【R-18】【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました

臣桜

文字の大きさ
1,502 / 1,589
第二十二部・岐路 編

私は香澄に何ができるかな

しおりを挟む
「……私は香澄に何ができるかな」

 涙を拭って言った麻衣に、マティアスは微笑みかける。

「マイはカスミの親友だ。へたな言葉で励まそうとしなくても、一緒にいるだけで元気になれる。カスミが事件について心の整理をし、話そうと思ったら話すだろう。俺もエミリアにされた事を人に話そうと思えるまで、かなりの時間が掛かった」

「うん……」

 マティアスが受けた仕打ちを思い出し、麻衣は小さく頷く。

「最もつらい状況にある時、その状態への同情や慰めの言葉より、日常的な楽しみや温かさ、心の平安を提供されるほうが嬉しくないか?」

「……そうだね」

 麻衣は以前から会社の人たちに心ない事を言われ、香澄にも打ち明けていた。

 けれど香澄は誰かに対して怒ったり、憎むのが苦手な人だ。

 香澄は麻衣が愚痴を吐いて怒るのを聞いて『そうだね』と同意する程度で、会社の人を必要以上に悪く言ったり、彼らの不幸を願ったりする事などなかった。

 奈央や彩美は容赦がないので、酒を飲みながら割と凄い発言をする。

 その意味で、香澄は麻衣の心の癒し担当になっていた。

 どちらがいい悪いではなく、どちらの対応もありがたい。

 けれどあまり口汚く罵っていると、「自分もあいつらと同じになるな」とふと我に返るのだ。

 どうしても許せなくて愚痴を言ってしまうが、ある程度気が済んだあとは、自分なりの誇りを守り、笠島たちとは同じレベルにならずに生きていこうと思える。

 そういう思考になれるのは、香澄という清らかな存在が、麻衣の心のストッパーになっているからだ。

 仲間内で愚痴を言う以上の事をすれば、自分は心優しい香澄と一緒にいる資格がなくなってしまうと常々思っている。

 最終的に救われるのは、香澄のほのぼのとした雰囲気と、変わらない温厚さだ。

 愚痴が終わったあと、彼女が食いしん坊を見せて『お腹空いたね』と言うと、一気に笑顔が戻ってくる。

 そんな普通の反応に、いつも救われていた。

(香澄の一番の魅力は、普通な事だ。一緒にいて安心感があるんだよな)

 その安心感を、今度は自分が香澄に与える番だ。

「……香澄、一か月半海外にいて、まだパリにいるんでしょ? 日本が恋しいだろうし、あの子、食いしん坊だから絶対日本食を恋しがってる。……まぁ、パリなら美味しい日本食のお店があるだろうけど」

「それに友人と普通に話せる環境も欲していると思う」

「だね、間違いない」

 小さく笑んだあと、麻衣はスマホを手にした。

「今って、連絡しても大丈夫かな」

「カイはパリコレの準備に追われているだろうが、カスミはまだ仕事に復帰できる状態ではないと思うし、基本的にホテルにいるんじゃないだろうか。あの出来事があって、カイが彼女を自由に出歩かせているはずがないと思う」

「そうだね。……じゃあ、メッセージ送るぐらいなら大丈夫かな」

 言ったあと、麻衣は加工アプリで写真の明るさや色味を調整し、最も料理が美味しそうに見えるよう調整する。

 そしてニヤリと悪戯っぽく笑い、香澄にメッセージを送った。

【じゃーん! もうそろそろ仕事辞めるから、マティアスさんと豪華! 焼き肉パーティー!】

 そのあと、ポンポンと料理の写真を送っていく。

 ラストはホカホカと湯気を立てている、土鍋に入った雲丹雑炊のショート動画を送った。

「よし!」

 食べ物の写真を送った時、香澄はいつも「美味しそう!」から始まり、どこの店か聞いたあと「今度一緒に行こうね」と言ってくれる。

 その〝これからの約束〟が彼女を元気づけてくれたら……と願った。

「香澄、パリにいるならドイツに行ったついでに会えないかな。……そこまでパリにいないかな」

「それはいいな。しかしカイは多忙にしているから、用事が終わったらすぐに移動してしまいそうだが……。まず旅立つ準備をしてからあちらの様子を見よう」

「そうだね」

 香澄の身に起こった事を聞いて落ち込んでしまったが、もう仕事を辞めて自由になり、彼女のもとに駆けつけられるのだと思うと、一気に気分が華やいだ。

(パリだろうが、東京に戻ろうが、どこにでも行くからね)

 麻衣は心の中で親友に向かって笑いかけた。



**



 時は進み、NY。

「ん……」

 小さくうめいて目を開けた香澄は、知らない天井を目にして今自分がどこにいるかを考える。
しおりを挟む
感想 575

あなたにおすすめの小説

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

憧れのお姉さんは淫らな家庭教師

馬衣蜜柑
恋愛
友達の恋バナに胸を躍らせる教え子・萌音。そんな彼女を、美咲は優しく「大人の身体」へと作り替えていく。「ねえ萌音ちゃん、お友達よりも……気持ちよくしてあげる」眼鏡の家庭教師が教えるのは、教科書には載っていない「女同士」の極上の溶け合い方。 女性向け百合(レズビアン)R18小説。男性は出てきません。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

密会~合コン相手はドS社長~

日下奈緒
恋愛
デザイナーとして働く冬佳は、社長である綾斗にこっぴどくしばかれる毎日。そんな中、合コンに行った冬佳の前の席に座ったのは、誰でもない綾斗。誰かどうにかして。

処理中です...