437 / 1,591
第八部・イギリス捜索 編
テオ
しおりを挟む
『君たちの事は黙っていてあげるから、代わりに招待状を私に渡したまえ。ん? もう湖水地方にいる? ならばこれから我々が向かうから、ウィンダミア湖のボウネスで待っていたまえ。これからヘリで向かい、一時間もせずにそちらに着く』
イタリアの車業界のドンと言っていい人物に逆らえる訳もなく、電話の向こうで二人のモデルはマルコの言う事を聞く気になったようだ。
『ああ、分かっている。君らがどこへ行こうとしていたかは、誰にも言わない。君らはパーティー会場には向かわず、どこか別の場所でバカンスの続きを楽しみたまえ』
そしてマルコはウィンダミア湖畔にある町、ボウネスでの待ち合わせ場所を決め、電話を切った。
『さあ、あまり時間がない。アレッサンドロが言うには、〝パーティー〟は夕方かららしい。正式な開始時刻はないようだが、スィニョリーナ・カスミを助けるためには早い方がいい。君と一緒にいた従兄にも、今すぐ声を掛けたまえ。スィニョール・ユキオ。君はすぐにヘリ業者に連絡を』
『はい』
佑はすぐにアロイスに電話をかけた。
**
また時は遡り、佑が河野の訪問を受けていた頃、アロイスとクラウス、マティアスはロンドン内の別のホテルである人物に会っていた。
『久しぶりだな、テオ』
ホテルのロビーにいたのは、スラリと背の高い金髪碧眼の美男だ。
年の頃は三人とも同じぐらいで、双子、マティアスとしっかり握手をして背中を叩いている姿は親しさを感じさせる。
『まったく、緊急事態だから今すぐロンドンに来いって……。俺はここずっとNYから動いてないから、五時間の時差も辛いんだ』
『ジジ臭いなぁ、テオ』
テオはエミリアの兄で、三十一歳だ。
マティアスは三十歳なので、この中で一番年下になる。
『結婚生活はうまくいってるの? 電撃結婚してから数年経つけど』
クラウスの質問に、テオは微笑んでスマホを見せる。
『上の子は五歳、下の子が一歳になったんだ。可愛いだろ。初めての女の子だから右往左往しているが、もう毎日家に帰るのが楽しみで楽しみで』
テオはスマホの写真を見せ、デレデレとしている。
『ソフィアは育児で大変なんじゃないの?』
『だから俺もあまり来たくなかったんだけどな。マティアスが一生の頼みというから』
チラリとマティアスを見て、テオは仕方ないと肩をすくめる。
『少しでも悪いと思うなら、今度NYに遊びに来てくれ。なかなか会えないから、俺もたまには会いたくなる』
『たまにはだろ。いつも話してたら〝うるさい〟って言う癖に』
ケラケラとアロイスが笑い、テオも否定しない。
『……で、何の用だ? 分かっていると思うが、実家関係なら関わりたくない』
テオはドイツ国内でも有名な大学を卒業するまで、ミュンヘンで一人暮らしをしていた。
周りの誰もが大学を卒業したら家業を継ぐと思っていたのだが、大学卒業とともにいきなり就職先をNYに変えた。
NYではスマホやタブレットで有名なコスモス・レイン社に入社し、メキメキと出世して現在は管理職にいるらしい。
数年後にはアメリカで現在の妻ソフィアと劇的な出会いをし、結婚に至る。
双子やマティアスもNYで行われた結婚式に招待されたが、テオがドイツに戻る事はなかった。
子供が二人生まれた今でも、ドイツに連れて行った事は一度もないらしい。
三人とも、テオが家族と何かあって疎遠になっていると分かっているが、深く突っ込んで聞いていない。
いつでも聞くと酒の席で言った事はあったのだが、テオは曖昧に微笑んでいつもごまかしていた。
その彼が、昔馴染みのマティアスに懇願され、やっとイギリスまで来てくれたのは僥倖だ。
『うーん……。それは分かってるから、悪いなーっていう気持ちはすっごいあるんだけど』
クラウスの言葉にテオは相談の内容が実家絡みである事を察し、苦い顔になる。
四人はロビーから一階にあるレストランに移動し、コーヒーを飲んでいた。
『爺さんか?』
『いや、エミだ』
マティアスが口にした名前に、テオはあからさまに顔をしかめた。
『……あいつが何かしたか? ……いつか何かやらかすとは思っていたが』
『いやぁ、直接俺たちに関係しないなら、何しててもいいんだよね。でも今回、被害者がタスク……カイの婚約者に向いちゃってさ』
『カイって……日本のあのカイか? Chief Everyの』
アロイスの説明にテオの表情はみるみる曇り、『詳しく聞かせてくれ』と溜め息交じりに言った。
イタリアの車業界のドンと言っていい人物に逆らえる訳もなく、電話の向こうで二人のモデルはマルコの言う事を聞く気になったようだ。
『ああ、分かっている。君らがどこへ行こうとしていたかは、誰にも言わない。君らはパーティー会場には向かわず、どこか別の場所でバカンスの続きを楽しみたまえ』
そしてマルコはウィンダミア湖畔にある町、ボウネスでの待ち合わせ場所を決め、電話を切った。
『さあ、あまり時間がない。アレッサンドロが言うには、〝パーティー〟は夕方かららしい。正式な開始時刻はないようだが、スィニョリーナ・カスミを助けるためには早い方がいい。君と一緒にいた従兄にも、今すぐ声を掛けたまえ。スィニョール・ユキオ。君はすぐにヘリ業者に連絡を』
『はい』
佑はすぐにアロイスに電話をかけた。
**
また時は遡り、佑が河野の訪問を受けていた頃、アロイスとクラウス、マティアスはロンドン内の別のホテルである人物に会っていた。
『久しぶりだな、テオ』
ホテルのロビーにいたのは、スラリと背の高い金髪碧眼の美男だ。
年の頃は三人とも同じぐらいで、双子、マティアスとしっかり握手をして背中を叩いている姿は親しさを感じさせる。
『まったく、緊急事態だから今すぐロンドンに来いって……。俺はここずっとNYから動いてないから、五時間の時差も辛いんだ』
『ジジ臭いなぁ、テオ』
テオはエミリアの兄で、三十一歳だ。
マティアスは三十歳なので、この中で一番年下になる。
『結婚生活はうまくいってるの? 電撃結婚してから数年経つけど』
クラウスの質問に、テオは微笑んでスマホを見せる。
『上の子は五歳、下の子が一歳になったんだ。可愛いだろ。初めての女の子だから右往左往しているが、もう毎日家に帰るのが楽しみで楽しみで』
テオはスマホの写真を見せ、デレデレとしている。
『ソフィアは育児で大変なんじゃないの?』
『だから俺もあまり来たくなかったんだけどな。マティアスが一生の頼みというから』
チラリとマティアスを見て、テオは仕方ないと肩をすくめる。
『少しでも悪いと思うなら、今度NYに遊びに来てくれ。なかなか会えないから、俺もたまには会いたくなる』
『たまにはだろ。いつも話してたら〝うるさい〟って言う癖に』
ケラケラとアロイスが笑い、テオも否定しない。
『……で、何の用だ? 分かっていると思うが、実家関係なら関わりたくない』
テオはドイツ国内でも有名な大学を卒業するまで、ミュンヘンで一人暮らしをしていた。
周りの誰もが大学を卒業したら家業を継ぐと思っていたのだが、大学卒業とともにいきなり就職先をNYに変えた。
NYではスマホやタブレットで有名なコスモス・レイン社に入社し、メキメキと出世して現在は管理職にいるらしい。
数年後にはアメリカで現在の妻ソフィアと劇的な出会いをし、結婚に至る。
双子やマティアスもNYで行われた結婚式に招待されたが、テオがドイツに戻る事はなかった。
子供が二人生まれた今でも、ドイツに連れて行った事は一度もないらしい。
三人とも、テオが家族と何かあって疎遠になっていると分かっているが、深く突っ込んで聞いていない。
いつでも聞くと酒の席で言った事はあったのだが、テオは曖昧に微笑んでいつもごまかしていた。
その彼が、昔馴染みのマティアスに懇願され、やっとイギリスまで来てくれたのは僥倖だ。
『うーん……。それは分かってるから、悪いなーっていう気持ちはすっごいあるんだけど』
クラウスの言葉にテオは相談の内容が実家絡みである事を察し、苦い顔になる。
四人はロビーから一階にあるレストランに移動し、コーヒーを飲んでいた。
『爺さんか?』
『いや、エミだ』
マティアスが口にした名前に、テオはあからさまに顔をしかめた。
『……あいつが何かしたか? ……いつか何かやらかすとは思っていたが』
『いやぁ、直接俺たちに関係しないなら、何しててもいいんだよね。でも今回、被害者がタスク……カイの婚約者に向いちゃってさ』
『カイって……日本のあのカイか? Chief Everyの』
アロイスの説明にテオの表情はみるみる曇り、『詳しく聞かせてくれ』と溜め息交じりに言った。
23
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる