【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

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恵 編

こいつの幸せを願う資格が、今の俺にあるのか?

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「疲れた時って、何でもいいから望んだものを得たいワケ。でも常にに誰かが褒めて気持ちよくしてくれる訳じゃない。そんな時、嫌いなもんを見たら『ああ、やっぱり嫌いだ』って予想通りの結果を得られて、脳が満足するんだよ。嫌いなもんって、好きなもの以上に心に強烈な影響を与えるから」

「はー……」

 私は呆けたように口を開け、何回もうんうんと頷く。

「プラスの肯定じゃなく、『やっぱりあいつはこうなんだ』っていうマイナスの確認、肯定をして満足する。そういうのにハマっちまうと、なかなか抜け出せない。ネットでもわざわざ嫌いな奴をチェックして叩く奴いるだろ。ああいう病的なのは、根本から治療しないと治んねぇと思うけどな。自分で気づくとか、人に注意されてやめるラインを超えてる」

 尊さんの言葉を聞き、私は明後日の方向を向いてしずかーに息を吐いた。

 かつての私はギリヤバかった……。

「俺もさ、今みたいに開き直るまでは、人に言えねぇ憎しみや恨み辛みを抱えてたワケ。お前らに言えねぇような情報を求めて、めちゃくちゃネットを検索してた」

 怜香さんにされた事を思えば、強い恨みを持っても仕方がない。

 でも尊さんはかつての自分を恥じている。私はそう思えるようになった彼を誇りに思った。

「飲まず食わずで、目の下にクマ作って無精髭生やして、すんげぇ風貌になって荒れに荒れた。もう、呪いの塊だよ。……そんで、朱里の存在に助けられた。中村さんから朱里の情報を教えてもらって、ささやかな日常を過ごしてるお前を見て気持ちが幸せになった。『あの時助けられて、本当に良かったな』って。……で、思ったんだ。『今の俺に、平和に暮らしてるこいつの幸せを願う資格があるのか?』って」

 そこで私の名前が出て、ドキッとしてしまう。

「『綺麗なあいつに汚れた俺は似合わない……』なんて厨二病みたいだけど、本当にそう思った。だからとりあえず物理的に離れようと思って、海外に出た」

「あ」

 先日のダンスや海外の話に繋がり、私は目を見開く。

「家族旅行で海外に行った事はあったけど、一人で行くのは初めてだった。何もかも自分でしなきゃいけなくて、そうなって初めて自分が存在し、生きてる事を知った。話してる相手は〝俺〟を見てくれてるし、行き先は自分で決められる。自分の人生を生きられているって感じられた。だからもっと言葉を学んで、他人に自分の思っている事を伝えたいと思ったし、狭い世界から飛び出て色んな文化や考え方を知りたかった。『違うものの見方を知れば、自分のつらさは大した事じゃなくなるんじゃないか?』って感じたからだ」

 そっか。一人旅にはそういう意味もあったんだ。

「そうやって海外で色んなものを見て、異文化に触れていくうちに、少しずつ精神的に健康になっていった。スマホを使うのは連絡をとるのと写真がメイン、SNSも一応やってるけど、備忘録的に写真を載せるだけでほぼ交流しない。デジタルデトックスとでも言うのかな。ネットから距離をとって、精神的に健康になれたと思ってる。視野を広める事はいい事だよ」

「なるほど……」

 私は深く納得し、呟いた。

「私もそうなりたいな。精神的に健康になって、尊さんや恵と同じ目線でものを見られるようになりたい」

「ま、俺の場合、今まで搾取された生き方をしていたから、もっと自由に生きていいよな、って思っただけだ。ネットは欠かせないものになってるから、すべてが悪いとは言わない。可愛い動物の動画を見られるし、レシピも見られるし、好きなものの新作情報も追える。ただ、人付き合いと同じで距離感だな」

「そっかー……」

 私は脱力して天井を見上げ、何とはなしに体を左右に揺する。

「つらつらと情報を追ってるだけで、誰かの怒りに当てられて、自分の体験を重ねて思いだし怒りをする。自分の体と心なんだから、自分でコントロールしたいだろ。ただでさえ、どぎつい感情ってエネルギーを食うし、知らねぇ奴への怒りで自分の心を費やしたくねぇよ」

「そうですねぇ……。私、あんまり芸能人や歌手の推しはいないから、芸能関係で炎上があってもノータッチだけど、他の炎上は話題になってるトピックとして見ちゃうかも」

「ニュースでもSNSの意見が取り上げられるし、無視できない声にはなってるけどな。でも俺は自分の人生がすでにハードモードで、煩わしい事が多かったから、それ以上の事は背負い込みたくない」

「ですね。尊さんの人生はスーパーハードだと思います」

「ヘアスプレーみたい」

 ボソッと突っ込んだ恵の言葉に、私は笑い崩れる。

 ひとしきり笑って、それぞれ飲み物や食べ物を口に入れたあと、尊さんが恵に尋ねる。

「しつこいかもだけど、中村さんはもう平気?」

「平気……って、ここで何か言っても、どうにかなるもんじゃないですからね。でもこうやって三人で答え合わせはした訳だから、割とスッキリしました。そうだ、たまに朱里とのデートの監修させてくださいよ」

「ははっ、監修か。厳しそうだな」

 その時、私はピコーンとある事を思いついてしまった。
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