449 / 780
彼と彼女のその後 編
契約書
しおりを挟む
「さっきみたいに贈り物をするたびに『返せない』って負担に思ったら困るし、恵ちゃんが気にしそうな事を書いてみた。難しい文章にはしてないから、読んでみて。要するに『これらの事を約束しますよ』って話だから」
私はソファに座った涼さんから用紙を受け取ると、ドキドキしながら契約書を読んだ。
書いてあるのは、涼さんは私に贈り物や食事、旅行などを貢いでも見返りは求めず、仮に喧嘩をしたり、万が一別れる事があっても、いっさい返金は求めないという内容だ。
その他にも、不安に思う事があったら適宜相談するとか、私生活でトラブルに巻き込まれた時は遠慮せずに相談し、涼さんの顧問弁護士の助けを得るなども書かれてある。
付き合う事に関しても、性行為は必ず同意のもとで行うと記されていて、どんなに行為が途中でも、少しでも不安に感じたり恐怖を覚えたら、決められたセーフワードを口にすれば必ず行為を止める。止めなかった場合は、彼にあらゆる要求をしても構わないとまで書いてある。
いっぽうで、レストランでの食事や友人や知り合いに紹介する時など、TPOに合わせた服装が必要な場合、二人で決めた服を着て、その費用は涼さんが出すとも書いてある。
そして涼さん側が沢山与える事になるのは確かだけれど、可能なら「すみません」は言わないで「ありがとう」を言い、贈られた物については深く考えすぎないなども記されてあった。
他にも色々書いてあったけれど、私にペナルティが与えられる項目は一つもない。
むしろ見返りなしに贈り物をするけど、気にしないでという内容ばかりで、申し訳なさを感じるほどだ。
唯一、私がする事と言えば、涼さんが癒やしを求めた時、心身の調子と相談して可能だったら、キスやハグ、大丈夫だったらセックスに応じてほしいと書いてあるだけだ。
そして結婚を視野に入れて交際するけれど、何かあったら絶対相談し、私の負担にならないよう配慮してくれている。
「……これって……」
小さく溜め息をついて顔を上げると、不安そうな表情の涼さんと視線がかち合った。
「もし納得できない項目があったら言ってほしい。どれだけでも変更する」
「や、そうじゃなくて。……これって、涼さんが不利でしょう。私ばっかり旨みがあって、フェアじゃないです」
そう言うと、涼さんは少し安心したように肩を下げる。
「恵ちゃんの言いたい事は分かるけど、君と一緒にパーティーに出るとして、ジュエリーも含めて数百万の出費があるとしても、大して痛くはないんだ。こういう事を言うと嫌がられそうだけど、普段、飛行機を使う時はいつもファーストクラスだし、ホテルに泊まる時もスイートだ。嫌みかもしれないけど、これが俺の普通」
彼の言葉を聞き、私は静かに溜め息をつく。
ヨーロッパまでのファーストクラスは数百万って言うし、私の年収程度の金額を、彼は一度のフライトで使ってしまう事になる。
確かにそれだけ経済的な差があれば、私が大金と思っていても、涼さんにとっては痛くも痒くもない金額なんだろう。
「……一般家庭で育った恵ちゃんが俺と一緒に過ごすと、とてもストレスが掛かると思う。恵ちゃんが贅沢を好まないのは分かるけど、俺の住んでいる世界はどうしても金を使わざるを得ない場合がある。……慣れない環境に身を置くストレスはとても大きい。日本語を話して意思疎通ができても、価値観が合わない者と一緒にいるのは苦痛だ。……俺はなるべく恵ちゃんの希望を聞いて、それに添った事をしたいけど、どうしても我慢してもらわないとならない時もあると思う」
涼さんが物凄く私に寄り添ってくれているのは分かった。でも……。
「あなたはそれでいいんですか? 金銭的な負担を得る一方で、エッチだって無理強いしない。……私は何をすれば涼さんを満足させられますか?」
富の権化と言える涼さんに選ばれても、私自身には何も価値がない。
結婚を視野に入れてくれているのは嬉しいけど、彼の妻になったあと、何もできない能なしだと言われたら、悔しい以上に涼さんに申し訳ない。
「側にいてくれたらいいって言っても、恵ちゃんは納得できないんだろうね」
涼さんは苦笑いし、ソファの上に寝そべる。
そして仰向けになって、ポツポツと自分の事を語り始めた。
「俺の人生、恵まれて苦労知らずに思えるだろうけど、意外とそうじゃないんだ」
私は同じように仰向けになり、黙って彼の話を聞く。
「幸いな事に家族仲はいいし、両親も姉も弟妹も、性格のいい人たちだと思う。周りにいる人もそうって言いたいけど、恋愛が絡むと人は変わる。自分で言って馬鹿みたいだけど、俺は外見のスペックが高い上に金を持ってる。そうなったら、群がってくる女性の数が半端じゃないんだ」
「……何となく想像はできます」
涼さんは溜め息をつき、続ける。
「高校まではエスカレーター式の学校だったけど、俺と少し仲良くしただけで陰湿ないじめを受けて転校していった女子がいた。有名企業の令嬢がいて、その子は自分こそが俺の彼女に相応しいと思い込み、ずっと付きまとってきた。でも俺は彼女に興味を持てず、特別扱いをしなかった。だから俺が友達として接した女の子がいるだけで、その子は酷い嫉妬をしていた。何をするにも付きまとい、他の女子は遠慮する。……彼女でもないのに支配されているように感じた」
彼は私の手を握り、指を絡めてきた。
私はソファに座った涼さんから用紙を受け取ると、ドキドキしながら契約書を読んだ。
書いてあるのは、涼さんは私に贈り物や食事、旅行などを貢いでも見返りは求めず、仮に喧嘩をしたり、万が一別れる事があっても、いっさい返金は求めないという内容だ。
その他にも、不安に思う事があったら適宜相談するとか、私生活でトラブルに巻き込まれた時は遠慮せずに相談し、涼さんの顧問弁護士の助けを得るなども書かれてある。
付き合う事に関しても、性行為は必ず同意のもとで行うと記されていて、どんなに行為が途中でも、少しでも不安に感じたり恐怖を覚えたら、決められたセーフワードを口にすれば必ず行為を止める。止めなかった場合は、彼にあらゆる要求をしても構わないとまで書いてある。
いっぽうで、レストランでの食事や友人や知り合いに紹介する時など、TPOに合わせた服装が必要な場合、二人で決めた服を着て、その費用は涼さんが出すとも書いてある。
そして涼さん側が沢山与える事になるのは確かだけれど、可能なら「すみません」は言わないで「ありがとう」を言い、贈られた物については深く考えすぎないなども記されてあった。
他にも色々書いてあったけれど、私にペナルティが与えられる項目は一つもない。
むしろ見返りなしに贈り物をするけど、気にしないでという内容ばかりで、申し訳なさを感じるほどだ。
唯一、私がする事と言えば、涼さんが癒やしを求めた時、心身の調子と相談して可能だったら、キスやハグ、大丈夫だったらセックスに応じてほしいと書いてあるだけだ。
そして結婚を視野に入れて交際するけれど、何かあったら絶対相談し、私の負担にならないよう配慮してくれている。
「……これって……」
小さく溜め息をついて顔を上げると、不安そうな表情の涼さんと視線がかち合った。
「もし納得できない項目があったら言ってほしい。どれだけでも変更する」
「や、そうじゃなくて。……これって、涼さんが不利でしょう。私ばっかり旨みがあって、フェアじゃないです」
そう言うと、涼さんは少し安心したように肩を下げる。
「恵ちゃんの言いたい事は分かるけど、君と一緒にパーティーに出るとして、ジュエリーも含めて数百万の出費があるとしても、大して痛くはないんだ。こういう事を言うと嫌がられそうだけど、普段、飛行機を使う時はいつもファーストクラスだし、ホテルに泊まる時もスイートだ。嫌みかもしれないけど、これが俺の普通」
彼の言葉を聞き、私は静かに溜め息をつく。
ヨーロッパまでのファーストクラスは数百万って言うし、私の年収程度の金額を、彼は一度のフライトで使ってしまう事になる。
確かにそれだけ経済的な差があれば、私が大金と思っていても、涼さんにとっては痛くも痒くもない金額なんだろう。
「……一般家庭で育った恵ちゃんが俺と一緒に過ごすと、とてもストレスが掛かると思う。恵ちゃんが贅沢を好まないのは分かるけど、俺の住んでいる世界はどうしても金を使わざるを得ない場合がある。……慣れない環境に身を置くストレスはとても大きい。日本語を話して意思疎通ができても、価値観が合わない者と一緒にいるのは苦痛だ。……俺はなるべく恵ちゃんの希望を聞いて、それに添った事をしたいけど、どうしても我慢してもらわないとならない時もあると思う」
涼さんが物凄く私に寄り添ってくれているのは分かった。でも……。
「あなたはそれでいいんですか? 金銭的な負担を得る一方で、エッチだって無理強いしない。……私は何をすれば涼さんを満足させられますか?」
富の権化と言える涼さんに選ばれても、私自身には何も価値がない。
結婚を視野に入れてくれているのは嬉しいけど、彼の妻になったあと、何もできない能なしだと言われたら、悔しい以上に涼さんに申し訳ない。
「側にいてくれたらいいって言っても、恵ちゃんは納得できないんだろうね」
涼さんは苦笑いし、ソファの上に寝そべる。
そして仰向けになって、ポツポツと自分の事を語り始めた。
「俺の人生、恵まれて苦労知らずに思えるだろうけど、意外とそうじゃないんだ」
私は同じように仰向けになり、黙って彼の話を聞く。
「幸いな事に家族仲はいいし、両親も姉も弟妹も、性格のいい人たちだと思う。周りにいる人もそうって言いたいけど、恋愛が絡むと人は変わる。自分で言って馬鹿みたいだけど、俺は外見のスペックが高い上に金を持ってる。そうなったら、群がってくる女性の数が半端じゃないんだ」
「……何となく想像はできます」
涼さんは溜め息をつき、続ける。
「高校まではエスカレーター式の学校だったけど、俺と少し仲良くしただけで陰湿ないじめを受けて転校していった女子がいた。有名企業の令嬢がいて、その子は自分こそが俺の彼女に相応しいと思い込み、ずっと付きまとってきた。でも俺は彼女に興味を持てず、特別扱いをしなかった。だから俺が友達として接した女の子がいるだけで、その子は酷い嫉妬をしていた。何をするにも付きまとい、他の女子は遠慮する。……彼女でもないのに支配されているように感じた」
彼は私の手を握り、指を絡めてきた。
564
あなたにおすすめの小説
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
地味な私を捨てた元婚約者にざまぁ返し!私の才能に惚れたハイスペ社長にスカウトされ溺愛されてます
久遠翠
恋愛
「君は、可愛げがない。いつも数字しか見ていないじゃないか」
大手商社に勤める地味なOL・相沢美月は、エリートの婚約者・高遠彰から突然婚約破棄を告げられる。
彼の心変わりと社内での孤立に傷つき、退職を選んだ美月。
しかし、彼らは知らなかった。彼女には、IT業界で“K”という名で知られる伝説的なデータアナリストという、もう一つの顔があったことを。
失意の中、足を運んだ交流会で美月が出会ったのは、急成長中のIT企業「ホライゾン・テクノロジーズ」の若き社長・一条蓮。
彼女が何気なく口にした市場分析の鋭さに衝撃を受けた蓮は、すぐさま彼女を破格の条件でスカウトする。
「君のその目で、俺と未来を見てほしい」──。
蓮の情熱に心を動かされ、新たな一歩を踏み出した美月は、その才能を遺憾なく発揮していく。
地味なOLから、誰もが注目するキャリアウーマンへ。
そして、仕事のパートナーである蓮の、真っ直ぐで誠実な愛情に、凍てついていた心は次第に溶かされていく。
これは、才能というガラスの靴を見出された、一人の女性のシンデレラストーリー。
数字の奥に隠された真実を見抜く彼女が、本当の愛と幸せを掴むまでの、最高にドラマチックな逆転ラブストーリー。
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる