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第二十三部・幸せへ 編
マティアスの母
まじめな話になったからか、関係ないのか、マティアスは立ちあがると麻衣を手招きした。
『マイ、この人が俺の母だ』
彼は写真立てが沢山あるチェストの側に行き、麻衣は二人に会釈をして席を立つ。
先ほど家の中を案内してもらった時も少し気になっていたが、写真立ての中には家族の写真が沢山あった。
『……綺麗な人ですね』
マティアスに渡された写真の中では、金髪の美しい女性が笑っている。
ドミニクはダークブラウンの髪をしているので、マティアスはそちらに似たのだろう。
けれど両親は共に青い目をしているので、彼はそれを反映した色を持っている。
『名前はハンナ。〝恩恵、恵み〟を意味する名前だ』
それを聞き、麻衣は顔を上げてマティアスを見つめて尋ねる。
『〝マティアス〟の意味は?』
すると彼は少し黙ってから答えた。
『……〝神からの贈り物〟』
それを聞き、麻衣はにっこり笑った。
『凄く素敵な名前!』
『……麻衣は?』
『えー? 知らないけど、漢字の通りじゃない? 麻でできた衣みたいな……って』
『柔らかくて優しいのか』
『そこまで深読みしないでよ。誰も何も言ってないじゃん』
気がつけば緊張を忘れていつものように話していた麻衣は、照れくさいのを誤魔化すために、他の写真を覗き込んだ。
『……これ、マティアスさんの若い頃? 今でも若いけど』
写真の中の彼は十代なのか、当時も身長が大きそうだが、今より雰囲気が尖っている感じがある。
『……それは十九歳頃だな』
『へえ……』
今もマティアスはスッキリとした短髪だが、写真の中の彼は坊主と言っていい。
『ドイツの徴兵制度は二〇十一年に停止されたが、ギリギリ十八歳から六か月間訓練を受けていたんだ。……それが明けて家に帰った頃だと思う』
『停止される寸前だったから、行かなくても良かったんじゃないの?』
写真の中のマティアスは張り詰めた表情をしていて、当時の彼に『大丈夫だよ』と声を掛けたくなる。
『……その頃からエミリアの奴隷扱いだったから、現実逃避をしたかったんだ。六か月間、厳しい日々だったし心身共にくたびれ果てたが、あの女の元にいるよりはずっとマシだったし、男ばかりの環境で気が楽だった』
『そっか』
麻衣は頷き、無言でポンポンと彼の背中を叩く。
『今はもう大丈夫だからね?』
『……ああ』
そのあと、ドミニクが『アルバムを見せよう』と言って子供の頃のマティアスの写真や、家族写真、今の家族写真も見せてもらい、夫婦が作ったランチをご馳走になった。
食後は四人でブルーメンブラットヴィルを散策し、夕食はドミニクが予約していたレストランでご馳走になり、ホテルに戻った。
肝心のマティアスの両親に会いに行くイベントが終わったあと、二人はオーストリアに入り、ウィーンへ行ってシェーンブルン宮殿に入り、レオポルド美術館や市庁舎などを見た。
食事はウィンナーシュニッツェルと呼ばれる仔牛のカツレツや、ターフェルシュピッツと呼ばれる牛肉の煮込みなどを食べた。
宮殿の一角にある優美な内装のカフェで朝食をとったり、先述の伝統料理はベートーヴェンやモーツァルトなどが通っていたという、歴史の深いレストランでいただいた。
発祥となったカフェでザッハトルテをいただいたり、有名チョコレート店デメルの本店にも行って香澄へのお土産を買ってホクホクだ。
少し移動して塩の街ザルツブルクでは『サウンド・オブ・ミュージック』の舞台になったミラベル庭園に行き、モーツァルトの生家も見た。
オーストリア観光を終えたあとは南に移動してイタリアへ行き、憧れの水の都ヴェネツィアでゴンドラに乗り、イカスミパスタやシーフードフライを食べ、有名な桃のカクテルベッリーニも飲んだ。
ボローニャではヨーロッパ最古の大学である旧ボローニャ大学アルキジンナジオや、マッジョーレ広場、市庁舎、ボローニャの斜塔を見学し、本家本元のボロネーゼを食べた。
ルネサンスの中心地となった花の都フィレンツェでは、ドゥオモやミケランジェロ広場、ウフィッツィ美術館でボッティチェリを見て、ヴェッキオ橋を写真に収め、ラザニアを食べた。
『マイ、この人が俺の母だ』
彼は写真立てが沢山あるチェストの側に行き、麻衣は二人に会釈をして席を立つ。
先ほど家の中を案内してもらった時も少し気になっていたが、写真立ての中には家族の写真が沢山あった。
『……綺麗な人ですね』
マティアスに渡された写真の中では、金髪の美しい女性が笑っている。
ドミニクはダークブラウンの髪をしているので、マティアスはそちらに似たのだろう。
けれど両親は共に青い目をしているので、彼はそれを反映した色を持っている。
『名前はハンナ。〝恩恵、恵み〟を意味する名前だ』
それを聞き、麻衣は顔を上げてマティアスを見つめて尋ねる。
『〝マティアス〟の意味は?』
すると彼は少し黙ってから答えた。
『……〝神からの贈り物〟』
それを聞き、麻衣はにっこり笑った。
『凄く素敵な名前!』
『……麻衣は?』
『えー? 知らないけど、漢字の通りじゃない? 麻でできた衣みたいな……って』
『柔らかくて優しいのか』
『そこまで深読みしないでよ。誰も何も言ってないじゃん』
気がつけば緊張を忘れていつものように話していた麻衣は、照れくさいのを誤魔化すために、他の写真を覗き込んだ。
『……これ、マティアスさんの若い頃? 今でも若いけど』
写真の中の彼は十代なのか、当時も身長が大きそうだが、今より雰囲気が尖っている感じがある。
『……それは十九歳頃だな』
『へえ……』
今もマティアスはスッキリとした短髪だが、写真の中の彼は坊主と言っていい。
『ドイツの徴兵制度は二〇十一年に停止されたが、ギリギリ十八歳から六か月間訓練を受けていたんだ。……それが明けて家に帰った頃だと思う』
『停止される寸前だったから、行かなくても良かったんじゃないの?』
写真の中のマティアスは張り詰めた表情をしていて、当時の彼に『大丈夫だよ』と声を掛けたくなる。
『……その頃からエミリアの奴隷扱いだったから、現実逃避をしたかったんだ。六か月間、厳しい日々だったし心身共にくたびれ果てたが、あの女の元にいるよりはずっとマシだったし、男ばかりの環境で気が楽だった』
『そっか』
麻衣は頷き、無言でポンポンと彼の背中を叩く。
『今はもう大丈夫だからね?』
『……ああ』
そのあと、ドミニクが『アルバムを見せよう』と言って子供の頃のマティアスの写真や、家族写真、今の家族写真も見せてもらい、夫婦が作ったランチをご馳走になった。
食後は四人でブルーメンブラットヴィルを散策し、夕食はドミニクが予約していたレストランでご馳走になり、ホテルに戻った。
肝心のマティアスの両親に会いに行くイベントが終わったあと、二人はオーストリアに入り、ウィーンへ行ってシェーンブルン宮殿に入り、レオポルド美術館や市庁舎などを見た。
食事はウィンナーシュニッツェルと呼ばれる仔牛のカツレツや、ターフェルシュピッツと呼ばれる牛肉の煮込みなどを食べた。
宮殿の一角にある優美な内装のカフェで朝食をとったり、先述の伝統料理はベートーヴェンやモーツァルトなどが通っていたという、歴史の深いレストランでいただいた。
発祥となったカフェでザッハトルテをいただいたり、有名チョコレート店デメルの本店にも行って香澄へのお土産を買ってホクホクだ。
少し移動して塩の街ザルツブルクでは『サウンド・オブ・ミュージック』の舞台になったミラベル庭園に行き、モーツァルトの生家も見た。
オーストリア観光を終えたあとは南に移動してイタリアへ行き、憧れの水の都ヴェネツィアでゴンドラに乗り、イカスミパスタやシーフードフライを食べ、有名な桃のカクテルベッリーニも飲んだ。
ボローニャではヨーロッパ最古の大学である旧ボローニャ大学アルキジンナジオや、マッジョーレ広場、市庁舎、ボローニャの斜塔を見学し、本家本元のボロネーゼを食べた。
ルネサンスの中心地となった花の都フィレンツェでは、ドゥオモやミケランジェロ広場、ウフィッツィ美術館でボッティチェリを見て、ヴェッキオ橋を写真に収め、ラザニアを食べた。
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