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彼のマンションへ
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皇居ビューのマンションなだけあり、外観からして高級感がある。
木製の自動ドアを通りエントランスに入ると、常駐しているコンシェルジュが二人いる。
「今日から住人になります、三峯芳乃さんです」と暁人が紹介してくれた。
ラウンジやロビーは有名なデザイナーによるものらしく、そこから望む庭も名のある作庭家の作品のようだ。
あちこちに高価そうなアートがあり、レセプションも高級ホテルそのものだ。
そういう場所には勤務し慣れているが、個人の家、マンションともなると気持ちは別だ。
ジーンズに白いTシャツという姿の暁人は、芳乃の荷物を軽々と持って移動していく。
「すっ、すみません! 私、自分で……」
慌てて追いかけ、荷物に手を掛けようとするが、エレベーターホールまで来て「ボタンを押してくれる?」と言われて慌てて言う事を聞いた。
ゴンドラの中に入ると、暁人がポケットからパスケースを出し、フロアボタンの下にある黒い部分にかざした。
そのあと、彼は十五階のボタンを押す。
「俺の住居はルームキーでこうやって認識させないと、他の人は来られないようになっている。鍵をなくしたら少し厄介だから、気を付けて」
「はい」
ホテルのラグジュアリーフロア扱いで、ますます緊張する。
「今来た通り、駐車場は地下。マンションだから、出勤時にはエレベーターの待ち時間に気を付けて。あと、俺は出勤の時、仕事であちこち行く関係で車だけど、君は別途出勤してほしい。ここからホテルまでは歩いて三十分弱。自転車なら十分も掛からないだろう」
「承知しました」
頷きながら、自転車を買わないと……と心の中で思った。
「それ、素敵だね」
不意に、暁人が自分の鎖骨の辺りを指でトントンと打つ。
言われて自分の首元を見ると、昔ある人から贈られた有名ブランドのペンダントが光っていた。
「ありがとうございます。大切な物なんです」
「大切?」
「はい。恋人とかじゃないんですが、私という個人の価値を教えてくれた人が、贈ってくれました。NYで仕事が大変でくじけそうになった時も、このペンダントを見ると勇気づけられたんです」
微笑んでペンダントの事を説明すると、彼は笑う。
「物を大切にする人なんだね。きっと、贈った人も喜んでいるんじゃないかな」
「……だったら、いいですね」
微笑んだ時、エレベーターのゴンドラが十五階に着き、暁人が「どうぞ」とレディファーストしてくれる。
「え……? えぇ?」
エレベーターを出て目の前にあるのは、印象派風の絵画にソファセットだ。
(ここは廊下のはずでは?)
そう思って混乱していると、暁人が通り過ぎた所にあるドアに向かう。
それから彼はピッとルームキーで鍵を開けた。芳乃は慌てて片手が塞がっている暁人の代わりに「失礼します!」とドアを開いた。
目の前には間接照明に照らされた生け花があり、まず目を引く。
「両側に物入れとシューズクローゼットがある。上がって」
言われて、スリッパが用意されてあったのでそれに足を入れ「お邪魔します」と言った。
脇に手洗いがあり、正面のドアの向こうは、三十畳はありそうな空間にリビングダイニング、キッチンがあった。
それをチラッと見た途端、芳乃は違和感を覚える。
「で、部屋はこっち」
が、暁人がそう言って歩き始めたので、慌ててあとを追った。
一旦戻って廊下を奥に進むと、ドアが幾つかある。
「右手は手前からトイレ、物入れに、洗面所。一番奥はマスターベッドルーム。左手は部屋が二つと、マスターベッドルームの向かいが俺の書斎」
「は、はい」
「君の部屋はここ」
そう言って暁人は左手のドアの手前を開いた。
「……ひ、広めですね?」
マンションの一室なので、こぢんまりとした部屋と思っていたが、十畳ほどはありそうだ。
そこでようやく暁人は荷物を下ろす。
「す、すみません! ありがとうございます!」
「どう致しまして。もともとこの部屋は客間だったから、ベッドはある。でも女性に必要そうなドレッサーとか、趣味の本棚とか。そういう物は君の好みを聞いてからにしようと思ってる。カタログを取り寄せてあるから、好きな物の目星をつけておいて。サイズを測って業者と相談する」
「わっ、私の……っ」
私のお金で払います、と言いかけて、現在口座にある金のほとんどは暁人の金だと思い出し、何も言えなくなった。
木製の自動ドアを通りエントランスに入ると、常駐しているコンシェルジュが二人いる。
「今日から住人になります、三峯芳乃さんです」と暁人が紹介してくれた。
ラウンジやロビーは有名なデザイナーによるものらしく、そこから望む庭も名のある作庭家の作品のようだ。
あちこちに高価そうなアートがあり、レセプションも高級ホテルそのものだ。
そういう場所には勤務し慣れているが、個人の家、マンションともなると気持ちは別だ。
ジーンズに白いTシャツという姿の暁人は、芳乃の荷物を軽々と持って移動していく。
「すっ、すみません! 私、自分で……」
慌てて追いかけ、荷物に手を掛けようとするが、エレベーターホールまで来て「ボタンを押してくれる?」と言われて慌てて言う事を聞いた。
ゴンドラの中に入ると、暁人がポケットからパスケースを出し、フロアボタンの下にある黒い部分にかざした。
そのあと、彼は十五階のボタンを押す。
「俺の住居はルームキーでこうやって認識させないと、他の人は来られないようになっている。鍵をなくしたら少し厄介だから、気を付けて」
「はい」
ホテルのラグジュアリーフロア扱いで、ますます緊張する。
「今来た通り、駐車場は地下。マンションだから、出勤時にはエレベーターの待ち時間に気を付けて。あと、俺は出勤の時、仕事であちこち行く関係で車だけど、君は別途出勤してほしい。ここからホテルまでは歩いて三十分弱。自転車なら十分も掛からないだろう」
「承知しました」
頷きながら、自転車を買わないと……と心の中で思った。
「それ、素敵だね」
不意に、暁人が自分の鎖骨の辺りを指でトントンと打つ。
言われて自分の首元を見ると、昔ある人から贈られた有名ブランドのペンダントが光っていた。
「ありがとうございます。大切な物なんです」
「大切?」
「はい。恋人とかじゃないんですが、私という個人の価値を教えてくれた人が、贈ってくれました。NYで仕事が大変でくじけそうになった時も、このペンダントを見ると勇気づけられたんです」
微笑んでペンダントの事を説明すると、彼は笑う。
「物を大切にする人なんだね。きっと、贈った人も喜んでいるんじゃないかな」
「……だったら、いいですね」
微笑んだ時、エレベーターのゴンドラが十五階に着き、暁人が「どうぞ」とレディファーストしてくれる。
「え……? えぇ?」
エレベーターを出て目の前にあるのは、印象派風の絵画にソファセットだ。
(ここは廊下のはずでは?)
そう思って混乱していると、暁人が通り過ぎた所にあるドアに向かう。
それから彼はピッとルームキーで鍵を開けた。芳乃は慌てて片手が塞がっている暁人の代わりに「失礼します!」とドアを開いた。
目の前には間接照明に照らされた生け花があり、まず目を引く。
「両側に物入れとシューズクローゼットがある。上がって」
言われて、スリッパが用意されてあったのでそれに足を入れ「お邪魔します」と言った。
脇に手洗いがあり、正面のドアの向こうは、三十畳はありそうな空間にリビングダイニング、キッチンがあった。
それをチラッと見た途端、芳乃は違和感を覚える。
「で、部屋はこっち」
が、暁人がそう言って歩き始めたので、慌ててあとを追った。
一旦戻って廊下を奥に進むと、ドアが幾つかある。
「右手は手前からトイレ、物入れに、洗面所。一番奥はマスターベッドルーム。左手は部屋が二つと、マスターベッドルームの向かいが俺の書斎」
「は、はい」
「君の部屋はここ」
そう言って暁人は左手のドアの手前を開いた。
「……ひ、広めですね?」
マンションの一室なので、こぢんまりとした部屋と思っていたが、十畳ほどはありそうだ。
そこでようやく暁人は荷物を下ろす。
「す、すみません! ありがとうございます!」
「どう致しまして。もともとこの部屋は客間だったから、ベッドはある。でも女性に必要そうなドレッサーとか、趣味の本棚とか。そういう物は君の好みを聞いてからにしようと思ってる。カタログを取り寄せてあるから、好きな物の目星をつけておいて。サイズを測って業者と相談する」
「わっ、私の……っ」
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