307 / 778
二次会 編
涼とバーへ
しおりを挟む
「その気になれば、みんな手を差しだして助けてくれるんです。背中を押してもらって、進みましょう」
「だな」
微笑み返した尊さんは、私をジッともの言いたげに見る。
「……ん?」
小首を傾げると、彼は「いや」と笑って姿勢を戻した。
「戻るか。大事な話はもうほとんど終わったと思うし、あとは楽しく飲もう」
「はい」
私たちはまた席に戻り、美味しい鯛飯とお味噌汁、香の物を食べたあと、柚子シャーベットで食事を締めた。
尊さんが言った通り、速水家が抱える重ための話はすべて終わったからか、あとは和やかな雰囲気となる。
「朱里ちゃん、尊くんのピアノ聴いた事ある?」
弥生さんに尋ねられ、私は首を小さく横に振る。
「それがまだなんですよ。ちょっと踊ってくれた事はありましたが」
「弾いてもらいなって。尊くんも定期的に弾かないと腕が落ちるよ」
「はいはい」
尊さんは弥生さんの言葉を軽くあしらい、苦笑いする。
「なんなら、うちの教室に来て弥生と連弾してもいいわよ」
ちえりさんが目をキラキラさせて言い、私は思わず「わ、素敵」と相好を崩す。
「あまり期待しなくていいから」
尊さんは手をヒラヒラ振ってごまかし、少し私に顔を寄せると「今度な」と笑った。
食事会は二十一時すぎまで続き、あまり遅くなっても……という事でお開きとなる。
別れ際、ちえりさんが言った。
「お彼岸のお参りについて、詳細が決まったら連絡を入れるわね」
「はい」
ちえりさんや小牧さん、弥生さんたちが「朱里さん、連絡先交換しよ!」と言ってくれ、私は彼女たちとメッセージアプリのIDを交換し、さらに尊さんも含めた〝チーム速水〟のグループにも入れてもらった。
お店を出たあと、涼さんが言った。
「一時間ぐらい、飲まない?」
「ぜひ!」
あまり涼さんとはお話できていなかったので、酔いの勢いで尊さんより先に返事をすると、彼は苦笑いして「しゃーねぇな」と言った。
そのあと、私たちは銀座二丁目にあるバーに入った。
尊さんと涼さんはウィスキーを飲み、私はカクテルにする。
「改めまして、初めまして。上村朱里です。尊さんからお話は窺っていました」
お店のコーナーにあるソファ席で、私は涼さんに挨拶をした。
「俺もちょいちょい聞いてたよ」
「えっ? どういう話ですか?」
前のめりになって尋ねると、尊さんが「いいから」と手で制してくる。
「尊がずっとしつこく想っていたのは知ってるんだよな?」
涼さんに確認され、私は「はい」と頷く。
すると彼は少し気の毒そうな顔をして、枝豆をぷちりと食べる。
「病み期の時は凄かったよ。朱里ちゃんがいなかったら死ぬ、ぐらいの重さだった」
思わず尊さんを見ると、彼はそっぽを向いてグラスを傾けていた。
ふふ、照れておるな。愛いやつよ。
「……仕方ないだろ。実際そういう時期があったんだから」
尊さんはふてくされたように言い、ウィスキーを呷る。
「分かってますよ。私の事、しゅきしゅきですもんね~」
尊さんの腕を組んで肩に顔を押しつけると、照れ隠しか、彼は乱暴な溜め息をついて私の頭をわしわしと撫でる。
涼さんはそんな私たちを見て愉快そうに微笑み、脚を組む。
「でも安心したよ。ずっと不安定で〝世界一の不幸男〟みたいな顔をしてたけど、あの継母を断罪してから吹っ切れたみたいだな。今は幸せそうで何より」
涼さんはグラスを掲げて尊さんに乾杯し、機嫌良さそうにお酒を飲んだ。
「大学生時代に知り合ったんでしたっけ?」
「そう。なんか知らんが、話しかけられた」
尊さんが言い、涼さんはニヤニヤ笑う。
「薄幸そうな文豪みたいな雰囲気があったから、一緒にいたら面白いかなと思って」
「お前な……」
私はつい、太宰治や芥川龍之介を思いだして「むふっ」と笑う。
確かに尊さんはまじめな顔をしていると、少し陰のある思い詰めた美形みが増すので、文豪と言われてしっくりきた。
「はい! 突っ込んだ質問していいですか?」
私はシュッと挙手する。
「だな」
微笑み返した尊さんは、私をジッともの言いたげに見る。
「……ん?」
小首を傾げると、彼は「いや」と笑って姿勢を戻した。
「戻るか。大事な話はもうほとんど終わったと思うし、あとは楽しく飲もう」
「はい」
私たちはまた席に戻り、美味しい鯛飯とお味噌汁、香の物を食べたあと、柚子シャーベットで食事を締めた。
尊さんが言った通り、速水家が抱える重ための話はすべて終わったからか、あとは和やかな雰囲気となる。
「朱里ちゃん、尊くんのピアノ聴いた事ある?」
弥生さんに尋ねられ、私は首を小さく横に振る。
「それがまだなんですよ。ちょっと踊ってくれた事はありましたが」
「弾いてもらいなって。尊くんも定期的に弾かないと腕が落ちるよ」
「はいはい」
尊さんは弥生さんの言葉を軽くあしらい、苦笑いする。
「なんなら、うちの教室に来て弥生と連弾してもいいわよ」
ちえりさんが目をキラキラさせて言い、私は思わず「わ、素敵」と相好を崩す。
「あまり期待しなくていいから」
尊さんは手をヒラヒラ振ってごまかし、少し私に顔を寄せると「今度な」と笑った。
食事会は二十一時すぎまで続き、あまり遅くなっても……という事でお開きとなる。
別れ際、ちえりさんが言った。
「お彼岸のお参りについて、詳細が決まったら連絡を入れるわね」
「はい」
ちえりさんや小牧さん、弥生さんたちが「朱里さん、連絡先交換しよ!」と言ってくれ、私は彼女たちとメッセージアプリのIDを交換し、さらに尊さんも含めた〝チーム速水〟のグループにも入れてもらった。
お店を出たあと、涼さんが言った。
「一時間ぐらい、飲まない?」
「ぜひ!」
あまり涼さんとはお話できていなかったので、酔いの勢いで尊さんより先に返事をすると、彼は苦笑いして「しゃーねぇな」と言った。
そのあと、私たちは銀座二丁目にあるバーに入った。
尊さんと涼さんはウィスキーを飲み、私はカクテルにする。
「改めまして、初めまして。上村朱里です。尊さんからお話は窺っていました」
お店のコーナーにあるソファ席で、私は涼さんに挨拶をした。
「俺もちょいちょい聞いてたよ」
「えっ? どういう話ですか?」
前のめりになって尋ねると、尊さんが「いいから」と手で制してくる。
「尊がずっとしつこく想っていたのは知ってるんだよな?」
涼さんに確認され、私は「はい」と頷く。
すると彼は少し気の毒そうな顔をして、枝豆をぷちりと食べる。
「病み期の時は凄かったよ。朱里ちゃんがいなかったら死ぬ、ぐらいの重さだった」
思わず尊さんを見ると、彼はそっぽを向いてグラスを傾けていた。
ふふ、照れておるな。愛いやつよ。
「……仕方ないだろ。実際そういう時期があったんだから」
尊さんはふてくされたように言い、ウィスキーを呷る。
「分かってますよ。私の事、しゅきしゅきですもんね~」
尊さんの腕を組んで肩に顔を押しつけると、照れ隠しか、彼は乱暴な溜め息をついて私の頭をわしわしと撫でる。
涼さんはそんな私たちを見て愉快そうに微笑み、脚を組む。
「でも安心したよ。ずっと不安定で〝世界一の不幸男〟みたいな顔をしてたけど、あの継母を断罪してから吹っ切れたみたいだな。今は幸せそうで何より」
涼さんはグラスを掲げて尊さんに乾杯し、機嫌良さそうにお酒を飲んだ。
「大学生時代に知り合ったんでしたっけ?」
「そう。なんか知らんが、話しかけられた」
尊さんが言い、涼さんはニヤニヤ笑う。
「薄幸そうな文豪みたいな雰囲気があったから、一緒にいたら面白いかなと思って」
「お前な……」
私はつい、太宰治や芥川龍之介を思いだして「むふっ」と笑う。
確かに尊さんはまじめな顔をしていると、少し陰のある思い詰めた美形みが増すので、文豪と言われてしっくりきた。
「はい! 突っ込んだ質問していいですか?」
私はシュッと挙手する。
189
あなたにおすすめの小説
3歳児にも劣る淑女(笑)
章槻雅希
恋愛
公爵令嬢は、第一王子から理不尽な言いがかりをつけられていた。
男爵家の庶子と懇ろになった王子はその醜態を学園内に晒し続けている。
その状況を打破したのは、僅か3歳の王女殿下だった。
カテゴリーは悩みましたが、一応5歳児と3歳児のほのぼのカップルがいるので恋愛ということで(;^ω^)
ほんの思い付きの1場面的な小噺。
王女以外の固有名詞を無くしました。
元ネタをご存じの方にはご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。
創作SNSでの、ジャンル外での配慮に欠けておりました。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
病弱な私と意地悪なお姉様のお見合い顛末
黒木メイ
恋愛
幼い頃から病弱だったミルカ。外出もまともにできず、家の中に引きこもってばかり。それでもミルカは幸せだった。家族が、使用人たちがいつもミルカの側にいてくれたから。ミルカを愛してくれたから。それだけで十分――なわけないでしょう。お姉様はずるい。健康な体を持っているだけではなく、自由に外出できるんだから。その上、意地悪。だから、奪ったのよ。ずるいお姉様から全てを。当然でしょう。私は『特別な存在』で、『幸せが約束されたお姫様』なんだから。両親からの愛も、次期当主の地位も、王子様も全て私のもの。お姉様の見合い相手が私に夢中になるのも仕方ないことなの。
※設定はふわふわ。
※予告なく修正、加筆する場合があります。
※いずれ他サイトにも転載予定。
※『病弱な妹と私のお見合い顛末』のミルカ(妹)視点です。
完結 愛人さん初めまして!では元夫と出て行ってください。
音爽(ネソウ)
恋愛
金に女にだらしない男。終いには手を出す始末。
見た目と口八丁にだまされたマリエラは徐々に心を病んでいく。
だが、それではいけないと奮闘するのだが……
地味な私を捨てた元婚約者にざまぁ返し!私の才能に惚れたハイスペ社長にスカウトされ溺愛されてます
久遠翠
恋愛
「君は、可愛げがない。いつも数字しか見ていないじゃないか」
大手商社に勤める地味なOL・相沢美月は、エリートの婚約者・高遠彰から突然婚約破棄を告げられる。
彼の心変わりと社内での孤立に傷つき、退職を選んだ美月。
しかし、彼らは知らなかった。彼女には、IT業界で“K”という名で知られる伝説的なデータアナリストという、もう一つの顔があったことを。
失意の中、足を運んだ交流会で美月が出会ったのは、急成長中のIT企業「ホライゾン・テクノロジーズ」の若き社長・一条蓮。
彼女が何気なく口にした市場分析の鋭さに衝撃を受けた蓮は、すぐさま彼女を破格の条件でスカウトする。
「君のその目で、俺と未来を見てほしい」──。
蓮の情熱に心を動かされ、新たな一歩を踏み出した美月は、その才能を遺憾なく発揮していく。
地味なOLから、誰もが注目するキャリアウーマンへ。
そして、仕事のパートナーである蓮の、真っ直ぐで誠実な愛情に、凍てついていた心は次第に溶かされていく。
これは、才能というガラスの靴を見出された、一人の女性のシンデレラストーリー。
数字の奥に隠された真実を見抜く彼女が、本当の愛と幸せを掴むまでの、最高にドラマチックな逆転ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる