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ルナティック1 ☆
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屋敷のコックが作ったご馳走に舌鼓をうち、それからクレハは本領発揮だとまた着替えてノアの部屋に向かった。
「ノアさま、今日こそお勉強をしましょうね」
「あぁ、そうだねクレハ」
ノアは部屋のカーテンを開けてオットマンの上に足を投げ出し、月を眺めていた。
照明はつけておらず、青白い月光に照らされた彼は幻想的で美しい。
「あら、月が綺麗ですね」
ノックの返事があるので、クレハはてっきりノアが読書でもしているのかと思った。
なので部屋が暗くてクレハは少し驚く。だがすぐに彼がいま月見を楽しんでいることが分かると、自分も窓辺に立った。
「ノアさまは月がお好きなんですか?」
「そうだね、月を見ていると……氣が満ちる気がするよ」
「あ……」
そこでクレハは吸血鬼種が月の影響を受けるのを思い出し、さり気なく彼の顔を窺う。
青白い月光を浴びたノアは、また目を金色に光らせていた。
「今日って……満月、でしたっけ」
不思議とその美しい金色から目が離せなかった。
魔族は月の満ち欠けに影響される種族も少なくなく、王都のあちらこちらにはカレンダーと一緒に月齢を表す掲示もある。
クレハ自身はインキュバスの父を持っても、自身は魔族としての能力を自覚しないので、月齢のことなどあまり考えたことはなかった。
ぼんやりと満月の日は治安が少し悪くなると知っていても、クレハの体が変化することはない。
だがノアは違うのだ。
「ノアさまは……、月が満ちるとどんな変化があるんですか? その、家庭教師として知っておくのも役割かと思いまして」
自分の知らない神秘的な顔を見せるノアに、クレハそっと爪先から忍び入るように尋ねる。
すると、彼の金色の目がクレハを見た。
「そうだね、とても……昂る。……と言えば一言で済むかもしれない」
「そ……、そうですか」
彼の全身から目に見えないオーラが発せられている気がして、クレハは体重移動をするふりをして一歩後ずさる。
そのまま妙な沈黙があり、何も言わないノアにクレハの緊張が高まった時だった。
「……君を求めてもいいだろうか」
思っていた通りの申し出があり、クレハはその言葉だけで少し腰を反らす。
「い……、痛く、しないのなら……」
長い黒髪をいじりながら控えめに答えると、ノアは音もたてずに立ち上がった。
「あ……」
ノアの上品で温厚な態度は変わらないのに、今日は「いつもと迫力が違う」とどこか思った。
静かな表情の奥に、クレハが想像もできないような情熱があるような気がして、彼女は心の底でそっと怯える。
「じゃあ、クレハ。脱いで」
そう言うとノアは自らシャツのボタンに手をかけ、デスクの上に軽く腰掛けた。
金色の目がじっと見守っているなか、クレハは震える息を吐きながらそっと首のリボンに手を掛ける。
シュル……と衣擦れの音がしてリボンが外された。
クレハがそれをソファの背もたれにかけようとすると、ノアが手を差し出してくる。
「僕にそれを渡して」
「……? はい」
不思議に思いつつリボンをノアに手渡すと、彼は少しその長さを確認してから、左右に広げてクレハの前に立つ。
「っあ、あの……、ノアさま?」
「目を閉じて」
とっさにクレハは「怖い」と思ってしまった。
けれど静かに深く呼吸をしたまま、「はい」と従順な返事をして長い睫毛を伏せると――。
「あ……」
首元から外されたばかりの絹のリボンは、柔らかくクレハの目元に巻き付けられ、後頭部でキュッと結ばれた。
「ノアさま? ……こわいです」
思わずクレハが手をさまよわせると、その手をノアがしっかりと握って自分の胸板に触れさせる。
「僕はここにいるから、僕の体を触っておいで。そうすれば怖くないだろう」
穏やかなノアの声がしたかと思うと、彼の気配が動いてクレハのブラウスのボタンが外されてゆく。
胸元が解放されて楽になってゆくのを感じる。
同時にクレハは目が見えない不安と脱がされている恥ずかしさとで、ノアのシャツに指先を喰い込ませていた。
「僕の目が怖いかい?」
怯えているクレハの耳に静かなノアの声が入り、それに彼女は一瞬呼吸をとめた。
「いいえ……」
「……分かっているのに君に尋ねるのは、僕も少し意地が悪かったね。満月の日には、こうやって興奮して目が光ってしまう。友人にもそれは指摘されていて、よく『怖い』とは言われているんだ。慣れていない君が怯えるのも分かるつもりだ」
「…………」
そう言われてしまっては、クレハも何も言えなくなってしまう。
「自分の血統を自慢する訳ではないが、僕の金色の目も眼力というものがあるらしい。だからまだ慣れていない君には、見つめすぎるのはよくないと思う」
ブラウスのボタンはすべて外され、クレハの胸は外気に晒されていた。
ノアが見守るなか母性の形をした果実は静かに震え、先端は少し硬くなっている。
「どうなってしまうんですか?」
ブラウスを脱がされ、今度はノアの気配はクレハのスカートを脱がせにかかっているようだった。
「目を見つめすぎると、僕の虜になってしまう。クレハの意志に関わらず、僕の言葉に服従してしまう。それはフェアな関係ではないだろう?」
「ですが私は……、あなたの使用人ですし」
困惑しながらつぶやくと、その唇にノアの唇がおりて優しく黙らせる。
「君は僕を好きだと言ってくれたね? なら、その関係が『傀儡』であってもいいと思うかい?」
クレハの腰からスルッとスカートが取れ、パサッと床の上に落ちたやわらかい音がした。
「傀儡……は、さすがに……」
「僕だって意志のない君を抱くのは嫌なんだ」
主人という立場から彼女を抱きたいと言い、彼女に脱ぐよう命令し、彼女に目隠しをしておいて、ノアは二人の関係性にフェアを求める。
圧倒的な身分の差があってなお、ノアはクレハを一人の女性として扱っていた。
「ほら、クレハ。ここからは僕のことを『ノア』と呼ぶ時間だよ」
片手でギュッとクレハの尻を握り、ノアは彼女の耳朶に新しい命令を吹き込む。
「ん……っ、う」
ノアの涼しげな声が好きだと、初めて会った時から思っていた。
その声に敏感な耳元で囁かれ、命令され、クレハが感じないはずがない。
下着にトロリと蜜が垂れた気がして、彼に悟られるはずもないのにクレハは羞恥で膝をすり合わせた。
「ノ……、ノア……」
クレハの唇が自分の名を呼ぶ度、ノアは甘美な眩暈を覚える。
素敵な女性だと思ったあの出会いの日。彼女に名前を呼ばれて初めて、自分の名を好きになれた気がした。
彼女が屋敷に来て、『さま』をつけて呼ぶとまた違う感覚がある。
肌を重ねて、彼女が噎び泣きながら自分の名を呼べば、嗜虐的な気持ちとともにもっと呼ばせたいという気持ちになる。
いまは――、目が見えず不安でいっぱいのクレハは、自分の存在を確かめているだけで精一杯だ。
ノアという名を呼び、その体に触れていることだけで、彼女が頼りない気持ちを満たしているのだと思うと、歪んだ悦びが湧きおこる。
トン、と指先を彼女の鎖骨の中央に触れさせると、クレハがスッと息を吸い込んだ。
そのままゆっくりと指を下へ滑らせてゆくにつれて、クレハの肌は粟立ち胸の先端がキュッと尖る。
「ふぅん……? 触れられているだけでこんなに感じるんだ。君の可愛らしい乳首が、硬くなっているよ」
「ノア……、恥ずかしいです」
またノアが意地悪になったと思いながら、見えないなかクレハは必死に彼のシャツを掴む。
「少し、待って」
クス、と笑う気配があってから、次々に衣擦れの音がする。
彼が衣服を脱いでいるのだと思うと、クレハは静かに興奮が高まってゆくのを隠せない。
「ノアさま、今日こそお勉強をしましょうね」
「あぁ、そうだねクレハ」
ノアは部屋のカーテンを開けてオットマンの上に足を投げ出し、月を眺めていた。
照明はつけておらず、青白い月光に照らされた彼は幻想的で美しい。
「あら、月が綺麗ですね」
ノックの返事があるので、クレハはてっきりノアが読書でもしているのかと思った。
なので部屋が暗くてクレハは少し驚く。だがすぐに彼がいま月見を楽しんでいることが分かると、自分も窓辺に立った。
「ノアさまは月がお好きなんですか?」
「そうだね、月を見ていると……氣が満ちる気がするよ」
「あ……」
そこでクレハは吸血鬼種が月の影響を受けるのを思い出し、さり気なく彼の顔を窺う。
青白い月光を浴びたノアは、また目を金色に光らせていた。
「今日って……満月、でしたっけ」
不思議とその美しい金色から目が離せなかった。
魔族は月の満ち欠けに影響される種族も少なくなく、王都のあちらこちらにはカレンダーと一緒に月齢を表す掲示もある。
クレハ自身はインキュバスの父を持っても、自身は魔族としての能力を自覚しないので、月齢のことなどあまり考えたことはなかった。
ぼんやりと満月の日は治安が少し悪くなると知っていても、クレハの体が変化することはない。
だがノアは違うのだ。
「ノアさまは……、月が満ちるとどんな変化があるんですか? その、家庭教師として知っておくのも役割かと思いまして」
自分の知らない神秘的な顔を見せるノアに、クレハそっと爪先から忍び入るように尋ねる。
すると、彼の金色の目がクレハを見た。
「そうだね、とても……昂る。……と言えば一言で済むかもしれない」
「そ……、そうですか」
彼の全身から目に見えないオーラが発せられている気がして、クレハは体重移動をするふりをして一歩後ずさる。
そのまま妙な沈黙があり、何も言わないノアにクレハの緊張が高まった時だった。
「……君を求めてもいいだろうか」
思っていた通りの申し出があり、クレハはその言葉だけで少し腰を反らす。
「い……、痛く、しないのなら……」
長い黒髪をいじりながら控えめに答えると、ノアは音もたてずに立ち上がった。
「あ……」
ノアの上品で温厚な態度は変わらないのに、今日は「いつもと迫力が違う」とどこか思った。
静かな表情の奥に、クレハが想像もできないような情熱があるような気がして、彼女は心の底でそっと怯える。
「じゃあ、クレハ。脱いで」
そう言うとノアは自らシャツのボタンに手をかけ、デスクの上に軽く腰掛けた。
金色の目がじっと見守っているなか、クレハは震える息を吐きながらそっと首のリボンに手を掛ける。
シュル……と衣擦れの音がしてリボンが外された。
クレハがそれをソファの背もたれにかけようとすると、ノアが手を差し出してくる。
「僕にそれを渡して」
「……? はい」
不思議に思いつつリボンをノアに手渡すと、彼は少しその長さを確認してから、左右に広げてクレハの前に立つ。
「っあ、あの……、ノアさま?」
「目を閉じて」
とっさにクレハは「怖い」と思ってしまった。
けれど静かに深く呼吸をしたまま、「はい」と従順な返事をして長い睫毛を伏せると――。
「あ……」
首元から外されたばかりの絹のリボンは、柔らかくクレハの目元に巻き付けられ、後頭部でキュッと結ばれた。
「ノアさま? ……こわいです」
思わずクレハが手をさまよわせると、その手をノアがしっかりと握って自分の胸板に触れさせる。
「僕はここにいるから、僕の体を触っておいで。そうすれば怖くないだろう」
穏やかなノアの声がしたかと思うと、彼の気配が動いてクレハのブラウスのボタンが外されてゆく。
胸元が解放されて楽になってゆくのを感じる。
同時にクレハは目が見えない不安と脱がされている恥ずかしさとで、ノアのシャツに指先を喰い込ませていた。
「僕の目が怖いかい?」
怯えているクレハの耳に静かなノアの声が入り、それに彼女は一瞬呼吸をとめた。
「いいえ……」
「……分かっているのに君に尋ねるのは、僕も少し意地が悪かったね。満月の日には、こうやって興奮して目が光ってしまう。友人にもそれは指摘されていて、よく『怖い』とは言われているんだ。慣れていない君が怯えるのも分かるつもりだ」
「…………」
そう言われてしまっては、クレハも何も言えなくなってしまう。
「自分の血統を自慢する訳ではないが、僕の金色の目も眼力というものがあるらしい。だからまだ慣れていない君には、見つめすぎるのはよくないと思う」
ブラウスのボタンはすべて外され、クレハの胸は外気に晒されていた。
ノアが見守るなか母性の形をした果実は静かに震え、先端は少し硬くなっている。
「どうなってしまうんですか?」
ブラウスを脱がされ、今度はノアの気配はクレハのスカートを脱がせにかかっているようだった。
「目を見つめすぎると、僕の虜になってしまう。クレハの意志に関わらず、僕の言葉に服従してしまう。それはフェアな関係ではないだろう?」
「ですが私は……、あなたの使用人ですし」
困惑しながらつぶやくと、その唇にノアの唇がおりて優しく黙らせる。
「君は僕を好きだと言ってくれたね? なら、その関係が『傀儡』であってもいいと思うかい?」
クレハの腰からスルッとスカートが取れ、パサッと床の上に落ちたやわらかい音がした。
「傀儡……は、さすがに……」
「僕だって意志のない君を抱くのは嫌なんだ」
主人という立場から彼女を抱きたいと言い、彼女に脱ぐよう命令し、彼女に目隠しをしておいて、ノアは二人の関係性にフェアを求める。
圧倒的な身分の差があってなお、ノアはクレハを一人の女性として扱っていた。
「ほら、クレハ。ここからは僕のことを『ノア』と呼ぶ時間だよ」
片手でギュッとクレハの尻を握り、ノアは彼女の耳朶に新しい命令を吹き込む。
「ん……っ、う」
ノアの涼しげな声が好きだと、初めて会った時から思っていた。
その声に敏感な耳元で囁かれ、命令され、クレハが感じないはずがない。
下着にトロリと蜜が垂れた気がして、彼に悟られるはずもないのにクレハは羞恥で膝をすり合わせた。
「ノ……、ノア……」
クレハの唇が自分の名を呼ぶ度、ノアは甘美な眩暈を覚える。
素敵な女性だと思ったあの出会いの日。彼女に名前を呼ばれて初めて、自分の名を好きになれた気がした。
彼女が屋敷に来て、『さま』をつけて呼ぶとまた違う感覚がある。
肌を重ねて、彼女が噎び泣きながら自分の名を呼べば、嗜虐的な気持ちとともにもっと呼ばせたいという気持ちになる。
いまは――、目が見えず不安でいっぱいのクレハは、自分の存在を確かめているだけで精一杯だ。
ノアという名を呼び、その体に触れていることだけで、彼女が頼りない気持ちを満たしているのだと思うと、歪んだ悦びが湧きおこる。
トン、と指先を彼女の鎖骨の中央に触れさせると、クレハがスッと息を吸い込んだ。
そのままゆっくりと指を下へ滑らせてゆくにつれて、クレハの肌は粟立ち胸の先端がキュッと尖る。
「ふぅん……? 触れられているだけでこんなに感じるんだ。君の可愛らしい乳首が、硬くなっているよ」
「ノア……、恥ずかしいです」
またノアが意地悪になったと思いながら、見えないなかクレハは必死に彼のシャツを掴む。
「少し、待って」
クス、と笑う気配があってから、次々に衣擦れの音がする。
彼が衣服を脱いでいるのだと思うと、クレハは静かに興奮が高まってゆくのを隠せない。
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