【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

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不穏 編

犯人

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「……昭人……」

 犯人の正体を知って、私は色んな感情が混じった声を漏らす。

 彼は少し乱れた髪を整え、ゆっくりと歩み寄ると私の前でしゃがんだ。

「今ならまだ優しくしてやれる。俺のもとに帰ってこい」

 あまりに身勝手な事を言われ、お腹の底からグワッと怒りが襲ってきた。

 尊さんが来てくれるまでは、感情的になって相手を煽ったりしてはいけない。そう思っていたけれど、犯人が元彼で目的がよりを戻したいと知った今は話が違う。

「……バッカじゃないの。こんな事をされてよりを戻すわけがないでしょ」

 私は怒りに震える声で言い返す。

 かろうじて怒鳴るのを我慢したから、そこは褒めてほしい。

「……それより、なんで恵のアカウントを使えたの? 恵に何かしたの?」

 ずっと気になっていた事を尋ねると、昭人は憎たらしく小首を傾げてから、コートのポケットから恵のスマホを取りだした。

「盗んだの!?」

 思わず尋ねてから、今の昭人に恵との接点はないと思い出す。

 同じ学校に通っていた学生時代ならともかく、今は別の会社に勤めているし、家だって離れて――。

 その時、ハッとした。

(こいつ、恵の家を知ってるじゃない)

 気がついたら、どんどん想像が嫌な方向に転がっていく。

「……まさか、恵の家に上がり込んで、無理矢理奪ったりしてないよね? 恵に暴力振るってないよね!?」

 必死に尋ねた私の声が、ライブハウスに反響する。

 昭人はしばらく黙っていたけれど、やがて「はっ」と嘲笑した。

「あいつ、朱里に連絡してくれるよう頼んだら、俺に向かって『生まれ変わってやり直してこい』って言ったんだぜ? 死ねって言われたのも同然じゃん。そういう態度をとるやつには、相応の目に遭ってもらったよ」

「…………っ!」

 あまりの怒りに、全身が火に包まれたような感覚に陥った。

「恵に何かしたならあんたを殺してやる!」

「おー、こわ。言葉の暴力って知ってる?」

 せせら笑った昭人は、片手で私の顎をとらえる。

「……お前、俺以外の奴にはこんなに感情的になるんだな。お前にとって俺は大切な彼氏でもなんでもなかったんだな。俺はあんなに大切にしてやったのに」

「あんたは私を何一つとして大切にしてなかった。連れ歩いて気分が良くなるアクセサリーとしか思ってなかったでしょ」

「だからやり直してやるって言ってるだろ!」

 ……だからもう、どうして上からなのかなぁ。根本的に分かってない。

「……あんた、自分が何したのか分かってるの? こんな事したら警察に捕まるよ?」

 すると昭人は荒んだ表情でせせら笑った。

「会社はもうとっくに辞めてるんだよ」

「えっ?」

 それは初耳だった私は、目を丸くして素の表情で尋ね返す。

「……あのブス、自分のしでかした事をバラされて喧嘩したからって、俺の会社まで来てわめき散らして……」

 きっと彼の言う〝ブス〟は、加代さんの事だろう。

 私の知らないところで泥沼化していたらしいけど、それは預かり知らない事だ。

「それが他の部署にいる女たちにまで伝わって、上司に呼ばれて大変な事になって、結局辞めざるを得なかったんだよ。……あのクソババア、既婚者なの隠しやがって」

 …………はい?

 私は目をまん丸にして、荒みきった昭人を見つめる。

 ブツブツ言っている彼は、我を失っている感じがあって、よりを戻そうと思っている元カノを前に、何を言っているか自覚していない様子だ。

 だからこそ、私は知らないところで昭人が何をしていたのか、うっすら把握してしまった。

(……多分こいつ、務めていた会社で色んな部署の女性に手を出してたんだ。私がエッチに応じなかった時の欲を、他で発散していたと考えたら納得がいく。その中には既婚者もいて、知らずに手を出してしまった昭人は責任をとる形で辞めた……。うわぁ……)

 ドン引きして昭人を見ていると、彼は私を見てニタリと笑う。

「朱里、俺と一緒に逃げよう」

「やだ」

 刺激を与えないようにと思っていたのに、思わず即答してしまった。

 すると昭人は私を見て剣呑な目をし、立ちあがるとポケットからてるてる坊主を出した。

 私はサッと横を向いて目を閉じる。

 九年も付き合いがあるから、梅雨時期にてるてる坊主を見て取り乱した姿を見られ、昭人には私の弱点を熟知されている。

 どうしててるてる坊主なのかは分かっていないようだけれど、苦手という事は理解しているのだ。

「……あーかり」

 ざらついた声が耳元でし、頬を撫でられる。
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