【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

文字の大きさ
495 / 779
救出後 編

反省、そして

しおりを挟む
「朱里ちゃんからメッセージだ」

 彼はそう言って、液晶画面を私に見せてきた。

【こんばんは。突然すみません。今、恵の側にいますか? 恵は大丈夫ですか?】

 まっさきに私の心配をする朱里の言葉を見て、涙がこみ上げる。

「恵ちゃん、今日は混乱していると思うし、警察の事情聴取にも応じないとならないと思うから、明日は会社を休んで」

「……はい」

 その言葉を聞いて、私は素直に頷いた。

 自分としてもとても疲れ切っていて、こんな精神状態で明日出社したとして、いつも通り働ける気がしない。

 腕時計をチラッと見たら二十二時半前だ。

 これから家に帰ったとしても、興奮と不安とで眠れるか分からない。

 PTSDとか、トラウマとかよく分からないけれど、あの家で一人で過ごしていたら、また誰かに襲われるかもしれない不安に襲われるだろう。

 涼さんは目の前で、朱里に返事を打っている。

【いま病院にいるよ。恵ちゃんは無事。検査をしたけど異常なし。明日は会社を休んでもらう事にした】

 そのあとも、彼は私に画面を見せながら朱里とメッセージを交わしていった。

 どうやら私のスマホは朱里が持ってきてくれるらしい。

【恵ちゃんにスマホを渡すね】

 やがて彼は朱里にそう返事をすると、通話ボタンをタップして私に「はい」とスマホを手渡してきた。

《もしもし、恵?》

 朱里の声が聞こえ、私はホッと息を吐く。

 彼女の声はいつもと変わりなく、声だけなら元気そうだ。

 けれど第一声にどう伝えたらいいか分からず、私は沈黙する。

 何回か朱里に名前を呼ばれた私は、おずおずと謝った。

「……ごめん」

《大丈夫だよ! ホラ、めっちゃ声が元気でしょ? しかもお腹空いてるの》

 こんな時までお腹が空いていると言う朱里の言葉に、思わず笑ってしまった。

 私を気遣っているのか、素なのか分からないけれど、そんな朱里が愛しくて堪らない。

《落ち着いたら一緒にご飯食べに行こう? お酒も飲んで、パーッと騒ごう!》

「……うん」

 また朱里と一緒に日常に戻れるんだ。

 そう思うと、フ……ッと抱えていたものが少し軽くなった。

《恵は大丈夫だった? 怪我してない?》

 心配そうな声で尋ねられ、私は頷く。

「……うん。大丈夫」

 本当は「朱里は?」と聞きたかったけれど、軽い怪我とはいえ、彼女が自分のせいで傷付いたのが申し訳なくて言い出せなかった。

《私、いま病院に向かってるんだ。同じ病院らしいから、待ってて》

「分かった」

 そのあと、電話は切れた。

「ありがとうございます」

 涼さんにスマホを返した私は、自分が先ほどより精神的に安定しているのを感じた。

「〝ふり〟か分かりませんが、朱里、元気そうで良かったです。お腹空いたんですって」

「じゃあ、病院が終わったら四人で夜ラーメンでも行こうか」

「ふふっ」

 朱里が喜びそうな提案を聞き、私はつい笑顔になった。

 そのあと、少し沈黙してからおずおずと涼さんに言った。

「……同棲の話なんですけど」

「うん」

 彼は先を急がず、穏やかに私の話を聞いてくれる。

「……今の家って、割と立地がいいし家賃も安いし、人通りの多い所にあるから滅多な事は起こらないと思っていたんです。今回は田村が犯人で、あいつは朱里と元サヤに戻りたがっていた。……でも今後、他の犯罪者が襲ってこないとも限らない」

「そうだね」

「前に涼さんに防犯を心配された時も、『大丈夫だって』と思っていた自分がいました。……自分だけは大丈夫だという過信があったんです」

 俯くと、耳元でサラリと髪が流れた。

「……涼さんに心配されていた通りの事が起こりました。先日すぐに同棲していたら、田村は家まで来られなかったでしょう。……あなたの心配を無視してしまってごめんなさい」

 涼さんは謝った私の手を握り、ポンポンと軽く叩く。

「確かに、物凄く心配した。……でも終わった事をグチグチ言うのはやめよう。恵ちゃんはこうして打ち明けてくれたし、同棲したいと思ってくれている……、ととってもいい?」

 尋ねられ、私はコクンと頷いた。
しおりを挟む
感想 2,457

あなたにおすすめの小説

3歳児にも劣る淑女(笑)

章槻雅希
恋愛
公爵令嬢は、第一王子から理不尽な言いがかりをつけられていた。 男爵家の庶子と懇ろになった王子はその醜態を学園内に晒し続けている。 その状況を打破したのは、僅か3歳の王女殿下だった。 カテゴリーは悩みましたが、一応5歳児と3歳児のほのぼのカップルがいるので恋愛ということで(;^ω^) ほんの思い付きの1場面的な小噺。 王女以外の固有名詞を無くしました。 元ネタをご存じの方にはご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。 創作SNSでの、ジャンル外での配慮に欠けておりました。

リリー・フラレンシア男爵令嬢について

碧井 汐桜香
恋愛
王太子と出会ったピンク髪の男爵令嬢のお話

完結 愛人さん初めまして!では元夫と出て行ってください。

音爽(ネソウ)
恋愛
金に女にだらしない男。終いには手を出す始末。 見た目と口八丁にだまされたマリエラは徐々に心を病んでいく。 だが、それではいけないと奮闘するのだが……

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

病弱な私と意地悪なお姉様のお見合い顛末

黒木メイ
恋愛
幼い頃から病弱だったミルカ。外出もまともにできず、家の中に引きこもってばかり。それでもミルカは幸せだった。家族が、使用人たちがいつもミルカの側にいてくれたから。ミルカを愛してくれたから。それだけで十分――なわけないでしょう。お姉様はずるい。健康な体を持っているだけではなく、自由に外出できるんだから。その上、意地悪。だから、奪ったのよ。ずるいお姉様から全てを。当然でしょう。私は『特別な存在』で、『幸せが約束されたお姫様』なんだから。両親からの愛も、次期当主の地位も、王子様も全て私のもの。お姉様の見合い相手が私に夢中になるのも仕方ないことなの。 ※設定はふわふわ。 ※予告なく修正、加筆する場合があります。 ※いずれ他サイトにも転載予定。 ※『病弱な妹と私のお見合い顛末』のミルカ(妹)視点です。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

処理中です...