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十年ぶりの再会 編
謝らないでよ
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「ごめんね。本当はせっかく来てくれたから、広島らしい物を食べられる所が良かったかもしれないけど、ここ、個室があるから」
「いや、込み入った話をするから、そのほうがいい。気を遣ってくれてありがとう」
個室に案内されて座ったあと、宮本さんは「暑いね」と私に笑いかける。
私はそれに「ホントですね」と相槌を打ちながら、昨日の夜に抱いていた不安が杞憂だったと知った。
宮本さんはとても自然体で、尊さんに懐かしそうな目は向けるものの、彼を異性として見てはいない。
一緒にいる私に常に配慮してくれ、嫌な想いをしないように気遣ってくれているのだと分かった。
メニューを見て宮本さんおすすめのパフェを頼み、尊さんはホットコーヒーを頼んだ。
「そうだ、先にこれをどうぞ」
宮本さんは手にしていた紙袋をズイッと勧めてくる。
「私の住んでる呉のグルメで、揚げケーキに餡子が入っているフライケーキや、海軍カレー、揚げかまぼこのがんす、呉が発祥のラグビーボール型をしたメロンパンもあるよ」
「変わった形なんですね」
紙袋を受け取った私が言うと、彼女はニコッと笑う。
「昔、マクワウリがメロンと呼ばれていた頃、高額で食べられなかった人のためにラグビーボール型のメロンパンを考案したんだって。ビスケット生地の中にクリームがずっしり詰まってて、一般的なメロンパンとは違うから、旅の思い出に食べてみて」
「ありがとうございます」
お礼を言うと、尊さんが例の沢山の紙袋を宮本さんに差しだした。
「……東京にいたのに東京土産っていうのも変かもしれんが、……お子さんもいるし一緒に食べてくれ」
「沢山ありがとう。うちの子、喜ぶわ~」
宮本さんは大量のお菓子を見て破顔し、座っている横に置く。
「さて……」
彼女はそう言ってお水を飲み、溜め息をつく。
「ここからはあまり面白くない話になるけど、……速水くんは大体の事は知っていると思っていいのかな?」
「……手紙を書いてくれたのに、継母が妨害したせいで俺のもとには届いていなかった。酷い目に遭ってつらい想いをした直後だったのに、とても残酷で酷い事をしたと思う。……無視して悪かった」
尊さんが苦しそうな顔で謝ると、宮本さんは微笑んで「うん」と頷く。
「ま、そうだろうなと思ってた。速水くんはひねくれた人だけど、親しくしていた同僚の手紙を無視する人ではないと信じてた。仮に継母に何か言われて、無視するように命令されてたのかも……とも思ったけど、君はあの人を心底嫌っていたし、素直に言う事を聞くなんてあり得ないかな? って思った。だから〝事情〟があるんだと言い聞かせていた」
「すまない」
「謝らないでよ。もう十年前の事だよ? っていうか、悪いのはあの継母でしょ? 少し前にニュースになって、ワイドショーを見て大体の事情は分かったけど、君のお母さんに嫉妬して、子供ごと憎んだからありとあらゆる嫌がらせをした……のは一応理解したけど、到底まともな人間のする事じゃない。……女だから、夫の心を奪われた屈辱はある程度察する。でもね、人には超えてはならない一線がある。それを大きく踏み越えて、人としてやってはいけない事を沢山しまくったあの人には、もう何も同情できない」
淀みなく言った宮本さんが、こう言い切れるようになるまで、沢山の葛藤があったと思う。
でも彼女はそれらに折り合いをつけ、尊さんを責めず「あなたは悪くない」といい気かせていた。
背筋を伸ばして座った彼女は、まるで太陽に向かって咲く向日葵のようだ。
堂々としていて、決して打ちひしがれない。
太陽を失った時は俯いて種という名の涙を零したかもしれないけれど、光がある以上彼女は上を向いている。
今の彼女にとっての光は、旦那さんと子供、そして広島での生活だ。
その時、パフェとコーヒーが提供され、尊さんはコーヒーを一口飲んでから小さく笑った。
「……本当はもっと責められるかと思った。何を言われても甘んじて受け入れ、謝り倒すつもりでいた。……でも、宮本は変わらないな」
「短い間だったけど、私たちは同僚だった。一緒に仕事をして飲んで、会社の愚痴を言った。上京したてで寂しい想いをしていたけど、君みたいに性別を超えて仲良くなれた友人がいて、本当に楽しかったんだ。私は一度友達と思った人は信じ抜く。どんなに自分がつらい目に遭っても、それを友達のせいにしたりなんかしない」
宮本さんは先ほどから一度も、尊さんの事を〝元彼〟と言っていない。
私に配慮しているのだとしても、ハッキリと線引きして「今はまったく何とも思っていない」と主張しているその姿は潔くて格好良かった。
「いや、込み入った話をするから、そのほうがいい。気を遣ってくれてありがとう」
個室に案内されて座ったあと、宮本さんは「暑いね」と私に笑いかける。
私はそれに「ホントですね」と相槌を打ちながら、昨日の夜に抱いていた不安が杞憂だったと知った。
宮本さんはとても自然体で、尊さんに懐かしそうな目は向けるものの、彼を異性として見てはいない。
一緒にいる私に常に配慮してくれ、嫌な想いをしないように気遣ってくれているのだと分かった。
メニューを見て宮本さんおすすめのパフェを頼み、尊さんはホットコーヒーを頼んだ。
「そうだ、先にこれをどうぞ」
宮本さんは手にしていた紙袋をズイッと勧めてくる。
「私の住んでる呉のグルメで、揚げケーキに餡子が入っているフライケーキや、海軍カレー、揚げかまぼこのがんす、呉が発祥のラグビーボール型をしたメロンパンもあるよ」
「変わった形なんですね」
紙袋を受け取った私が言うと、彼女はニコッと笑う。
「昔、マクワウリがメロンと呼ばれていた頃、高額で食べられなかった人のためにラグビーボール型のメロンパンを考案したんだって。ビスケット生地の中にクリームがずっしり詰まってて、一般的なメロンパンとは違うから、旅の思い出に食べてみて」
「ありがとうございます」
お礼を言うと、尊さんが例の沢山の紙袋を宮本さんに差しだした。
「……東京にいたのに東京土産っていうのも変かもしれんが、……お子さんもいるし一緒に食べてくれ」
「沢山ありがとう。うちの子、喜ぶわ~」
宮本さんは大量のお菓子を見て破顔し、座っている横に置く。
「さて……」
彼女はそう言ってお水を飲み、溜め息をつく。
「ここからはあまり面白くない話になるけど、……速水くんは大体の事は知っていると思っていいのかな?」
「……手紙を書いてくれたのに、継母が妨害したせいで俺のもとには届いていなかった。酷い目に遭ってつらい想いをした直後だったのに、とても残酷で酷い事をしたと思う。……無視して悪かった」
尊さんが苦しそうな顔で謝ると、宮本さんは微笑んで「うん」と頷く。
「ま、そうだろうなと思ってた。速水くんはひねくれた人だけど、親しくしていた同僚の手紙を無視する人ではないと信じてた。仮に継母に何か言われて、無視するように命令されてたのかも……とも思ったけど、君はあの人を心底嫌っていたし、素直に言う事を聞くなんてあり得ないかな? って思った。だから〝事情〟があるんだと言い聞かせていた」
「すまない」
「謝らないでよ。もう十年前の事だよ? っていうか、悪いのはあの継母でしょ? 少し前にニュースになって、ワイドショーを見て大体の事情は分かったけど、君のお母さんに嫉妬して、子供ごと憎んだからありとあらゆる嫌がらせをした……のは一応理解したけど、到底まともな人間のする事じゃない。……女だから、夫の心を奪われた屈辱はある程度察する。でもね、人には超えてはならない一線がある。それを大きく踏み越えて、人としてやってはいけない事を沢山しまくったあの人には、もう何も同情できない」
淀みなく言った宮本さんが、こう言い切れるようになるまで、沢山の葛藤があったと思う。
でも彼女はそれらに折り合いをつけ、尊さんを責めず「あなたは悪くない」といい気かせていた。
背筋を伸ばして座った彼女は、まるで太陽に向かって咲く向日葵のようだ。
堂々としていて、決して打ちひしがれない。
太陽を失った時は俯いて種という名の涙を零したかもしれないけれど、光がある以上彼女は上を向いている。
今の彼女にとっての光は、旦那さんと子供、そして広島での生活だ。
その時、パフェとコーヒーが提供され、尊さんはコーヒーを一口飲んでから小さく笑った。
「……本当はもっと責められるかと思った。何を言われても甘んじて受け入れ、謝り倒すつもりでいた。……でも、宮本は変わらないな」
「短い間だったけど、私たちは同僚だった。一緒に仕事をして飲んで、会社の愚痴を言った。上京したてで寂しい想いをしていたけど、君みたいに性別を超えて仲良くなれた友人がいて、本当に楽しかったんだ。私は一度友達と思った人は信じ抜く。どんなに自分がつらい目に遭っても、それを友達のせいにしたりなんかしない」
宮本さんは先ほどから一度も、尊さんの事を〝元彼〟と言っていない。
私に配慮しているのだとしても、ハッキリと線引きして「今はまったく何とも思っていない」と主張しているその姿は潔くて格好良かった。
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