて受け入れてくれると信じている。

 でも、ほんの少し恐いと感じて前に進めずにいる自分がいた。



**



「ん”に”い”い”い”い”い”い”…………」

 私――、中村恵は、ベッドの上で涼さんに手脚を絡ませられて、奇声を発していた。

「わー、暴れる猫を抱き締めてる感じ。かわいー」
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