188 / 778
予期せぬ来訪者 編
惚れるなよ?
しおりを挟む
《凄くねぇよ。年会費安いし》
「そうなんです? なんか凄く馬鹿高くて、庶民には手が届かないイメージがあるんですが」
《多分それ、海外カードの事だと思う。それは初年度に九十万円の、年会費三十八万円とかの世界》
「うえええ……!?」
カードを持つだけでそんなに掛かると思わず、私は怯えた声を出す。
「も、持ってるんです?」
《や、俺はその下のプラチナ。ぶっちゃけ、そこまでの年会費を払ってまで持ってる意味を感じないし、箔つけのためだとしても高いから、俺はパス》
「へー……。現実的。あの、Chief Everyの名物社長いるじゃないですか。御劔様。あの人、ブラックカード持ってるみたいですね」
Chief Everyというのは、世界的なシェアを誇る日本のアパレルブランドだ。
代表取締役社長の御劔佑という人が、美形な上に名家の生まれだとか、物凄い付加価値のある人で、芸能人並みに人気がある。
《彼ぐらいのクラスになれば、値段を気にせず買い物をしそうだから、限度額なしのカードが必要になるんじゃないか? プライベージェットも持ってるみたいだし、世界的な経営者ともなれば色々必要になるだろ》
尊さんは淡々と言い、私は妙に感心してしまった。
「張り合わずにそう言えるって、やっぱり尊さんって大人ですね。や、今の話題は意地悪で言ったんじゃないですけど」
図らずも御劔社長と比べるような言い方になってしまい、言ってから少しヒヤッとしてしまった。
《あー、そりゃあ金持ちと呼ばれる部類になっても、誰かと比べて嫉妬する人はいるけど。……他人と比べてもしゃーないしな? 御劔さんは母方の血筋をたどればドイツの名家……とか、凄い繋がりがあるけど、生まれを気にする事ほど詮無きことってなくないか?》
「……ですね。私も、もうちょっと優しい顔立ちに生まれたかったとか、たまに思っちゃいます」
《それに俺は、色々あったけど今の自分にそこそこ満足してる。これからも〝上〟に行きたいとは思うけど、それは俺が目指すビジョンであって、他人の真似をしたい訳じゃないんだ》
「そっか……」
私はつい人と比べて嫉妬してしまうところがあるので、そもそも彼の考え方が違う事に気づいた。
《他人とは産まれた家庭環境も、地域も年齢も、何もかも違うのに『自分にはあれが足りない、これが足りない』って嘆くのはちょっと違う。篠宮フーズと同じ規模の会社の部長がいるとしても、その人とは歩んできた人生が違うから、比べる事自体、間違えているだろ? 似たような色をした、三角のパズルと四角のパズルを比べて、『どっちがより優れているか』って悩んでるようなもんだ》
「確かに」
《仮に同じように見えていたとしても、見えないところでその人はとても苦労しているかもしれない。他者の努力や苦労を無視して〝幸せな人〟と一方的に決めつけて嫉妬するのは、想像力の欠如だ》
分かりやすく説明され、私は深く納得した。
《そりゃあ人間だし、優しい両親がいる家庭に生まれた人を羨む気持ちはある。でもここまで生きてきたなら、自分の人生を受け入れて、自力で幸せに生きていくしかない。自分の人生を良くも悪くも変えられるのは、自分だけなんだから》
「……ですね。私もそう思います」
実父や今の家庭の事を考え、私は物凄く同意しながら頷いた。
《でも、朱里の事は俺が幸せにするから、八割ぐらいは大船に乗った気持ちでいてくれ》
「んふふ、ありがとうございます! でも私も、尊さんを幸せにしますからね」
《期待してるよ。……っていう話を、御劔さんもすると思うから、ご希望とあらば紹介するよ》
「へっ!?」
とんでもないパスがきて、私は大きな声を上げた。
「ま……っ、マジですか? とっ、友達?」
《投資家バーで会った飲み友。今はプライベートも少しだけ》
「すっっご……。……ど、どんな人です?」
私は思わず食いついてしまう。
《プライベートは普通の人だよ。俺と年齢も同じで、趣味嗜好もやや似てる。好きな女性の一挙手一投足が気になって、振り回されてるところも同じ》
「へええー……」
そういえば、彼のお眼鏡に適った一般女性のシンデレラガールがいると、何かでチラッと見たかもしれない。
《タイミングが合えば普通に会ってくれると思うけど……、惚れるなよ?》
「惚れませんって!」
私はクシャッと笑い、目の前の空間を叩く真似をした。
気がつくと、昭人を見送ったあとにずっと胸にあったモヤモヤが消えていた。
私は安堵に似た溜め息をつき、微笑んでお礼を言う。
「ありがとうございます。不安だったの晴れました」
《ん、なら何より。明後日、緊張するだろうけど、同じ空間にいるから堂々としてろよ。田村クンが無理強いしてきたら、すぐ行く。目標は二度と今回のような事が起きないように、彼に納得してもらい円満に完全にお別れする事》
「はい」
私は尊さんからミッションを出され、ビシッと背筋を伸ばして頷いた。
「明日は上村家にお邪魔しないとだし、全部終わったらちょっとゴージャスなデートしような」
「やった!」
素直に喜ぶと、尊さんは電話の向こうでクスクス笑っていた。
**
「そうなんです? なんか凄く馬鹿高くて、庶民には手が届かないイメージがあるんですが」
《多分それ、海外カードの事だと思う。それは初年度に九十万円の、年会費三十八万円とかの世界》
「うえええ……!?」
カードを持つだけでそんなに掛かると思わず、私は怯えた声を出す。
「も、持ってるんです?」
《や、俺はその下のプラチナ。ぶっちゃけ、そこまでの年会費を払ってまで持ってる意味を感じないし、箔つけのためだとしても高いから、俺はパス》
「へー……。現実的。あの、Chief Everyの名物社長いるじゃないですか。御劔様。あの人、ブラックカード持ってるみたいですね」
Chief Everyというのは、世界的なシェアを誇る日本のアパレルブランドだ。
代表取締役社長の御劔佑という人が、美形な上に名家の生まれだとか、物凄い付加価値のある人で、芸能人並みに人気がある。
《彼ぐらいのクラスになれば、値段を気にせず買い物をしそうだから、限度額なしのカードが必要になるんじゃないか? プライベージェットも持ってるみたいだし、世界的な経営者ともなれば色々必要になるだろ》
尊さんは淡々と言い、私は妙に感心してしまった。
「張り合わずにそう言えるって、やっぱり尊さんって大人ですね。や、今の話題は意地悪で言ったんじゃないですけど」
図らずも御劔社長と比べるような言い方になってしまい、言ってから少しヒヤッとしてしまった。
《あー、そりゃあ金持ちと呼ばれる部類になっても、誰かと比べて嫉妬する人はいるけど。……他人と比べてもしゃーないしな? 御劔さんは母方の血筋をたどればドイツの名家……とか、凄い繋がりがあるけど、生まれを気にする事ほど詮無きことってなくないか?》
「……ですね。私も、もうちょっと優しい顔立ちに生まれたかったとか、たまに思っちゃいます」
《それに俺は、色々あったけど今の自分にそこそこ満足してる。これからも〝上〟に行きたいとは思うけど、それは俺が目指すビジョンであって、他人の真似をしたい訳じゃないんだ》
「そっか……」
私はつい人と比べて嫉妬してしまうところがあるので、そもそも彼の考え方が違う事に気づいた。
《他人とは産まれた家庭環境も、地域も年齢も、何もかも違うのに『自分にはあれが足りない、これが足りない』って嘆くのはちょっと違う。篠宮フーズと同じ規模の会社の部長がいるとしても、その人とは歩んできた人生が違うから、比べる事自体、間違えているだろ? 似たような色をした、三角のパズルと四角のパズルを比べて、『どっちがより優れているか』って悩んでるようなもんだ》
「確かに」
《仮に同じように見えていたとしても、見えないところでその人はとても苦労しているかもしれない。他者の努力や苦労を無視して〝幸せな人〟と一方的に決めつけて嫉妬するのは、想像力の欠如だ》
分かりやすく説明され、私は深く納得した。
《そりゃあ人間だし、優しい両親がいる家庭に生まれた人を羨む気持ちはある。でもここまで生きてきたなら、自分の人生を受け入れて、自力で幸せに生きていくしかない。自分の人生を良くも悪くも変えられるのは、自分だけなんだから》
「……ですね。私もそう思います」
実父や今の家庭の事を考え、私は物凄く同意しながら頷いた。
《でも、朱里の事は俺が幸せにするから、八割ぐらいは大船に乗った気持ちでいてくれ》
「んふふ、ありがとうございます! でも私も、尊さんを幸せにしますからね」
《期待してるよ。……っていう話を、御劔さんもすると思うから、ご希望とあらば紹介するよ》
「へっ!?」
とんでもないパスがきて、私は大きな声を上げた。
「ま……っ、マジですか? とっ、友達?」
《投資家バーで会った飲み友。今はプライベートも少しだけ》
「すっっご……。……ど、どんな人です?」
私は思わず食いついてしまう。
《プライベートは普通の人だよ。俺と年齢も同じで、趣味嗜好もやや似てる。好きな女性の一挙手一投足が気になって、振り回されてるところも同じ》
「へええー……」
そういえば、彼のお眼鏡に適った一般女性のシンデレラガールがいると、何かでチラッと見たかもしれない。
《タイミングが合えば普通に会ってくれると思うけど……、惚れるなよ?》
「惚れませんって!」
私はクシャッと笑い、目の前の空間を叩く真似をした。
気がつくと、昭人を見送ったあとにずっと胸にあったモヤモヤが消えていた。
私は安堵に似た溜め息をつき、微笑んでお礼を言う。
「ありがとうございます。不安だったの晴れました」
《ん、なら何より。明後日、緊張するだろうけど、同じ空間にいるから堂々としてろよ。田村クンが無理強いしてきたら、すぐ行く。目標は二度と今回のような事が起きないように、彼に納得してもらい円満に完全にお別れする事》
「はい」
私は尊さんからミッションを出され、ビシッと背筋を伸ばして頷いた。
「明日は上村家にお邪魔しないとだし、全部終わったらちょっとゴージャスなデートしような」
「やった!」
素直に喜ぶと、尊さんは電話の向こうでクスクス笑っていた。
**
114
あなたにおすすめの小説
3歳児にも劣る淑女(笑)
章槻雅希
恋愛
公爵令嬢は、第一王子から理不尽な言いがかりをつけられていた。
男爵家の庶子と懇ろになった王子はその醜態を学園内に晒し続けている。
その状況を打破したのは、僅か3歳の王女殿下だった。
カテゴリーは悩みましたが、一応5歳児と3歳児のほのぼのカップルがいるので恋愛ということで(;^ω^)
ほんの思い付きの1場面的な小噺。
王女以外の固有名詞を無くしました。
元ネタをご存じの方にはご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。
創作SNSでの、ジャンル外での配慮に欠けておりました。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
病弱な私と意地悪なお姉様のお見合い顛末
黒木メイ
恋愛
幼い頃から病弱だったミルカ。外出もまともにできず、家の中に引きこもってばかり。それでもミルカは幸せだった。家族が、使用人たちがいつもミルカの側にいてくれたから。ミルカを愛してくれたから。それだけで十分――なわけないでしょう。お姉様はずるい。健康な体を持っているだけではなく、自由に外出できるんだから。その上、意地悪。だから、奪ったのよ。ずるいお姉様から全てを。当然でしょう。私は『特別な存在』で、『幸せが約束されたお姫様』なんだから。両親からの愛も、次期当主の地位も、王子様も全て私のもの。お姉様の見合い相手が私に夢中になるのも仕方ないことなの。
※設定はふわふわ。
※予告なく修正、加筆する場合があります。
※いずれ他サイトにも転載予定。
※『病弱な妹と私のお見合い顛末』のミルカ(妹)視点です。
完結 愛人さん初めまして!では元夫と出て行ってください。
音爽(ネソウ)
恋愛
金に女にだらしない男。終いには手を出す始末。
見た目と口八丁にだまされたマリエラは徐々に心を病んでいく。
だが、それではいけないと奮闘するのだが……
地味な私を捨てた元婚約者にざまぁ返し!私の才能に惚れたハイスペ社長にスカウトされ溺愛されてます
久遠翠
恋愛
「君は、可愛げがない。いつも数字しか見ていないじゃないか」
大手商社に勤める地味なOL・相沢美月は、エリートの婚約者・高遠彰から突然婚約破棄を告げられる。
彼の心変わりと社内での孤立に傷つき、退職を選んだ美月。
しかし、彼らは知らなかった。彼女には、IT業界で“K”という名で知られる伝説的なデータアナリストという、もう一つの顔があったことを。
失意の中、足を運んだ交流会で美月が出会ったのは、急成長中のIT企業「ホライゾン・テクノロジーズ」の若き社長・一条蓮。
彼女が何気なく口にした市場分析の鋭さに衝撃を受けた蓮は、すぐさま彼女を破格の条件でスカウトする。
「君のその目で、俺と未来を見てほしい」──。
蓮の情熱に心を動かされ、新たな一歩を踏み出した美月は、その才能を遺憾なく発揮していく。
地味なOLから、誰もが注目するキャリアウーマンへ。
そして、仕事のパートナーである蓮の、真っ直ぐで誠実な愛情に、凍てついていた心は次第に溶かされていく。
これは、才能というガラスの靴を見出された、一人の女性のシンデレラストーリー。
数字の奥に隠された真実を見抜く彼女が、本当の愛と幸せを掴むまでの、最高にドラマチックな逆転ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる