【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

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篠宮家 編

協力しあっていきたい

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 前菜を食べ終えたエミリさんが、ナプキンで口元を拭ってから言った。

「確かにお母様はとても社交的ですからね。他の会社の社長夫人とも仲が良くて、付け加えるぐらい造作もないでしょう。言葉を選ばず言ってしまえば、尊さんは婚外子です。世のご夫人たちの印象は良くない上、少し言い方を変えれば、悪の権化にも仕立て上げられます」

「あぁ……」

 あまりに厳しすぎる現実を知り、私はうめく。

「それって、仮に尊さんの事を『とんだ問題児でお金にも女にも汚い』とか言えば、他の奥様たちは疑いようもないって事ですよね? 篠宮家の事情を知るのに、奥様たちが一番話を聞きやすいのは怜香さん。社長はご自身の女性関係が起因しているから話せない。風磨さんが本当の事を言おうとすれば『弟を庇っている』と思われる。尊さんに至っては本人なので確認できるはずもない」

「問題児……、金にも女にも……」

 尊さんが私をジトォ……と睨むが、すまない。すみません。ものの例えです。

 エミリさんは溜め息をつき、頷いた。

「身も蓋もありませんが、そうなりますね。篠宮家の外に出て、針のむしろになるぐらいなら、自社にいたほうがまだマシです。起業しようと思えばできるでしょうけれど、事業を大きくしていくには横の繋がりが必要になります。かといって、これだけの人が中小企業に収まるのは能力の無駄遣いですし」

「『資源の無駄遣い』みたいに言うなよ……」

 尊さんがボソッと突っ込みを入れる。

 ……というか、エミリさんってニコニコ人当たりのいい女性と思いきや、案外言いたい事をハッキリ言うタイプみたいだ。

 確かに秘書なら、仕事で曖昧な事なんて言えないだろうな。

 そう考えていたのを察したのか、風磨さんが遠い目をして言った。

「エミリはこう見えて、僕の尻をビシバシ叩くタイプだよ。仕事で甘やかしてくれた事は一度もない……。美人秘書だからって、皆好きな妄想をしているみたいだけど、〝そういう〟雰囲気にでもなろうものなら、手厳しい事を言われる上に、仕事のスケジュールをギュウギュウにされるからね……」

 なるほど、尻に敷かれてるな。

 兄の言葉に、尊さんも同意した。

「本当にこいつ、怒らせたら怖いぞ。ニコニコ笑ったまま、『資源ゴミの日って何曜日でしたっけ。あ、口の悪い男は燃やせないゴミでしたね』って言うんだぞ」

 ゴミは可哀想だな……。

「私はちゃんとリサイクルしてあげますよ」

「そうじゃない」

 フォローしたつもりだったけれど、尊さんは脱力して溜め息をついた。

 次のお皿が運ばれてきて、私は生ハムとモッツァレラチーズ、マグロの組み合わせを楽しむ。

 というか、最初は緊張していたけれど、この二人は思っていたよりずっとフランクで話しやすい。

 副社長と秘書と話しているというより、お兄さんカップルと食事をしている気持ちのほうがずっと強い。

 そして私はこの二人に魅力を感じ、好きだな、応援したいなと思っていた。

 もっと言えば、『尊さんに、こうやってポンポン言い合える人がいて良かった』と安堵していた。

『孤独じゃなかったじゃないですか』と言いたいけど、尊さんが求めているのは〝そう〟じゃないのは分かっている。

 家族ではない、誰かの唯一無二として求められたい気持ちは私にもあるし、理解しているつもりだ。

「……まぁそんな訳で、俺たちは『この組み合わせで結婚したい』で意見が合致している。お互い、怜香さんが結婚の障害になるのも同じだ。だから協力し合っていきたい」

 尊さんが言い、全員が頷いた。

 そこで風磨さんが咳払いをして、チラッとエミリさんを見てから打ち明けた。

「……そうなんだが、結局春日さんとの縁談を断り切れず、一月に予定を組み込まれてしまった」

 彼の言葉を聞いてもエミリさんはまったく動じず、対策を求めた。

「クラッシャー尊さん、計画はありますか?」

「プロレスラーみたいな呼び方やめろ」

 私は動揺するどころか、冗談まで言う余裕があるエミリさんの精神力に感嘆する。

 この人は本当に、未来の社長夫人になる器だな。

 私はどっちかっていうと尊さんに支えられているけれど、彼女と風磨さんは丁度いい力加減で支え合っている。

「春日さんは常識人だし、僕が母の勝手で悩んでいる事も知っている。正面きって謝罪すれば、穏便に解決するんじゃないかと……」

「そこから崩すぞ」

 尊さんは風磨さんの言葉尻に被せて言い、悪い顔をする。

 ……あぁ、これは本当にろくな事を考えてない顔だ。
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