【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

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篠宮家 編

彼の家族と顔合わせ

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「右手と右足が一緒に出てる奴、初めて見たな」

 尊さんが私を見てボソッと呟くので、ハッとして立ち止まる。

「……なってました?」

 緊張していたとはいえ、普通に歩けていたはずだ。

 東京のど真ん中で変な歩き方をしていたなら、あまりにも恥ずかしすぎる。

「いや、嘘」

「はーい、針千本飲んでくださーい」

 私はジト目になり、尊さんを肘で小突く。

「ホントやめてください。怒りますよ?」

「悪かったって」

 彼氏になったからには、躾が大事だ。

「そう緊張するなよ。あの人は他人からよく見られたいと思ってるから、深入りするつもりはないなら、ニコニコして済ませると思うけどな」

「でも、結婚するんでしょう?」

「当たり前だ」

「じゃあ……」

「キレるだろうな」

 サラリと言われて、私はガックリ項垂れた。

「お前と結婚するって決めてるから、一緒に立ち向かうよ」

「……商品開発部部長VS経理部部長ですか?」

「すげーな、ゴジラVSモスラみてーだ」

「ふざけてないで」

 私はハーッと溜め息をつく。

「二人とも、立場が悪くなりませんか? 社長夫人が何か言ったら、社長が言いなりになりませんか?」

「それはどうかな? 俺も覚悟して、とっておきの切り札を用意してるし」

 またこの男は、煙に巻くような事を言う……。

「……その〝切り札〟って大丈夫ですか?」

「かなり強力だよ。それは自信がある」

「……ならいいんですが……」

 とはいえ、社長夫人をコテンパンに叩きのめして結婚したい訳じゃない。

 確かに尊さんに旧姓を名乗らせ、部長職に留めているのは陰湿で腹が立つ。

 けど尊さんと血が繋がっていないとはいえ、将来は義母になる人だ。

 やっつけるんじゃなくて、可能ならうまくヌルッとかわしてやっていければいいんだけど。

 そんな事を考えながら、私たちは予約している日本料理店へ向かった。



**



 日本料理店はビルの中にあるけれど、お店の前に家紋がついた暖簾があり、見るからに格式が高い。

 入り口の両脇には行灯スタイルのライトがあり、中から着物姿の女将さんが「いらっしゃいませ」と迎えてくれた。

「予約していました、速水です」

 尊さんが女将さんに名乗ると、彼女は私たちを個室に案内してくれた。

 履き物を脱いで襖を開けると、掘りごたつの個室に入る。

 赤いカバーが掛けられた座椅子が五つ並び、正面には水墨画の掛け軸と一輪挿しがある。

 壁の隙間から間接照明の光が漏れ、壁際には玉砂利が敷き詰められていた。

「今、温かいお茶を持って参ります」

 クローゼットにコートをしまったあと、女将さんはそう言って退室していった。

「先に言っておくけど、また今度この店に来ような」

「え? はい」

「お前の事だから、『せっかくの料理なのに楽しめなかった』って言いそうだから……」

「人をハラペコ大魔神みたいに言うの、やめてくれます?」

 ジロリと尊さんを睨み付けると、彼は横を向いて肩を震わせていた。

 私たちがお店に着いたのが十一時四十分で、予約は十二時だ。

 社長と怜香さん、そして副社長は十一時五十分に来店した。

「お連れ様がお見えになりました」

 女将さんの声を聞き、私たちは立ちあがる。

 襖が開き、確かに尊さんに似ているとも言える、ダンディな社長――篠宮わたるさんと、社長夫人の怜香さん、そして長男で副社長の風磨さんが現れた。

 会社のトップを前にして、私はガチガチに緊張した。

 尊さんがプレゼントしてくれたワンピースは、フェミニンな雰囲気の物だった。

 ベージュピンクのヒラヒラした生地で、髪型もハーフアップにしているので、いつもの私にはないお嬢様感がある。

 多分これなら大丈夫だろう……と思っているけれど。

「今日はご多忙ななか、ありがとうございます」

 自分の家族だというのに、尊さんは他人行儀な挨拶をした。
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