【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

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実家に挨拶 編

アカリスト

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「やだ、もう。基礎化粧品塗ったあとなんですから、お腹壊しますよ」

 私はクスクス笑いながら、両手で彼の胸板を押す。

「おっと、ゆっくりしてられなかった。あと三十分だけど、準備大丈夫か?」

「そうだ! 超特急でメイクしてきます!」

 私はピッと敬礼したあと、ベッドルームにあるドレッサー前に座り、女優ライトをつける。

「そこ、設備すげーな。プロみたいだ」

「ライトびっかびかだと、メイクしやすいんですよ。顔に影が入っちゃうところだと、チークの左右差が分からなくなったりとか、微妙に不便なんです。あとこれ。拡大鏡も必須」

 丸いスタンド式の拡大鏡を見せると、尊さんはそれを覗き込み「おっ」と小さく声を出す。

「あはは! 毛穴の一つ一つまでよーく見えるでしょ。肌のコンディション確かめるのに最適ですし、アイメイクにも便利なんですよ。もう普通の鏡でアイメイクできなくて……」

 言いながら、私は手早く下地をつけてティッシュオフし、フィックスミストを含ませたスポンジで顔をはたいてから、コンシーラーやカラーコントロールを塗って同様にし、ファンデーション……とベースを作っていく。

 服はブルーの縦リブニットに黒いロングタイトスカートを穿いていて、あとは顔を作るだけだ。

「そういうの、沢山収納できる奴、家具を買ったほうがいいよな」

 尊さんはベッドに座り、私がメイクする様子を見ながら言う。

「んー、でも新しく家具を買ってもらうの悪いですから、これをこのまま持ってきますよ?」
「まぁ、勿体なくはあるし、思い入れもあるだろうから、その辺は要相談だけど。それでも、個室が広くなる事を考えて、もっと好きなもんを置けるって事も念頭に置いてくれよ? 可能な限り、朱里が過ごしやすい理想の家にしたいと思ってるから」

「ありがとうございます。……へへ、尊さんと暮らせるの夢みたい」

 ハイライトとシェーディングをしたあと、服の色に合わせたアイシャドウパレットを開き、筆を使い分けてアイメイクをしていく。

 アイホール全体に薄い色を乗せ、目尻に濃い色、目頭に明るい色、ラメ、涙袋……とやっていると、尊さんが溜め息混じりに言う。

「女子はすげーなぁ。化粧って色彩センスや、絵を描くのにも似た絵画センスも問われる気がするから、シンプルにすげぇと思うよ」

「んふふ、尊さんってイケメンだから、お化粧したら映えそう」

「おい……」

 悪戯っぽく言うと、彼は苦笑して項垂れる。

「でも基礎化粧品は使ってるんでしょ?」

「だな。冬は乾燥するし、夏も空調を弄ってる以上気をつけてはいる。美容目的じゃなくても、仕事相手に荒れた肌を見られて『不摂生してる』って思われたらやだし」

「速水部長は、本当に綺麗な顔をしてますからねぇ~。速水尊の尊は、ご尊顔の尊」

「拝むな」

 突っ込まれ、私はケタケタ笑う。

 いつも通りキュッとアイラインを引き、マスカラベースを塗って乾かす間に眉をやる。

 眉はもともと濃い目なので少し整える程度に描き足し、アイブロウマスカラを塗って色を馴染ませる。

 マスカラを塗りながら、不意に思いだした事を口にした。

「……私、加代さんとか春日さんみたいに、優しげな顔立ちの女性に憧れていたんです」

「朱里は美人なのにな?」

 褒めてもらえて嬉しく、少し笑うけれど、ずっと抱えていたコンプレックスは根深い。

「学生時代、愛想がなかった事は話したでしょう? それでツンと澄ました顔に見えるのか、余計に女子には嫌われてました。時々、奇特な人にはフェイスケアの方法とか聞かれましたけど」

「確かに、愛嬌があるっていうより、近寄りがたさのある美人だよな。話したらこんなに楽しいのに」

「んふふ。私を敬遠していた女子たちも、私が『しゅきぴ』って言ってるの、きっと想像してないですよ」

「朱里がこんなに可愛い子だって、俺だって沢山の人に共有してぇよ。……いや、でもアカリストが増えたら困るな」

「あはは! アカリストってなんですか! じゃあ、私はハヤミスト」

「それ、うちの親戚も入るから」

「確かに!」

 最後にサッサッとチークを塗った私は、「おーわり!」と言って立ちあがり、ライトを消した。

「よし、じゃあ行くか」

「はい!」

 元気よく返事をした私は、コートを羽織りマフラーを巻く。

 そのあと、マンションの近くにある有料駐車場まで歩き、尊さんの車に乗って実家へ出発した。



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