【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

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北海道旅行 編

逆ナン

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(今頃、尊さんもお湯に浸かってるのかな。ゆっくり温泉に浸かって、日頃の疲れをとってくれればいいな)

 そう思うものの、彼が早く出たら待たせてしまうと思うと、なんとなく気が急いてしまう。

(でも勿体ないから、全部浸かりたい!)

 クワッと勿体ない根性を出した私は、目を閉じて脳内で尊さんを数え始めた。

(尊さんが一人、尊さんが二人、尊さんが三人……。違う! これは寝る時のやつだ! しかもそんなに大勢いたら、色気過多で鼻血噴いて死んじゃう! 何Pになるの!?)

 そんな事を考え、思わずにやつきそうになった私はクルッと壁のほうを向く。

(大浴場で大欲情……。なんちゃって)

 くだらない事を考えて一人で「ふふっ」となったあと、思考を切り替えてまじめな事を考えた。

(恵や家族へのお土産、どうしようかな。恵はお菓子でいいと思うけど、美奈歩あたりは何かビューティーな物のほうがいいのかな。でもこだわりのデパコス使ってる子だから、下手に好みじゃない物を買うより北海道限定のお菓子のほうが喜ぶかも。……亮平は……、ワインとチーズでいいか。あいつの好みは知らん)

 我ながら、女子と男子の扱いの差が酷い。

(あれ? 職場へのお土産ってどうするの? 恵以外の人には北海道に行くって言ってないけど、……これって黙ってたほうがいいやつ?)

 グルグル考えた私は、あとから尊さんに相談する事にした。

 同じ職場なのに彼も北海道土産を買っていけば、〝偶然〟以上に勘ぐる人がいるかもしれない。

(よし、この件は保留)

 そのあと、意識の表層で色んな事をモヤモヤと考えながら、奥底では今夜の事を思って期待を高めてしまう。

 ほのぼのした家族連れを見ていると、自分がとても欲にまみれた存在に思えて、恥ずかしくなってしまった。





 大浴場から出て部屋に戻ったけれど、尊さんはいなかった。

 洗面セットを置いてエレベーターで二階まで下りた時、階段下のフロント前で尊さんが女性二人連れに声を掛けられているのを見て、思わず足を止めてしまう。

(わぁ……、ナンパされてる)

 いわずもがな、尊さんは高身長のイケメンで、大体の女性ならお近づきになりたい優良物件だ。

 逆ナンされてもおかしくないけど、現場を目撃するのは初めてなのでガン見してしまった。

 キャッキャしている女性二人は、私と同じ二十代半ばぐらいだ。

 作務衣は着ない方針らしく、一人はニットワンピース、もう一人はニットにマーメイドスカートを穿いていた。

 どちらかというとセクシーな雰囲気の女性を前に、尊さんは無の顔をしている。

 表面上、失礼にならないように軽く微笑んでいるけれど、内心で「早くこの会話、終わらねぇかな」と思っている顔だ。

 尊さんはそう大きく表情を変える人じゃないけど、私は彼の喜怒哀楽すべての顔を知っているので、無の顔だと分かってしまった。

(どうやって登場しよう)

 三人の姿を見ていると、声を掛けるタイミングを失ってしまって、私は階段の上で棒立ちになる。

 ――と、尊さんがこちらに気づき、大きく手を振った。

「今行く」

 同時に、女性二人がジロッと私を見てきた。怖い。

 尊さんは彼女たちに「じゃ、すみません」と言って会釈し、一段抜かしに階段を上がってくる。

「ふふん? お楽しみだったんじゃありませんこと?」

 顎を上げてちょっと尊大な態度をとると、彼はげんなりとして言った。

「勘弁してくれよ……」

 時刻を確認すると十八時二十分で、店に向かうのに丁度いい。

 二階の奥には『仙食庵せんじきあん』と木製の看板がついた扉があり、スタッフに予約の旨を告げると、少し待ったあとに右手奥にある『壷中天こちゅうてん』に案内された。

 内装はやっぱり古民家という感じで、年季の入った黒っぽい木がメインの、天井には梁などもある作りだ。

 席は半個室になっていて、私たちはどっしりした木製のテーブルを挟んで座った。

 二人ともビールを頼んだあと、お猪口に入った甘い果実酒を飲み、先付から順番に和食のコースを食べる。

「お風呂凄かったです。そっちも凄かったですか?」

「語彙」

 私が興奮して言うと、尊さんはクックック……と笑い崩れる。

「いいんですよ。真に凄いものの前では、人は『凄い』としか言えなくなるんですから」

 私は屁理屈を言いながら、海老のジュレが掛かった焼き茄子を食べる。
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