452 / 792
彼と彼女のその後 編
リビングに広がる〝店〟
しおりを挟む
まともに買えば一万円以上しそうな立派な花束に、私なら滅多な事がない限り店の前に立とうと思わない、デパ地下の高級お菓子。
それらをただの手土産として持ってくるのだから、外商にとって涼さんがどれだけ重要な人なのか分かる。
(……そんな人に選ばれた私って……)
目の前では外商スタッフの人たちが、五十畳近くあるリビングダイニングに〝お店〟を開こうと、商品を広げている。
ハンガーに掛けられた服はラックに吊されているけれど、キャスターつきのそれが床を傷つけないように、敷物を敷くところからスタートだ。
「……あ、あの……。手伝わなくていいんですか?」
ソファに座っている私たちは、彼らが手早くセッティングしているのを見ているだけなんだけど、ソワソワして仕方がない。
人にやってもらって当然という感覚がないので、人が働いているのに自分が休んでいるのが落ち着かない。
「恵ちゃんの考えている事は分かるけど、人の仕事をとったら駄目だよ。これは彼らの仕事だし、大切な顧客に仕事を手伝わせたなんて言ったら、彼らの恥になる」
そう言われ、私はコクンと頷いた。
マンションを訪れたのは有名百貨店の外商部の〝担当〟なんだけれど、複数あるハイブランドにもそれぞれ担当がいる。
涼さんが担当に「こういうイメージの女性」と話していたからか、私が普段着ないヒラヒラのロングスカートなどはない。
目に付いたのは鮮やかな色のシャツワンピや、ジャケットとパンツのセットアップ、トップス、ボトムス単品に靴、バッグ、サングラスやアクセサリー、化粧品などだ。
「三日月様、こちら、プレゼントでございます」
ボーッとしていると、四十代の女性が包みを涼さんに手渡してきた。
(……はい? ブランド物をプレゼント? 無料なの?)
困惑して見ていると、涼さんは「ありがとうございます」と言って贈り物を受け取り、「何だろう」と言いつつ包みを開ける。
するとカバーから出てきたのはブランドロゴが刻まれたクッションで、彼は担当に「ありがとうございます」ともう一度お礼を言ってから、私に「あげる」と手渡してきた。
「ちょ……っ!? わ、わわわわ……」
両手にあるのはフワフワのクッションだけれど、少しでも破損したり、汚したりしないか怖くなった私は、慌てて涼さんに返そうとする。
「恵ちゃんは脚が綺麗そうだから、ミニドレスとか似合いそうだよね」
涼さんはクッションを脇に置き、ハンガーに掛かっているノースリーブのタイトミニワンピを示す。
「い、いや……。あんなミニ、どこに着ていくんですか」
「こっちのワンピースはどう? 丈が長いし、そうヒラヒラもしていないから抵抗が少なそうだけど」
涼さんが示したのは、首元から胸元までがシースルーになった、やはりノースリーブのAラインワンピースだ。
無地でシンプルだけれど、下の部分に鮮やかな花の模様があり、ワンポイントになっている。
他にもマニッシュな雰囲気の、ボレロジャケットとパンツのセットアップ、Tシャツにデニムなどカジュアルな服もあったけれど、どれもハイブランドだと思うと恐ろしくて手にとれない。
おまけに、ブランドに無知な私が分かるHのロゴが特徴的なバッグまで並んでいて、「お母さーん!」と叫んで泣いて逃げたくなる。
テーブルの上に置かれたのは、普段朱里が熱弁を振るっているデパコスだ。
彼女が特別感を抱き、一つずつ吟味して買い集めている物が、限定品を含めてズラリと並び、感覚がおかしくなってしまいそうで怖い。
固まって棒立ちになった私は、真顔で唇を引き結び、マナーモード宜しくブブブブブ……と震えてる。
涼さんはそんな私を見て、「けーいちゃん」と顔を覗き込んでくる。
「脅すつもりはないけど、これからレストランでのマナーとか、実際に身につけて学んでいかないとならない事がある。うちの家族や親戚の顔を覚えるとかね。それを考えると、ここにある商品から好きな物を選ぶぐらい、どうって事なくない?」
「そ……、そうだけど……」
戸惑っていると、デパコスと服と両方持ってきた担当の女性が話しかけてきた。
「まずはお似合いになるコスメの色から確認して参りましょうか。そのあとにお召し物を決めていくと宜しいのではありませんか?」
確かに、朱里からはナントカベの春夏秋冬があるって話を聞いていたけど、今まで話半分に『ふーん、そうだべ』で受け流していた。
すると別の女性が色んな色の布を広げ、全身鏡の前に私を座らせ、布を当ててきた。
どうやらそれでナントカベが分かるらしく、私はイエベ秋の骨格ナチュラルだと判明した。
判明した途端、担当たちはスパパッと動き、私に似合うコスメや服を選び始めた。
自分では止めようのない状況になった私は、泣く寸前の顔で涼さんを振り向くけれど、彼はニコニコ笑って自分用の新作Tシャツを手にしているだけだ。
それらをただの手土産として持ってくるのだから、外商にとって涼さんがどれだけ重要な人なのか分かる。
(……そんな人に選ばれた私って……)
目の前では外商スタッフの人たちが、五十畳近くあるリビングダイニングに〝お店〟を開こうと、商品を広げている。
ハンガーに掛けられた服はラックに吊されているけれど、キャスターつきのそれが床を傷つけないように、敷物を敷くところからスタートだ。
「……あ、あの……。手伝わなくていいんですか?」
ソファに座っている私たちは、彼らが手早くセッティングしているのを見ているだけなんだけど、ソワソワして仕方がない。
人にやってもらって当然という感覚がないので、人が働いているのに自分が休んでいるのが落ち着かない。
「恵ちゃんの考えている事は分かるけど、人の仕事をとったら駄目だよ。これは彼らの仕事だし、大切な顧客に仕事を手伝わせたなんて言ったら、彼らの恥になる」
そう言われ、私はコクンと頷いた。
マンションを訪れたのは有名百貨店の外商部の〝担当〟なんだけれど、複数あるハイブランドにもそれぞれ担当がいる。
涼さんが担当に「こういうイメージの女性」と話していたからか、私が普段着ないヒラヒラのロングスカートなどはない。
目に付いたのは鮮やかな色のシャツワンピや、ジャケットとパンツのセットアップ、トップス、ボトムス単品に靴、バッグ、サングラスやアクセサリー、化粧品などだ。
「三日月様、こちら、プレゼントでございます」
ボーッとしていると、四十代の女性が包みを涼さんに手渡してきた。
(……はい? ブランド物をプレゼント? 無料なの?)
困惑して見ていると、涼さんは「ありがとうございます」と言って贈り物を受け取り、「何だろう」と言いつつ包みを開ける。
するとカバーから出てきたのはブランドロゴが刻まれたクッションで、彼は担当に「ありがとうございます」ともう一度お礼を言ってから、私に「あげる」と手渡してきた。
「ちょ……っ!? わ、わわわわ……」
両手にあるのはフワフワのクッションだけれど、少しでも破損したり、汚したりしないか怖くなった私は、慌てて涼さんに返そうとする。
「恵ちゃんは脚が綺麗そうだから、ミニドレスとか似合いそうだよね」
涼さんはクッションを脇に置き、ハンガーに掛かっているノースリーブのタイトミニワンピを示す。
「い、いや……。あんなミニ、どこに着ていくんですか」
「こっちのワンピースはどう? 丈が長いし、そうヒラヒラもしていないから抵抗が少なそうだけど」
涼さんが示したのは、首元から胸元までがシースルーになった、やはりノースリーブのAラインワンピースだ。
無地でシンプルだけれど、下の部分に鮮やかな花の模様があり、ワンポイントになっている。
他にもマニッシュな雰囲気の、ボレロジャケットとパンツのセットアップ、Tシャツにデニムなどカジュアルな服もあったけれど、どれもハイブランドだと思うと恐ろしくて手にとれない。
おまけに、ブランドに無知な私が分かるHのロゴが特徴的なバッグまで並んでいて、「お母さーん!」と叫んで泣いて逃げたくなる。
テーブルの上に置かれたのは、普段朱里が熱弁を振るっているデパコスだ。
彼女が特別感を抱き、一つずつ吟味して買い集めている物が、限定品を含めてズラリと並び、感覚がおかしくなってしまいそうで怖い。
固まって棒立ちになった私は、真顔で唇を引き結び、マナーモード宜しくブブブブブ……と震えてる。
涼さんはそんな私を見て、「けーいちゃん」と顔を覗き込んでくる。
「脅すつもりはないけど、これからレストランでのマナーとか、実際に身につけて学んでいかないとならない事がある。うちの家族や親戚の顔を覚えるとかね。それを考えると、ここにある商品から好きな物を選ぶぐらい、どうって事なくない?」
「そ……、そうだけど……」
戸惑っていると、デパコスと服と両方持ってきた担当の女性が話しかけてきた。
「まずはお似合いになるコスメの色から確認して参りましょうか。そのあとにお召し物を決めていくと宜しいのではありませんか?」
確かに、朱里からはナントカベの春夏秋冬があるって話を聞いていたけど、今まで話半分に『ふーん、そうだべ』で受け流していた。
すると別の女性が色んな色の布を広げ、全身鏡の前に私を座らせ、布を当ててきた。
どうやらそれでナントカベが分かるらしく、私はイエベ秋の骨格ナチュラルだと判明した。
判明した途端、担当たちはスパパッと動き、私に似合うコスメや服を選び始めた。
自分では止めようのない状況になった私は、泣く寸前の顔で涼さんを振り向くけれど、彼はニコニコ笑って自分用の新作Tシャツを手にしているだけだ。
590
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【完結】留学先から戻って来た婚約者に存在を忘れられていました
山葵
恋愛
国王陛下の命により帝国に留学していた王太子に付いて行っていた婚約者のレイモンド様が帰国された。
王家主催で王太子達の帰国パーティーが執り行われる事が決まる。
レイモンド様の婚約者の私も勿論、従兄にエスコートされ出席させて頂きますわ。
3年ぶりに見るレイモンド様は、幼さもすっかり消え、美丈夫になっておりました。
将来の宰相の座も約束されており、婚約者の私も鼻高々ですわ!
「レイモンド様、お帰りなさいませ。留学中は、1度もお戻りにならず、便りも来ずで心配しておりましたのよ。元気そうで何よりで御座います」
ん?誰だっけ?みたいな顔をレイモンド様がされている?
婚約し顔を合わせでしか会っていませんけれど、まさか私を忘れているとかでは無いですよね!?
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた
今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。
レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。
不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。
レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。
それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し……
※短め
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる