【R-18】上司と継弟に求められて~私と彼と彼の爛れた生活~

臣桜

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事の顛末

 私はゆっくりと起き上がり、静かに溜め息をつく。

 廊下からは明かりが漏れていて、その向こうからはボリュームを控えめにしたテレビの音が聞こえる。

 私は体に纏わり付くリゾートワンピースのスカートと格闘し、キングサイズのベッドから下りた。

 室内の電気をつけないままテラスに出ると、目の前には黒い海と零れんばかりの星空が広がる。

 その前にはインフィニティプールがあり、ライトに照らされたプールは真っ青に光っていた。

 今は十二月だけれど、ここは年中暖かい。

 私はテラスの柵にもたれかかってしばらく潮騒を聞いたあと、ソファに座って膝を抱える。

〝あの時〟の恐怖は私の心をずっと支配し、なかなか離れてくれない。

 まるで靴底にべったりと張り付いたガムのようだ。

 もう高瀬さんに狙われる心配はないのに、今もどこからか彼女が現れそうな気がして、とてつもなく恐ろしくなる時がある。

 ――どうして私たちだったんだろう。

 何度も自分に問いかけ、答えの出ない疑問に苦しんだ。

 秀弥さんは『アクシデントって重なるものだ』と言っていたし、あの頃は本当に色んな偶然が重なって、バタバタとドミノ倒しのように悪い事が起こったのだと思っている。

 けれど、人は立て続けに不幸に見舞われたら、まともな思考回路になれなくなる。

 自分や大切な人を守るのに精一杯になった私は、事件の直後、必要以上に心配性になり、起こってもいない事を心配したり、常に誰かを疑い続けていた。

 それを宥め、支え続けてくれた周囲の人には、感謝してもしきれない。

「……大丈夫」

 目を閉じて自分に言い聞かせた時、「夕貴」と後ろから声を掛けられた。

 ハッとして振り向くと、そこには亮が立っている。

「そろそろ飯だから呼びに来た」

「うん」

 彼はビーチサンダルを履いた足でゆっくりと近づき、私の隣に座る。

「どうした? 考え事か?」

 亮は手を延ばし、私の頬をスリスリと撫でてくる。

「……うん。……あの時の夢を見ちゃって、少し気持ちを落ち着かせてた」

 正直に言うと、亮は溜め息をついて私を抱き寄せてきた。

「大丈夫だ。俺はここにいる」

「うん……」





 高瀬さんに襲われた時、とっさに私を庇った亮は腹部を刺され、大きな血管を損傷した。

 その後、病院に到着するなり、CTなどを撮ったあとに緊急手術となった。

 一時は大量出血から血圧が低くなって危険な状態になったらしいが、輸血をした上で根本治療を施し、吻合ふんごう術により血管が繋げられ事なきを得た。

 大変な手術だったみたいだけど、亮は翌朝には目覚め、抗生物質の点滴を受けて薬を飲み、回復に向かっていった。

 手術から三日目には食事ができるようになり、その後二か月のリハビリを必要としたけれど、いま彼はこうして側にいる。

 高瀬さんは逮捕されたあと起訴され、懲役六年の判決が出された。

 前科がない事は認められたが、あの時亮がとっさにスマホでやり取りを録音した音声データにより、私たちに付きまとっていた事や、過去に亮に性加害していた事も判明した。

 亮もこれで彼女との連鎖を断ち切りたいと思ったらしく、学生時代に高瀬さんたちに何をされたのかを隠さずに話した。

 当時、彼が被害を受けた証拠はないに等しいし、十年近くの時が経っている。

 けれど勾留されて大人しくなった高瀬さんは、捜査に協力的になって過去の罪を自ら認めた。

 亮が学生時代に加害された事については時効を迎えてしまったけれど、過去のしがらみが今も続き、ストーカー行為をした上での凶行だと判明し、もともとは私を殺すつもりだったという殺人未遂も加わり、高瀬さんは重めの求刑をされた。

 亮が普通に生活を送れるようになるまで二か月。

 高瀬さんが起訴され、裁判が開かれたのも約二か月後だ。

 すべてに決着がついた頃には、年末になっていた。

 秀弥さんは私と亮のサポートをする傍ら出社し、潮時を感じて自分も今年いっぱいで桧物谷食品を退社すると決めた。

 年末は皆でゆっくり過ごし、年が明けたあと、私たちは何にも縛られずゆっくりしたいと思い、バリ島にあるヴィラでゆっくりと過ごす事にしたのだった。





「チチャの声がする」

 夜闇のどこかからか、チチチチ……と小鳥のような声が聞こえ、私は亮に微笑みかける。
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