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理由がある
嫌いな人間の中には色んなタイプがいるが、その中の一つに、平気で浮気や何股もする男が挙げられる。
そういう男は、恋人や配偶者は自分が浮気をしても、絶対に別れると言わない自信を持って、相手の愛情を利用したり、金銭的な自立を盾にしたりでやりたい放題だ。
俺は父を深く尊敬していた訳ではないが、いずれ祖父や父のいる会社に入るつもりでいたから、相当なショックを受けた。
『相手は?』
強張った表情で尋ねると、母はしばらく黙ったあと溜め息混じりに言う。
『ホステスみたい。顔がいい上に、頭のいい人みたいで、……魅力的だったのかしらね』
疲れ切った表情で言った母は、立ちあがると電話台の引き出しから名刺を出す。
テーブルの上に置かれたそれには、真っ赤なダリアの写真を背景に〝だりや〟と書かれてあった。
『……ちょっと、これ借りていい? 父さんの会社にも行ってみるけど、話ができたら教えるから』
怒りを押し殺して言うと、以前より痩せたように思える母は、力なく頷いた。
**
自宅マンションに帰って件のホステスについて調べると、すぐに在籍しているクラブと顔が分かった。
パッと見て、華やかな美人だとは思った。
だが整形をしていてもおかしくないし、家庭のある男をたぶらかすぐらいだから、ロクな女ではないと結論づけた。
(店に行っても、黒服に追い返されて終わりだろうな。……やっぱり会社に行って、親父と直接話すか)
店のキャストに『うちの親父をたぶらかすな』と言っても、店側からすれば言いがかりをつけられていると思うだろう。
それに親父が自分の意志で店に通っているなら、何をやっても根本的な解決にはならない。
俺は重たい気持ちでカレンダーアプリを見て、月曜日の終業ギリギリを見計らって、祖父の会社へ行く事にした。
月曜日、会社の受付まで行くと、俺の顔を覚えている受付嬢が会釈した。
父に会いに来たと伝えるとすぐに連絡してくれ、ほどなくして俺は入館証を首から下げてIDリーダーを通った。
専務室へ向かうと、秘書が俺を迎えた。
『少し待ってなさい』
デスクについている父は顔も上げずに言い、俺は溜め息をついて応接ソファに座る。
秘書が出してくれたお茶を飲み、イライラしながらスマホを弄って待っていると、やがて父はパソコンをシャットダウンして立ちあがった。
向かいのソファに腰かけた父を見て、俺はわざとらしい溜め息をついてから脚を組み、ストレートに尋ねる。
『浮気してるって?』
父は俺に目を見ず、宙空を見つめて押し黙る。
『……理由がある』
『浮気に理由もクソもねぇだろ。結婚したのに妻以外の女に入れ込み、関係を結んだならそれが浮気だ。とっとと別れて母さんに土下座しろ』
吐き捨てるように言うと、父は深い溜め息をついて首を左右に振った。
『そう簡単な話じゃない。子供が口を出すな』
〝子供〟と言われ、カチンときた。
『じゃあ俺も、親父みたいにいい所のお嬢さんと結婚して、ホステスと浮気して家庭を壊し、周囲の人の面目を潰す立派な大人になろうかね!』
『秀弥!』
父が怒鳴るが、まっとうな事をしてない奴の説教なんて聞く価値もない。
『せいぜい整形女のATMになれよ。じゃあな、クソジジイ』
俺はそう言い、専務室をあとにした。
**
結局母を安心させる事はできず、親父との確執を深めただけだ。
あとになってから、我ながらカッとなって喧嘩腰になってしまったと反省したが、後の祭りだ。
だが冷静に話したとしても、親父はあの態度を変える事はなかっただろう。
簡単に〝理由〟とやらを話してくれる雰囲気ではなかったし、どれだけ粘っても親父が家に帰り、もとの三人家族に戻る事はない。
(どうすりゃいいんだ……)
周りからどう見られるかとか、そんな事はどうでもいい。
お嬢様育ちで人に裏切られた事なんてなさそうな母が、このままズタズタに傷付いていくのを見るのは耐えられなかった。
そういう男は、恋人や配偶者は自分が浮気をしても、絶対に別れると言わない自信を持って、相手の愛情を利用したり、金銭的な自立を盾にしたりでやりたい放題だ。
俺は父を深く尊敬していた訳ではないが、いずれ祖父や父のいる会社に入るつもりでいたから、相当なショックを受けた。
『相手は?』
強張った表情で尋ねると、母はしばらく黙ったあと溜め息混じりに言う。
『ホステスみたい。顔がいい上に、頭のいい人みたいで、……魅力的だったのかしらね』
疲れ切った表情で言った母は、立ちあがると電話台の引き出しから名刺を出す。
テーブルの上に置かれたそれには、真っ赤なダリアの写真を背景に〝だりや〟と書かれてあった。
『……ちょっと、これ借りていい? 父さんの会社にも行ってみるけど、話ができたら教えるから』
怒りを押し殺して言うと、以前より痩せたように思える母は、力なく頷いた。
**
自宅マンションに帰って件のホステスについて調べると、すぐに在籍しているクラブと顔が分かった。
パッと見て、華やかな美人だとは思った。
だが整形をしていてもおかしくないし、家庭のある男をたぶらかすぐらいだから、ロクな女ではないと結論づけた。
(店に行っても、黒服に追い返されて終わりだろうな。……やっぱり会社に行って、親父と直接話すか)
店のキャストに『うちの親父をたぶらかすな』と言っても、店側からすれば言いがかりをつけられていると思うだろう。
それに親父が自分の意志で店に通っているなら、何をやっても根本的な解決にはならない。
俺は重たい気持ちでカレンダーアプリを見て、月曜日の終業ギリギリを見計らって、祖父の会社へ行く事にした。
月曜日、会社の受付まで行くと、俺の顔を覚えている受付嬢が会釈した。
父に会いに来たと伝えるとすぐに連絡してくれ、ほどなくして俺は入館証を首から下げてIDリーダーを通った。
専務室へ向かうと、秘書が俺を迎えた。
『少し待ってなさい』
デスクについている父は顔も上げずに言い、俺は溜め息をついて応接ソファに座る。
秘書が出してくれたお茶を飲み、イライラしながらスマホを弄って待っていると、やがて父はパソコンをシャットダウンして立ちあがった。
向かいのソファに腰かけた父を見て、俺はわざとらしい溜め息をついてから脚を組み、ストレートに尋ねる。
『浮気してるって?』
父は俺に目を見ず、宙空を見つめて押し黙る。
『……理由がある』
『浮気に理由もクソもねぇだろ。結婚したのに妻以外の女に入れ込み、関係を結んだならそれが浮気だ。とっとと別れて母さんに土下座しろ』
吐き捨てるように言うと、父は深い溜め息をついて首を左右に振った。
『そう簡単な話じゃない。子供が口を出すな』
〝子供〟と言われ、カチンときた。
『じゃあ俺も、親父みたいにいい所のお嬢さんと結婚して、ホステスと浮気して家庭を壊し、周囲の人の面目を潰す立派な大人になろうかね!』
『秀弥!』
父が怒鳴るが、まっとうな事をしてない奴の説教なんて聞く価値もない。
『せいぜい整形女のATMになれよ。じゃあな、クソジジイ』
俺はそう言い、専務室をあとにした。
**
結局母を安心させる事はできず、親父との確執を深めただけだ。
あとになってから、我ながらカッとなって喧嘩腰になってしまったと反省したが、後の祭りだ。
だが冷静に話したとしても、親父はあの態度を変える事はなかっただろう。
簡単に〝理由〟とやらを話してくれる雰囲気ではなかったし、どれだけ粘っても親父が家に帰り、もとの三人家族に戻る事はない。
(どうすりゃいいんだ……)
周りからどう見られるかとか、そんな事はどうでもいい。
お嬢様育ちで人に裏切られた事なんてなさそうな母が、このままズタズタに傷付いていくのを見るのは耐えられなかった。
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