【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

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初デート 編

恋は、戦いだ

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 私は前菜を大人しく食べながら、隣に座っている、良く言えばミステリアス、悪く言えば正体不明で信頼できない男の事を考える。

 普通の家庭の生まれじゃないのは確かだ。

 三十二歳で部長になって、顔が良くてあらゆる条件が揃っているのに独身なんて、おかしすぎる。

 女性の扱いは慣れているし、セックスだってうまい。

〝普通〟なら、すでに結婚して子供がいたっておかしくない。

 そんな人に目を付けられた私も私だけど。

 こういう言い方をすると語弊があるかもだけど、類友なのかな。

 尊さんは訳アリの人で、その気になれば人気者にもなれるのに、他者からの好意をはぐらかして、一線引いた場所にいる。

 私もまた、あまり人に深く立ち入らないようにしている。

 肉食獣は群れの中に突っ込んでエサを狩る時もある。
 でも群れから離れたところにいる、隙のある個体を狙ったほうが、狩りが成功する確率は高くなる。

 尊さんはもとから仕事の面でも私を評価してくれていて、ある程度私を観察していたのかもしれない。

 その過程で興味を持って、機会があれば……と思っていた可能性もある。

 ……いや、こんな事を口にしてしまえば、かなり自意識過剰だから言わないけど。

 前菜を食べ終えてシャンパンを飲んでいると、食器が下げられて百合根のポタージュが出された。

 色々考えていたけれど、私一人で思い悩んでも何も解決しない。

「……尊さんって、何なんですか? ただの〝部長〟じゃないでしょう?」

 隣の席に座っている彼を見ると、尊さんは私を見てうっすら笑った。

 その皮肉げな表情もまた、色気があって憎たらしいぐらい格好いい。

「俺と付き合える?」

 覚悟がなければ、教えないという意思表示だ。

 同時に、逃げるつもりなら、ここで逃がしてくれるとも言っている。

 尊さんの手をとれば、きっと尋常ではない世界が待っているんだろう。

 想像力の乏しい私でも、危険を察知するレーダーはある程度備えている……つもりだ。

 ――進むか、戻るか。

 危険がありながらも魅力たっぷりの尊さんの手をとるか、凡庸な生活に戻り二度と彼と関わらないか。

 ――そう。この誘いを断ったら、尊さんは二度と私を誘わないと直感で分かった。

 同じ会社で働いて顔を会わせても、先日のように会議室で襲ってくる事はないし、個人的に話しかけてくる事もない。

 教えてくれた連絡先にメッセージを送っても、きっと彼の事だから無視するか、ブロックするだろう。

 ――嫌だ。

 ポコッ……、とあぶくのように心の底からこみ上げた想いを、ようやく自覚する。

 彼が魅力的なのは分かっていた。

 エッチだってうまいし、また抱かれて気持ちよくなりたい。

 それだけじゃない。意地悪な言い方をするところも、私を何度も試し、自分を選択するか確認するような態度も、大人びて達観してようでいながら、昭人の時みたいに大人げなくやり返すところも――、……好きだ。

 気がついたら、すべてに惹かれて堪らなくなっている。

 ――この人の手を放したくない。

 ――もっと尊さんを知りたい。

 ――どんな関係になってもいい。この人となら、炎の中に身を投じるような恋をしてもいい。

 ――やってやろうじゃない。

 私は目に強い力を宿し、尊さんを睨み付ける。

 恋は、戦いだ。

「……ホント、悪い男ですね」

 付き合えるかという問いに対し、私はイエスと言っていないし、彼を褒めてもいない。

 けれどさすが尊さんというべきか、彼はその一言だけで私の気持ちを理解したようだった。

「多少の毒がなきゃ、薬にもならねぇよ」

「……減らず口ばっかり」

 私は途中になっていたポタージュをまた口にし、チラッと尊さんを見て言う。

「面倒は嫌ですから、会社の人には内緒ですよ」

「了解」

 彼は軽やかに返事をしたあと、シャンパンの残りをクーッと飲んでから爆弾発言をした。

「俺、会社の社長の息子なんだ」

「ぶふんっ」

 私はポタージュを噴き出しかけ、「お上品なレストランだから!」と自分に思いっきりストップを掛け、口から出さないものの鼻に逆流させて涙目になった。

 ……鼻、痛った!
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