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厄災
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少し経つと玄関に近い部屋の窓に明かりが灯り、「誰だね」と村長の声がしたあとにドアが細く開いた。
「あの……こんばんは」
生贄の身分で村に戻ってきてしまい、どう挨拶をしたらいいのかと思いつつ小さく頭を下げる。すると村長は息を呑んだ後に、大きな声で私を呼んだ。
「アメリア!!」
その声の大きさが、私の生還を喜んでくれているのだと――最初は勘違いしてしまった。
「ご心配をおかけしてすみません。私――」
「なぜ戻ってきた……?」
「またこの村で一緒にいられます」と笑顔で言おうとする前に、村長が氷よりも冷たい声で静かに訊いてきた。
「え……? あの」
「お前は生贄になったのではなかったのか? 魔王さまの所から逃げ出してきたのか?」
「あの……、その話をすると少し長くなってしまうんですが……」
なんだろう。この嫌な感じ。
奥からナイトキャップを被った村長の奥さんも顔を覗かせ、私のことをまるで墓場から蘇った死体のような目で見る。
「アメリアちゃん! 魔王さまの所から逃げ出してきたの!?」
悲鳴を押し殺したような声に、村長の息子やその嫁、さらには子供たちまでもが起きてきた。
「アメリア、どうしてここにいるんだ!」
「あぁ、この村に災いが起こってしまうわ!」
やだ……。どうしてこうなるの? 生贄になった私が無事に戻ってきて、喜んでくれるんじゃなかったの?
怖くなって一歩下がると、隣の家のドアが開いて村人が私を見てやはり驚いた顔をしていた。
「アメリアだ! アメリアがいるぞ!」
ちょっと……。大きな声を出さないでよ……。
あせった私はさらに後退し、どうして村の人たちがこんな反応をするのか分からず左右を見回す。
次第に家から松明を持って出てくる人たちが増えてきた。
やだ……何だか怖い。ひと先ず孤児院に帰ろう。
「あの、村長。遅い時間にすみませんでした。私、一度孤児院に戻って、明日シスターサマンサと一緒にきます」
ぎこちない笑みを浮かべながらそう言った瞬間、ヒステリックな金切り声がした。
「この村は呪われるわーっ!」
まるでバンシーの叫びのような声に思わず悪寒がはしる。
この場にはもういられないと判断した私は、孤児院の方向にむかって足早に歩きだした。
「アメリアが魔王の城から呪いをひき連れてきたぞ!」
どうしてそうなるの? それにエデンは人を呪ったりなんかしないわ!
言いたいことは沢山あるけれど、怖くてなに一つ言葉にならない。
孤児院に向かう私の後を村の人たちは追いかけ、いつの間にか私は走りだしていた。
馬車に乗っていたときは綺麗に満月が見えていた空は、いつの間にか雲に覆われて遠くから雷の音がする。
「魔王が怒っているぞ!」
やや近い場所で空が光ると誰かが叫び、その直後に背中にバシッと何かが当たった。
「痛いっ!」
びっくりしてなにかとふり向けば、背後に小石が転がっていた。
その向こうに、怖い顔をしたおばさん――私が村を出る時にあんなにも涙ぐんで十字を切っていた彼女――が立っている。
「アメリアは堕落したわ! 神の子は呪われて悪魔の子になり、この村に災いをもたらすのよ!」
ザァッ……と、頭のなかで音がした気がする。
血の気が引くってこんな感じなのだろうかと思い、足元に急に奈落へ通じる穴がポッカリと開いた気がした。
「この村に呪いをかける前にやっちまえ!」
誰がそう言ったのだろう? そんな声がした後に、ボーッとしている私の額にまたバシッと小石が当たり、顔を生温かいものが流れるのが分かった。
怖い――。助けて。
今度こそ私は孤児院めがけて一目散に走りだし、その後をワァッ! と村人たちが追ってくる。まるで私は犯罪者か何かになった感じだ。
いつのまにか雨が降っていて、私のことも村人たちも、容赦なく濡らしてゆく。
怖い。怖い。怖い。
助けて! シスター! 母さん!
――エデン!
泣きじゃくりながら細い道を走り、民家が連なっている場所から孤児院への小道をひた走っていたとき――。
「ぐっ!」
背中に一段強い衝撃が加わって私は転倒した。
「あの……こんばんは」
生贄の身分で村に戻ってきてしまい、どう挨拶をしたらいいのかと思いつつ小さく頭を下げる。すると村長は息を呑んだ後に、大きな声で私を呼んだ。
「アメリア!!」
その声の大きさが、私の生還を喜んでくれているのだと――最初は勘違いしてしまった。
「ご心配をおかけしてすみません。私――」
「なぜ戻ってきた……?」
「またこの村で一緒にいられます」と笑顔で言おうとする前に、村長が氷よりも冷たい声で静かに訊いてきた。
「え……? あの」
「お前は生贄になったのではなかったのか? 魔王さまの所から逃げ出してきたのか?」
「あの……、その話をすると少し長くなってしまうんですが……」
なんだろう。この嫌な感じ。
奥からナイトキャップを被った村長の奥さんも顔を覗かせ、私のことをまるで墓場から蘇った死体のような目で見る。
「アメリアちゃん! 魔王さまの所から逃げ出してきたの!?」
悲鳴を押し殺したような声に、村長の息子やその嫁、さらには子供たちまでもが起きてきた。
「アメリア、どうしてここにいるんだ!」
「あぁ、この村に災いが起こってしまうわ!」
やだ……。どうしてこうなるの? 生贄になった私が無事に戻ってきて、喜んでくれるんじゃなかったの?
怖くなって一歩下がると、隣の家のドアが開いて村人が私を見てやはり驚いた顔をしていた。
「アメリアだ! アメリアがいるぞ!」
ちょっと……。大きな声を出さないでよ……。
あせった私はさらに後退し、どうして村の人たちがこんな反応をするのか分からず左右を見回す。
次第に家から松明を持って出てくる人たちが増えてきた。
やだ……何だか怖い。ひと先ず孤児院に帰ろう。
「あの、村長。遅い時間にすみませんでした。私、一度孤児院に戻って、明日シスターサマンサと一緒にきます」
ぎこちない笑みを浮かべながらそう言った瞬間、ヒステリックな金切り声がした。
「この村は呪われるわーっ!」
まるでバンシーの叫びのような声に思わず悪寒がはしる。
この場にはもういられないと判断した私は、孤児院の方向にむかって足早に歩きだした。
「アメリアが魔王の城から呪いをひき連れてきたぞ!」
どうしてそうなるの? それにエデンは人を呪ったりなんかしないわ!
言いたいことは沢山あるけれど、怖くてなに一つ言葉にならない。
孤児院に向かう私の後を村の人たちは追いかけ、いつの間にか私は走りだしていた。
馬車に乗っていたときは綺麗に満月が見えていた空は、いつの間にか雲に覆われて遠くから雷の音がする。
「魔王が怒っているぞ!」
やや近い場所で空が光ると誰かが叫び、その直後に背中にバシッと何かが当たった。
「痛いっ!」
びっくりしてなにかとふり向けば、背後に小石が転がっていた。
その向こうに、怖い顔をしたおばさん――私が村を出る時にあんなにも涙ぐんで十字を切っていた彼女――が立っている。
「アメリアは堕落したわ! 神の子は呪われて悪魔の子になり、この村に災いをもたらすのよ!」
ザァッ……と、頭のなかで音がした気がする。
血の気が引くってこんな感じなのだろうかと思い、足元に急に奈落へ通じる穴がポッカリと開いた気がした。
「この村に呪いをかける前にやっちまえ!」
誰がそう言ったのだろう? そんな声がした後に、ボーッとしている私の額にまたバシッと小石が当たり、顔を生温かいものが流れるのが分かった。
怖い――。助けて。
今度こそ私は孤児院めがけて一目散に走りだし、その後をワァッ! と村人たちが追ってくる。まるで私は犯罪者か何かになった感じだ。
いつのまにか雨が降っていて、私のことも村人たちも、容赦なく濡らしてゆく。
怖い。怖い。怖い。
助けて! シスター! 母さん!
――エデン!
泣きじゃくりながら細い道を走り、民家が連なっている場所から孤児院への小道をひた走っていたとき――。
「ぐっ!」
背中に一段強い衝撃が加わって私は転倒した。
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