【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

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彼と彼女のその後 編

リビングに広がる〝店〟

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 まともに買えば一万円以上しそうな立派な花束に、私なら滅多な事がない限り店の前に立とうと思わない、デパ地下の高級お菓子。

 それらをただの手土産として持ってくるのだから、外商にとって涼さんがどれだけ重要な人なのか分かる。

(……そんな人に選ばれた私って……)

 目の前では外商スタッフの人たちが、五十畳近くあるリビングダイニングに〝お店〟を開こうと、商品を広げている。

 ハンガーに掛けられた服はラックに吊されているけれど、キャスターつきのそれが床を傷つけないように、敷物を敷くところからスタートだ。

「……あ、あの……。手伝わなくていいんですか?」

 ソファに座っている私たちは、彼らが手早くセッティングしているのを見ているだけなんだけど、ソワソワして仕方がない。

 人にやってもらって当然という感覚がないので、人が働いているのに自分が休んでいるのが落ち着かない。

「恵ちゃんの考えている事は分かるけど、人の仕事をとったら駄目だよ。これは彼らの仕事だし、大切な顧客に仕事を手伝わせたなんて言ったら、彼らの恥になる」

 そう言われ、私はコクンと頷いた。

 マンションを訪れたのは有名百貨店の外商部の〝担当〟なんだけれど、複数あるハイブランドにもそれぞれ担当がいる。

 涼さんが担当に「こういうイメージの女性」と話していたからか、私が普段着ないヒラヒラのロングスカートなどはない。

 目に付いたのは鮮やかな色のシャツワンピや、ジャケットとパンツのセットアップ、トップス、ボトムス単品に靴、バッグ、サングラスやアクセサリー、化粧品などだ。

「三日月様、こちら、プレゼントでございます」

 ボーッとしていると、四十代の女性が包みを涼さんに手渡してきた。

(……はい? ブランド物をプレゼント? 無料なの?)

 困惑して見ていると、涼さんは「ありがとうございます」と言って贈り物を受け取り、「何だろう」と言いつつ包みを開ける。

 するとカバーから出てきたのはブランドロゴが刻まれたクッションで、彼は担当に「ありがとうございます」ともう一度お礼を言ってから、私に「あげる」と手渡してきた。

「ちょ……っ!? わ、わわわわ……」

 両手にあるのはフワフワのクッションだけれど、少しでも破損したり、汚したりしないか怖くなった私は、慌てて涼さんに返そうとする。

「恵ちゃんは脚が綺麗そうだから、ミニドレスとか似合いそうだよね」

 涼さんはクッションを脇に置き、ハンガーに掛かっているノースリーブのタイトミニワンピを示す。

「い、いや……。あんなミニ、どこに着ていくんですか」

「こっちのワンピースはどう? 丈が長いし、そうヒラヒラもしていないから抵抗が少なそうだけど」

 涼さんが示したのは、首元から胸元までがシースルーになった、やはりノースリーブのAラインワンピースだ。

 無地でシンプルだけれど、下の部分に鮮やかな花の模様があり、ワンポイントになっている。

 他にもマニッシュな雰囲気の、ボレロジャケットとパンツのセットアップ、Tシャツにデニムなどカジュアルな服もあったけれど、どれもハイブランドだと思うと恐ろしくて手にとれない。

 おまけに、ブランドに無知な私が分かるHのロゴが特徴的なバッグまで並んでいて、「お母さーん!」と叫んで泣いて逃げたくなる。

 テーブルの上に置かれたのは、普段朱里が熱弁を振るっているデパコスだ。

 彼女が特別感を抱き、一つずつ吟味して買い集めている物が、限定品を含めてズラリと並び、感覚がおかしくなってしまいそうで怖い。

 固まって棒立ちになった私は、真顔で唇を引き結び、マナーモード宜しくブブブブブ……と震えてる。

 涼さんはそんな私を見て、「けーいちゃん」と顔を覗き込んでくる。

「脅すつもりはないけど、これからレストランでのマナーとか、実際に身につけて学んでいかないとならない事がある。うちの家族や親戚の顔を覚えるとかね。それを考えると、ここにある商品から好きな物を選ぶぐらい、どうって事なくない?」

「そ……、そうだけど……」

 戸惑っていると、デパコスと服と両方持ってきた担当の女性が話しかけてきた。

「まずはお似合いになるコスメの色から確認して参りましょうか。そのあとにお召し物を決めていくと宜しいのではありませんか?」

 確かに、朱里からはナントカベの春夏秋冬があるって話を聞いていたけど、今まで話半分に『ふーん、そうだべ』で受け流していた。

 すると別の女性が色んな色の布を広げ、全身鏡の前に私を座らせ、布を当ててきた。

 どうやらそれでナントカベが分かるらしく、私はイエベ秋の骨格ナチュラルだと判明した。

 判明した途端、担当たちはスパパッと動き、私に似合うコスメや服を選び始めた。

 自分では止めようのない状況になった私は、泣く寸前の顔で涼さんを振り向くけれど、彼はニコニコ笑って自分用の新作Tシャツを手にしているだけだ。
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