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第六部・社内旅行 編
食べる才能
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「順調だよ。ただ、保険適用は、怪我をしてから一五〇日がリハビリの限界なんだって。だからそれまでに、何の頼りもなしに一人で歩けるようになったらいいなぁ、っていう希望。あと、骨をくっつけるのに埋まってるボルト……インプラント? は、骨がくっつくまで……大体一年後を目処に、抜釘(ばってい)手術をするんだって。入れる時は結構な手術だったみたいだけど、抜くときは早くて一泊二日、遅くても三泊四日とかで終わるって」
随分と軽い口調で言ってくれるが、香澄がまた入院して手術……と考えると、心配で胃に穴が空きそうだ。
「……はぁ。そうか」
思わず溜め息が出てしまったが、致し方ない。
「心配させてごめんね? でも私は大丈夫だから」
胸の前で小さく両拳をグッと握る香澄を見て、佑は思わず苦笑する。
「香澄は本当に底なしに明るいな。その前向きなところ、俺も見習いたい」
「えぇ? 本当? 私のダメダメ加減なんて、佑さんが一番よく分かってるでしょう?」
「そうじゃなくて……、何て言うか、人間的な根の明るさかな?」
優しく頭を撫で、すべらかな頬も愛撫すると、佑の掌を感じて香澄が気持ち良さそうな顔をする。
「ふぅん……。佑さんがそう言ってくれるなら、そういう事にしておく」
スリ……と佑の手に頬を寄せる姿は、まるで仔猫のようだ。
(ああ、今すぐ家に帰って押し倒したい)
品良く微笑んでいる御劔佑が、脳内で恋人の裸身を思い描き、荒ぶる下半身と戦っているなど、周りにいる誰も分からないだろう。
久住と佐野は分かっているかもしれないが。
「それにしても、今日のコーデ可愛いな。夏っぽくて見ていて元気が出る」
「ホント? やったぁ! 一回も着た事のないワンピだったけど、思いきってみて良かった」
そうやっていちゃついているうちに時間が経ち、店内に案内された。
「わーい、うどん、うどん」
席に着くと香澄はまっさきにメニューを広げる。
自分と佑が見られるように九十度の角度に置き、「何がいいかなぁ」とニコニコしながら覗き込む。
ちなみに香澄と二人でテーブルに着きたいので、護衛たちは別グループの扱いだ。
「あぁ~。このクリーム系のうどん美味しそう。でも普通のうどんもいいし、ざるもいいなぁ」
「何でも頼んでいいよ。ロール寿司も頼もうか。俺も久しぶりに米が食べたいし、二人でなら食べられるだろう」
「うん!」
食べる事が大好きな香澄は、メニューを見たまま目をキラキラさせている。
香澄を食べに連れて行くと、どこへ行っても心底美味しそうに食べてくれるし、本音で「美味しい、美味しい」と口にするのでご馳走のしがいがある。
おまけに自分で手料理を作っても、味付けが上手くいくと満面の笑みを浮かべる。
そんな彼女を見ていると、〝食べる事が好き〟というのは一種の才能のように思える。
佑はある程度、美味しいと言われる物を食べ尽くしてしまった感があり、新しい感動はそうそうない。
なので香澄が側にいると、自分まで二倍美味しく感じられる気がするのだ。
「えぇっとねー……明太子クリーム……いや、カルボナーラ……うーん……。……明太子クリームのおうどんで!」
「よし、じゃあ俺は鴨うどんにしようかな。ロール寿司は? 香澄、サーモン好きだから、サーモンにしようか?」
「えっ? いいの?」
大事件が起きたという顔をする香澄を見て、佑は肩を揺らして笑う。
「俺は何でも食べるから、香澄の好きなのでいいよ」
「じゃ、じゃあサーモンでお願いします」
オーダーをして待っている間、香澄はチラッと佑を見てから切り出す。
「あの……。アロイスさんとクラウスさんと……エミリアさん? の飲み会どうだった?」
「あぁ……」
正直、「まだその話を引っ張るのか」と思ったのは否めない。
けれど嫉妬してくれているのだと思うと、嬉しくて堪らない。
香澄はといえば、妬いているのを誤魔化すためか、メニュー立ての方を見ていた。
「香澄」
テーブルの上にのっていた彼女の手を握ると、揺れる目がこちらを見てくる。
「普通に飲んだだけだ。双子がいつものようにうるさくて、話題を次々に振っていたな。俺は聞き役。飲み終わったら双子は自分のホテルに戻ったし、エミリアとも現地解散だ。本当に何もなかったよ」
「……うん。……うん、分かってる。……んだけど。……へへ、駄目だね。私」
大人しく手を握られたまま、香澄はぎこちなく笑う。
「そんなに気になるなら、アロから送られてきた写真見るか?」
「え? ……い、いいの?」
「別に構わない」
佑はスーツの内ポケットから私用スマホを出し、テーブルの上に置く。
随分と軽い口調で言ってくれるが、香澄がまた入院して手術……と考えると、心配で胃に穴が空きそうだ。
「……はぁ。そうか」
思わず溜め息が出てしまったが、致し方ない。
「心配させてごめんね? でも私は大丈夫だから」
胸の前で小さく両拳をグッと握る香澄を見て、佑は思わず苦笑する。
「香澄は本当に底なしに明るいな。その前向きなところ、俺も見習いたい」
「えぇ? 本当? 私のダメダメ加減なんて、佑さんが一番よく分かってるでしょう?」
「そうじゃなくて……、何て言うか、人間的な根の明るさかな?」
優しく頭を撫で、すべらかな頬も愛撫すると、佑の掌を感じて香澄が気持ち良さそうな顔をする。
「ふぅん……。佑さんがそう言ってくれるなら、そういう事にしておく」
スリ……と佑の手に頬を寄せる姿は、まるで仔猫のようだ。
(ああ、今すぐ家に帰って押し倒したい)
品良く微笑んでいる御劔佑が、脳内で恋人の裸身を思い描き、荒ぶる下半身と戦っているなど、周りにいる誰も分からないだろう。
久住と佐野は分かっているかもしれないが。
「それにしても、今日のコーデ可愛いな。夏っぽくて見ていて元気が出る」
「ホント? やったぁ! 一回も着た事のないワンピだったけど、思いきってみて良かった」
そうやっていちゃついているうちに時間が経ち、店内に案内された。
「わーい、うどん、うどん」
席に着くと香澄はまっさきにメニューを広げる。
自分と佑が見られるように九十度の角度に置き、「何がいいかなぁ」とニコニコしながら覗き込む。
ちなみに香澄と二人でテーブルに着きたいので、護衛たちは別グループの扱いだ。
「あぁ~。このクリーム系のうどん美味しそう。でも普通のうどんもいいし、ざるもいいなぁ」
「何でも頼んでいいよ。ロール寿司も頼もうか。俺も久しぶりに米が食べたいし、二人でなら食べられるだろう」
「うん!」
食べる事が大好きな香澄は、メニューを見たまま目をキラキラさせている。
香澄を食べに連れて行くと、どこへ行っても心底美味しそうに食べてくれるし、本音で「美味しい、美味しい」と口にするのでご馳走のしがいがある。
おまけに自分で手料理を作っても、味付けが上手くいくと満面の笑みを浮かべる。
そんな彼女を見ていると、〝食べる事が好き〟というのは一種の才能のように思える。
佑はある程度、美味しいと言われる物を食べ尽くしてしまった感があり、新しい感動はそうそうない。
なので香澄が側にいると、自分まで二倍美味しく感じられる気がするのだ。
「えぇっとねー……明太子クリーム……いや、カルボナーラ……うーん……。……明太子クリームのおうどんで!」
「よし、じゃあ俺は鴨うどんにしようかな。ロール寿司は? 香澄、サーモン好きだから、サーモンにしようか?」
「えっ? いいの?」
大事件が起きたという顔をする香澄を見て、佑は肩を揺らして笑う。
「俺は何でも食べるから、香澄の好きなのでいいよ」
「じゃ、じゃあサーモンでお願いします」
オーダーをして待っている間、香澄はチラッと佑を見てから切り出す。
「あの……。アロイスさんとクラウスさんと……エミリアさん? の飲み会どうだった?」
「あぁ……」
正直、「まだその話を引っ張るのか」と思ったのは否めない。
けれど嫉妬してくれているのだと思うと、嬉しくて堪らない。
香澄はといえば、妬いているのを誤魔化すためか、メニュー立ての方を見ていた。
「香澄」
テーブルの上にのっていた彼女の手を握ると、揺れる目がこちらを見てくる。
「普通に飲んだだけだ。双子がいつものようにうるさくて、話題を次々に振っていたな。俺は聞き役。飲み終わったら双子は自分のホテルに戻ったし、エミリアとも現地解散だ。本当に何もなかったよ」
「……うん。……うん、分かってる。……んだけど。……へへ、駄目だね。私」
大人しく手を握られたまま、香澄はぎこちなく笑う。
「そんなに気になるなら、アロから送られてきた写真見るか?」
「え? ……い、いいの?」
「別に構わない」
佑はスーツの内ポケットから私用スマホを出し、テーブルの上に置く。
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