89 / 114
推測
「はぁ……」
亮から話を聞き終えた私は、深い溜め息をつく。
黙っている間、亮は料理を続けていた。
「……じゃあそのうち、家に帰って私の口からちゃんと伝えたほうがいいね」
筋を通さないとと思って言ったけれど、彼の意見は違ったみたいだった。
「調子のいい時でいいんでない?」
「……というと?」
「今、相当参ってるだろ。会社から早退した理由はまだ聞いてないけど、『辞める』って言ってるって事は、会社でも何かあったんだろ」
図星を突かれた私は肩を落とす。
「……言ってみ。大体は予想ついてるから」
ありがたいのは、亮がいつもと変わらない調子で話してくれているところだ。
今回の騒ぎで各方面に迷惑を掛けてしまい、亮だって怒っているはずだ。
けれど感情を高ぶらせず淡々としているので、私も落ち着いていられる。
「……実は……」
私は亮がご飯を作っているのを見ながら、ポツポツと先日あった事を話し始めた。
語っているうちに追体験した感覚に陥り、感情が高ぶって泣いてしまいそうになる。
でも秀弥さんの言葉を思い出し、「ここは安全な場所だから」と自分に言い聞かせる。
けれどすべてを語ったあとは、精神的にとても疲れてしまった。
「……つらかったな」
話し終わったあと、まず亮はそうねぎらってくれた。
「……うん」
彼の言葉を聞いた瞬間、フッ……と肩の力が抜ける。
とても複雑な関係だけれど、私にとって秀弥さんと亮は心から信頼できる相手だ。
どんな時も二人が味方をしてくれるなら、これから先何があってもなんとか乗り越えられる気がした。
亮は湯がいたほうれん草をすり胡麻で和えつつ、溜め息混じりに言う。
「そういう暇な奴ってどこにでもいるんだよ。そのいつも仕事を押しつけてきた女、おおかた西崎さんの事を狙ってたんだろ? 自分より〝下〟だと思ってる夕貴が、いい思いをしてるのが気に食わないんだよ。ちょっとでも足を引っ張れる要素を見つけたら、仲間と一緒に嬉々としてはやし立てる。あたかも正しい事を言ってるというようにな」
私は彼女たちの歪んだ嘲笑を思いだし、溜め息をつく。
「でも悪口、陰口で繋がってる奴らの関係って脆いもんだぜ。ちょっとでも分が悪くなったらすぐ離れていく。巻き添えを食らうのが怖くて適当に話を合わせてる奴らも、劣勢になったら何も言わずに離れていく。……もしくは良心が痛んで、影で密告するとかな」
「……そんなふうにすぐ裏切るなら、最初からつるまなければいいのに」
まったく理解できず、私は溜め息をつく。
「弱いから一人じゃいられないんだよ。夕貴がそいつらに知らせてない〝事情〟があるように、そいつらにも〝事情〟がある。でも痛みを堪えて良い方向に進む力はなく、似たようなもん同士集まって傷の舐め合いをして、共通の敵を叩いて快楽を得てるんだ」
「……私、そこまでされる価値はないと思うけど。やっぱり秀弥さんと仲がいいからかな」
「それもあると思うし、夕貴は美人だ。本人は無自覚でも陰ながらモテてるんだろ。仕事を押しつけてもいつもニコニコしてるから、いじめ甲斐がないって思われてるんじゃないか? 『シンデレラ』を思い出せよ。ブスで性格の悪い継姉たちは、美しくて働き者で性格のいいシンデレラをいじめる。相手が自分にないものを持ってるって本能で分かってるから、攻撃するしか選択肢がなくなるんだよ。……普通の奴なら『この人いい人だな』と感じたり、憧れたら仲良くなろうと思うもんだけど」
「はぁ……」
私は重たい溜め息をつき、テーブルに突っ伏す。
「……それより、社内の噂ってどう広まったんだろうな?」
「え?」
意外な事を言われ、私は顔を上げる。
「確かに総務部から漏れたんだろうし、センセーショナルな話題だから誰かに言いたくなるだろう。……でも桧物谷食品は普段から、問い合わせメールの内容が社内全体に回るようなところか? 有益なクレームなら、改善点としてしかるべき部署に伝えられるだろう。いい感想とかもな。……それ以外の捨て置くべきクレームまで、皆に共有するものか?」
「……あ……」
亮の言う通り、今回は社員のプライベートに関わる事だから、一般的なクレームよりは興味を引かれるだろう。
メールを開封した人や報告を受けた上長などは、もしかしたら私的なところで他言するかもしれない。
けれど大体はそこで情報が止まるはずだ。
話が広まったら発生源を辿られ、誰が口を滑らせたのか追求されて責任を問われてしまう。
取り扱い注意な情報を扱っているからこそ、普通は口は固くなるものだ。
(なのに、どうして今回だけ悪意のある広まり方をしたんだろう)
疑問を持つと、正体の分からない第三者の存在が恐ろしくなってきた。
亮から話を聞き終えた私は、深い溜め息をつく。
黙っている間、亮は料理を続けていた。
「……じゃあそのうち、家に帰って私の口からちゃんと伝えたほうがいいね」
筋を通さないとと思って言ったけれど、彼の意見は違ったみたいだった。
「調子のいい時でいいんでない?」
「……というと?」
「今、相当参ってるだろ。会社から早退した理由はまだ聞いてないけど、『辞める』って言ってるって事は、会社でも何かあったんだろ」
図星を突かれた私は肩を落とす。
「……言ってみ。大体は予想ついてるから」
ありがたいのは、亮がいつもと変わらない調子で話してくれているところだ。
今回の騒ぎで各方面に迷惑を掛けてしまい、亮だって怒っているはずだ。
けれど感情を高ぶらせず淡々としているので、私も落ち着いていられる。
「……実は……」
私は亮がご飯を作っているのを見ながら、ポツポツと先日あった事を話し始めた。
語っているうちに追体験した感覚に陥り、感情が高ぶって泣いてしまいそうになる。
でも秀弥さんの言葉を思い出し、「ここは安全な場所だから」と自分に言い聞かせる。
けれどすべてを語ったあとは、精神的にとても疲れてしまった。
「……つらかったな」
話し終わったあと、まず亮はそうねぎらってくれた。
「……うん」
彼の言葉を聞いた瞬間、フッ……と肩の力が抜ける。
とても複雑な関係だけれど、私にとって秀弥さんと亮は心から信頼できる相手だ。
どんな時も二人が味方をしてくれるなら、これから先何があってもなんとか乗り越えられる気がした。
亮は湯がいたほうれん草をすり胡麻で和えつつ、溜め息混じりに言う。
「そういう暇な奴ってどこにでもいるんだよ。そのいつも仕事を押しつけてきた女、おおかた西崎さんの事を狙ってたんだろ? 自分より〝下〟だと思ってる夕貴が、いい思いをしてるのが気に食わないんだよ。ちょっとでも足を引っ張れる要素を見つけたら、仲間と一緒に嬉々としてはやし立てる。あたかも正しい事を言ってるというようにな」
私は彼女たちの歪んだ嘲笑を思いだし、溜め息をつく。
「でも悪口、陰口で繋がってる奴らの関係って脆いもんだぜ。ちょっとでも分が悪くなったらすぐ離れていく。巻き添えを食らうのが怖くて適当に話を合わせてる奴らも、劣勢になったら何も言わずに離れていく。……もしくは良心が痛んで、影で密告するとかな」
「……そんなふうにすぐ裏切るなら、最初からつるまなければいいのに」
まったく理解できず、私は溜め息をつく。
「弱いから一人じゃいられないんだよ。夕貴がそいつらに知らせてない〝事情〟があるように、そいつらにも〝事情〟がある。でも痛みを堪えて良い方向に進む力はなく、似たようなもん同士集まって傷の舐め合いをして、共通の敵を叩いて快楽を得てるんだ」
「……私、そこまでされる価値はないと思うけど。やっぱり秀弥さんと仲がいいからかな」
「それもあると思うし、夕貴は美人だ。本人は無自覚でも陰ながらモテてるんだろ。仕事を押しつけてもいつもニコニコしてるから、いじめ甲斐がないって思われてるんじゃないか? 『シンデレラ』を思い出せよ。ブスで性格の悪い継姉たちは、美しくて働き者で性格のいいシンデレラをいじめる。相手が自分にないものを持ってるって本能で分かってるから、攻撃するしか選択肢がなくなるんだよ。……普通の奴なら『この人いい人だな』と感じたり、憧れたら仲良くなろうと思うもんだけど」
「はぁ……」
私は重たい溜め息をつき、テーブルに突っ伏す。
「……それより、社内の噂ってどう広まったんだろうな?」
「え?」
意外な事を言われ、私は顔を上げる。
「確かに総務部から漏れたんだろうし、センセーショナルな話題だから誰かに言いたくなるだろう。……でも桧物谷食品は普段から、問い合わせメールの内容が社内全体に回るようなところか? 有益なクレームなら、改善点としてしかるべき部署に伝えられるだろう。いい感想とかもな。……それ以外の捨て置くべきクレームまで、皆に共有するものか?」
「……あ……」
亮の言う通り、今回は社員のプライベートに関わる事だから、一般的なクレームよりは興味を引かれるだろう。
メールを開封した人や報告を受けた上長などは、もしかしたら私的なところで他言するかもしれない。
けれど大体はそこで情報が止まるはずだ。
話が広まったら発生源を辿られ、誰が口を滑らせたのか追求されて責任を問われてしまう。
取り扱い注意な情報を扱っているからこそ、普通は口は固くなるものだ。
(なのに、どうして今回だけ悪意のある広まり方をしたんだろう)
疑問を持つと、正体の分からない第三者の存在が恐ろしくなってきた。
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ブラック企業を退職したら、極上マッサージに蕩ける日々が待ってました。
イセヤ レキ
恋愛
ブラック企業に勤める赤羽(あかばね)陽葵(ひまり)は、ある夜、退職を決意する。
きっかけは、雑居ビルのとあるマッサージ店。
そのマッサージ店の恰幅が良く朗らかな女性オーナーに新たな職場を紹介されるが、そこには無口で無表情な男の店長がいて……?
※ストーリー構成上、導入部だけシリアスです。
※他サイトにも掲載しています。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
藤白ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。