【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

文字の大きさ
255 / 778
北海道旅行 編

他人と自分を比べるのをやめる

しおりを挟む
「気持ちよかったよ。……朱里が側にいたらもっと気持ちよかったと思うけど」

「……言い方」

 私は頬を染めて視線を逸らす。

「あ、そうだ。職場のお土産ってどうします?」

「俺が買ってくから、朱里は何もしなくていい」

「神くんは……、口止め料とかって、どうなんでしょう?」

「あいつは信頼できるよ。言いふらすとか、約束を破ったり嘘をつく事が、どれだけ簡単に人の信頼をなくすか分かってる。自分の価値を下げる行為はしない奴だ」

「……そうですね」

 彼の言葉を聞いて、「深いな」と感じてしまった。

 人との約束を守る、嘘をつかない、遅刻をしない、何かあったら連絡するなどは、一見とても些細な事だけど、その積み重ねが信頼を作っていく。

 それに何かをすぐ言いふらす人は、絶対信頼できないし側にいてほしくないタイプだ。

「……そうだ。恵は私と違って友達が多いんですけど、その中にも色んな人がいるんです。前に聞いた人は、遊ぶ約束をして、時間通り待ち合わせ場所についても全然来なくて、電話したら『まだ家にいる』って平気で言うんですって」

「すげぇな」

「平気で何回も遅刻するから、そのうち嫌になって付き合うのをやめたって言ってました。他にも、遊ぶ約束をドタキャンしたのに、SNSに他の友達とテーマパークに行ってる写真を上げてたって別の人から聞いて、激怒してました」

「そういう人は切っていいと思うぜ。前にも言ったけど、自分の周り五人の平均は自分って話。少しでも『嫌だな』と思う要素がある相手と付き合ってると、不満が溜まって愚痴っぽくなったりで、本人の質も下がるんだよ」

「そうですね」

 私は溜め息をつき、合鴨の白菜スープ仕立てをつつく。

「自分を軽んじる相手に、丁寧に接する必要はねぇよ。俺にも人間関係の優先順位はあるけど、優先順位が低い相手を適当に扱うなんてしない。相手を見て態度を変える奴は、どこかで化けの皮が剥がれる。そうならないために、いつも誠実でいるべきなんだよ」

「確かに、そうですね」

 私は頷いてビールを飲んだあと、溜め息をつく。

「この話、続きがあるんですけど、いいです?」

「どうぞ?」

「恵は『そういう奴はどこかで因果応報な目に遭う』って言ってたんです。でもその人、どうやらお金持ちに見初められたらしくて、すでに結婚して働かずにいい暮らしをしてるんですって。それ聞いた時、『マジか』って溜め息が出ちゃって」

 尊さんはビールを一口飲み、「そういうのあるよな」と笑う。

「怜香が長い間女王のように振る舞っていたように、信じられない事をしてる奴が、恵まれた環境にいる事ってあるんだよ。へたに『あいつはこういう奴なんです』なんて言えば、こっちが誹謗中傷、名誉毀損の加害者になる。この世界は善人だけが報われる、綺麗な世界じゃない。どんなクズだって、要領が良ければ〝上〟へ行ける腐った場所だ」

「ですよねー……」

 私は脱力して項垂れる。

「そういう時は、他人と自分を比べるのをやめる。それ一択だ。そいつがどんな暮らしをしようが、自分の生活が良くなる訳じゃねぇ。単に気に食わないだけだろ? 冷たい言い方だけど、それは中村さんの考え方の問題だ」

 彼は椅子に背中を預け、腕を組んで微笑む。

「感情としては『ムカつくな』って共感できるし『どっかでバチが当たればいい』とも思うよ。でも問題は『相手をどうしたいか』じゃない、『自分がどうなりたいか』だ。相手の不幸を願い続けていたら怨念の塊になってしまうし、人が離れていく。腹立つ相手の事を考えるだけ損だよ」

 私は溜め息をつき、「……その通りです」と頷く。

 その時、大きなお皿に盛られた見事なお造りが運ばれてきた。

「わあぁ、凄い!」

 私は思わず声を上げ、小さく拍手をする。

 スタッフがお刺身の説明をして去ったあと、尊さんは醤油に山葵を溶きながら言った。

「ま、今は美味いもんの事を考えてくれよ。俺、朱里がニコニコして飯を食う姿が好きなんだ」

 そう言われて、せっかくのご馳走なのに嫌な話をしてしまったのに気づいた。

「……ごめんなさい」

「いいよ。いつもは忙しくて口にするまでもない事でも、旅先でゆっくりした時に、ポロポロ出るもんってあると思う。いわゆる〝語り〟な」

 穏やかに笑う尊さんを見て改めて「大人だな」と感じ、彼が言っていた言葉を思い出した。

『朱里の役目は、しっかり楽しむ事』

(はい)

 心の中で頷いた私は、大きな牡丹海老をとり、ニュッと頭をとる。

「いただきます! んーっ、甘い!」

 ブリンブリンの牡丹海老を食べて幸せそうに笑うと、尊さんはスマホを構えて私を撮った。

「よし、いい顔激写」
しおりを挟む
感想 2,452

あなたにおすすめの小説

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

3歳児にも劣る淑女(笑)

章槻雅希
恋愛
公爵令嬢は、第一王子から理不尽な言いがかりをつけられていた。 男爵家の庶子と懇ろになった王子はその醜態を学園内に晒し続けている。 その状況を打破したのは、僅か3歳の王女殿下だった。 カテゴリーは悩みましたが、一応5歳児と3歳児のほのぼのカップルがいるので恋愛ということで(;^ω^) ほんの思い付きの1場面的な小噺。 王女以外の固有名詞を無くしました。 元ネタをご存じの方にはご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。 創作SNSでの、ジャンル外での配慮に欠けておりました。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

病弱な私と意地悪なお姉様のお見合い顛末

黒木メイ
恋愛
幼い頃から病弱だったミルカ。外出もまともにできず、家の中に引きこもってばかり。それでもミルカは幸せだった。家族が、使用人たちがいつもミルカの側にいてくれたから。ミルカを愛してくれたから。それだけで十分――なわけないでしょう。お姉様はずるい。健康な体を持っているだけではなく、自由に外出できるんだから。その上、意地悪。だから、奪ったのよ。ずるいお姉様から全てを。当然でしょう。私は『特別な存在』で、『幸せが約束されたお姫様』なんだから。両親からの愛も、次期当主の地位も、王子様も全て私のもの。お姉様の見合い相手が私に夢中になるのも仕方ないことなの。 ※設定はふわふわ。 ※予告なく修正、加筆する場合があります。 ※いずれ他サイトにも転載予定。 ※『病弱な妹と私のお見合い顛末』のミルカ(妹)視点です。

完結 愛人さん初めまして!では元夫と出て行ってください。

音爽(ネソウ)
恋愛
金に女にだらしない男。終いには手を出す始末。 見た目と口八丁にだまされたマリエラは徐々に心を病んでいく。 だが、それではいけないと奮闘するのだが……

地味な私を捨てた元婚約者にざまぁ返し!私の才能に惚れたハイスペ社長にスカウトされ溺愛されてます

久遠翠
恋愛
「君は、可愛げがない。いつも数字しか見ていないじゃないか」 大手商社に勤める地味なOL・相沢美月は、エリートの婚約者・高遠彰から突然婚約破棄を告げられる。 彼の心変わりと社内での孤立に傷つき、退職を選んだ美月。 しかし、彼らは知らなかった。彼女には、IT業界で“K”という名で知られる伝説的なデータアナリストという、もう一つの顔があったことを。 失意の中、足を運んだ交流会で美月が出会ったのは、急成長中のIT企業「ホライゾン・テクノロジーズ」の若き社長・一条蓮。 彼女が何気なく口にした市場分析の鋭さに衝撃を受けた蓮は、すぐさま彼女を破格の条件でスカウトする。 「君のその目で、俺と未来を見てほしい」──。 蓮の情熱に心を動かされ、新たな一歩を踏み出した美月は、その才能を遺憾なく発揮していく。 地味なOLから、誰もが注目するキャリアウーマンへ。 そして、仕事のパートナーである蓮の、真っ直ぐで誠実な愛情に、凍てついていた心は次第に溶かされていく。 これは、才能というガラスの靴を見出された、一人の女性のシンデレラストーリー。 数字の奥に隠された真実を見抜く彼女が、本当の愛と幸せを掴むまでの、最高にドラマチックな逆転ラブストーリー。

リリー・フラレンシア男爵令嬢について

碧井 汐桜香
恋愛
王太子と出会ったピンク髪の男爵令嬢のお話

処理中です...