【R-18】上司と継弟に求められて~私と彼と彼の爛れた生活~

臣桜

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夢の終わり

 救急車の中で私は救急隊員に何があったかを説明し、残る時間、気を揉みながら亮を見守った。

 彼は眉間に皺を寄せて青白い顔をし、脂汗を流している。

「亮、頑張って。……っお願い。死なないで……っ!」

 私は両手をギュッと組んで彼に声を掛け続ける。

 亮は時々うっすらと目を開けて私を見、何か言おうと唇を開くけれど、声を出す事なく酸素マスクを曇らせた。

「亮、大丈夫だからね……っ」

 そう言う私の声は酷く震えていて、お腹の底に重たくて冷たいものを放り込まれたような感覚を味わっている。

 ――嫌だ。

 ――いなくならないで。

 ――嫌。絶対に嫌。

 怖くて堪らなく、涙が次から次に溢れてくる。

 私は嗚咽してしまいそうになるのを必死に堪え、ガタガタと震える体を叱咤して亮に声を掛け続けた。





 病院に到着したあと亮は処置室に運ばれ、私は促されるまま窓口で手続きをした。

 幸いにも、亮はお財布の中に保険証などを入れておくタイプで、外出から帰ったタイミングで襲われたので、荷物の中に必要な物は揃っていた。

 あとは待つだけという時になって、ようやっと私は両親の存在を思いだした。

 外の空気を吸いたいと思ったのもあり、私は一度外に出ると母に電話を掛けた。

(お父さん、なんて思うだろう。私さえいなければ、亮は刺される事はなかったのに)

《もしもし》

 母の声が聞こえた瞬間、私はボロッと涙を流してしまった。

 今までは「一番つらいのは亮なんだから、泣いて心配させたら駄目だ」と自分に言い聞かせ、涙を堪えていた。

 それが母の声を聞いて緊張の糸が切れたのか、私は激しく嗚咽し始めてしまった。

《もしもし? 夕貴? どうしたの?》

 私はその場にゆっくりとうずくまり、全身を震わせて泣く。

 ――私のせいだ。

 都会の真ん中で一人泣いていると、この上ない孤独を感じる。

 いつもなら秀弥さんか亮がすぐに『どうした?』と声を掛けて話を聞いてくれるのに、今は誰もいない。

 こうなって初めて、いかに自分が二人の存在に救われていたのかを思い知らされた。

「……っ、ごめ……っ、なさ……っ」

 私はスマホを手にしたまま地面に両手をつき、慟哭した。





 いつだったか、亮に抱かれたあとの事を思い出す。

 ラブホの天井を見上げて『今回も流されてしてしまった……』と罪悪感に駆られていると、亮が私の手を握ってくる。

『俺、夕貴のためなら死ねる』

『な、何言ってるの?』

 いきなり重たい事を言われ、私はギョッとして弟を見る。

 すると彼はとても穏やかな顔で笑っている。

『初めて大切なものができたんだ。……命ぐらい懸けさせてくれよ』

『私のためなんかに死んでほしくない』

『バカ。俺の大切なもんに〝なんか〟って言うな』

 亮は不服そうに言い、ピシッと私の額にデコピンしてくる。

『いたっ』

 両手で額を押さえた私を見て、亮はクシャッと笑って私の頭を撫でた。

『もっと自己肯定感上げろよ。お前、色んな事をちゃんとしてて偉いんだから』

 褒めてもらえるのは嬉しいけれど、連れ子同士でラブホに来ているなんて、全然〝ちゃんと〟していない。

 フカフカの布団の中、亮のぬくもりに包まれた私は疲れからの眠気で目を瞬かせる。

(こんなふうに愛されて、甘やかされたら、駄目人間になっちゃう)

 けれど、亮と一緒にベッドで寝た温度は、この身に刻まれたかのように覚えている。

 罪悪感を抱いていたけれど、あの時は確かにとても幸せなひとときを過ごしていたのだ。



**



 ふ……っ、と途切れるように夢が終わり、私はゆっくり目を開ける。

 夜闇の中、開け放たれた窓から絶え間なく潮騒が聞こえる。

 ――あぁ、そうか。ここは……。

〝今〟がいつなのか、どこにいるのかを思いだした私は、静かに息を吐いて自分が昔の夢を見ていたのだと理解した。
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