【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

文字の大きさ
487 / 778
不穏 編

犯人

しおりを挟む
「……昭人……」

 犯人の正体を知って、私は色んな感情が混じった声を漏らす。

 彼は少し乱れた髪を整え、ゆっくりと歩み寄ると私の前でしゃがんだ。

「今ならまだ優しくしてやれる。俺のもとに帰ってこい」

 あまりに身勝手な事を言われ、お腹の底からグワッと怒りが襲ってきた。

 尊さんが来てくれるまでは、感情的になって相手を煽ったりしてはいけない。そう思っていたけれど、犯人が元彼で目的がよりを戻したいと知った今は話が違う。

「……バッカじゃないの。こんな事をされてよりを戻すわけがないでしょ」

 私は怒りに震える声で言い返す。

 かろうじて怒鳴るのを我慢したから、そこは褒めてほしい。

「……それより、なんで恵のアカウントを使えたの? 恵に何かしたの?」

 ずっと気になっていた事を尋ねると、昭人は憎たらしく小首を傾げてから、コートのポケットから恵のスマホを取りだした。

「盗んだの!?」

 思わず尋ねてから、今の昭人に恵との接点はないと思い出す。

 同じ学校に通っていた学生時代ならともかく、今は別の会社に勤めているし、家だって離れて――。

 その時、ハッとした。

(こいつ、恵の家を知ってるじゃない)

 気がついたら、どんどん想像が嫌な方向に転がっていく。

「……まさか、恵の家に上がり込んで、無理矢理奪ったりしてないよね? 恵に暴力振るってないよね!?」

 必死に尋ねた私の声が、ライブハウスに反響する。

 昭人はしばらく黙っていたけれど、やがて「はっ」と嘲笑した。

「あいつ、朱里に連絡してくれるよう頼んだら、俺に向かって『生まれ変わってやり直してこい』って言ったんだぜ? 死ねって言われたのも同然じゃん。そういう態度をとるやつには、相応の目に遭ってもらったよ」

「…………っ!」

 あまりの怒りに、全身が火に包まれたような感覚に陥った。

「恵に何かしたならあんたを殺してやる!」

「おー、こわ。言葉の暴力って知ってる?」

 せせら笑った昭人は、片手で私の顎をとらえる。

「……お前、俺以外の奴にはこんなに感情的になるんだな。お前にとって俺は大切な彼氏でもなんでもなかったんだな。俺はあんなに大切にしてやったのに」

「あんたは私を何一つとして大切にしてなかった。連れ歩いて気分が良くなるアクセサリーとしか思ってなかったでしょ」

「だからやり直してやるって言ってるだろ!」

 ……だからもう、どうして上からなのかなぁ。根本的に分かってない。

「……あんた、自分が何したのか分かってるの? こんな事したら警察に捕まるよ?」

 すると昭人は荒んだ表情でせせら笑った。

「会社はもうとっくに辞めてるんだよ」

「えっ?」

 それは初耳だった私は、目を丸くして素の表情で尋ね返す。

「……あのブス、自分のしでかした事をバラされて喧嘩したからって、俺の会社まで来てわめき散らして……」

 きっと彼の言う〝ブス〟は、加代さんの事だろう。

 私の知らないところで泥沼化していたらしいけど、それは預かり知らない事だ。

「それが他の部署にいる女たちにまで伝わって、上司に呼ばれて大変な事になって、結局辞めざるを得なかったんだよ。……あのクソババア、既婚者なの隠しやがって」

 …………はい?

 私は目をまん丸にして、荒みきった昭人を見つめる。

 ブツブツ言っている彼は、我を失っている感じがあって、よりを戻そうと思っている元カノを前に、何を言っているか自覚していない様子だ。

 だからこそ、私は知らないところで昭人が何をしていたのか、うっすら把握してしまった。

(……多分こいつ、務めていた会社で色んな部署の女性に手を出してたんだ。私がエッチに応じなかった時の欲を、他で発散していたと考えたら納得がいく。その中には既婚者もいて、知らずに手を出してしまった昭人は責任をとる形で辞めた……。うわぁ……)

 ドン引きして昭人を見ていると、彼は私を見てニタリと笑う。

「朱里、俺と一緒に逃げよう」

「やだ」

 刺激を与えないようにと思っていたのに、思わず即答してしまった。

 すると昭人は私を見て剣呑な目をし、立ちあがるとポケットからてるてる坊主を出した。

 私はサッと横を向いて目を閉じる。

 九年も付き合いがあるから、梅雨時期にてるてる坊主を見て取り乱した姿を見られ、昭人には私の弱点を熟知されている。

 どうしててるてる坊主なのかは分かっていないようだけれど、苦手という事は理解しているのだ。

「……あーかり」

 ざらついた声が耳元でし、頬を撫でられる。
しおりを挟む
感想 2,452

あなたにおすすめの小説

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

【完結】離縁ですか…では、私が出掛けている間に出ていって下さいね♪

山葵
恋愛
突然、カイルから離縁して欲しいと言われ、戸惑いながらも理由を聞いた。 「俺は真実の愛に目覚めたのだ。マリアこそ俺の運命の相手!」 そうですか…。 私は離婚届にサインをする。 私は、直ぐに役所に届ける様に使用人に渡した。 使用人が出掛けるのを確認してから 「私とアスベスが旅行に行っている間に荷物を纏めて出ていって下さいね♪」

半日だけの…。貴方が私を忘れても

アズやっこ
恋愛
貴方が私を忘れても私が貴方の分まで覚えてる。 今の貴方が私を愛していなくても、 騎士ではなくても、 足が動かなくて車椅子生活になっても、 騎士だった貴方の姿を、 優しい貴方を、 私を愛してくれた事を、 例え貴方が記憶を失っても私だけは覚えてる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ ゆるゆる設定です。  ❈ 男性は記憶がなくなり忘れます。  ❈ 車椅子生活です。

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

地味な私を捨てた元婚約者にざまぁ返し!私の才能に惚れたハイスペ社長にスカウトされ溺愛されてます

久遠翠
恋愛
「君は、可愛げがない。いつも数字しか見ていないじゃないか」 大手商社に勤める地味なOL・相沢美月は、エリートの婚約者・高遠彰から突然婚約破棄を告げられる。 彼の心変わりと社内での孤立に傷つき、退職を選んだ美月。 しかし、彼らは知らなかった。彼女には、IT業界で“K”という名で知られる伝説的なデータアナリストという、もう一つの顔があったことを。 失意の中、足を運んだ交流会で美月が出会ったのは、急成長中のIT企業「ホライゾン・テクノロジーズ」の若き社長・一条蓮。 彼女が何気なく口にした市場分析の鋭さに衝撃を受けた蓮は、すぐさま彼女を破格の条件でスカウトする。 「君のその目で、俺と未来を見てほしい」──。 蓮の情熱に心を動かされ、新たな一歩を踏み出した美月は、その才能を遺憾なく発揮していく。 地味なOLから、誰もが注目するキャリアウーマンへ。 そして、仕事のパートナーである蓮の、真っ直ぐで誠実な愛情に、凍てついていた心は次第に溶かされていく。 これは、才能というガラスの靴を見出された、一人の女性のシンデレラストーリー。 数字の奥に隠された真実を見抜く彼女が、本当の愛と幸せを掴むまでの、最高にドラマチックな逆転ラブストーリー。

処理中です...