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副社長秘書の試練 編
エミリの提案
その日は尊さんに言われた通り、お風呂に入ったあと、あまり考え込みすぎないように寝た。
涼さんのマンションに泊まった時は、高級ホテルのような感覚だったけれど、恵がいたとはいえ、いつもの寝床ではないので緊張があった。
けれど三田のマンションに戻った今は、嗅ぎ慣れた匂いに包まれ、愛しい人の体温を感じながらゆっくり眠る事ができた。
**
私たちが事件に巻き込まれたのが五月中旬の火曜日の夜、水曜日は休んで、木曜に出社した。
朝に副社長秘書室で諸々の支度をしていると、エミリさんが私を訪れた。
「上村さん、大丈夫?」
若干強張った表情を見て、私はすべて理解した。
副社長になった尊さんにはまだ秘書が私一人しかついておらず、私が休んだら秘書がいなくなってしまう。
たまたま昨日は社外での仕事はなかったものの、これで会食や出張があった場合はただでは済まない。
先方には「秘書もいない副社長なのか」と思われるだろうし、ただでさえ副社長の仕事は多忙を極めるのに、サポートする役目をする人がいなくなれば、自分一人でスケジュールの調整などもしなければならない。
昨日は社内での仕事がメインだったものの、万が一の連絡漏れも考えて社長である風磨さんに報告する必要があったのだろう。
エミリさんも事件について知る事になり、今こうして心配してきてくれた。
「……はい、大丈夫です」
ニコッと微笑んで返事をすると、彼女は安堵したように深い溜め息をつく。
「……ちょっと、副社長と三人で話をしましょう」
エミリさんはそう言い、副社長室に繋がるドアをノックし、そちらに向かう。
「少しお時間宜しいですか?」
秘書モードで話しかけてきたエミリさんに、パソコンを開いていた尊さんは「構わない」と言って応接ソファに腰かけた。
「先日起こった事件については、後日改めてプライベートの時間に教えてください。私も友人として上村さんが心配ですので」
「分かった」
「その上で提案なのですが、副社長は第二秘書を雇われたほうがいいかと思います」
エミリさんの言葉を聞き、胸がズキンと痛んだ。
けれどすぐに思い直す。
(……私に傷付く権利なんてない。実際に尊さんに心配をかけて『休め』と言われ、仕事に穴を空けたのは事実なんだから。それに、私だって秘書としてぺーぺーだし、頼れる人がいてくれたほうが仕事的にも助かる)
エミリさんはそんな私の心中を察したのか、優しい声で言った。
「上村さん、基本的に重役の秘書は複数つくものよ。忌憚ない言い方をすると、あなたは副社長の体調を察する能力には長けていると思うけれど、秘書としての経験値はないと言っていい。もう一人、秘書の仕事に慣れた人とコンビを組んで、二人で副社長を支えたほうが皆のためになるわ」
「はい」
頷くと、エミリさんはニコッと笑ってから尊さんに提案した。
「私のほうで良さそうな人を推薦してもいいですか? 上村さんとうまくやっていけそうな、四十代以上の男性か女性がいいと思っています」
私はエミリさんの提案を聞いて安堵し、彼女に感謝した。
確かにこれで若い女性がきたら変な三角関係になる可能性があるし、若い男性であっても尊さんが微妙な気持ちになると思う。
「……上村さんはそれでいいか?」
尊さんに意見を聞かれ、私は頷いた。
「はい。ありがたい提案だと思います。情けない話ですが、私一人で副社長の補佐は荷が重いですし、丸木さんに先だって色々教えていただきましたが、いざという時に現場でアドバイスをくださる経験豊富な方がいると、私にも副社長にもプラスになると思います。どうか、学びの機会を与えてください」
今は、自分の力量がない事を嘆く時ではなくて、背中を見て学べる人に出会える機会に喜ぶべき時だ。
そう思って言うと、尊さんは優しい表情で頷いた。
涼さんのマンションに泊まった時は、高級ホテルのような感覚だったけれど、恵がいたとはいえ、いつもの寝床ではないので緊張があった。
けれど三田のマンションに戻った今は、嗅ぎ慣れた匂いに包まれ、愛しい人の体温を感じながらゆっくり眠る事ができた。
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朝に副社長秘書室で諸々の支度をしていると、エミリさんが私を訪れた。
「上村さん、大丈夫?」
若干強張った表情を見て、私はすべて理解した。
副社長になった尊さんにはまだ秘書が私一人しかついておらず、私が休んだら秘書がいなくなってしまう。
たまたま昨日は社外での仕事はなかったものの、これで会食や出張があった場合はただでは済まない。
先方には「秘書もいない副社長なのか」と思われるだろうし、ただでさえ副社長の仕事は多忙を極めるのに、サポートする役目をする人がいなくなれば、自分一人でスケジュールの調整などもしなければならない。
昨日は社内での仕事がメインだったものの、万が一の連絡漏れも考えて社長である風磨さんに報告する必要があったのだろう。
エミリさんも事件について知る事になり、今こうして心配してきてくれた。
「……はい、大丈夫です」
ニコッと微笑んで返事をすると、彼女は安堵したように深い溜め息をつく。
「……ちょっと、副社長と三人で話をしましょう」
エミリさんはそう言い、副社長室に繋がるドアをノックし、そちらに向かう。
「少しお時間宜しいですか?」
秘書モードで話しかけてきたエミリさんに、パソコンを開いていた尊さんは「構わない」と言って応接ソファに腰かけた。
「先日起こった事件については、後日改めてプライベートの時間に教えてください。私も友人として上村さんが心配ですので」
「分かった」
「その上で提案なのですが、副社長は第二秘書を雇われたほうがいいかと思います」
エミリさんの言葉を聞き、胸がズキンと痛んだ。
けれどすぐに思い直す。
(……私に傷付く権利なんてない。実際に尊さんに心配をかけて『休め』と言われ、仕事に穴を空けたのは事実なんだから。それに、私だって秘書としてぺーぺーだし、頼れる人がいてくれたほうが仕事的にも助かる)
エミリさんはそんな私の心中を察したのか、優しい声で言った。
「上村さん、基本的に重役の秘書は複数つくものよ。忌憚ない言い方をすると、あなたは副社長の体調を察する能力には長けていると思うけれど、秘書としての経験値はないと言っていい。もう一人、秘書の仕事に慣れた人とコンビを組んで、二人で副社長を支えたほうが皆のためになるわ」
「はい」
頷くと、エミリさんはニコッと笑ってから尊さんに提案した。
「私のほうで良さそうな人を推薦してもいいですか? 上村さんとうまくやっていけそうな、四十代以上の男性か女性がいいと思っています」
私はエミリさんの提案を聞いて安堵し、彼女に感謝した。
確かにこれで若い女性がきたら変な三角関係になる可能性があるし、若い男性であっても尊さんが微妙な気持ちになると思う。
「……上村さんはそれでいいか?」
尊さんに意見を聞かれ、私は頷いた。
「はい。ありがたい提案だと思います。情けない話ですが、私一人で副社長の補佐は荷が重いですし、丸木さんに先だって色々教えていただきましたが、いざという時に現場でアドバイスをくださる経験豊富な方がいると、私にも副社長にもプラスになると思います。どうか、学びの機会を与えてください」
今は、自分の力量がない事を嘆く時ではなくて、背中を見て学べる人に出会える機会に喜ぶべき時だ。
そう思って言うと、尊さんは優しい表情で頷いた。
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