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意外と話が合いそうだな
私としては、正直、秀弥さんがここまで亮と向き合うと思っていなかった。
二人とも血気盛んなタイプではないし、物事に冷静に対処できる。
でも恋愛が絡むとどうなるか分からず、顔を合わせたら凄い争いが始まるんじゃ……と怯えていた。
けれど秀弥さんは敵意を見せず、興味を隠さずグイグイいくので、亮も戸惑って毒気を抜かれている。
そのタイミングでパフェが運ばれてきて、私は非常に微妙な気持ちでスプーンを持った。
甘い物を食べて気持ちを紛らわせようと思ったけれど、思いのほかパフェが美味しくて、気がついたら夢中になってスプーンを動かしていた。
そんな私を、二人は呆れの籠もった目でジーッと見ている。
「……すーぐ甘いもんの虜になる」
秀弥さんが言い、亮もボソッと同意する。
「ホント。それであとで体重計乗って後悔するんだ」
こういう時は息がぴったりだな……。
「……そんで、あんたは夕貴と結婚するつもりなんだな?」
溜め息をついた亮が話を元に戻し、秀弥さんは頷く。
「だな」
「俺を『邪魔』だと思わない訳?」
「言ったろ? 義弟になる亮くんとはうまくやりたいと思ってるって」
秀弥さんは飄々とした表情で軽く笑む。
「俺が夕貴を連れて、どこかに逃げるって言ったら?」
亮の言葉を聞いてドキッとしたけれど、秀弥さんは表情を変えない。
「夕貴も結婚も譲らない。逃げられたらどこまでも追いかけて、夕貴を連れ帰る」
秀弥さんの強い想いを感じ、私は彼の独占欲に被虐的な悦びを覚えてしまった。
「そんなんで俺と〝仲良く〟できるとでも? あんたはバカじゃないはずだ。俺が何を望んでいるか分かっているだろ?」
亮に見つめられた秀弥さんは、意味深に微笑んで黙る。
やがて彼は微笑んだまま、真剣な眼差しで言った。
「共通の敵を黙らせる事」
話題が高瀬さんになり、亮はハッとして表情を引き締める。
「……先日は亮くんの話も聞かずに、勝手に動いて悪かった。でも君や夕貴が相対するより、直接関係のない俺が会ったほうが冷静に話せると判断した」
亮は少しの間視線を落としていたけれど、秀弥さんを見て尋ねた。
「あいつ、なんて言っていた?」
それに秀弥さんは黙って首を左右に振った。
「……なんて言うのかな。高瀬はだいぶ歪んでる。一見まともに見えて、受け答えがしっかりした聡明な女性という雰囲気がある。でも倫理観や一般常識がズレたまま成長してしまった感じで、根底の価値観が合わない。ボタンを一つ掛け違えたまま会話している印象だった。彼女は君が迷惑がっている事を自覚していないし、自分は亮くんの理解者で運命の相手だと信じ込んでいる」
「……だろうな」
亮は溜め息をつき、頷いた。
「大学を卒業してから会わなくなって、俺という刺激から離れたら、社会に揉まれて丸く、まともになっていくと少し期待していた。……でも全然だな。あんたから話を聞いただけで、高瀬がどんな表情で俺を語っていたのかすぐに想像できた」
私は先日話しかけてきた奈々ちゃんを思い出し、あの爽やかな女性が、心の奥底にとてつもない闇を抱えているのを思い、小さく身を震わせる。
秀弥さんはコーヒーを一口飲んで言った。
「アインシュタインの言葉だけど、『常識とは十八歳までに積み上げられた、先入観の堆積物である』っていうのがある。たとえば一言で〝愛〟と言っても、それぞれの愛し方があるだろう。でも大体の人は相手の迷惑にならないように、ある程度アプローチしてなびかなかったら引くとか、相手に恋人や好きな人がいると知った時点で諦める。中には『恋は奪うもの』と考えるやつもいるだろう。相手が別れるのを虎視眈々と待つ者がいたり、相手がいるのにも拘わらず関係を結ぼうとするのもいる」
秀弥さんの言葉を聞き、私は小さく頷いた。
「高瀬は十八歳になる間に、愛の定義が歪んでしまったんだろうな。相手の事を考えるより、自分がいかに想っているかを重視している。……というか、『自分さえ良ければ、亮くんの気持ちすらどうでもいい』と考えているな。それを『自分ほど亮くんの事を考えている女はいない』と思い込み、耳障りのいい言葉でごまかしているだけだ」
スパッと言い切った秀弥さんの言葉を聞き、亮は少し笑った。
「……あんた、意外と話が合いそうだな」
「それはどうも」
秀弥さんは微笑み、テーブルの下でゆったりと脚を組む。
そのあと、彼は小首を傾げて亮に尋ねた。
「俺は夕貴と一緒に、そのうちもっとセキュリティの効いたマンションに引っ越す予定だ。コンシェルジュや警備員がいるところなら、押しかけられてもなんとかできる。……亮くんは?」
尋ねられ、亮は頷いた。
「俺も近いうちに、いい物件を見つけ次第実家を出るつもりだ」
「えっ」
それを聞き、私は声を漏らした。
二人とも血気盛んなタイプではないし、物事に冷静に対処できる。
でも恋愛が絡むとどうなるか分からず、顔を合わせたら凄い争いが始まるんじゃ……と怯えていた。
けれど秀弥さんは敵意を見せず、興味を隠さずグイグイいくので、亮も戸惑って毒気を抜かれている。
そのタイミングでパフェが運ばれてきて、私は非常に微妙な気持ちでスプーンを持った。
甘い物を食べて気持ちを紛らわせようと思ったけれど、思いのほかパフェが美味しくて、気がついたら夢中になってスプーンを動かしていた。
そんな私を、二人は呆れの籠もった目でジーッと見ている。
「……すーぐ甘いもんの虜になる」
秀弥さんが言い、亮もボソッと同意する。
「ホント。それであとで体重計乗って後悔するんだ」
こういう時は息がぴったりだな……。
「……そんで、あんたは夕貴と結婚するつもりなんだな?」
溜め息をついた亮が話を元に戻し、秀弥さんは頷く。
「だな」
「俺を『邪魔』だと思わない訳?」
「言ったろ? 義弟になる亮くんとはうまくやりたいと思ってるって」
秀弥さんは飄々とした表情で軽く笑む。
「俺が夕貴を連れて、どこかに逃げるって言ったら?」
亮の言葉を聞いてドキッとしたけれど、秀弥さんは表情を変えない。
「夕貴も結婚も譲らない。逃げられたらどこまでも追いかけて、夕貴を連れ帰る」
秀弥さんの強い想いを感じ、私は彼の独占欲に被虐的な悦びを覚えてしまった。
「そんなんで俺と〝仲良く〟できるとでも? あんたはバカじゃないはずだ。俺が何を望んでいるか分かっているだろ?」
亮に見つめられた秀弥さんは、意味深に微笑んで黙る。
やがて彼は微笑んだまま、真剣な眼差しで言った。
「共通の敵を黙らせる事」
話題が高瀬さんになり、亮はハッとして表情を引き締める。
「……先日は亮くんの話も聞かずに、勝手に動いて悪かった。でも君や夕貴が相対するより、直接関係のない俺が会ったほうが冷静に話せると判断した」
亮は少しの間視線を落としていたけれど、秀弥さんを見て尋ねた。
「あいつ、なんて言っていた?」
それに秀弥さんは黙って首を左右に振った。
「……なんて言うのかな。高瀬はだいぶ歪んでる。一見まともに見えて、受け答えがしっかりした聡明な女性という雰囲気がある。でも倫理観や一般常識がズレたまま成長してしまった感じで、根底の価値観が合わない。ボタンを一つ掛け違えたまま会話している印象だった。彼女は君が迷惑がっている事を自覚していないし、自分は亮くんの理解者で運命の相手だと信じ込んでいる」
「……だろうな」
亮は溜め息をつき、頷いた。
「大学を卒業してから会わなくなって、俺という刺激から離れたら、社会に揉まれて丸く、まともになっていくと少し期待していた。……でも全然だな。あんたから話を聞いただけで、高瀬がどんな表情で俺を語っていたのかすぐに想像できた」
私は先日話しかけてきた奈々ちゃんを思い出し、あの爽やかな女性が、心の奥底にとてつもない闇を抱えているのを思い、小さく身を震わせる。
秀弥さんはコーヒーを一口飲んで言った。
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秀弥さんの言葉を聞き、私は小さく頷いた。
「高瀬は十八歳になる間に、愛の定義が歪んでしまったんだろうな。相手の事を考えるより、自分がいかに想っているかを重視している。……というか、『自分さえ良ければ、亮くんの気持ちすらどうでもいい』と考えているな。それを『自分ほど亮くんの事を考えている女はいない』と思い込み、耳障りのいい言葉でごまかしているだけだ」
スパッと言い切った秀弥さんの言葉を聞き、亮は少し笑った。
「……あんた、意外と話が合いそうだな」
「それはどうも」
秀弥さんは微笑み、テーブルの下でゆったりと脚を組む。
そのあと、彼は小首を傾げて亮に尋ねた。
「俺は夕貴と一緒に、そのうちもっとセキュリティの効いたマンションに引っ越す予定だ。コンシェルジュや警備員がいるところなら、押しかけられてもなんとかできる。……亮くんは?」
尋ねられ、亮は頷いた。
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「えっ」
それを聞き、私は声を漏らした。
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