【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

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実家に挨拶 編

母親として失格だったわ

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「今度、連絡する」

「うん、分かった」

「速水さん、ありがとうございます」

 美奈歩が彼にお礼を言い、尊さんも微笑み返す。

「いいえ、どういたしまして」

「あと、さっきはごめんなさい。ただの八つ当たりです」

 ん? 何のこと?

「分かっていますよ。……〝これ〟で」

 そう言って、尊さんは唇の前に人差し指を立てた。

「えー? なに? 気になる」

 二人をキョロキョロと見比べると、美奈歩はわざとらしい笑みを浮かべて唇の前に人差し指を立て、それを見て尊さんも意味深に笑った。うう……。

「戻ろうか」

「うん」

 三人でリビングに戻りかけた時、つん、と後ろから美奈歩に服を引っ張られた。

「ん?」と思って振り向くと、彼女に耳元で囁かれた。

「いい人見つけたね。おめでとう。私もいい人探す」

 美奈歩から初めて「おめでとう」を言ってもらえて、嬉しくなった私はギュッと継妹を抱き締めた。

「だから! すぐハグるな」

「ハグる! はぐはぐはぐ……」

 継妹を抱き締めたまま、肩口でぐりぐりと顔を動かすと、後ろで尊さんが快活に笑った。





「そろそろ帰ろうかな」と思いつつリビングに戻ると、母と継父は何か話していたようだが、二人は私を見て取り繕うように微笑んだ。

(何か話してたかな。尊さんの事で何か言ってたなら、教えてほしいけど……)

 ソファに座りつつ少し不安になっていると、母が口を開いた。

「お母さん、朱里に謝らないとならないわね」

「なんで?」

 目を瞬かせると、母は切なげに微笑んで話し始める。

「お父さんを亡くしてからつらそうとは思っていたけど、まさか名古屋に行った時に死のうとしていたなんて知らなくて……。様子がおかしいとは思っていたけど、まさか……」

「あ……」

 母の表情を見て、ズキリと胸が痛む。

 私は自分の事で精一杯だったし、あの時に尊さんと出会ったから今がある、という美談がある。

 けれど母からすれば、あと少し運命が違っていたら、たった一人の娘を亡くしていた。

 あれから十二年経ち、私はピンピン元気に過ごしているとしても、母としてはショックだったんだろう。

「……ごめん」

 謝ると、母は小さく首を横に振った。

「お母さんこそ、気付けなくてごめんね。お父さんを亡くして『これからどうやって生活していこう』と考えてばっかりで、朱里をちゃんと見られていなかった」

「……そう考えるのは当たり前だよ。母子家庭になったなら、子供をどう養っていくか考えるのは当然だし、考えるべき事があるのは分かってた」

「でも、子供のSOSを感じられなかったのは、母親として失格だったわ」

 母は溜め息をついたあと、チラッと亮平と美奈歩のほうを見る。

「それに、言い出しづらかったけど、亮平くんと美奈歩ちゃんと折り合いが悪かった事についても、口だしすべきか分からなくて、悩んだ結果何も言えずにいた……」

 家族四人が揃った状態でこの事について触れたのは初めてだ。

 一瞬、気まずい空気が流れたけど、私はそれについても首を横に振る。

「お継父さんは仕事で忙しいし、お母さんは通院しながら家事をこなし、二人の事を気遣って大変だったと思う。それに実の娘なら『ある程度なら大丈夫』っていう信頼もあっただろうし、私は友達や彼氏と過ごしていたからそれほど苦じゃなかったよ」

 継父は大きな広告会社の管理職をしていて、何かと忙しく働いている。

 それでも、なるべく皆で夜ご飯を食べるようにして『今日はどうだった?』と子供たちに話を聞くようにしていた。

 私たちは分かりやすい喧嘩はしなかったし、『何事もなく平和だった』といえばその通りだったと思う。

 亮平の距離感がちょっと苦手とか、美奈歩にツンツンされたぐらいで『いじめられた』なんていったら、大げさに騒ぐ当たり屋みたいになってしまう。

 新しい兄妹を苦手とは思っていたけど、二人は私をいじめていた訳ではない。

 暴力をふるわれたり、あまりにも嫌な事を言われていたなら、私としても母や継父に一言いっていたかもしれない。でもそこまでじゃなかった。

 母は時々、気遣わしげに『二人とうまくやれてる?』と確認してきたけれど、私のほうがヘルプを出さなかったのだ。

『一気に仲良くは無理だけど、そこそこうまくやれてる』と言ったら、母もそれ以上掘り下げようがなかったと思う。

 母が亮平と美奈歩を悪者にして『意地悪されてない?』なんて言えば、母が夫、二人の子供の不信感を買ってしまう。

 母は実父が亡くなってから不眠気味になっていた中、通院して薬を飲みながらも私のために働き、なんとか再婚までこぎつけた。

 母には母の戦いがあり、私と一緒に生きていくためにがむしゃらに日々を過ごしていた。

 自分の身をすり減らすまでやってくれたのに〝それ以上〟を求めるなんてできない。
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