【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

文字の大きさ
808 / 812
ケアンズ最後の夜 編

出かける支度

しおりを挟む
 私は口笛を吹いて逃げる真似をしたけれど、がっし、と抱き締められる。

「……てか、口笛吹いて誤魔化すって、どんだけベタなの」

 涼さんはクスクス笑い、私の顔を自分の胸板に押し当てる。

「時間がないし、疲れてるだろうから、変な事はしないよ。……でも抱き締めさせて」

「……はい……」

 私はクーラーのついた部屋の中、涼さんのぬくもりに包まれて吐息をつく。

 男の人に抱き締められて「安心する」日が来るとは思っていなかった。

 ずっと私にとって男性は恐怖と嫌悪の対象で、「自分のすべてを明け渡して構わない」なんてまったく感じられなかった。

 なのにこの人はスルッと私の心に入り込み、キラキラとした太陽の光で優しさや温かさを分けてくれる。

「……涼さん」

「ん?」

 くっついた体から、彼の低い声が反響してくるのも、心地いい。

 私は目もくらむような美貌を見つめたあと、涼さんの頬に手を添えて、チュッとキスをした。

 顔を離すと、彼は目を丸くして驚いている。

 そんな表情を見ると、いつも余裕綽々の彼から、一本とれた気持ちになって嬉しい。

「好きですよ。…………ちょっとだけだけど、お礼」

 これ以上なく赤面して微笑んだあと、私は「もう無理」と思って、モソモソと彼の腕の中で背中を向ける。

「~~~~っ、可愛い……っ!」

 涼さんは限界を迎えた声で言い、私の背中にグリグリと顔を押しつけてきた。

「……これだから恵ちゃんガンギマリ勢、やめらんない……」

「なんですかそれ」

 私はいつものように突っ込みながら、クスクス笑う。

「好きだよ」

 耳元で囁かれ、ゾクッとするけれど、今は我慢だ。

(私、こんなふうにイチャイチャするタイプじゃなかったのになぁ……)

 ある意味少しの呆れを感じつつも、嫌じゃないし、いい方向に変わる事ができた自分に笑みが漏れる。

「少し、ちゃんと寝ましょう。さすがに疲れちゃったので」

「ん」

 そう言うと、涼さんはそれ以上しつこくせず大人しくしてくれた。



**



 グゴォッと凄い音がし、私――上村朱里は驚いて目を覚ました。

「んがっ」

 そんな私の様子を見て、すでに起きていた尊さんは横を向いて笑う。

「そろそろハラペコになったみたいだな」

「……あいすみません……」

 生理現象とはいえ、こんな轟音が鳴ると思わず、我ながら恥ずかしい。

 お腹をさすりながら起きると、尊さんは私の頭を撫でてチュッとこめかみにキスをした。

「涼からメッセージがあって、予約してるレストランはドレスコードのある店だから、用意してくれってさ」

「分かりました」

 私は大きな口を開けて欠伸をし、ポポポポンと手を当てて「あわわわわわ」とふざける。

「よしっ、気合い入れるもんね!」

 私は大きなベッドの上でお尻をズリズリして移動し、ポンと下りる。

「レストランの予約は何時ですか?」

「十九時らしいから、あと一時間はある」

「分かりました」

 私はペタペタと洗面所に向かうと、ブラシで髪を梳かしてクリップで纏める。

 そのあと一度メイク落としをして洗顔をし、基礎化粧品をつけて十分馴染ませたあと、ゆっくりメイクしていった。





 時間になり、私はグレージュのペプラムノースリーブと、レースのIラインスカートのセットアップを着て、その上にレースカーディガンを羽織る。

 靴はアンクルストラップの、ヒール低めの物を履いた。

 こういう事もあろうかと思ってサンダルではない靴も持って来たけれど、あまりヒールが高いと移動しづらいので、このような選択になった。

 尊さんはシャツの上にグレンチェックのベスト、グレーのタックパンツ姿だ。

 ロビーに着いて少し経つと、恵と涼さんがやってきた。

 恵は黒いオールインワンに、黒いレースのボレロを羽織っている。彼女らしくてとても格好いい。

 涼さんは尊さんと似た感じで、こちらはベージュを基調にしていて、イエベ春の彼によく似合っている。
しおりを挟む
感想 2,618

あなたにおすすめの小説

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

「君はいらない」と捨てられた夜、天敵の冷徹社長に「なら、俺が貰う」と拾われました。――手を出さない約束でしたが、彼の理性が限界のようです

葉山 乃愛
恋愛
【婚約破棄から始まる、不器用なライオン(冷徹社長)の猛烈な求愛!】 「俺の妻になるなら覚悟しろ。……もう、指一本逃がすつもりはない」 ★あらすじ★ 「美月は完璧すぎて、可愛げがないんだよ」 28歳の誕生日。 一流ホテルのウエディングプランナーである相沢美月(あいざわ みつき)は、婚約者の裏切りにより、結婚目前ですべてを失った。 雨の降る路地裏。 ヒールも折れ、心も折れてうずくまっていた美月の前に現れたのは、かつての高校時代の天敵であり、現在は勤務先の冷徹な社長 一条蓮(いちじょう れん)だった。 「捨て猫以下だな」 そう憎まれ口を叩きながらも、彼は泥だらけの美月を躊躇なく抱き上げ、最高級ペントハウスへと連れ帰る。 そして、彼が突きつけたのは、あまりにも強引な提案だった。 「住む場所がないなら、俺の家に来い。その代わり――俺の『婚約者』役を演じろ」 利害の一致した契約関係。 条件は「お互いに干渉しないこと」、そして「決して手を出さないこと」。 ……のはずだったのに。 「髪、濡れたままだと風邪を引く」 「あんな男のために泣くな。顔が台無しだ」 同居生活で見えてきたのは、冷徹な仮面の下に隠された、不器用すぎるほどの優しさと独占欲。 美月が作った手料理を誰よりも美味しそうに食べ、元婚約者が復縁を迫ってくれば「俺の女に触れるな」と徹底的に排除する。 天敵だったはずの彼に守られ、凍っていた美月の心は次第に溶かされていく。 しかし、ある雷雨の夜。 美月が不用意に彼に触れた瞬間、一条の理性のタガが外れてしまい――。 「……手を出さない約束? 撤回だ」 「そんな無防備な顔で見つめて、何もしないでいられるほど、俺は聖人君子じゃない」 10年越しの片思いをこじらせたハイスペック社長 × 仕事熱心で恋愛に臆病なプランナー。 契約から始まった二人の関係が、本物の愛(溺愛)に変わるまで。 元婚約者への痛快な「ざまぁ」も収録した、極上の大人のシンデレラストーリー! 【登場人物】 ◆相沢 美月(28) ホテルの敏腕ウエディングプランナー。真面目でお人好しな性格が災いし、「つまらない女」と婚約破棄される。実は家事万能で、酔うと少しだけ甘えん坊になる(本人は無自覚)。 ◆一条 蓮(28) ホテルグループの社長。美貌と才覚を併せ持つが、他人に興味を示さないため「氷の貴公子」と呼ばれる。実は高校時代から美月を一途に想い続けており、彼女のこととなると冷静さを失う。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

たとえ夜が姿を変えても ―過保護な兄の親友は、私を逃がさない―

佐竹りふれ
恋愛
重なる吐息、耳元を掠める熱、そして——兄の親友の、隠しきれない独占欲。 19歳のジャスミンにとって、過保護な兄の親友・セバスチャンは、自分を子供扱いする「第二の兄」のような存在だった。 しかし、初めてのパーティーの夜、その関係は一変する。 突然降ってきた、深く、すべてを奪うような口づけ。 「焦らず、お前のペースで進もう」 そう余裕たっぷりに微笑んだセバスチャン。 けれど、彼の言う「ゆっくり」は、翌朝には早くも崩れ始めていた。 学内の視線、兄の沈黙、そして二人きりのアパート――。 外堀が埋まっていくスピードに戸惑いながらも、ジャスミンは彼が隠し持つ「男」の顔に、抗えない好奇心を抱き始める。 「……どうする? 俺と一緒に、いけないことするか?」 余裕の仮面を被るセバスチャンに、あどけない顔で、けれど大胆に踏み込んでいくジャスミン。 理性を繋ぎ止めようとする彼を、翻弄し、追い詰めていくのは彼女の方で……。 「ゆっくり」なんて、ただの建前。 一度火がついた熱は、誰にも止められない。 兄の親友という境界線を軽々と飛び越え、加速しすぎる二人の溺愛ラブストーリー。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...