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第十部・ニセコ 編
すすきので
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真摯に応えた佑に、崇は微笑みかけた。
「ですが私は、御劔さんが香澄の事でこんなに悩んでくれて嬉しく思います。香澄が愛されていると分かりますから。香澄が〝甘やかされて困る〟というのも、贅沢な悩みですね」
崇の言葉を聞き、救われる思いだ。
不意に栄子が、今まで思っていたがどうしても言いたくて……という様子で、話題を変えた。
「御劔さん、少し痩せたんじゃないですか? 顔色も良くないですし……」
言われて、佑は苦笑いする。
「ご心配をお掛けしてすみません。香澄さんが側にいないと調子が出ないんです。ですがもう約束の一か月になりますから、すぐ元気になります」
佑の顔色が悪い理由が香澄だと知り、栄子は嘆いた。
「香澄はこんなイケメンを振り回す子になったのねぇ。私の血のなせる技かしら?」
栄子の冗談に、思わず佑は崇と一緒に笑いだした。
**
佑はホテルに戻ったあと、夕食のために、河野たちと一緒にすすきのへ向かった。
香澄と出会った懐かしい景色に微笑み、河野が手配した高級海鮮の店で寛ぐ。
「明日ニセコに向かう」
「ニセコですか」
佑の声に、本鮪の刺身を口にした河野が返事をする。
本当なら今すぐニセコへ向かいたいが、スケジュールが押している訳ではないので、同行している者をねぎらう事にした。
河野にはイギリスでの恩があるし、運転手も護衛にもいつもの感謝がある。
表向き佑を守るのが護衛の仕事でも、海外に行った時は観光地や非日常の景色を楽しみたい気持ちがあるだろう。
国内なら、ご当地の美味しい物を食べたいに決まっている。
それを汲んで、食事に付き合ってもらう体で店に入った。
のんびりできる個室で、佑たちは新鮮な刺身や寿司、海鮮料理に舌鼓を打つ。
帰りはホテルまでハイヤーを使ので、酒を飲む許可も出した。
「香澄はいまニセコにある、叔父さんのペンションで働いているようだ」
「副業ですか」
河野が実に彼らしい返事をする。
それを聞いて、呉代と久住が「パネェ」と苦笑いした。
「細かい事はいい。気分転換ついでに、ただで置いてもらうのは忍びないから、働かせてもらおうという心構えみたいだし」
「社長は相変わらず赤松さんに甘いですね」
河野の言い方には、すっかり慣れた。
オブラートに包まないだけで、悪意がないのは分かっている。
目の前の現実を認識し、良くも悪くも淡々と感想を述べているにすぎない。
相手に忖度しないので、勘違いされやすいだけだ。
本人の性格を考えると、周囲とトラブルになっても悩むと思えない。
秘書として優秀なら、どこででも働ける。
そしてその河野を生かすも殺すも、経営者次第だと考えていた。
「河野さんは相変わらずクールですねぇ」
呉代が日本酒を飲みつつ言い、チラッと佑を見る。
「社長は愛しい赤松さんがいなくて傷心なんですよ。少しは恋する男の気持ちも汲み取って差し上げないと」
呉代に言われ、河野は少し考えたあと、網焼きされたツブをブリンッと出した。
「確かに傷心ですね。世界に名を轟かせる経営者なのに、自己管理ができていないぐらいですから」
今度はきちんとした皮肉だ。
チクリと言われ、佑は思わず溜め息をつく。
「そう言うな。彼女と再会したらやる気を充電して、ポンコツもおしまいだ」
「可能なら、女性一人に振り回されない、揺るぎない経営者でいてください」
やはり忖度しない河野を、護衛と運転手が「まぁまぁ」と宥めた。
**
翌日、佑はホテルで朝食をとってから、黒いテーパードパンツにストライプのシャツ、テラコッタ色のVネックセーターにチェスターコートという姿で車に乗り、ニセコを目指した。
「ですが私は、御劔さんが香澄の事でこんなに悩んでくれて嬉しく思います。香澄が愛されていると分かりますから。香澄が〝甘やかされて困る〟というのも、贅沢な悩みですね」
崇の言葉を聞き、救われる思いだ。
不意に栄子が、今まで思っていたがどうしても言いたくて……という様子で、話題を変えた。
「御劔さん、少し痩せたんじゃないですか? 顔色も良くないですし……」
言われて、佑は苦笑いする。
「ご心配をお掛けしてすみません。香澄さんが側にいないと調子が出ないんです。ですがもう約束の一か月になりますから、すぐ元気になります」
佑の顔色が悪い理由が香澄だと知り、栄子は嘆いた。
「香澄はこんなイケメンを振り回す子になったのねぇ。私の血のなせる技かしら?」
栄子の冗談に、思わず佑は崇と一緒に笑いだした。
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佑はホテルに戻ったあと、夕食のために、河野たちと一緒にすすきのへ向かった。
香澄と出会った懐かしい景色に微笑み、河野が手配した高級海鮮の店で寛ぐ。
「明日ニセコに向かう」
「ニセコですか」
佑の声に、本鮪の刺身を口にした河野が返事をする。
本当なら今すぐニセコへ向かいたいが、スケジュールが押している訳ではないので、同行している者をねぎらう事にした。
河野にはイギリスでの恩があるし、運転手も護衛にもいつもの感謝がある。
表向き佑を守るのが護衛の仕事でも、海外に行った時は観光地や非日常の景色を楽しみたい気持ちがあるだろう。
国内なら、ご当地の美味しい物を食べたいに決まっている。
それを汲んで、食事に付き合ってもらう体で店に入った。
のんびりできる個室で、佑たちは新鮮な刺身や寿司、海鮮料理に舌鼓を打つ。
帰りはホテルまでハイヤーを使ので、酒を飲む許可も出した。
「香澄はいまニセコにある、叔父さんのペンションで働いているようだ」
「副業ですか」
河野が実に彼らしい返事をする。
それを聞いて、呉代と久住が「パネェ」と苦笑いした。
「細かい事はいい。気分転換ついでに、ただで置いてもらうのは忍びないから、働かせてもらおうという心構えみたいだし」
「社長は相変わらず赤松さんに甘いですね」
河野の言い方には、すっかり慣れた。
オブラートに包まないだけで、悪意がないのは分かっている。
目の前の現実を認識し、良くも悪くも淡々と感想を述べているにすぎない。
相手に忖度しないので、勘違いされやすいだけだ。
本人の性格を考えると、周囲とトラブルになっても悩むと思えない。
秘書として優秀なら、どこででも働ける。
そしてその河野を生かすも殺すも、経営者次第だと考えていた。
「河野さんは相変わらずクールですねぇ」
呉代が日本酒を飲みつつ言い、チラッと佑を見る。
「社長は愛しい赤松さんがいなくて傷心なんですよ。少しは恋する男の気持ちも汲み取って差し上げないと」
呉代に言われ、河野は少し考えたあと、網焼きされたツブをブリンッと出した。
「確かに傷心ですね。世界に名を轟かせる経営者なのに、自己管理ができていないぐらいですから」
今度はきちんとした皮肉だ。
チクリと言われ、佑は思わず溜め息をつく。
「そう言うな。彼女と再会したらやる気を充電して、ポンコツもおしまいだ」
「可能なら、女性一人に振り回されない、揺るぎない経営者でいてください」
やはり忖度しない河野を、護衛と運転手が「まぁまぁ」と宥めた。
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翌日、佑はホテルで朝食をとってから、黒いテーパードパンツにストライプのシャツ、テラコッタ色のVネックセーターにチェスターコートという姿で車に乗り、ニセコを目指した。
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