165 / 778
恵 編
私はあなたを否定しないよ
しおりを挟む
「……結婚はさ、色んな形があると思う」
言いながら、私は尊さんに『じゃあ、まじめに結婚するか?』と言われた日の事を思いだした。
あの時の尊さんは、ずっと見守ってきた私の気をどうやって引こうか、一生懸命考えながら話していたと思う。
でも彼が語った言葉は、あらかじめ用意されていたものではない。
疑問に思った事を彼は自分の考えで応え、最終的に私を納得させてくれた。
私は尊さんを尊敬しているし、彼の達観した物の見方に憧れている。
そう感じるようになった原因がつらい過去にあるのは事実だけど、茨の道を乗り越えて今の強くてタフな彼がいる。
脆いところもあるけれど、弱さも交えたのが尊さんの強さだ。
――私も彼のようになりたい。
心の中で祈り、彼のような強くしなやかな在り方で、不安がっている親友を宥められたらと願った。
「一般的な事を言うなら、『結婚は好きな人としたほうがいい』ってなるかもしれない。私も、親友には好きな人と幸せになってほしい。……でも、世の中色んな形の結婚があると思う。事実婚にすると決めた人、お互い好きな人は別にいるのに形だけ結婚してる人、早く離婚したいと思っているけど、経済的に自立できないとか、家事がまったくできないとかで一緒にいる夫婦とか、何らかの利害が一致して、性交渉しないし恋愛感情も持たないけど結婚した人とか、……本当に、夫婦の数だけ事情があると思う」
「……そうだね」
私の言葉を聞き、恵は小さく頷く。
「だから私は恵の結婚観を否定しない」
そう言うと、彼女は静かに目を見開いて呼吸を止め、ゆっくりと、安堵して息を吐いていった。
恵の様子を見て、私はしっかり頷く。
――私はあなたを否定しないよ。
心の中でもう一度言葉を重ね、私は微笑んだ。
「でも、仮にも法的な夫になる人だから、間に合わせで相手を見つけてほしくない。一緒にいて安らげて、『ただいま』って家に帰ってその人がいて、安心できる人と結婚してほしい。私だって親友に幸せでいてほしいんだよ」
彼女の好きな人は自分だと分かっているのに、なんて残酷な事を言っているんだろう。
恵の望む未来を与えられないと分かっていながら、私は彼女に〝二番目〟の道を示すしかできない。
――〝一番〟をあげられなくてごめんね。
――でも恋人・夫と親友は比べられない。
――男性の一番は尊さんだけど、女性の一番は恵だから。
恵への想いを言葉にすればするほど、陳腐なものになってしまいそうで怖い。
だからあとは、ありったけの想いを込めて彼女を見つめ、手を握った。
恵はしばらく黙って私を見ていたけれど、泣き笑いすると「っはぁ……!」と溜め息をついた。
「朱里には敵わないなぁ~。ちょっとでも嫌な事を言うなら、嫌いになって諦められるのに、どこまでも私の好きな朱里なんだもん。……朱里はずっと、私の心を救い続けてくれる」
彼女は想いを偽らず口にしているけれど、先ほどよりずっと吹っ切れた様子だった。
それから私の手をそっと放すと、ニカッと笑った。
「中学生の時からこの話をしないで、ずっと一人で抱えていたから重くなっちゃったのかも。……はー……。でも面と向かって色々話せてスッキリしたわ。やっぱ朱里の事、好き」
開き直ったように明るく言うので、つられて私も笑ってしまう。
「私も好きだよ!」
『好き』の意味は違うと二人とも分かっている。
でも私たちの関係は、一つ掛け違えたままでいい。
それが〝正解〟の場合もある。
「ちょっと、スッキリついでに肉食おうか! 牛いこうよ牛! あっ、ジビエも良くない? 蝦夷鹿だって」
「美味しそう! お肉に貴賤なし! なんでも美味しくいただく!」
両手でドンドンとテーブルを叩く真似をすると、恵が爆笑した。
「肉の申し子だよ~!」
笑い合った時、テーブルの上に置いてあったスマホが通知を知らせる。
「あっ、ちょいごめん」
恵に断って手帳型ケースを開くと、尊さんから連絡が入ったところだった。
「誰?」
恵に何気なく尋ねられ、私は曖昧に微笑む。
「尊さん」
「ふーん……。……呼べば?」
「えっ?」
あっけらかんと言われ、私はうわずった声を上げる。
言いながら、私は尊さんに『じゃあ、まじめに結婚するか?』と言われた日の事を思いだした。
あの時の尊さんは、ずっと見守ってきた私の気をどうやって引こうか、一生懸命考えながら話していたと思う。
でも彼が語った言葉は、あらかじめ用意されていたものではない。
疑問に思った事を彼は自分の考えで応え、最終的に私を納得させてくれた。
私は尊さんを尊敬しているし、彼の達観した物の見方に憧れている。
そう感じるようになった原因がつらい過去にあるのは事実だけど、茨の道を乗り越えて今の強くてタフな彼がいる。
脆いところもあるけれど、弱さも交えたのが尊さんの強さだ。
――私も彼のようになりたい。
心の中で祈り、彼のような強くしなやかな在り方で、不安がっている親友を宥められたらと願った。
「一般的な事を言うなら、『結婚は好きな人としたほうがいい』ってなるかもしれない。私も、親友には好きな人と幸せになってほしい。……でも、世の中色んな形の結婚があると思う。事実婚にすると決めた人、お互い好きな人は別にいるのに形だけ結婚してる人、早く離婚したいと思っているけど、経済的に自立できないとか、家事がまったくできないとかで一緒にいる夫婦とか、何らかの利害が一致して、性交渉しないし恋愛感情も持たないけど結婚した人とか、……本当に、夫婦の数だけ事情があると思う」
「……そうだね」
私の言葉を聞き、恵は小さく頷く。
「だから私は恵の結婚観を否定しない」
そう言うと、彼女は静かに目を見開いて呼吸を止め、ゆっくりと、安堵して息を吐いていった。
恵の様子を見て、私はしっかり頷く。
――私はあなたを否定しないよ。
心の中でもう一度言葉を重ね、私は微笑んだ。
「でも、仮にも法的な夫になる人だから、間に合わせで相手を見つけてほしくない。一緒にいて安らげて、『ただいま』って家に帰ってその人がいて、安心できる人と結婚してほしい。私だって親友に幸せでいてほしいんだよ」
彼女の好きな人は自分だと分かっているのに、なんて残酷な事を言っているんだろう。
恵の望む未来を与えられないと分かっていながら、私は彼女に〝二番目〟の道を示すしかできない。
――〝一番〟をあげられなくてごめんね。
――でも恋人・夫と親友は比べられない。
――男性の一番は尊さんだけど、女性の一番は恵だから。
恵への想いを言葉にすればするほど、陳腐なものになってしまいそうで怖い。
だからあとは、ありったけの想いを込めて彼女を見つめ、手を握った。
恵はしばらく黙って私を見ていたけれど、泣き笑いすると「っはぁ……!」と溜め息をついた。
「朱里には敵わないなぁ~。ちょっとでも嫌な事を言うなら、嫌いになって諦められるのに、どこまでも私の好きな朱里なんだもん。……朱里はずっと、私の心を救い続けてくれる」
彼女は想いを偽らず口にしているけれど、先ほどよりずっと吹っ切れた様子だった。
それから私の手をそっと放すと、ニカッと笑った。
「中学生の時からこの話をしないで、ずっと一人で抱えていたから重くなっちゃったのかも。……はー……。でも面と向かって色々話せてスッキリしたわ。やっぱ朱里の事、好き」
開き直ったように明るく言うので、つられて私も笑ってしまう。
「私も好きだよ!」
『好き』の意味は違うと二人とも分かっている。
でも私たちの関係は、一つ掛け違えたままでいい。
それが〝正解〟の場合もある。
「ちょっと、スッキリついでに肉食おうか! 牛いこうよ牛! あっ、ジビエも良くない? 蝦夷鹿だって」
「美味しそう! お肉に貴賤なし! なんでも美味しくいただく!」
両手でドンドンとテーブルを叩く真似をすると、恵が爆笑した。
「肉の申し子だよ~!」
笑い合った時、テーブルの上に置いてあったスマホが通知を知らせる。
「あっ、ちょいごめん」
恵に断って手帳型ケースを開くと、尊さんから連絡が入ったところだった。
「誰?」
恵に何気なく尋ねられ、私は曖昧に微笑む。
「尊さん」
「ふーん……。……呼べば?」
「えっ?」
あっけらかんと言われ、私はうわずった声を上げる。
114
あなたにおすすめの小説
3歳児にも劣る淑女(笑)
章槻雅希
恋愛
公爵令嬢は、第一王子から理不尽な言いがかりをつけられていた。
男爵家の庶子と懇ろになった王子はその醜態を学園内に晒し続けている。
その状況を打破したのは、僅か3歳の王女殿下だった。
カテゴリーは悩みましたが、一応5歳児と3歳児のほのぼのカップルがいるので恋愛ということで(;^ω^)
ほんの思い付きの1場面的な小噺。
王女以外の固有名詞を無くしました。
元ネタをご存じの方にはご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。
創作SNSでの、ジャンル外での配慮に欠けておりました。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
病弱な私と意地悪なお姉様のお見合い顛末
黒木メイ
恋愛
幼い頃から病弱だったミルカ。外出もまともにできず、家の中に引きこもってばかり。それでもミルカは幸せだった。家族が、使用人たちがいつもミルカの側にいてくれたから。ミルカを愛してくれたから。それだけで十分――なわけないでしょう。お姉様はずるい。健康な体を持っているだけではなく、自由に外出できるんだから。その上、意地悪。だから、奪ったのよ。ずるいお姉様から全てを。当然でしょう。私は『特別な存在』で、『幸せが約束されたお姫様』なんだから。両親からの愛も、次期当主の地位も、王子様も全て私のもの。お姉様の見合い相手が私に夢中になるのも仕方ないことなの。
※設定はふわふわ。
※予告なく修正、加筆する場合があります。
※いずれ他サイトにも転載予定。
※『病弱な妹と私のお見合い顛末』のミルカ(妹)視点です。
完結 愛人さん初めまして!では元夫と出て行ってください。
音爽(ネソウ)
恋愛
金に女にだらしない男。終いには手を出す始末。
見た目と口八丁にだまされたマリエラは徐々に心を病んでいく。
だが、それではいけないと奮闘するのだが……
地味な私を捨てた元婚約者にざまぁ返し!私の才能に惚れたハイスペ社長にスカウトされ溺愛されてます
久遠翠
恋愛
「君は、可愛げがない。いつも数字しか見ていないじゃないか」
大手商社に勤める地味なOL・相沢美月は、エリートの婚約者・高遠彰から突然婚約破棄を告げられる。
彼の心変わりと社内での孤立に傷つき、退職を選んだ美月。
しかし、彼らは知らなかった。彼女には、IT業界で“K”という名で知られる伝説的なデータアナリストという、もう一つの顔があったことを。
失意の中、足を運んだ交流会で美月が出会ったのは、急成長中のIT企業「ホライゾン・テクノロジーズ」の若き社長・一条蓮。
彼女が何気なく口にした市場分析の鋭さに衝撃を受けた蓮は、すぐさま彼女を破格の条件でスカウトする。
「君のその目で、俺と未来を見てほしい」──。
蓮の情熱に心を動かされ、新たな一歩を踏み出した美月は、その才能を遺憾なく発揮していく。
地味なOLから、誰もが注目するキャリアウーマンへ。
そして、仕事のパートナーである蓮の、真っ直ぐで誠実な愛情に、凍てついていた心は次第に溶かされていく。
これは、才能というガラスの靴を見出された、一人の女性のシンデレラストーリー。
数字の奥に隠された真実を見抜く彼女が、本当の愛と幸せを掴むまでの、最高にドラマチックな逆転ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる