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救出後 編
これから宜しくお願いします
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「事件が起こってから、『やっぱり怖いから一緒に住んで』なんて図々しい事を言ってすみません。……でも、今後私の身に起こる事は、私一人の問題じゃなくて、涼さんや朱里を心配させる事だって理解したんです」
……と言っても、理解するのが遅すぎる。
私はいつものように「自分は女子らしくないし、何かがあっても大丈夫」と押し切って、結果的に皆に迷惑を掛けてしまった。
本当に最悪すぎる。
でも、ちゃんと謝って改善しようと前向きになったら、涼さんなら許してくれる……と思う。甘えだけれど、…………甘えさせてほしい。
そんな負い目があるので、私は頭を下げたまま涼さんの目を見られずにいた。
「恵ちゃん、顔を上げて」
涼さんに言われ、私は僅かに顔の角度を上向ける。
けれど視線は合わせられなかった。
「先日『同棲したい』と言ったのは、初めて会った二泊三日の直後だ。一旦持ち帰った恵ちゃんは冷静な判断をくだしたと思う。むしろ出会ったばかりで高額な買い物をして、同棲を迫る俺のほうが異常だよ」
「……そんな、異常なんて……」
改めて言われると、本当に私たちは出会ったばかりで「それな」と言いたくなるけれど、涼さんみたいな素敵な人が自虐すると、ちょっと悲しくなってしまう。
「自分でも驚いているけど、俺は今でも君に夢中で、本当ならすぐにでも結婚したいと思っている」
そう言われ、私は驚いて目を見開いた。
「でも、急すぎるだろ? 普通だって同棲するのに最低三か月はかけると思う。その前に見極めたいポイントは多くあるだろうし」
「……確かにそうですね」
「だから恵ちゃんは、俺よりずっと冷静な判断をくだしたと思う。こんな事を言うといやみかもしれないが、俺の前でそこまで冷静に振る舞えた女性は初めてだから、『やっぱり好きだな』と思ってるけど」
「……ど、どうも……」
照れて俯くと、涼さんはサラリと私の髪を撫でてくる。
「だから、一旦時間をおいた事を負い目に思わなくていい。君は当然の選択をしたんだ。その期間に事件が起こったのは不幸な事だと思う。何事もタイミングがあって、いい事も悪い事も、思いがけず訪れるものだ」
「……そうですね。ありがとうございます」
涼さんは少し私を見つめていたけれど、キュッと私の手を握ってきた。
「怖い目に遭って、誰かに頼りたくなるのは当たり前の心理だよ。俺は恵ちゃんの恋人だし、頼ってもらえてとても嬉しい。それに、強がりで何でも一人でやろうとする恵ちゃんが、ちゃんと周りを見られて良かったと思っている」
恋人という言葉がジワッと胸の奥に染み入るし、彼が私の欠点をちゃんと把握している事を知って、若干の恥ずかしさも覚えた。
「……怒らないんですか? 呆れない?」
恐る恐る尋ねると、涼さんはクスッと笑った。
「もしも俺の家にストーカー女が上がり込み、俺の暮らしをメチャメチャにしたとする。恵ちゃんの家に泊まらせてほしいと言ったら、受け入れてくれる?」
「勿論!」
「そういう事」
彼は優しく微笑み、「細いね」と言って私の指を辿ってくる。
「何事も前向きに捉えてみないか? 今回の事件は許せないし、本当に不幸な出来事だった。でも同棲するきっかけにもなったし、朱里ちゃんは過去の男と完全に決別できた。田村も警察の世話になって、やっと止まる事ができたんじゃないかな。人って一度タガが外れると、余程の事がない限り自制できなくなるから」
涼さんの言葉を聞き、私はコクンと頷く。
「……そうですね。……じゃあ、これから宜しくお願いします」
「うん」
頭を下げると、涼さんはギュッと私を抱き締めてきた。
「大切にするよ。俺の恵ちゃん」
噛み締めるように呟かれた言葉が耳朶をかすり、私は耳まで真っ赤になった。
**
尊さんが車を駐車したあと、私たちは裏口から病院に入って問診票を書き、しばし待ったあと診察室に入った。
男性医師は私の顔を見て「あー……」と気の毒そうに声を漏らし、顔の腫れを見て、どんな扱いを受けたのか質問してきた。
横向きに倒れて肩や腕を強打したので、念のためレントゲンを撮ったけれど、異常はなかった。
頬については、あまり強い衝撃の場合は骨折が疑われる事があるけれど、それほど酷いものではなく、単なる表面上の腫れにすぎないと診断されてホッとした。
「とりあえず、安心したよ」
会計を終えたあと、尊さんは疲れた声で言う。
……と言っても、理解するのが遅すぎる。
私はいつものように「自分は女子らしくないし、何かがあっても大丈夫」と押し切って、結果的に皆に迷惑を掛けてしまった。
本当に最悪すぎる。
でも、ちゃんと謝って改善しようと前向きになったら、涼さんなら許してくれる……と思う。甘えだけれど、…………甘えさせてほしい。
そんな負い目があるので、私は頭を下げたまま涼さんの目を見られずにいた。
「恵ちゃん、顔を上げて」
涼さんに言われ、私は僅かに顔の角度を上向ける。
けれど視線は合わせられなかった。
「先日『同棲したい』と言ったのは、初めて会った二泊三日の直後だ。一旦持ち帰った恵ちゃんは冷静な判断をくだしたと思う。むしろ出会ったばかりで高額な買い物をして、同棲を迫る俺のほうが異常だよ」
「……そんな、異常なんて……」
改めて言われると、本当に私たちは出会ったばかりで「それな」と言いたくなるけれど、涼さんみたいな素敵な人が自虐すると、ちょっと悲しくなってしまう。
「自分でも驚いているけど、俺は今でも君に夢中で、本当ならすぐにでも結婚したいと思っている」
そう言われ、私は驚いて目を見開いた。
「でも、急すぎるだろ? 普通だって同棲するのに最低三か月はかけると思う。その前に見極めたいポイントは多くあるだろうし」
「……確かにそうですね」
「だから恵ちゃんは、俺よりずっと冷静な判断をくだしたと思う。こんな事を言うといやみかもしれないが、俺の前でそこまで冷静に振る舞えた女性は初めてだから、『やっぱり好きだな』と思ってるけど」
「……ど、どうも……」
照れて俯くと、涼さんはサラリと私の髪を撫でてくる。
「だから、一旦時間をおいた事を負い目に思わなくていい。君は当然の選択をしたんだ。その期間に事件が起こったのは不幸な事だと思う。何事もタイミングがあって、いい事も悪い事も、思いがけず訪れるものだ」
「……そうですね。ありがとうございます」
涼さんは少し私を見つめていたけれど、キュッと私の手を握ってきた。
「怖い目に遭って、誰かに頼りたくなるのは当たり前の心理だよ。俺は恵ちゃんの恋人だし、頼ってもらえてとても嬉しい。それに、強がりで何でも一人でやろうとする恵ちゃんが、ちゃんと周りを見られて良かったと思っている」
恋人という言葉がジワッと胸の奥に染み入るし、彼が私の欠点をちゃんと把握している事を知って、若干の恥ずかしさも覚えた。
「……怒らないんですか? 呆れない?」
恐る恐る尋ねると、涼さんはクスッと笑った。
「もしも俺の家にストーカー女が上がり込み、俺の暮らしをメチャメチャにしたとする。恵ちゃんの家に泊まらせてほしいと言ったら、受け入れてくれる?」
「勿論!」
「そういう事」
彼は優しく微笑み、「細いね」と言って私の指を辿ってくる。
「何事も前向きに捉えてみないか? 今回の事件は許せないし、本当に不幸な出来事だった。でも同棲するきっかけにもなったし、朱里ちゃんは過去の男と完全に決別できた。田村も警察の世話になって、やっと止まる事ができたんじゃないかな。人って一度タガが外れると、余程の事がない限り自制できなくなるから」
涼さんの言葉を聞き、私はコクンと頷く。
「……そうですね。……じゃあ、これから宜しくお願いします」
「うん」
頭を下げると、涼さんはギュッと私を抱き締めてきた。
「大切にするよ。俺の恵ちゃん」
噛み締めるように呟かれた言葉が耳朶をかすり、私は耳まで真っ赤になった。
**
尊さんが車を駐車したあと、私たちは裏口から病院に入って問診票を書き、しばし待ったあと診察室に入った。
男性医師は私の顔を見て「あー……」と気の毒そうに声を漏らし、顔の腫れを見て、どんな扱いを受けたのか質問してきた。
横向きに倒れて肩や腕を強打したので、念のためレントゲンを撮ったけれど、異常はなかった。
頬については、あまり強い衝撃の場合は骨折が疑われる事があるけれど、それほど酷いものではなく、単なる表面上の腫れにすぎないと診断されてホッとした。
「とりあえず、安心したよ」
会計を終えたあと、尊さんは疲れた声で言う。
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