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篠宮家 編
彼の家族と顔合わせ
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「右手と右足が一緒に出てる奴、初めて見たな」
尊さんが私を見てボソッと呟くので、ハッとして立ち止まる。
「……なってました?」
緊張していたとはいえ、普通に歩けていたはずだ。
東京のど真ん中で変な歩き方をしていたなら、あまりにも恥ずかしすぎる。
「いや、嘘」
「はーい、針千本飲んでくださーい」
私はジト目になり、尊さんを肘で小突く。
「ホントやめてください。怒りますよ?」
「悪かったって」
彼氏になったからには、躾が大事だ。
「そう緊張するなよ。あの人は他人からよく見られたいと思ってるから、深入りするつもりはないなら、ニコニコして済ませると思うけどな」
「でも、結婚するんでしょう?」
「当たり前だ」
「じゃあ……」
「キレるだろうな」
サラリと言われて、私はガックリ項垂れた。
「お前と結婚するって決めてるから、一緒に立ち向かうよ」
「……商品開発部部長VS経理部部長ですか?」
「すげーな、ゴジラVSモスラみてーだ」
「ふざけてないで」
私はハーッと溜め息をつく。
「二人とも、立場が悪くなりませんか? 社長夫人が何か言ったら、社長が言いなりになりませんか?」
「それはどうかな? 俺も覚悟して、とっておきの切り札を用意してるし」
またこの男は、煙に巻くような事を言う……。
「……その〝切り札〟って大丈夫ですか?」
「かなり強力だよ。それは自信がある」
「……ならいいんですが……」
とはいえ、社長夫人をコテンパンに叩きのめして結婚したい訳じゃない。
確かに尊さんに旧姓を名乗らせ、部長職に留めているのは陰湿で腹が立つ。
けど尊さんと血が繋がっていないとはいえ、将来は義母になる人だ。
やっつけるんじゃなくて、可能ならうまくヌルッとかわしてやっていければいいんだけど。
そんな事を考えながら、私たちは予約している日本料理店へ向かった。
**
日本料理店はビルの中にあるけれど、お店の前に家紋がついた暖簾があり、見るからに格式が高い。
入り口の両脇には行灯スタイルのライトがあり、中から着物姿の女将さんが「いらっしゃいませ」と迎えてくれた。
「予約していました、速水です」
尊さんが女将さんに名乗ると、彼女は私たちを個室に案内してくれた。
履き物を脱いで襖を開けると、掘りごたつの個室に入る。
赤いカバーが掛けられた座椅子が五つ並び、正面には水墨画の掛け軸と一輪挿しがある。
壁の隙間から間接照明の光が漏れ、壁際には玉砂利が敷き詰められていた。
「今、温かいお茶を持って参ります」
クローゼットにコートをしまったあと、女将さんはそう言って退室していった。
「先に言っておくけど、また今度この店に来ような」
「え? はい」
「お前の事だから、『せっかくの料理なのに楽しめなかった』って言いそうだから……」
「人をハラペコ大魔神みたいに言うの、やめてくれます?」
ジロリと尊さんを睨み付けると、彼は横を向いて肩を震わせていた。
私たちがお店に着いたのが十一時四十分で、予約は十二時だ。
社長と怜香さん、そして副社長は十一時五十分に来店した。
「お連れ様がお見えになりました」
女将さんの声を聞き、私たちは立ちあがる。
襖が開き、確かに尊さんに似ているとも言える、ダンディな社長――篠宮亘さんと、社長夫人の怜香さん、そして長男で副社長の風磨さんが現れた。
会社のトップを前にして、私はガチガチに緊張した。
尊さんがプレゼントしてくれたワンピースは、フェミニンな雰囲気の物だった。
ベージュピンクのヒラヒラした生地で、髪型もハーフアップにしているので、いつもの私にはないお嬢様感がある。
多分これなら大丈夫だろう……と思っているけれど。
「今日はご多忙ななか、ありがとうございます」
自分の家族だというのに、尊さんは他人行儀な挨拶をした。
尊さんが私を見てボソッと呟くので、ハッとして立ち止まる。
「……なってました?」
緊張していたとはいえ、普通に歩けていたはずだ。
東京のど真ん中で変な歩き方をしていたなら、あまりにも恥ずかしすぎる。
「いや、嘘」
「はーい、針千本飲んでくださーい」
私はジト目になり、尊さんを肘で小突く。
「ホントやめてください。怒りますよ?」
「悪かったって」
彼氏になったからには、躾が大事だ。
「そう緊張するなよ。あの人は他人からよく見られたいと思ってるから、深入りするつもりはないなら、ニコニコして済ませると思うけどな」
「でも、結婚するんでしょう?」
「当たり前だ」
「じゃあ……」
「キレるだろうな」
サラリと言われて、私はガックリ項垂れた。
「お前と結婚するって決めてるから、一緒に立ち向かうよ」
「……商品開発部部長VS経理部部長ですか?」
「すげーな、ゴジラVSモスラみてーだ」
「ふざけてないで」
私はハーッと溜め息をつく。
「二人とも、立場が悪くなりませんか? 社長夫人が何か言ったら、社長が言いなりになりませんか?」
「それはどうかな? 俺も覚悟して、とっておきの切り札を用意してるし」
またこの男は、煙に巻くような事を言う……。
「……その〝切り札〟って大丈夫ですか?」
「かなり強力だよ。それは自信がある」
「……ならいいんですが……」
とはいえ、社長夫人をコテンパンに叩きのめして結婚したい訳じゃない。
確かに尊さんに旧姓を名乗らせ、部長職に留めているのは陰湿で腹が立つ。
けど尊さんと血が繋がっていないとはいえ、将来は義母になる人だ。
やっつけるんじゃなくて、可能ならうまくヌルッとかわしてやっていければいいんだけど。
そんな事を考えながら、私たちは予約している日本料理店へ向かった。
**
日本料理店はビルの中にあるけれど、お店の前に家紋がついた暖簾があり、見るからに格式が高い。
入り口の両脇には行灯スタイルのライトがあり、中から着物姿の女将さんが「いらっしゃいませ」と迎えてくれた。
「予約していました、速水です」
尊さんが女将さんに名乗ると、彼女は私たちを個室に案内してくれた。
履き物を脱いで襖を開けると、掘りごたつの個室に入る。
赤いカバーが掛けられた座椅子が五つ並び、正面には水墨画の掛け軸と一輪挿しがある。
壁の隙間から間接照明の光が漏れ、壁際には玉砂利が敷き詰められていた。
「今、温かいお茶を持って参ります」
クローゼットにコートをしまったあと、女将さんはそう言って退室していった。
「先に言っておくけど、また今度この店に来ような」
「え? はい」
「お前の事だから、『せっかくの料理なのに楽しめなかった』って言いそうだから……」
「人をハラペコ大魔神みたいに言うの、やめてくれます?」
ジロリと尊さんを睨み付けると、彼は横を向いて肩を震わせていた。
私たちがお店に着いたのが十一時四十分で、予約は十二時だ。
社長と怜香さん、そして副社長は十一時五十分に来店した。
「お連れ様がお見えになりました」
女将さんの声を聞き、私たちは立ちあがる。
襖が開き、確かに尊さんに似ているとも言える、ダンディな社長――篠宮亘さんと、社長夫人の怜香さん、そして長男で副社長の風磨さんが現れた。
会社のトップを前にして、私はガチガチに緊張した。
尊さんがプレゼントしてくれたワンピースは、フェミニンな雰囲気の物だった。
ベージュピンクのヒラヒラした生地で、髪型もハーフアップにしているので、いつもの私にはないお嬢様感がある。
多分これなら大丈夫だろう……と思っているけれど。
「今日はご多忙ななか、ありがとうございます」
自分の家族だというのに、尊さんは他人行儀な挨拶をした。
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