【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

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体調不良 編

商品開発

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 土日はそんな感じで終わり、あまりゆっくりできないまま月曜日になった。

 今後について尊さんがいうには、三月の株主総会の決定のあと、四月から副社長になるそうだ。

 私が秘書になる件については、結婚したあとでも構わないと猶予をもらった。

 ただ、考えないといけないのは、結婚してから彼に望まれて秘書になりました、とするか、尊さんが副社長になったあとに大抜擢されて秘書になるかの、どちらを択るかだ。

 前者だと結婚ギリギリまで彼との関係を隠せるけど、『あいつ結婚したから秘書になったのか』と見られる覚悟を持たないといけない。

 加えてイケメン副社長になった彼に熱を上げる女性は、さらに増える恐れがある。

 尊さんの愛情は揺らがないと信じているから、綾子さんみたいな人がどれだけ増えても大丈夫……と思いたい。

 でも彼のフリー期間が長いほど、女性社員の期待は高まるだろう。

 後者だと尊さんと同時期に異動となれば、彼との関係を勘ぐられて結婚前に関係を公表するも同義となる。

 そのうちお祖父さん達にご挨拶して認めてもらえたら、きっと会社側も私たちの関係を守ってくれると思う。

(それでも、周りから敵視されるのは変わらないんだよなぁ……)

 私は実験室で、コトコトと煮えている鍋からひたすら灰汁をとりつつ考え事をしていた。

 仕事でレトルトお惣菜の新商品を開発する事になり、コンセプトが決まったあとは材料を決め、理想の味になるよう試作を繰り返している。

(尊さんは私を守るって言ってくれたし、私が気にすべきは〝その他大勢〟じゃなくて彼と幸せになる事。名誉会長や速水家からも認めてもらうほうが、ずっと大事でしょ)

 自分に言い聞かせても、いざ針のむしろになる生活を思うと溜め息が漏れる。

「溜め息付いたら幸せが逃げるぞ~」

 と、隣で材料を切っていた恵が、ボソッと言う。

 スモックを着てマスクをつけ、耳が隠れるつば付きの衛生キャップを被った私は、ジロッと恵を睨んでから、「出たらすかさず食う」と言って、「がぶっ」と目の前の空気を食べた。

 ――と、実験室のドアが開いたかと思うと、綾子さんがニコニコして声を上げた。

「『銀座 喜ね屋』の大将、喜多久きたひさ邦重くにしげさん、いらっしゃいました~!」

 彼女と一緒に実験室に入ってきたのは、テレビ番組にも出ているイケメン大将三十八歳だ。

 料理人としての下積みを経て、異例の若さで自分の店を持ち、グルメガイドで星をもらうなどの快挙を成し遂げている凄い人である。

「こんにちは、どうぞ宜しくお願いします」

 喜多久さんが爽やかに微笑みかけると、女性社員が一気に華やいだ。

 今回の企画は『銀座 喜ね屋』さんとのコラボ企画で、これから春を迎えるにあたって、一人暮らしを始める人が、お家で美味しい料理を気軽に食べられるように……との趣旨になっている。

「皆さん、どうぞそのまま手を止めずに」

 喜多久さんは自分もスモックやマスクをつけながら、実験室内にいる社員たちに声を掛ける。

 彼の後ろには尊さんがいて、彼も実験室に入って一緒に様子を見るみたいだ。

 綾子さんはニッコニコしながら、喜多久さんに説明をしている。

(曲がりなりにも部長のファンを公言してるのに、彼の前で喜多久さんにデレデレしちゃうの凄いな)

 彼女を応援している訳じゃないのに、イケメンなら誰でもいいのかと思うと、何となくスンッとなってしまう。

 喜多久さんと同じようにスモック等を身につけた尊さんは、彼と話をしながら商品開発の様子を見守っていた。

(こんなふうに仕事できるのも、あと少しなんだな。っていうか、新しい部長って誰がなるんだろう。……成田なりた課長が繰り上がる?)

 そう思うと、「うーん!」となってしまった。

 四十四歳の成田課長は、悪い人ではないんだけどちょっと苦手なタイプだ。

 部署内そのものは、庭師尊さんのお陰で雰囲気がいいものの、成田課長は感情にムラが多い。不機嫌な時はすぐ分かるし、そういう日はお小言が多くなる。

 既婚者で子供もいるからか、尊さんに対して『あれぐらいで部長になれるなら、俺にだって……』と思っていそうで、彼にちょっと舐めた態度もとる。

 加えて尊さんがいい事を言うと、後日自分の言葉のように自慢げに同じ事を言う。

 中身が伴ってないから、その言葉の薄っぺらさときたら……。

 加えて体育会系の係長とも馬が合わず、『上司も部下も若造で、ここでまともな上司は俺しかいない』と考えているのも丸わかりだ。

(尊さんがいるから、この部署は和気藹々とやってこられたんだけどな……)

 これからの事を考えると気が重たく、私は無意識にまた溜め息をついていた。

「いい色ですね。美味しそうだ」

 ――と、斜め後ろから声を掛けられ、思考に没頭していた私はビクッと肩を跳ねさせた。

「あっ、ありがとうございます!」

 考え事をしているうちに喜多久さんが来たようで、私はぺこりと彼に頭を下げる。

「味見してみても?」

「はい」

 言われて、私は未使用のスプーンと小皿を用意し、煮物の汁をひとすくい小皿にとる。

 喜多久さんは小皿を傾けて汁の色を見たあと、煮汁を口に入れて目を閉じた。

 わぁ……、プロに味見してもらってると思うと、ドキドキする……。

 すぐ側に綾子さんもいるので、尊さんをチラリとも見る事すら許されない。

 色んな意味で緊張していると、喜多久さんが「うん」と頷き目を開ける。

「悪くないけど……」
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