25 / 38
厄災
しおりを挟む
少し経つと玄関に近い部屋の窓に明かりが灯り、「誰だね」と村長の声がしたあとにドアが細く開いた。
「あの……こんばんは」
生贄の身分で村に戻ってきてしまい、どう挨拶をしたらいいのかと思いつつ小さく頭を下げる。すると村長は息を呑んだ後に、大きな声で私を呼んだ。
「アメリア!!」
その声の大きさが、私の生還を喜んでくれているのだと――最初は勘違いしてしまった。
「ご心配をおかけしてすみません。私――」
「なぜ戻ってきた……?」
「またこの村で一緒にいられます」と笑顔で言おうとする前に、村長が氷よりも冷たい声で静かに訊いてきた。
「え……? あの」
「お前は生贄になったのではなかったのか? 魔王さまの所から逃げ出してきたのか?」
「あの……、その話をすると少し長くなってしまうんですが……」
なんだろう。この嫌な感じ。
奥からナイトキャップを被った村長の奥さんも顔を覗かせ、私のことをまるで墓場から蘇った死体のような目で見る。
「アメリアちゃん! 魔王さまの所から逃げ出してきたの!?」
悲鳴を押し殺したような声に、村長の息子やその嫁、さらには子供たちまでもが起きてきた。
「アメリア、どうしてここにいるんだ!」
「あぁ、この村に災いが起こってしまうわ!」
やだ……。どうしてこうなるの? 生贄になった私が無事に戻ってきて、喜んでくれるんじゃなかったの?
怖くなって一歩下がると、隣の家のドアが開いて村人が私を見てやはり驚いた顔をしていた。
「アメリアだ! アメリアがいるぞ!」
ちょっと……。大きな声を出さないでよ……。
あせった私はさらに後退し、どうして村の人たちがこんな反応をするのか分からず左右を見回す。
次第に家から松明を持って出てくる人たちが増えてきた。
やだ……何だか怖い。ひと先ず孤児院に帰ろう。
「あの、村長。遅い時間にすみませんでした。私、一度孤児院に戻って、明日シスターサマンサと一緒にきます」
ぎこちない笑みを浮かべながらそう言った瞬間、ヒステリックな金切り声がした。
「この村は呪われるわーっ!」
まるでバンシーの叫びのような声に思わず悪寒がはしる。
この場にはもういられないと判断した私は、孤児院の方向にむかって足早に歩きだした。
「アメリアが魔王の城から呪いをひき連れてきたぞ!」
どうしてそうなるの? それにエデンは人を呪ったりなんかしないわ!
言いたいことは沢山あるけれど、怖くてなに一つ言葉にならない。
孤児院に向かう私の後を村の人たちは追いかけ、いつの間にか私は走りだしていた。
馬車に乗っていたときは綺麗に満月が見えていた空は、いつの間にか雲に覆われて遠くから雷の音がする。
「魔王が怒っているぞ!」
やや近い場所で空が光ると誰かが叫び、その直後に背中にバシッと何かが当たった。
「痛いっ!」
びっくりしてなにかとふり向けば、背後に小石が転がっていた。
その向こうに、怖い顔をしたおばさん――私が村を出る時にあんなにも涙ぐんで十字を切っていた彼女――が立っている。
「アメリアは堕落したわ! 神の子は呪われて悪魔の子になり、この村に災いをもたらすのよ!」
ザァッ……と、頭のなかで音がした気がする。
血の気が引くってこんな感じなのだろうかと思い、足元に急に奈落へ通じる穴がポッカリと開いた気がした。
「この村に呪いをかける前にやっちまえ!」
誰がそう言ったのだろう? そんな声がした後に、ボーッとしている私の額にまたバシッと小石が当たり、顔を生温かいものが流れるのが分かった。
怖い――。助けて。
今度こそ私は孤児院めがけて一目散に走りだし、その後をワァッ! と村人たちが追ってくる。まるで私は犯罪者か何かになった感じだ。
いつのまにか雨が降っていて、私のことも村人たちも、容赦なく濡らしてゆく。
怖い。怖い。怖い。
助けて! シスター! 母さん!
――エデン!
泣きじゃくりながら細い道を走り、民家が連なっている場所から孤児院への小道をひた走っていたとき――。
「ぐっ!」
背中に一段強い衝撃が加わって私は転倒した。
「あの……こんばんは」
生贄の身分で村に戻ってきてしまい、どう挨拶をしたらいいのかと思いつつ小さく頭を下げる。すると村長は息を呑んだ後に、大きな声で私を呼んだ。
「アメリア!!」
その声の大きさが、私の生還を喜んでくれているのだと――最初は勘違いしてしまった。
「ご心配をおかけしてすみません。私――」
「なぜ戻ってきた……?」
「またこの村で一緒にいられます」と笑顔で言おうとする前に、村長が氷よりも冷たい声で静かに訊いてきた。
「え……? あの」
「お前は生贄になったのではなかったのか? 魔王さまの所から逃げ出してきたのか?」
「あの……、その話をすると少し長くなってしまうんですが……」
なんだろう。この嫌な感じ。
奥からナイトキャップを被った村長の奥さんも顔を覗かせ、私のことをまるで墓場から蘇った死体のような目で見る。
「アメリアちゃん! 魔王さまの所から逃げ出してきたの!?」
悲鳴を押し殺したような声に、村長の息子やその嫁、さらには子供たちまでもが起きてきた。
「アメリア、どうしてここにいるんだ!」
「あぁ、この村に災いが起こってしまうわ!」
やだ……。どうしてこうなるの? 生贄になった私が無事に戻ってきて、喜んでくれるんじゃなかったの?
怖くなって一歩下がると、隣の家のドアが開いて村人が私を見てやはり驚いた顔をしていた。
「アメリアだ! アメリアがいるぞ!」
ちょっと……。大きな声を出さないでよ……。
あせった私はさらに後退し、どうして村の人たちがこんな反応をするのか分からず左右を見回す。
次第に家から松明を持って出てくる人たちが増えてきた。
やだ……何だか怖い。ひと先ず孤児院に帰ろう。
「あの、村長。遅い時間にすみませんでした。私、一度孤児院に戻って、明日シスターサマンサと一緒にきます」
ぎこちない笑みを浮かべながらそう言った瞬間、ヒステリックな金切り声がした。
「この村は呪われるわーっ!」
まるでバンシーの叫びのような声に思わず悪寒がはしる。
この場にはもういられないと判断した私は、孤児院の方向にむかって足早に歩きだした。
「アメリアが魔王の城から呪いをひき連れてきたぞ!」
どうしてそうなるの? それにエデンは人を呪ったりなんかしないわ!
言いたいことは沢山あるけれど、怖くてなに一つ言葉にならない。
孤児院に向かう私の後を村の人たちは追いかけ、いつの間にか私は走りだしていた。
馬車に乗っていたときは綺麗に満月が見えていた空は、いつの間にか雲に覆われて遠くから雷の音がする。
「魔王が怒っているぞ!」
やや近い場所で空が光ると誰かが叫び、その直後に背中にバシッと何かが当たった。
「痛いっ!」
びっくりしてなにかとふり向けば、背後に小石が転がっていた。
その向こうに、怖い顔をしたおばさん――私が村を出る時にあんなにも涙ぐんで十字を切っていた彼女――が立っている。
「アメリアは堕落したわ! 神の子は呪われて悪魔の子になり、この村に災いをもたらすのよ!」
ザァッ……と、頭のなかで音がした気がする。
血の気が引くってこんな感じなのだろうかと思い、足元に急に奈落へ通じる穴がポッカリと開いた気がした。
「この村に呪いをかける前にやっちまえ!」
誰がそう言ったのだろう? そんな声がした後に、ボーッとしている私の額にまたバシッと小石が当たり、顔を生温かいものが流れるのが分かった。
怖い――。助けて。
今度こそ私は孤児院めがけて一目散に走りだし、その後をワァッ! と村人たちが追ってくる。まるで私は犯罪者か何かになった感じだ。
いつのまにか雨が降っていて、私のことも村人たちも、容赦なく濡らしてゆく。
怖い。怖い。怖い。
助けて! シスター! 母さん!
――エデン!
泣きじゃくりながら細い道を走り、民家が連なっている場所から孤児院への小道をひた走っていたとき――。
「ぐっ!」
背中に一段強い衝撃が加わって私は転倒した。
11
あなたにおすすめの小説
男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました
春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。
名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。
誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。
ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、
あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。
「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」
「……もう限界だ」
私は知らなかった。
宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて――
ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる