182 / 778
新年会 編
新年会
しおりを挟む
《きっと憧れられている人も、成功するまで色んな事を言われたと思う。頭一つ抜きん出ている人は、周囲から必ず嫉妬され足を引っ張られている。でも我慢してすべき事をし続けた結果、成功して自分の地位を確立したんだ。楽して金儲けとか、成功できる道はない。だから俺も、先達のように努力して、俺なりの幸せを見つけたいと思ってるよ》
彼の言葉がじんわりと心の中に染みこんでくる。
《俺は怜香への復讐は果たした。だから、あとは母と妹の約束通り、いい人間になって幸せになりたい》
尊さんの心の中に住む、さゆりさんとあかりさんは、今もきっと笑顔で道を照らしてくれているんだろう。
「私も、尊さんみたいに〝良く〟ありたいです」
《俺は他人に憧れられる男じゃねぇけどな。ただ、そう思ってもらえるのは幸いだ》
彼は本当に凄い人なのに、心から謙遜しているようだった。
イケメンでお金持ちでこれから副社長になる上、人間もできている。なのに傲慢にならず謙虚であり続ける彼は、私の自慢の恋人だ。
同時に、無条件で尊さんに愛されているとはいえ、自分も彼に釣り合う女性にならないとな、と心の底で強く思った。
《ま、それはともかく、引っ越し準備は手伝うからな》
「はい」
そのあと、二月の二週目週末までには引っ越すのを目標にし、時間が空いたらジワジワと片付けを始めていく事を決めた。
**
やがて金曜日になり、新年会となる。
十八時半の予約に合わせ、フロアの皆は十八時前には退勤していた。
私は恵と一緒に会社を出て、人形町にあるイタリアンバルへ向かう。
和も取り入れた創作イタリアンらしく、今からとても楽しみだ。
現地に着くと、レンガ造りの小洒落た店の外に、ワイン樽が置かれてあるのが見えた。
オレンジ色の光が点いた店内からは活気のある声が聞こえ、美味しそうな匂いも漂ってきている。
新年会をするのに二階を貸し切りにしているらしく、私たちはスタッフに案内されて階段を上がった。
「あー、上村さんと中村さん、来た! こっちおいで」
コートをハンガーに掛けていると、綾子さんが手招きしたのでそちらに向かった。
ソファに座ると、近くにいた先輩がドリンクメニューを見せてくれる。
「正直、飲み会はかったるい時もあるけど、美味しいもんを食べられるのが楽しみだよね」
恵がボソッと言い、私は「わかりみ深太郎」と頷く。
尊さんは離れた席に座っていて、人に囲まれ穏やかに笑っている。
一瞬目が合ったような気がしたけれど、気のせいだったかもしれない。
やがて時間になり飲み物が運ばれてきたあと、尊さんが挨拶に立った。
「あー、今さらだけど、あけましておめでとう。今年も皆顔を揃えて新年会に出席してくれて嬉しく思ってます。何かと情勢的に楽観できない状況ではあるけれど、今年もまずコツコツと自分の仕事をこなしていこう。ヒット商品が生まれますように! 今年もよろしくお願いします! 乾杯!」
彼がビールのジョッキを掲げると皆が「乾杯」を言い、それぞれ近くにいる人たちとジョッキやグラスを合わせる。
尊さんの周りにいた人たちは、こぞって彼と乾杯したがっていて、私はそれをジトー……とした目で見ていた。
「まぁ、食えって」
私の心境を察した恵がケラケラ笑い、テーブルに置かれた前菜を示す。
「食いますよ」
そのあと、私は前菜盛り合わせをつまみつつ、恵に引っ越しの事を話した。
「いーんじゃない? 私も手伝うよ。朱里の引っ越しはいつもの事だけど、これが最後になるかもね」
「ありがと。で、今回は荷物を運ぶの、彼が業者を手配してくれるって」
「ん、そっか。そのほうが筋が通っているかもね」
恵はそれ以上深い事は聞かず、私は彼女の理解に感謝する。
ここでは〝部長〟とも〝尊さん〟とも言えないので、〝彼〟と言う事にした。
「明日、彼がうちに挨拶に来るらしくて、ちょっと緊張してる」
「そうなんだ。こないだは図らずも横浜行きになったんだっけ? 今度はうまくいくといいね」
恵には先日の亮平乱入事件も話していたので、彼女は生ぬるい笑顔で言う。
「うん。……刀削麺は美味しかったけどね」
「あはは! さすがただでは転ばない、胃袋魔人!」
そんな感じで主に恵と話していたけれど、途中から綾子さんが「飲んでるー?」と向かいの席に座った。
彼の言葉がじんわりと心の中に染みこんでくる。
《俺は怜香への復讐は果たした。だから、あとは母と妹の約束通り、いい人間になって幸せになりたい》
尊さんの心の中に住む、さゆりさんとあかりさんは、今もきっと笑顔で道を照らしてくれているんだろう。
「私も、尊さんみたいに〝良く〟ありたいです」
《俺は他人に憧れられる男じゃねぇけどな。ただ、そう思ってもらえるのは幸いだ》
彼は本当に凄い人なのに、心から謙遜しているようだった。
イケメンでお金持ちでこれから副社長になる上、人間もできている。なのに傲慢にならず謙虚であり続ける彼は、私の自慢の恋人だ。
同時に、無条件で尊さんに愛されているとはいえ、自分も彼に釣り合う女性にならないとな、と心の底で強く思った。
《ま、それはともかく、引っ越し準備は手伝うからな》
「はい」
そのあと、二月の二週目週末までには引っ越すのを目標にし、時間が空いたらジワジワと片付けを始めていく事を決めた。
**
やがて金曜日になり、新年会となる。
十八時半の予約に合わせ、フロアの皆は十八時前には退勤していた。
私は恵と一緒に会社を出て、人形町にあるイタリアンバルへ向かう。
和も取り入れた創作イタリアンらしく、今からとても楽しみだ。
現地に着くと、レンガ造りの小洒落た店の外に、ワイン樽が置かれてあるのが見えた。
オレンジ色の光が点いた店内からは活気のある声が聞こえ、美味しそうな匂いも漂ってきている。
新年会をするのに二階を貸し切りにしているらしく、私たちはスタッフに案内されて階段を上がった。
「あー、上村さんと中村さん、来た! こっちおいで」
コートをハンガーに掛けていると、綾子さんが手招きしたのでそちらに向かった。
ソファに座ると、近くにいた先輩がドリンクメニューを見せてくれる。
「正直、飲み会はかったるい時もあるけど、美味しいもんを食べられるのが楽しみだよね」
恵がボソッと言い、私は「わかりみ深太郎」と頷く。
尊さんは離れた席に座っていて、人に囲まれ穏やかに笑っている。
一瞬目が合ったような気がしたけれど、気のせいだったかもしれない。
やがて時間になり飲み物が運ばれてきたあと、尊さんが挨拶に立った。
「あー、今さらだけど、あけましておめでとう。今年も皆顔を揃えて新年会に出席してくれて嬉しく思ってます。何かと情勢的に楽観できない状況ではあるけれど、今年もまずコツコツと自分の仕事をこなしていこう。ヒット商品が生まれますように! 今年もよろしくお願いします! 乾杯!」
彼がビールのジョッキを掲げると皆が「乾杯」を言い、それぞれ近くにいる人たちとジョッキやグラスを合わせる。
尊さんの周りにいた人たちは、こぞって彼と乾杯したがっていて、私はそれをジトー……とした目で見ていた。
「まぁ、食えって」
私の心境を察した恵がケラケラ笑い、テーブルに置かれた前菜を示す。
「食いますよ」
そのあと、私は前菜盛り合わせをつまみつつ、恵に引っ越しの事を話した。
「いーんじゃない? 私も手伝うよ。朱里の引っ越しはいつもの事だけど、これが最後になるかもね」
「ありがと。で、今回は荷物を運ぶの、彼が業者を手配してくれるって」
「ん、そっか。そのほうが筋が通っているかもね」
恵はそれ以上深い事は聞かず、私は彼女の理解に感謝する。
ここでは〝部長〟とも〝尊さん〟とも言えないので、〝彼〟と言う事にした。
「明日、彼がうちに挨拶に来るらしくて、ちょっと緊張してる」
「そうなんだ。こないだは図らずも横浜行きになったんだっけ? 今度はうまくいくといいね」
恵には先日の亮平乱入事件も話していたので、彼女は生ぬるい笑顔で言う。
「うん。……刀削麺は美味しかったけどね」
「あはは! さすがただでは転ばない、胃袋魔人!」
そんな感じで主に恵と話していたけれど、途中から綾子さんが「飲んでるー?」と向かいの席に座った。
106
あなたにおすすめの小説
3歳児にも劣る淑女(笑)
章槻雅希
恋愛
公爵令嬢は、第一王子から理不尽な言いがかりをつけられていた。
男爵家の庶子と懇ろになった王子はその醜態を学園内に晒し続けている。
その状況を打破したのは、僅か3歳の王女殿下だった。
カテゴリーは悩みましたが、一応5歳児と3歳児のほのぼのカップルがいるので恋愛ということで(;^ω^)
ほんの思い付きの1場面的な小噺。
王女以外の固有名詞を無くしました。
元ネタをご存じの方にはご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。
創作SNSでの、ジャンル外での配慮に欠けておりました。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
病弱な私と意地悪なお姉様のお見合い顛末
黒木メイ
恋愛
幼い頃から病弱だったミルカ。外出もまともにできず、家の中に引きこもってばかり。それでもミルカは幸せだった。家族が、使用人たちがいつもミルカの側にいてくれたから。ミルカを愛してくれたから。それだけで十分――なわけないでしょう。お姉様はずるい。健康な体を持っているだけではなく、自由に外出できるんだから。その上、意地悪。だから、奪ったのよ。ずるいお姉様から全てを。当然でしょう。私は『特別な存在』で、『幸せが約束されたお姫様』なんだから。両親からの愛も、次期当主の地位も、王子様も全て私のもの。お姉様の見合い相手が私に夢中になるのも仕方ないことなの。
※設定はふわふわ。
※予告なく修正、加筆する場合があります。
※いずれ他サイトにも転載予定。
※『病弱な妹と私のお見合い顛末』のミルカ(妹)視点です。
完結 愛人さん初めまして!では元夫と出て行ってください。
音爽(ネソウ)
恋愛
金に女にだらしない男。終いには手を出す始末。
見た目と口八丁にだまされたマリエラは徐々に心を病んでいく。
だが、それではいけないと奮闘するのだが……
地味な私を捨てた元婚約者にざまぁ返し!私の才能に惚れたハイスペ社長にスカウトされ溺愛されてます
久遠翠
恋愛
「君は、可愛げがない。いつも数字しか見ていないじゃないか」
大手商社に勤める地味なOL・相沢美月は、エリートの婚約者・高遠彰から突然婚約破棄を告げられる。
彼の心変わりと社内での孤立に傷つき、退職を選んだ美月。
しかし、彼らは知らなかった。彼女には、IT業界で“K”という名で知られる伝説的なデータアナリストという、もう一つの顔があったことを。
失意の中、足を運んだ交流会で美月が出会ったのは、急成長中のIT企業「ホライゾン・テクノロジーズ」の若き社長・一条蓮。
彼女が何気なく口にした市場分析の鋭さに衝撃を受けた蓮は、すぐさま彼女を破格の条件でスカウトする。
「君のその目で、俺と未来を見てほしい」──。
蓮の情熱に心を動かされ、新たな一歩を踏み出した美月は、その才能を遺憾なく発揮していく。
地味なOLから、誰もが注目するキャリアウーマンへ。
そして、仕事のパートナーである蓮の、真っ直ぐで誠実な愛情に、凍てついていた心は次第に溶かされていく。
これは、才能というガラスの靴を見出された、一人の女性のシンデレラストーリー。
数字の奥に隠された真実を見抜く彼女が、本当の愛と幸せを掴むまでの、最高にドラマチックな逆転ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる