42 / 810
篠宮家 編
私は裏切りませんよ
しおりを挟む
「喜ぶな」
尊さんは呆れたように言い、そのあとに「仕方ねーな」と苦笑いする。
前は尊さんの事を、スペックはいいのに、ぶっきらぼうで愛想がないのが難点だと思っていた。
けどよく注意してみれば、この人は魅力の塊だ。
確かに風磨さんは分かりやすいハイスペックイケメンで、世の女性が憧れる王子様みたいな人だ。
でも私は尊さんのほうが、ずっといいな。
「へへ……」
「何ニヤニヤしてんだよ」
私はしばらくニヤつきながらパフェを食べ、「そういえば……」と思いだす。
「『今まで決まった女性と付き合わなかった』んですか? 期待する相手もいなかった?」
怜香さんに邪魔されてきた話は聞いたけれど、好きな人すらいなかったのかな? と疑問に思ったからだ。
「……期待するだけ無駄だろ」
彼は眉を上げ、ブラックコーヒーを一口飲む。
「……女性不信になりました?」
今度はまじめな表情で尋ねると、尊さんは苦笑いする。
「人を信じるって、結構エネルギーいるよな」
その言葉が、何より彼のすべてを物語っていると思った。
「何人があなたのもとを去ったんですか?」
私の質問を聞いて、彼は少し考える素振りを見せる。
「篠宮家に移ったのが、十歳の冬だな。まぁ、当時はガキだったし、付き合うとかもなかったけど……。中学、高校、大学で五人に告白されたけど、気がついたら相手に避けられたりとか、『好きな人ができた』と言われたり」
「告白しておいて去るのか……」
私はある意味感心して頷く。
「この会社に入った当初は平社員だったけど、同期に元気のいい奴がいて勇気づけられた。曲がった事が嫌いでまっすぐな奴だったけど……。他社から引き抜かれた。その時に、裏にあの人がいたと知って、今まで自分の恋愛がうまくいかなかった理由を察したよ」
〝元気のいい奴〟ってのは、女性社員だったんだろう。
その時の彼の絶望を考えると、悲しくて堪らない。
「うまくいかないって分かっているのに、そのあとも性懲りもなく誰かに惹かれた。孤独だからこそ愛されたかったし、必要とされたかった。『こいつならきっと大丈夫』と思っても裏切られた。『次こそ』『今回は本当の愛だ』って頑張ったけど、……疲れちまったな」
絶望した話をしているのに、尊さんの顔はとても穏やかだった。
「誰かに期待しなくなると、すげぇ楽になるんだ。嫌われるのも憎まれるのも、何とも思わなくなる。誰かの顔色を伺う必要がなくなる。……まぁ、だからといって傍若無人に振る舞っていた訳じゃないけど」
微笑んで話す尊さんを、今すぐ抱き締めてあげたくなった。
「私は裏切りませんよ」
「分かってるよ。信じてる」
尊さんはやはり穏やかな表情で言う。
この人は最初からこうだ。
決して感情的にならず、焦りもせず、ゆったりと、淡々と、目の前にある出来事を見つめて対応していく。
事情を知らない人が見れば「大人」と思うだろう。
けれど本当のところ、彼はあまりに傷付きすぎて誰にも期待しなくなった、可哀想な人だ。
私たちはお互いに強く求め合い、信じて愛し合おうとしているのに、心はまだまだ遠いところにあった。
「しかし副社長と秘書さんと一緒に食事なんて、思ってもみなかったな」
「エミリはいい奴だと思うよ」
「いきなりの名前呼び!」
急に尊さんが「エミリ」と呼んだので、私は目を丸くして驚く。
「兄貴に紹介されて、プライベートでも知ってる相手なんだ。妬くなよ」
……またさっきと同じ事言われた……。
私はブスッとふてくされ、パフェの残りをスプーンですくう。
「いい奴だし、美人だ。気も利くし、男を愛したら一途だ」
「ほう、随分評価してますね」
私は半眼になって、尊さんの言葉をあしらった。
「でも兄貴の女に手を出そうなんて、欠片も思わねぇよ。常識はあるつもりだ。だから怜香さんに見合いの話を持ち込まれても、『アホか』と思って終わりだった」
「ふ、ふーん……」
少し嬉しくなんてなってない。うわずった声にもなってない。
「だから二人と食事する時、喧嘩売るなよ?」
「うっ、売りませんよ! 人の事を何だと思ってるんですか」
「お前、割と勢いでなんでもやっちゃうから……」
「しみじみと言わないでくださいよ。あと、上司の立場で色々思いだしてるでしょ。それもやめてください」
私が本気で嫌がると、尊さんは横を向いてクツクツと笑った。
**
尊さんは呆れたように言い、そのあとに「仕方ねーな」と苦笑いする。
前は尊さんの事を、スペックはいいのに、ぶっきらぼうで愛想がないのが難点だと思っていた。
けどよく注意してみれば、この人は魅力の塊だ。
確かに風磨さんは分かりやすいハイスペックイケメンで、世の女性が憧れる王子様みたいな人だ。
でも私は尊さんのほうが、ずっといいな。
「へへ……」
「何ニヤニヤしてんだよ」
私はしばらくニヤつきながらパフェを食べ、「そういえば……」と思いだす。
「『今まで決まった女性と付き合わなかった』んですか? 期待する相手もいなかった?」
怜香さんに邪魔されてきた話は聞いたけれど、好きな人すらいなかったのかな? と疑問に思ったからだ。
「……期待するだけ無駄だろ」
彼は眉を上げ、ブラックコーヒーを一口飲む。
「……女性不信になりました?」
今度はまじめな表情で尋ねると、尊さんは苦笑いする。
「人を信じるって、結構エネルギーいるよな」
その言葉が、何より彼のすべてを物語っていると思った。
「何人があなたのもとを去ったんですか?」
私の質問を聞いて、彼は少し考える素振りを見せる。
「篠宮家に移ったのが、十歳の冬だな。まぁ、当時はガキだったし、付き合うとかもなかったけど……。中学、高校、大学で五人に告白されたけど、気がついたら相手に避けられたりとか、『好きな人ができた』と言われたり」
「告白しておいて去るのか……」
私はある意味感心して頷く。
「この会社に入った当初は平社員だったけど、同期に元気のいい奴がいて勇気づけられた。曲がった事が嫌いでまっすぐな奴だったけど……。他社から引き抜かれた。その時に、裏にあの人がいたと知って、今まで自分の恋愛がうまくいかなかった理由を察したよ」
〝元気のいい奴〟ってのは、女性社員だったんだろう。
その時の彼の絶望を考えると、悲しくて堪らない。
「うまくいかないって分かっているのに、そのあとも性懲りもなく誰かに惹かれた。孤独だからこそ愛されたかったし、必要とされたかった。『こいつならきっと大丈夫』と思っても裏切られた。『次こそ』『今回は本当の愛だ』って頑張ったけど、……疲れちまったな」
絶望した話をしているのに、尊さんの顔はとても穏やかだった。
「誰かに期待しなくなると、すげぇ楽になるんだ。嫌われるのも憎まれるのも、何とも思わなくなる。誰かの顔色を伺う必要がなくなる。……まぁ、だからといって傍若無人に振る舞っていた訳じゃないけど」
微笑んで話す尊さんを、今すぐ抱き締めてあげたくなった。
「私は裏切りませんよ」
「分かってるよ。信じてる」
尊さんはやはり穏やかな表情で言う。
この人は最初からこうだ。
決して感情的にならず、焦りもせず、ゆったりと、淡々と、目の前にある出来事を見つめて対応していく。
事情を知らない人が見れば「大人」と思うだろう。
けれど本当のところ、彼はあまりに傷付きすぎて誰にも期待しなくなった、可哀想な人だ。
私たちはお互いに強く求め合い、信じて愛し合おうとしているのに、心はまだまだ遠いところにあった。
「しかし副社長と秘書さんと一緒に食事なんて、思ってもみなかったな」
「エミリはいい奴だと思うよ」
「いきなりの名前呼び!」
急に尊さんが「エミリ」と呼んだので、私は目を丸くして驚く。
「兄貴に紹介されて、プライベートでも知ってる相手なんだ。妬くなよ」
……またさっきと同じ事言われた……。
私はブスッとふてくされ、パフェの残りをスプーンですくう。
「いい奴だし、美人だ。気も利くし、男を愛したら一途だ」
「ほう、随分評価してますね」
私は半眼になって、尊さんの言葉をあしらった。
「でも兄貴の女に手を出そうなんて、欠片も思わねぇよ。常識はあるつもりだ。だから怜香さんに見合いの話を持ち込まれても、『アホか』と思って終わりだった」
「ふ、ふーん……」
少し嬉しくなんてなってない。うわずった声にもなってない。
「だから二人と食事する時、喧嘩売るなよ?」
「うっ、売りませんよ! 人の事を何だと思ってるんですか」
「お前、割と勢いでなんでもやっちゃうから……」
「しみじみと言わないでくださいよ。あと、上司の立場で色々思いだしてるでしょ。それもやめてください」
私が本気で嫌がると、尊さんは横を向いてクツクツと笑った。
**
152
あなたにおすすめの小説
「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ
猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。
当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。
それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。
そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。
美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。
「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」
『・・・・オメエの嫁だよ』
執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
揺れぬ王と、その隣で均衡を保つ妃
ふわふわ
恋愛
婚約破棄の断罪の場で、すべては始まった。
王太子は感情に流され、公爵令嬢との婚約を解消する。
だが、その決断は王家と貴族社会の均衡を揺るがし、国そのものを危うくする一手だった。
――それでも彼女は、声を荒らげない。
問いただすのはただ一つ。
「そのご婚約は、国家にとって正当なものですか?」
制度、資格、責任。
恋ではなく“国家の構造”を示した瞬間、王太子は初めて己の立場を知る。
やがて選ばれるのは、感情ではなく均衡。
衝動の王子は、嵐を起こさぬ王へと変わっていく。
そして彼の隣には、常に彼女が立つ。
派手な革命も、劇的な勝利もない。
あるのは、小さな揺れを整え続ける日々。
遠雷を読み、火種を消し、疑念に居場所を与え、
声なき拍手を聞き取る。
これは――
嵐を起こさなかった王と、
その隣で国家の均衡を保ち続けた妃の物語。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる