1,466 / 1,589
第二十二部・岐路 編
いい選択をしたね
しおりを挟む
香澄は佑が戻ってもバレないように、布団の中で嗚咽した。
心が引き裂かれそうで、どうしてこうなったのか分からない。
――いや、分かっている。
フェルナンドの事があり、佑は自分を庇って攻撃を受け、頭をぶつけた。答えはシンプルだ。
「……っ、いつ思いだすの……っ、――私の事、好きで堪らない佑さんのくせに……っ」
涙が次から次に溢れ、止まってくれない。
泣き止んだ頃には、胸の奥にぽっかりと穴が空いた心地になった。
(こんなんで、仕事できるのかな……)
社長秘書室にいれば、松井や河野がいるから気を紛らわせられる。
社外での仕事なら気が引き締まり、仕事に集中しようと思えるだろう。
けれど彼の側にいると、常に「疎まれていないかな?」と不安にならなければいけない。
溺愛してくれていた人に知らない人扱いされ、仕事に支障をきたすなというほうがおかしい。
(……最初から駄目だったのかもしれない。秘書になって社長と恋をするなんて)
(ううん、一度は覚悟を決めたはず。何があっても佑さんを支えると決意した。なのに……)
(佑さんに嫌われるなんて想像すらできなかった。彼がいつも全力で私を愛していてくれたから、『私も頑張ろう』って思えていた)
様々な思いが、ポコポコとあぶくのように心の底から湧き上がってくる。
(駄目だな。答えの出ない悩みを、一人でグルグル考えてる。誰かに話を聞いてもらって、アドバイスをもらったほうがいいのかもしれない)
香澄はモソリと起き上がり、溜め息をついてスマホに手を伸ばした。
(麻衣とマティアスさんの邪魔はしたくない。……家族には勿論言えない。もしかしたら意外とすぐ佑さんの記憶が戻るかもしれないし、心配させたくない。……会社の人も、事情を知ってる人以外には言ったらいけない。奈央ちゃんと彩美ちゃんも、友達だけど部外者だから、あまり言わないほうがいい……)
香澄は大切な人の顔を思い浮かべては、「話せない」と打ち消していく。
(美鈴さんはりらちゃんがいて大変だし、彼女の性格だと佑さんに殴り込みを掛けそう)
芯の通った美しい彼女を思い出し、香澄は自然と微笑む。
(澪さんや陽菜さんには、もっと言えない)
次に思い浮かんだのは、アロイスとクラウス、ルカとマリアだ。
(……頼っていいのかな。……迷惑だったら……)
そこまで考えて、パッとクラウスの言葉が蘇った。
『カスミって遠慮がちで可愛いけど、考えすぎだよね。僕らが迷惑だと思うかなんて、僕らしか分からないだろ。カスミが〝迷惑だ〟って決めつける必要はないんだからね』
次に、脳内アロイスも出てきた。
『そうそう。忙しかったら断るし、大丈夫だったら応じるよ。忙しい時は断った上で、時間が出た時に折り返すから心配しないで。変な遠慮で頼ってもらえないほうが寂しいよ』
「……はい」
香澄は小さく笑い、コネクターナウのトークルームを開くと、トントンとメッセージを打っていった。
【今、大丈夫ですか?】
すると、パッと既読がついた。
【大丈夫だよ。ランチ食べながらだけどね】
アロイスから返事があったあと、彼らが食べているらしい肉料理の写真が送られてきた。
【通話繋ごう。僕ら、食事しながらだけど、文字打つよりやりやすいから】
クラウスからメッセージがあったあと、すぐにビデオ通話のコールが掛かった。
(相変わらずすぐ行動だな)
生き生きした彼らの反応に触れると、こちらまで元気になれた気がする。
一人でもったりとした泥に囚われて動けずにいたのに、二人と話した途端、腕を引っ張られて泥から抜け出した感覚になった。
『こんばんは。……あ、こんにちは』
挨拶すると、二つの画面にアロイスとクラウスが映る。
彼らはモグモグと口を動かしたあと、『カスミだ!』と笑顔で手を振ってきた。
二人の後ろには、レストランの個室らしき内装が映っている。
『本当に大丈夫でしたか?』
『ホントに平気。ショーが終わったあとだし、今はちょっとのんびりしてる』
『何食べてるんですか? 私はさっき、うどんを食べました』
『ザウアーブラーテンとシュペッツレ』
『ざうあー?』
首を傾げると、双子は顔を見合わせる。
『ざっくり言えば、肉の煮込みと、ドイツ版パスタ。パスタはチーズ味だよ』
『美味しそう』
アロイスから料理の説明を聞き、香澄は微笑む。
『で、どうしたの?』
クラウスに尋ねられ、香澄は曖昧に笑った。
『……ちょっと、考え事をしてグルグルしてしまって、息抜きというか、助言をもらいたくて連絡しました』
遠慮がちに言うと、双子は納得した顔をする。
『いい選択をしたね。カスミはすぐうじうじ悩むから、一人で考えすぎるとドツボだよ』
クラウスにスパッと言われ、思わず笑った。
『何に悩んでる? 何でも言ってごらん。最適な答えは出せないかもしれないけど、俺とクラが一緒に考える』
アロイスにそう言われ、連絡をして良かったと心底思った。
心が引き裂かれそうで、どうしてこうなったのか分からない。
――いや、分かっている。
フェルナンドの事があり、佑は自分を庇って攻撃を受け、頭をぶつけた。答えはシンプルだ。
「……っ、いつ思いだすの……っ、――私の事、好きで堪らない佑さんのくせに……っ」
涙が次から次に溢れ、止まってくれない。
泣き止んだ頃には、胸の奥にぽっかりと穴が空いた心地になった。
(こんなんで、仕事できるのかな……)
社長秘書室にいれば、松井や河野がいるから気を紛らわせられる。
社外での仕事なら気が引き締まり、仕事に集中しようと思えるだろう。
けれど彼の側にいると、常に「疎まれていないかな?」と不安にならなければいけない。
溺愛してくれていた人に知らない人扱いされ、仕事に支障をきたすなというほうがおかしい。
(……最初から駄目だったのかもしれない。秘書になって社長と恋をするなんて)
(ううん、一度は覚悟を決めたはず。何があっても佑さんを支えると決意した。なのに……)
(佑さんに嫌われるなんて想像すらできなかった。彼がいつも全力で私を愛していてくれたから、『私も頑張ろう』って思えていた)
様々な思いが、ポコポコとあぶくのように心の底から湧き上がってくる。
(駄目だな。答えの出ない悩みを、一人でグルグル考えてる。誰かに話を聞いてもらって、アドバイスをもらったほうがいいのかもしれない)
香澄はモソリと起き上がり、溜め息をついてスマホに手を伸ばした。
(麻衣とマティアスさんの邪魔はしたくない。……家族には勿論言えない。もしかしたら意外とすぐ佑さんの記憶が戻るかもしれないし、心配させたくない。……会社の人も、事情を知ってる人以外には言ったらいけない。奈央ちゃんと彩美ちゃんも、友達だけど部外者だから、あまり言わないほうがいい……)
香澄は大切な人の顔を思い浮かべては、「話せない」と打ち消していく。
(美鈴さんはりらちゃんがいて大変だし、彼女の性格だと佑さんに殴り込みを掛けそう)
芯の通った美しい彼女を思い出し、香澄は自然と微笑む。
(澪さんや陽菜さんには、もっと言えない)
次に思い浮かんだのは、アロイスとクラウス、ルカとマリアだ。
(……頼っていいのかな。……迷惑だったら……)
そこまで考えて、パッとクラウスの言葉が蘇った。
『カスミって遠慮がちで可愛いけど、考えすぎだよね。僕らが迷惑だと思うかなんて、僕らしか分からないだろ。カスミが〝迷惑だ〟って決めつける必要はないんだからね』
次に、脳内アロイスも出てきた。
『そうそう。忙しかったら断るし、大丈夫だったら応じるよ。忙しい時は断った上で、時間が出た時に折り返すから心配しないで。変な遠慮で頼ってもらえないほうが寂しいよ』
「……はい」
香澄は小さく笑い、コネクターナウのトークルームを開くと、トントンとメッセージを打っていった。
【今、大丈夫ですか?】
すると、パッと既読がついた。
【大丈夫だよ。ランチ食べながらだけどね】
アロイスから返事があったあと、彼らが食べているらしい肉料理の写真が送られてきた。
【通話繋ごう。僕ら、食事しながらだけど、文字打つよりやりやすいから】
クラウスからメッセージがあったあと、すぐにビデオ通話のコールが掛かった。
(相変わらずすぐ行動だな)
生き生きした彼らの反応に触れると、こちらまで元気になれた気がする。
一人でもったりとした泥に囚われて動けずにいたのに、二人と話した途端、腕を引っ張られて泥から抜け出した感覚になった。
『こんばんは。……あ、こんにちは』
挨拶すると、二つの画面にアロイスとクラウスが映る。
彼らはモグモグと口を動かしたあと、『カスミだ!』と笑顔で手を振ってきた。
二人の後ろには、レストランの個室らしき内装が映っている。
『本当に大丈夫でしたか?』
『ホントに平気。ショーが終わったあとだし、今はちょっとのんびりしてる』
『何食べてるんですか? 私はさっき、うどんを食べました』
『ザウアーブラーテンとシュペッツレ』
『ざうあー?』
首を傾げると、双子は顔を見合わせる。
『ざっくり言えば、肉の煮込みと、ドイツ版パスタ。パスタはチーズ味だよ』
『美味しそう』
アロイスから料理の説明を聞き、香澄は微笑む。
『で、どうしたの?』
クラウスに尋ねられ、香澄は曖昧に笑った。
『……ちょっと、考え事をしてグルグルしてしまって、息抜きというか、助言をもらいたくて連絡しました』
遠慮がちに言うと、双子は納得した顔をする。
『いい選択をしたね。カスミはすぐうじうじ悩むから、一人で考えすぎるとドツボだよ』
クラウスにスパッと言われ、思わず笑った。
『何に悩んでる? 何でも言ってごらん。最適な答えは出せないかもしれないけど、俺とクラが一緒に考える』
アロイスにそう言われ、連絡をして良かったと心底思った。
45
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
憧れのお姉さんは淫らな家庭教師
馬衣蜜柑
恋愛
友達の恋バナに胸を躍らせる教え子・萌音。そんな彼女を、美咲は優しく「大人の身体」へと作り替えていく。「ねえ萌音ちゃん、お友達よりも……気持ちよくしてあげる」眼鏡の家庭教師が教えるのは、教科書には載っていない「女同士」の極上の溶け合い方。
女性向け百合(レズビアン)R18小説。男性は出てきません。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
密会~合コン相手はドS社長~
日下奈緒
恋愛
デザイナーとして働く冬佳は、社長である綾斗にこっぴどくしばかれる毎日。そんな中、合コンに行った冬佳の前の席に座ったのは、誰でもない綾斗。誰かどうにかして。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる