【R-18】上司と継弟に求められて~私と彼と彼の爛れた生活~

臣桜

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悪魔

「どうしたの? 秀弥さん」

 尋ねると、彼は目を見開いてカップルを凝視していた。

 そして近づいてきた中年カップルも、私が「秀弥」と言ったのを聞いてこちらを見た。

「……やだ。嘘。……秀弥くん? えー? マジぃ?」

 女性は三十代後半で、五十代半ばの男性とはかなりの年の差カップルと言える。

 それに、やけに若々しく振る舞っているところ、秀弥さんを知っていそうなところに、私はザワリと心を波立たせて彼の手を握った。

「……秀弥なのか……」

 男性がこちらに近づいてきて、夕焼けに照らされた秀弥さんを見る。

 彼はいつも余裕たっぷりな雰囲気なのに、顔色を真っ青にさせて二人を見ていた。

「……おい、大丈夫か」

 亮が尋ねたけれど、秀弥さんは立ちあがって二人に相対する。

「なんで生きてるんだよ! お前ら、死んだはずだろうが!」

 動揺した彼が叫んだ言葉を聞き、私はとある事を思いだした。

 秀弥さんの父を誘惑した若い女性は、息子にまで毒牙に掛け、挙げ句父親と心中を図った。

 ――けど、心中したと見せかけて生きていたなら?

 秀弥さんは一度も、二人が心中した現場を見たと言っていなかった。

 女性は「あはは!」と笑い、ゆったりとした足取りでこちらに近づいてきた。

「あのおばさん……、夏帆かほさんだっけ? 龍一さんが私を選んだと知って、現実を受け入れられなくなったんじゃない? 今だって精神病院に入院してるんでしょ? 息子に『お前の父親は浮気相手を選んだ』なんて言えないし、妻としての自分のプライドも保てない。……だから私たちが心中した事にして、『二度と顔を見せるな』と言ったのよね~。その嘘を信じてた秀弥くんもかーわいぃ」

 邪悪な笑い方をする女性の話を聞き、秀弥さんは真っ青になっている。

「……俺は……、親父の葬儀に出た」

 けれど女性はクスクス嗤って言う。

「ねーぇ、それって棺の中に入っているお父さんの顔、ちゃんと見た? 『見られる状態じゃない』とか言われて、顔を確認してないんじゃなかったの? なんちゃって火葬ごっこして夏帆さんは、自分を捨てた夫を葬り去ったんだね~! あはは! そこまでやる必要ないと思うけど。『お母さんは若くてピチピチな女性に負けて、夫を寝取られたの。情けないけど、母子で慎ましやかに生きていきましょうね』って正直に言えば良かったのに! あははははは!」

 私は呆然として女性がけたたましく笑っているのを見つめていた。

 亮もまさか秀弥さんの亡くなったはずの父親、そして浮気相手に遭遇すると思わず、呆気にとられている。

 秀弥さんは――、目を見開いて二人を見つめ、魂が抜けたように放心していた。

 亮は秀弥さんのその様子を見て、グッと拳を握ると立ちあがり、彼を守るように前に立った。

「今はもう他人なら、わざわざ声を掛けて彼を傷つける事もないんじゃないですか? あなたのやっている事は、ただの悪意です」

「あれー? ……ねぇ、そういえば君たちって何なの? どうして男二人、女一人でバリにいるの? 日本人なら旅行で来てるんでしょ? 三人の関係で旅行できるような感じなの? あはっ」

 女性に嘲笑われ、私は嫌な感情が胸に巣くうのを感じる。

 でも今は秀弥さんを守らないと駄目だと感じた。

 私も立ちあがり、二人に対峙する。

「私たちが何であろうが、通りすがりのあなたには関係ないと思います。あなた達だって、自分たちの関係を行く先々の人に説明している訳じゃないでしょう? 一つの家族を壊して、夫を寝取っただけじゃなく、当時大学生の息子にまで毒牙に掛け、家庭崩壊させたなんて、普通の神経の人なら自慢げに言えませんものね」

 私は秀弥さんを傷つけられ、怒っていた。

 だから言葉に棘が籠もってしまったけど、そう言った事を後悔していない。

 ずっとバリ島に来てから、ぼんやりと夢の狭間にいるような日々を送っていたけれど、そろそろ現実に戻って戦わないと駄目だ。

 こんな天国のような場所にきてまで、人を傷つけようとする日本人がいるなら、私たちは大切な人を守るために立ち向かわないと。

「はぁーん……? なんかあれだね。君ら三人、セックス臭がプンプンするわ。三人で男女の仲になってるの? 父親が若い女大好きで家庭崩壊させる男なら、息子もアブノーマルで実に結構! あははっ、私とまたヤる?」

「やる訳ねぇだろうが。ババア!」

 秀弥さんが凄んでみせたけれど、女性はまったく堪えた様子を見せていない。

「あはは! 十四年前ぐらい? 私、その女の子より若くてピッチピチだったけど。それに秀弥くんだって、年上のお姉さんに搾りとられて気持ち良かったでしょ?」

 醜悪な事に、この女性は今ここにいる私に対しても、女として優位に立っているとマウントをとろうとしていた。
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