【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

文字の大きさ
222 / 779
元彼との決着 編

婚約指輪について

しおりを挟む
「悪い事があったあとには、いい事が待ってる。……たとえば、煮卵つきチャーシュー麺が食べられるとか」

 おどけるように言われ、私は思わず「ぶふっ」と噴き出す。

「……さっき、麺がのびる話をしてたから?」

「それ。急にラーメン食いたくなってきた。どう?」

「いきます!」

 顔を上げてキリッとした表情で言ったからか、尊さんはクスクス笑った。

「OK! この辺、朱里の縄張りだろ。オススメある?」

「だから~。縄張りって猫みたいに……。えっとですね、ごっついチャーシューを食べられるお店があってですね」

 言いながら、私は西日暮里駅近くにある百名店に選出されたラーメン屋の店名を口にした。

「よし、そこ行くか!」

 尊さんは後部座席のドアを開けて運転席に移動し、私も助手席に座る。

「出発ブンブン!」

 あえて明るく言うと、尊さんはクスクス笑ってから「ブンブン」と言ってくれた。

 駐車場を出たあと、運転しながら彼が言う。

「色々落ち込んじまう時はあるけど、大体カロリーとって寝たらどうにかなるよ。俺も元気を出したい時は、チャーシュー麺や肉食ってた」

「やっぱりお肉って正義ですよね……」

 私がハッと気づいたように言ったので、尊さんは「ぶふっ」と噴き出す。

「だな、正義だ。これからも、やな事があった時は二人でチャーシュー麺食っていこうぜ」

「……独創的なプロポーズですね」

 わざと真顔で突っ込むと、彼は「おい」と脱力する。

「嘘ですって!」

「そうだ、朱里」

「はい?」

 今の流れなので軽い調子で返事をすると、赤信号で止まった尊さんはこちらを見てニヤッと笑う。

「婚約指輪と結婚指輪の希望、固めておけよ」

「へっ?」

 目を丸くすると、クシャクシャと頭を撫でられる。

「もう上村家に挨拶したし、これから祖父様やちえりさんのところにも行って公認になる。その時、お前の指に篠宮家、速水家が納得する婚約指輪がなかったら、俺が皆に嗤われるよ」

「う……、うう……」

 まさかそんな問題があると思わず、私は何も言えずにうめく。

「……お、お高い万円のはいいですからね?」

「諦めろ。一生に一度しかない結婚式なんだから、指輪もドレスも式場も料理も新婚旅行も、とことん金かけるぞ」

「Oh……」

「チャーシュー麺プロポーズしたからって、指輪が輪切りネギで済むと思うなよ」

「んぶふっ」

 彼の冗談に思わず笑ってしまったものの、自分の指に高級な指輪が嵌まるのは想像できない。

 お洒落は好きだから、アクセサリーもある程度持っている。

 でも高級なアクセサリーを持つより美味しい物を食べたいので、ハイブランドの物は持っていなかった。

 ボーナスが出た時に五万円ぐらいの指輪を買ったものの、『こういうのはハマったらキリがなくてやばそうだな』と思い、お気に入りのそれを毎日つける事にした。

 それでもやっぱり、綾子さんみたいに高級ブランドを身につけている人を見ると、ちょっとだけ羨ましくなる。

 けれど「自分が一番大切にしたいものは?」と改めて考えると、恵と一緒に美味しい物を食べたり、旅行に行く事だ。

 勿論デパコスも好きなんだけど、絶対に欲しい物だけを厳選して買うようにしている。

 他にもたまには家族にご馳走しようと思って食事会を開く事もあるし、自分にとって嬉しいお金の使い方って、誰かと喜びを共有する事だと気づいた。

 だから私は高価な物を身につけていないし、そういう物に慣れていない。

「……婚約指輪って、どうやって買うんですか?」

「んー、気になるブランドをネットで調べて、公式サイトでデザインやら何やら、自分が気に入るもんに目星をつけて。店舗を絞って直接店に行って、嵌めてみて『これがいい』ってのを見つけるんじゃないか?」

「なるほど、確かにそれが一番現実的ですね」

 ドラマでは急にジュエリー店に駆け込んで、彼女の指輪の号数を言って即日買い、いきなりプロポーズ! なんてのもあったから、いまいちリアル事情が分からなかった。

「あとはブライダル雑誌でも特集組んでるんじゃないか?」

「あー、確かにそうですね。でも誌面に載るのは一部でしょうし、やっぱりネットから探すほうがよさげかもです」

「じゃあ、帰ったら二人で見てみるか」

「はい」

 会話をしている間にも車はラーメン屋の近くの駐車場に停まり、私たちは歩いてお店に向かう。

 並び時間にスマホで指輪を調べたけれど、「色々あるなぁ」と思っている間に順番がきてしまった。

 でっかいチャーシューがのった醤油ラーメンをハフハフと食べていると、多幸感に満ちあふれて昭人の事はどうでも良くなってくる。

(あんだけ尊さんが脅してくれたなら、多分もう姿を現さないだろうし、私もいい加減前を向こう)

 逃がした魚は大きいと言うけれど、私の場合、よく見てみたら大した事のない魚だった。

 それを確認できただけでもめっけもんだ。

 ラーメンを食べたあとは、すぐ近くなので私の家に行き、お茶を飲みながら指輪のリサーチをして過ごした。



**
しおりを挟む
感想 2,457

あなたにおすすめの小説

3歳児にも劣る淑女(笑)

章槻雅希
恋愛
公爵令嬢は、第一王子から理不尽な言いがかりをつけられていた。 男爵家の庶子と懇ろになった王子はその醜態を学園内に晒し続けている。 その状況を打破したのは、僅か3歳の王女殿下だった。 カテゴリーは悩みましたが、一応5歳児と3歳児のほのぼのカップルがいるので恋愛ということで(;^ω^) ほんの思い付きの1場面的な小噺。 王女以外の固有名詞を無くしました。 元ネタをご存じの方にはご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。 創作SNSでの、ジャンル外での配慮に欠けておりました。

リリー・フラレンシア男爵令嬢について

碧井 汐桜香
恋愛
王太子と出会ったピンク髪の男爵令嬢のお話

完結 愛人さん初めまして!では元夫と出て行ってください。

音爽(ネソウ)
恋愛
金に女にだらしない男。終いには手を出す始末。 見た目と口八丁にだまされたマリエラは徐々に心を病んでいく。 だが、それではいけないと奮闘するのだが……

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

病弱な私と意地悪なお姉様のお見合い顛末

黒木メイ
恋愛
幼い頃から病弱だったミルカ。外出もまともにできず、家の中に引きこもってばかり。それでもミルカは幸せだった。家族が、使用人たちがいつもミルカの側にいてくれたから。ミルカを愛してくれたから。それだけで十分――なわけないでしょう。お姉様はずるい。健康な体を持っているだけではなく、自由に外出できるんだから。その上、意地悪。だから、奪ったのよ。ずるいお姉様から全てを。当然でしょう。私は『特別な存在』で、『幸せが約束されたお姫様』なんだから。両親からの愛も、次期当主の地位も、王子様も全て私のもの。お姉様の見合い相手が私に夢中になるのも仕方ないことなの。 ※設定はふわふわ。 ※予告なく修正、加筆する場合があります。 ※いずれ他サイトにも転載予定。 ※『病弱な妹と私のお見合い顛末』のミルカ(妹)視点です。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

処理中です...