【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

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予期せぬ来訪者 編

惚れるなよ?

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《凄くねぇよ。年会費安いし》

「そうなんです? なんか凄く馬鹿高くて、庶民には手が届かないイメージがあるんですが」

《多分それ、海外カードの事だと思う。それは初年度に九十万円の、年会費三十八万円とかの世界》

「うえええ……!?」

 カードを持つだけでそんなに掛かると思わず、私は怯えた声を出す。

「も、持ってるんです?」

《や、俺はその下のプラチナ。ぶっちゃけ、そこまでの年会費を払ってまで持ってる意味を感じないし、箔つけのためだとしても高いから、俺はパス》

「へー……。現実的。あの、Chief Everyの名物社長いるじゃないですか。御劔みつるぎ様。あの人、ブラックカード持ってるみたいですね」

 Chief Everyというのは、世界的なシェアを誇る日本のアパレルブランドだ。

 代表取締役社長の御劔たすくという人が、美形な上に名家の生まれだとか、物凄い付加価値のある人で、芸能人並みに人気がある。

《彼ぐらいのクラスになれば、値段を気にせず買い物をしそうだから、限度額なしのカードが必要になるんじゃないか? プライベージェットも持ってるみたいだし、世界的な経営者ともなれば色々必要になるだろ》

 尊さんは淡々と言い、私は妙に感心してしまった。

「張り合わずにそう言えるって、やっぱり尊さんって大人ですね。や、今の話題は意地悪で言ったんじゃないですけど」

 図らずも御劔社長と比べるような言い方になってしまい、言ってから少しヒヤッとしてしまった。

《あー、そりゃあ金持ちと呼ばれる部類になっても、誰かと比べて嫉妬する人はいるけど。……他人と比べてもしゃーないしな? 御劔さんは母方の血筋をたどればドイツの名家……とか、凄い繋がりがあるけど、生まれを気にする事ほど詮無きことってなくないか?》

「……ですね。私も、もうちょっと優しい顔立ちに生まれたかったとか、たまに思っちゃいます」

《それに俺は、色々あったけど今の自分にそこそこ満足してる。これからも〝上〟に行きたいとは思うけど、それは俺が目指すビジョンであって、他人の真似をしたい訳じゃないんだ》

「そっか……」

 私はつい人と比べて嫉妬してしまうところがあるので、そもそも彼の考え方が違う事に気づいた。

《他人とは産まれた家庭環境も、地域も年齢も、何もかも違うのに『自分にはあれが足りない、これが足りない』って嘆くのはちょっと違う。篠宮フーズと同じ規模の会社の部長がいるとしても、その人とは歩んできた人生が違うから、比べる事自体、間違えているだろ? 似たような色をした、三角のパズルと四角のパズルを比べて、『どっちがより優れているか』って悩んでるようなもんだ》

「確かに」

《仮に同じように見えていたとしても、見えないところでその人はとても苦労しているかもしれない。他者の努力や苦労を無視して〝幸せな人〟と一方的に決めつけて嫉妬するのは、想像力の欠如だ》

 分かりやすく説明され、私は深く納得した。

《そりゃあ人間だし、優しい両親がいる家庭に生まれた人を羨む気持ちはある。でもここまで生きてきたなら、自分の人生を受け入れて、自力で幸せに生きていくしかない。自分の人生を良くも悪くも変えられるのは、自分だけなんだから》

「……ですね。私もそう思います」

 実父や今の家庭の事を考え、私は物凄く同意しながら頷いた。

《でも、朱里の事は俺が幸せにするから、八割ぐらいは大船に乗った気持ちでいてくれ》

「んふふ、ありがとうございます! でも私も、尊さんを幸せにしますからね」

《期待してるよ。……っていう話を、御劔さんもすると思うから、ご希望とあらば紹介するよ》

「へっ!?」

 とんでもないパスがきて、私は大きな声を上げた。

「ま……っ、マジですか? とっ、友達?」

《投資家バーで会った飲み友。今はプライベートも少しだけ》

「すっっご……。……ど、どんな人です?」

 私は思わず食いついてしまう。

《プライベートは普通の人だよ。俺と年齢も同じで、趣味嗜好もやや似てる。好きな女性の一挙手一投足が気になって、振り回されてるところも同じ》

「へええー……」

 そういえば、彼のお眼鏡に適った一般女性のシンデレラガールがいると、何かでチラッと見たかもしれない。

《タイミングが合えば普通に会ってくれると思うけど……、惚れるなよ?》

「惚れませんって!」

 私はクシャッと笑い、目の前の空間を叩く真似をした。

 気がつくと、昭人を見送ったあとにずっと胸にあったモヤモヤが消えていた。

 私は安堵に似た溜め息をつき、微笑んでお礼を言う。

「ありがとうございます。不安だったの晴れました」

《ん、なら何より。明後日、緊張するだろうけど、同じ空間にいるから堂々としてろよ。田村クンが無理強いしてきたら、すぐ行く。目標は二度と今回のような事が起きないように、彼に納得してもらい円満に完全にお別れする事》

「はい」

 私は尊さんからミッションを出され、ビシッと背筋を伸ばして頷いた。

「明日は上村家にお邪魔しないとだし、全部終わったらちょっとゴージャスなデートしような」

「やった!」

 素直に喜ぶと、尊さんは電話の向こうでクスクス笑っていた。



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