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第二十四部・最後の清算 編
アンネとランチ
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食後に桜フレーバーの紅茶を飲んでいた時、佑が切りだした。
「行動するのは早いほうがいいから、今週末に札幌に行ってご両親に謝りたいと思う」
「あ……」
麻衣と楽しく過ごして失念していたが、佑は香澄を危険な目に遭わせた事について、両親に詫びたいと言っていたのを思い出す。
結婚するのに、そのけじめがつけられなかったら、前には進めないとも口にしていた。
「……うん。分かった」
頷いた香澄を、麻衣は心配そうに見ている。
「大丈夫? 一緒に行こうか?」
「ありがとう。……でも、私たちの問題だから」
香澄は親友の申し出に感謝しつつも、線引きをする。
「ごめん、そうだよね。結婚しようとする二人の問題なのに、私が出る幕はないや」
心配してくれたのに、断ってしまった事を申し訳なく思っていると、佑が提案した。
「もし良かったら、麻衣さんとマティアスも一緒に札幌に行かないか? 日帰りになると思うけど、一食ぐらいは札幌のどこかで食事ができると思う。二人はこっちに来たばかりだけど、慣れ親しんだ街に戻れるのは、気持ち的にも安らげると思うし。俺たちが用事を済ませている間、二人は自由行動をするっていうのはどうかな?」
「……いいんですか?」
麻衣が遠慮がちに尋ねると、佑はニッコリ笑う。
「どうせプライベートジェットで行くから、二人増えるぐらいどうって事はない」
「そうさせてもらおうよ」
香澄に言われ、麻衣は「じゃあ、お願いします」と頭を下げた。
**
それから週末まで、佑は通常通り会社へ向かい、香澄は仕事を休む罪悪感を抱きながらも、麻衣とマティアスと共に東京の街を歩いた。
勿論、マティアスの他にも護衛が一緒にいて、セキュリティ面では安心だ。
加えて麻衣と一緒に東京の街を歩けるだけで、今までなら見つけられなかった楽しみ方も見えてきた。
ある日、アンネから連絡があって麻衣、マティアスと共にランチをご馳走になる事になった。
「お久しぶりです!」
香澄はラベンダー色のニットに、それより色味の薄いラベンダーカラーのラップスカートを穿き、上に白いブルゾン、靴はベージュのショートブーツという出で立ちでアンネに挨拶する。
場所は東京駅近くの高級ホテル内にあるフレンチレストランで、グルメガイドにも選出された店だそうだ。
麻衣は柔らかいイエローのニットに、グリーン系のゴブラン織りの花柄スカートにジャケット、パンプスだ。
マティアスは当たり障りなくスーツを着て、少し整髪料で髪を整えている。
二人がアンネに挨拶したあと、彼女から切りだした。
「元気そうね」
今日も麗しいアンネは、とろみのある白いシャツに目の覚める青のフリンジベスト、ゆったりとしたシルエットの黒いパンツを穿いている。
「お陰様で帰国しました。心配してくださったのに、すぐお会いできずすみません」
個室の席に着いた香澄は、ドリンクオーダーをしたあとにペコリとアンネに頭を下げる。
無事に帰国したあと、方々に連絡は入れておいた。
家族には出張や多忙にしていたのが落ち着いたと言い、事情を知るアンネたちやドイツ組、双子にイタリア組、NYにいるテオたちにも【無事に帰国しました】とメッセージを送った。
彼らから返事が来て、やり取りが一旦落ち着いたのが最近の事だった。
「色々あって、帰国してすぐ会うのは難しかったと思うから、気にしなくていいわ」
少し上からな物言いや、堂々とした美魔女ぶりはいつも通りだが、今日はいつもほどの覇気がないように思える。
当たり障りのない状況報告をしたあと、飲み物が運ばれてきて一旦乾杯をする。
アンネはシャンパンを飲んだあと、香澄に向かって頭を下げた。
「今は戻ったとはいえ、佑が酷い事をしてごめんなさい」
「いっ、いえっ、そんな! 頭を上げてください!」
香澄が慌てて返事をすると、溜め息をついたアンネは眉間に深い皺を刻んで言う。
「記憶喪失は仕方のない事とはいえ、婚約者として、秘書として寄り添っていたあなたを、家から追い出すなんてとんでもないわ」
アンネの表情からは母親としてばつが悪いと思っているのが窺え、香澄は思わず微笑む。
「行動するのは早いほうがいいから、今週末に札幌に行ってご両親に謝りたいと思う」
「あ……」
麻衣と楽しく過ごして失念していたが、佑は香澄を危険な目に遭わせた事について、両親に詫びたいと言っていたのを思い出す。
結婚するのに、そのけじめがつけられなかったら、前には進めないとも口にしていた。
「……うん。分かった」
頷いた香澄を、麻衣は心配そうに見ている。
「大丈夫? 一緒に行こうか?」
「ありがとう。……でも、私たちの問題だから」
香澄は親友の申し出に感謝しつつも、線引きをする。
「ごめん、そうだよね。結婚しようとする二人の問題なのに、私が出る幕はないや」
心配してくれたのに、断ってしまった事を申し訳なく思っていると、佑が提案した。
「もし良かったら、麻衣さんとマティアスも一緒に札幌に行かないか? 日帰りになると思うけど、一食ぐらいは札幌のどこかで食事ができると思う。二人はこっちに来たばかりだけど、慣れ親しんだ街に戻れるのは、気持ち的にも安らげると思うし。俺たちが用事を済ませている間、二人は自由行動をするっていうのはどうかな?」
「……いいんですか?」
麻衣が遠慮がちに尋ねると、佑はニッコリ笑う。
「どうせプライベートジェットで行くから、二人増えるぐらいどうって事はない」
「そうさせてもらおうよ」
香澄に言われ、麻衣は「じゃあ、お願いします」と頭を下げた。
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それから週末まで、佑は通常通り会社へ向かい、香澄は仕事を休む罪悪感を抱きながらも、麻衣とマティアスと共に東京の街を歩いた。
勿論、マティアスの他にも護衛が一緒にいて、セキュリティ面では安心だ。
加えて麻衣と一緒に東京の街を歩けるだけで、今までなら見つけられなかった楽しみ方も見えてきた。
ある日、アンネから連絡があって麻衣、マティアスと共にランチをご馳走になる事になった。
「お久しぶりです!」
香澄はラベンダー色のニットに、それより色味の薄いラベンダーカラーのラップスカートを穿き、上に白いブルゾン、靴はベージュのショートブーツという出で立ちでアンネに挨拶する。
場所は東京駅近くの高級ホテル内にあるフレンチレストランで、グルメガイドにも選出された店だそうだ。
麻衣は柔らかいイエローのニットに、グリーン系のゴブラン織りの花柄スカートにジャケット、パンプスだ。
マティアスは当たり障りなくスーツを着て、少し整髪料で髪を整えている。
二人がアンネに挨拶したあと、彼女から切りだした。
「元気そうね」
今日も麗しいアンネは、とろみのある白いシャツに目の覚める青のフリンジベスト、ゆったりとしたシルエットの黒いパンツを穿いている。
「お陰様で帰国しました。心配してくださったのに、すぐお会いできずすみません」
個室の席に着いた香澄は、ドリンクオーダーをしたあとにペコリとアンネに頭を下げる。
無事に帰国したあと、方々に連絡は入れておいた。
家族には出張や多忙にしていたのが落ち着いたと言い、事情を知るアンネたちやドイツ組、双子にイタリア組、NYにいるテオたちにも【無事に帰国しました】とメッセージを送った。
彼らから返事が来て、やり取りが一旦落ち着いたのが最近の事だった。
「色々あって、帰国してすぐ会うのは難しかったと思うから、気にしなくていいわ」
少し上からな物言いや、堂々とした美魔女ぶりはいつも通りだが、今日はいつもほどの覇気がないように思える。
当たり障りのない状況報告をしたあと、飲み物が運ばれてきて一旦乾杯をする。
アンネはシャンパンを飲んだあと、香澄に向かって頭を下げた。
「今は戻ったとはいえ、佑が酷い事をしてごめんなさい」
「いっ、いえっ、そんな! 頭を上げてください!」
香澄が慌てて返事をすると、溜め息をついたアンネは眉間に深い皺を刻んで言う。
「記憶喪失は仕方のない事とはいえ、婚約者として、秘書として寄り添っていたあなたを、家から追い出すなんてとんでもないわ」
アンネの表情からは母親としてばつが悪いと思っているのが窺え、香澄は思わず微笑む。
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