【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

文字の大きさ
329 / 778
帰宅して 編

尊さんは幸せになれますよ

しおりを挟む
「この胸の奥には、まだやりきれない想いや怒り、憎しみ、悲しみがあると思います。でも、私たちは今行動する事で未来の自分を作っていけます。きっと、未来の自分を幸せにするのも、不幸にするのも、今の自分次第だと思うんです」

 十四歳の時、尊さんに会わず、彼の言葉に出会わなければ、私はまともな道を歩んでいなかったかもしれない。

 グレたかもしれないし、父を喪った寂しさを誤魔化すために、誰か男の人を求めた可能性もある。

 一番つらい時に尊さんが私の感情を受け止め、進むべき方向に修正してくれたから、今の私がいる。

 私も尊さんもそれぞれ別の事で傷付いているけれど、彼が弱っている時は私が励ましたいと強く思っていた。

「尊さんが負った傷の痛みは、きっとあなたに一生付きまとうでしょう。怜香さんを恨む気持ちだって、二十年、三十年経ったあとも変わらないかもしれない。……でも、私は尊さんの側にいて、あなたを愛します。『楽しい』『生きていて良かった』って何回も思わせてあげます! プラスの感情をどんどん上乗せして、ネガティブな感情を薄められるよう努力します」

 グッと両手の拳を握ると、彼は泣きそうな顔で笑った。

「きっと速水家の皆さんも同じです。百合さんが『今まで何もできなかった』と仰っていたように、他の皆さんも尊さんに何かしたくて堪らないはずです。大人になってから初めて関わった親族だから、まだまだ遠慮があると思うし、甘えきれないと思います。でも皆さんの好意をどんどん受け取って、一緒に思い出を作っていきましょうよ。幸せになるためには、誰かに甘える事も必要なんです」

 一生懸命訴えながら、私はその言葉が自分にも当てはまると痛感した。

 ずっと自分の殻に籠もって、あまり人と関わらず生きてきたけれど、尊さんに出会って不器用ながらも彼を頼るようになって、とても生きやすくなったように思える。

「一人でちゃんとしないと」という気持ちはまだまだあるけれど、私は尊さんに寄りかかって色んな事を一緒に経験していく喜びを知った。

 ――大丈夫。

 ――あなたには私がいるし、速水家の皆さんもいる。

「尊さんは幸せになれますよ」

 彼の頬を両手で包んで微笑みかけると、尊さんは愛しげに笑った。

「……お前は最高の女だな」

 尊さんは切なげに目を細め、大切そうに私の髪を撫でてくる。

「私はあなたに幸せになってほしいですから。全力で応援団しますよ」

「チアリーダーやってくれる?」

「ん? コスプレ希望ですか? 攻めますね~」

 ニヤリと笑ってみせると、尊さんもニヤリと笑う。

「朱里がポンポン持ってミニスカ穿いたら、どんだけでも頑張れるな」

「やだ、何を頑張るんですか」

「まだなんも言ってねーよ。このスケベ」

「スケベはどっちですか。このこのこのこのこの!」

 私は両手の人差し指で、トトトトト……と尊さんの胸板を突く。

 そしてフッ……と人差し指の先を吹き、ドヤ顔をする。

「スケベが収まるツボを突きました。もうスケベはできませんから、ご安心を」

「なぁ、スケベしようや」

 そこで尊さんがネットミームを持ち出し、私は「ひひひひひ」と笑い崩れる。

「尊さん、ネットあんまり見ないくせに、なんでそういうの知ってるの!」

「涼がダイジェストで教えてくれるんだよ。あいつはネットの毒素を見ても何も動じないから、いい所も悪い所も全部見た上で、面白い部分だけ教えてくれる」

「茶こしみたいですね」

 そう言うと、尊さんが笑う。

「人間なんだけど」

 尊さんはツボったのか、クスクス笑って戻ってこられずにいる。

「あー…………、もう」

 ひとしきり笑ったあと、彼は私を押し倒してキスをしてくる。

「ん……っ」

 柔らかな唇についばまれ、下唇を甘噛みされて、私は鼻に掛かった声を漏らす。

 顔を上げたあと、尊さんはいたわる目で私を見て頭を撫でてきた。

「朱里、お前さ……」

「……ん?」

 目を瞬かせて返事をすると、尊さんはしばらく私を見つめたまま、その目に複雑な感情を宿す。

「……なに?」

 彼が口を開いて何か言いかけた時――、ピコンと大きめの通知音が鳴り、私はビクッと肩を跳ねさせた。

「……悪い。知らない間に音量ボタンを押してたみたいだ」

 尊さんは起き上がるとポケットからスマホを出し、メッセージを見て静かに息を吐いた。

「週末、ちょっと一人で出かける。たまには中村さんと二人でデートしたらどうだ?」

「え?」

 急にそう言われ、私はなんとなく不自然さを感じた。
しおりを挟む
感想 2,452

あなたにおすすめの小説

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

3歳児にも劣る淑女(笑)

章槻雅希
恋愛
公爵令嬢は、第一王子から理不尽な言いがかりをつけられていた。 男爵家の庶子と懇ろになった王子はその醜態を学園内に晒し続けている。 その状況を打破したのは、僅か3歳の王女殿下だった。 カテゴリーは悩みましたが、一応5歳児と3歳児のほのぼのカップルがいるので恋愛ということで(;^ω^) ほんの思い付きの1場面的な小噺。 王女以外の固有名詞を無くしました。 元ネタをご存じの方にはご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。 創作SNSでの、ジャンル外での配慮に欠けておりました。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

病弱な私と意地悪なお姉様のお見合い顛末

黒木メイ
恋愛
幼い頃から病弱だったミルカ。外出もまともにできず、家の中に引きこもってばかり。それでもミルカは幸せだった。家族が、使用人たちがいつもミルカの側にいてくれたから。ミルカを愛してくれたから。それだけで十分――なわけないでしょう。お姉様はずるい。健康な体を持っているだけではなく、自由に外出できるんだから。その上、意地悪。だから、奪ったのよ。ずるいお姉様から全てを。当然でしょう。私は『特別な存在』で、『幸せが約束されたお姫様』なんだから。両親からの愛も、次期当主の地位も、王子様も全て私のもの。お姉様の見合い相手が私に夢中になるのも仕方ないことなの。 ※設定はふわふわ。 ※予告なく修正、加筆する場合があります。 ※いずれ他サイトにも転載予定。 ※『病弱な妹と私のお見合い顛末』のミルカ(妹)視点です。

完結 愛人さん初めまして!では元夫と出て行ってください。

音爽(ネソウ)
恋愛
金に女にだらしない男。終いには手を出す始末。 見た目と口八丁にだまされたマリエラは徐々に心を病んでいく。 だが、それではいけないと奮闘するのだが……

地味な私を捨てた元婚約者にざまぁ返し!私の才能に惚れたハイスペ社長にスカウトされ溺愛されてます

久遠翠
恋愛
「君は、可愛げがない。いつも数字しか見ていないじゃないか」 大手商社に勤める地味なOL・相沢美月は、エリートの婚約者・高遠彰から突然婚約破棄を告げられる。 彼の心変わりと社内での孤立に傷つき、退職を選んだ美月。 しかし、彼らは知らなかった。彼女には、IT業界で“K”という名で知られる伝説的なデータアナリストという、もう一つの顔があったことを。 失意の中、足を運んだ交流会で美月が出会ったのは、急成長中のIT企業「ホライゾン・テクノロジーズ」の若き社長・一条蓮。 彼女が何気なく口にした市場分析の鋭さに衝撃を受けた蓮は、すぐさま彼女を破格の条件でスカウトする。 「君のその目で、俺と未来を見てほしい」──。 蓮の情熱に心を動かされ、新たな一歩を踏み出した美月は、その才能を遺憾なく発揮していく。 地味なOLから、誰もが注目するキャリアウーマンへ。 そして、仕事のパートナーである蓮の、真っ直ぐで誠実な愛情に、凍てついていた心は次第に溶かされていく。 これは、才能というガラスの靴を見出された、一人の女性のシンデレラストーリー。 数字の奥に隠された真実を見抜く彼女が、本当の愛と幸せを掴むまでの、最高にドラマチックな逆転ラブストーリー。

リリー・フラレンシア男爵令嬢について

碧井 汐桜香
恋愛
王太子と出会ったピンク髪の男爵令嬢のお話

処理中です...