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第三部雨・8
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「最後の日常」
朝方になると、レナはユヴァからそっと身を放して湿った雨具を羽織ると、そっと酒場へ戻って行った。
眠りの浅いユヴァはもちろんその気配に気付いていたが、敢えて何も言わなかった。
今日、これから決行する計画にしても、最終的な確認や、いつ行動を起こすなどという事は何一つ伝えていない。
レナの起きる時間はいつも決まっている。
料理を作るのに、仕込みや何やらをする時間などが要るからだ。
その他にも、念入りにはしないが一通りの掃除などもする。客の接待は母親の仕事で、それ以外の仕事は全てレナやその他の娘達の仕事だった。
レナ以外の娘達には一応それぞれ養って貰っている男がいて、その男の住処に一緒に住んでいる。
だが基本的にこの街の女は全てアレクの所有物だ。
その男達は管理を任されているに過ぎないが、酒場での労働時間以外はその管理者が何をしようが自由になっている。
男達は早く自分の女を持ちたいと願い、外地から女を攫って来る。
しかし街や村に攻め行って攫って来る事はできない。そんな事をすれば『終わりの街』自体の存続が危機に晒される。
隙のある娘を攫って来る事しか出来ないので、なかなか粒揃いにはならない。気に入った女がいない場合、不幸な娘達は横流しで娼館に売り払われてしまう。
ちなみに、レナは母親共々アレクの直接の所有だ。
酒場の屋根裏に寝起きし、酒場で生活している。
新人狩りの商品として大概レナが送られるのは、アレクの判断によりこの街の中にいる娘達の中で一番上玉を、敬意を表して与えているからだ。
昨夜、レナは座ったままという姿勢にも関わらず、ユヴァの腕の中で始めて「ぬくもり」と言う事の出来る体温を感じて熟睡する事ができた。
いつも雨音の酷い屋根裏で浅い眠りを貪っていたレナだが、もしかすると人生で始めて熟睡というものを体験したかもしれない。
少し体がぎこちない感じもするが、それでも睡眠は十分とっている。ポキポキと小さな音をたててのびをすると、朝の仕事に取り掛かる。
いつもと同じ事を、いつもと同じ様に繰り返す。
だが、上手く行けば今日から全く違う生活に入る事が出来る。
それを思うと少し不思議な気持ちになったが、最後になるかもしれない仕事を丁寧にするという様な気持ちにはならなかった。
やや暫くすると、それぞれの男の元から娘達がやって来る。
朝の挨拶もせず、一日の始まりとは思えない愚鈍な動きでそれぞれに課せられた仕事を始める。
選り抜かれた美しい娘達であるだけに、その光景には何処か喜劇の序章を思わせる所があった。
この酒場は閉店するという事がない。
この街同様に、来る者をいつでも受け入れる場所だ。昨晩のまま酔いつぶれて、テーブルに涎を垂らして寝ている男を避けながら床を掃き、テーブルを拭く。
朝食用の料理の匂いが酒場を満たす頃になって、女主人が二階から降りてきた。
二階は全て女を抱くための部屋となっているが、突き当たりにある豪華な部屋はアレクと女主人の寝室になっている。
一階の酒場の一角は、場違いに豪奢な応接セットなどが置かれてあり、そこがそのままアレクの場所となっている。
化粧もきちんとし髪もしっかりと結われているものの、やはりどこか『崩れて』いる印象のある女主人は、まだ眠気の覚めない表情で、台所に立つレナの所に来ると嘲笑に似た笑顔を浮かべて話し掛ける。
「どうやら、あの坊やは勝ち抜いたみたいだね。腕は確かみたいだけど、あっちの方はどうだった? あんなに若い子がここに来るのも珍しいからねぇ」
朝から汚れた色気を振りまき、母は娘に尋ねた。実の娘を昨晩犯した男と、良ければ今度は自分が寝ると言っているのである。
レナは特に何も答えず、ちら、と視線を母に走らせてから表情を変えずに仕事を黙々と続ける。
娘のそういった態度は承知していて、母親は「ふん」と嘲笑うかの様な笑いを残してその場を去る。
その表情は、「そんなお高くとまった顔をしていても、男に股を広げたらあたしと同じ様になるくせに」と語っていた。この表情一つで、この親子が愛情で結ばれていないのが一目で分かる。
やがて自分の寝床に戻ってそれぞれの夜を過ごして来た者が、朝食を求めて酒場にやって来る。
この街では何もかもが自由だ。もちろん生活時間なども何一つ定められていない。
起きたい時に起き、食べたい時に食べ、寝たい時に寝る。一月の間に決められた金額をアレクに収めていれば、何も言われない。
朝に起きてきて朝食を食べる者は、大概は『仕事』をしに出掛ける者達だ。
早起きは本来の生活リズムに組み込まれていないが、これから『仕事』をしに行くので皆一様に興奮した面持ちだ。
朝から機嫌が良く、給仕に来た娘をからかって遊ぶ者もいる。
そうやって、昼頃にはぼちぼちと『仕事』の無い者達も起きて活動を開始し、アレクもいつも昼近くに起きて来る。
そして、ユヴァが昨夜ここにやって来たのと全く同じ格好でドアを開けたのは、昼過ぎの事だった。
朝方になると、レナはユヴァからそっと身を放して湿った雨具を羽織ると、そっと酒場へ戻って行った。
眠りの浅いユヴァはもちろんその気配に気付いていたが、敢えて何も言わなかった。
今日、これから決行する計画にしても、最終的な確認や、いつ行動を起こすなどという事は何一つ伝えていない。
レナの起きる時間はいつも決まっている。
料理を作るのに、仕込みや何やらをする時間などが要るからだ。
その他にも、念入りにはしないが一通りの掃除などもする。客の接待は母親の仕事で、それ以外の仕事は全てレナやその他の娘達の仕事だった。
レナ以外の娘達には一応それぞれ養って貰っている男がいて、その男の住処に一緒に住んでいる。
だが基本的にこの街の女は全てアレクの所有物だ。
その男達は管理を任されているに過ぎないが、酒場での労働時間以外はその管理者が何をしようが自由になっている。
男達は早く自分の女を持ちたいと願い、外地から女を攫って来る。
しかし街や村に攻め行って攫って来る事はできない。そんな事をすれば『終わりの街』自体の存続が危機に晒される。
隙のある娘を攫って来る事しか出来ないので、なかなか粒揃いにはならない。気に入った女がいない場合、不幸な娘達は横流しで娼館に売り払われてしまう。
ちなみに、レナは母親共々アレクの直接の所有だ。
酒場の屋根裏に寝起きし、酒場で生活している。
新人狩りの商品として大概レナが送られるのは、アレクの判断によりこの街の中にいる娘達の中で一番上玉を、敬意を表して与えているからだ。
昨夜、レナは座ったままという姿勢にも関わらず、ユヴァの腕の中で始めて「ぬくもり」と言う事の出来る体温を感じて熟睡する事ができた。
いつも雨音の酷い屋根裏で浅い眠りを貪っていたレナだが、もしかすると人生で始めて熟睡というものを体験したかもしれない。
少し体がぎこちない感じもするが、それでも睡眠は十分とっている。ポキポキと小さな音をたててのびをすると、朝の仕事に取り掛かる。
いつもと同じ事を、いつもと同じ様に繰り返す。
だが、上手く行けば今日から全く違う生活に入る事が出来る。
それを思うと少し不思議な気持ちになったが、最後になるかもしれない仕事を丁寧にするという様な気持ちにはならなかった。
やや暫くすると、それぞれの男の元から娘達がやって来る。
朝の挨拶もせず、一日の始まりとは思えない愚鈍な動きでそれぞれに課せられた仕事を始める。
選り抜かれた美しい娘達であるだけに、その光景には何処か喜劇の序章を思わせる所があった。
この酒場は閉店するという事がない。
この街同様に、来る者をいつでも受け入れる場所だ。昨晩のまま酔いつぶれて、テーブルに涎を垂らして寝ている男を避けながら床を掃き、テーブルを拭く。
朝食用の料理の匂いが酒場を満たす頃になって、女主人が二階から降りてきた。
二階は全て女を抱くための部屋となっているが、突き当たりにある豪華な部屋はアレクと女主人の寝室になっている。
一階の酒場の一角は、場違いに豪奢な応接セットなどが置かれてあり、そこがそのままアレクの場所となっている。
化粧もきちんとし髪もしっかりと結われているものの、やはりどこか『崩れて』いる印象のある女主人は、まだ眠気の覚めない表情で、台所に立つレナの所に来ると嘲笑に似た笑顔を浮かべて話し掛ける。
「どうやら、あの坊やは勝ち抜いたみたいだね。腕は確かみたいだけど、あっちの方はどうだった? あんなに若い子がここに来るのも珍しいからねぇ」
朝から汚れた色気を振りまき、母は娘に尋ねた。実の娘を昨晩犯した男と、良ければ今度は自分が寝ると言っているのである。
レナは特に何も答えず、ちら、と視線を母に走らせてから表情を変えずに仕事を黙々と続ける。
娘のそういった態度は承知していて、母親は「ふん」と嘲笑うかの様な笑いを残してその場を去る。
その表情は、「そんなお高くとまった顔をしていても、男に股を広げたらあたしと同じ様になるくせに」と語っていた。この表情一つで、この親子が愛情で結ばれていないのが一目で分かる。
やがて自分の寝床に戻ってそれぞれの夜を過ごして来た者が、朝食を求めて酒場にやって来る。
この街では何もかもが自由だ。もちろん生活時間なども何一つ定められていない。
起きたい時に起き、食べたい時に食べ、寝たい時に寝る。一月の間に決められた金額をアレクに収めていれば、何も言われない。
朝に起きてきて朝食を食べる者は、大概は『仕事』をしに出掛ける者達だ。
早起きは本来の生活リズムに組み込まれていないが、これから『仕事』をしに行くので皆一様に興奮した面持ちだ。
朝から機嫌が良く、給仕に来た娘をからかって遊ぶ者もいる。
そうやって、昼頃にはぼちぼちと『仕事』の無い者達も起きて活動を開始し、アレクもいつも昼近くに起きて来る。
そして、ユヴァが昨夜ここにやって来たのと全く同じ格好でドアを開けたのは、昼過ぎの事だった。
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