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危ない!
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そのあと、十六時近くまでたわいのない話をして過ごした。
花音は二十時台の便で帰る予定なので、早めの夕食を食べたら空港に向かうつもりだった。
「一緒に夕飯食べようか」
「そうですね、病院内の食堂なら……」
言いかけたが、秀真が病衣を脱ぎ始めて「えっ?」と声が漏れる。
「元気になってからは主治医からある程度なら……って外出許可が出ているから、たまにその辺の散歩やコンビニにも行っているんだ」
病室内にはクローゼットもあり、秀真はそこから適当に服を出す。
着替えを見てはいけないと思い、花音はとっさに後ろを向いた。
「でも、夕方には病院食が出るんでしょう? 怒られません?」
「大丈夫」
そのうち「もういいよ」と声がしたので振り向くと、ジーパンを穿き長袖Tシャツを着た彼が立っている。
「秘書さんは? 夕方に来るんでしょう? スマホの事とか伝えないと」
「部屋で待っていてもらうように、書き置きをしておく。そんなに何時間も待たせる訳じゃないから、大丈夫」
そう言って秀真はメモにサラサラと秘書へのメッセージを書き、「行こうか」と病室を出た。
スタッフステーション前で、彼は「少し出て来ます」と看護師に告げる。
「あまり遅くなってはいけませんよ」
「はい」
先ほどのベテラン看護師に言われ、秀真は素直な返事をしたあとにエレベーターのボタンを押した。
やがて二人はゴンドラに乗り込み、一階まで下りると病院から出る。
「花音、何が食べたい?」
秀真が聞いてきた時、花音は前方からやってくる人影を見て「あ」と声を漏らした。
――愛那だ。
顔を強張らせた花音を見て、秀真もすぐ前を向いて「愛那さん……」と呟く。
そして彼は自分の体の陰に花音を隠し、庇おうとした。
けれど花音は、自分も戦うと決めたのだからと懸命に秀真の隣に立つ。
やがて愛那は二人の前に立ち、いつもの微笑みを浮かべたままお辞儀をした。
「秀真さん、お話が……」
愛那がそこまで言った時、死角――病院の前庭にある木陰から、一人の男がこちらに向かって突進してきた。
(何!?)
動くものを視界に捉え、花音はギョッとしてその男を見る。
(嘘!)
見間違いでなければ、男は手に刃物を持っていた。
「秀真さん!」
声を上げ、花音は危険を知らせる。
――が、その前に愛那が秀真に飛びつくようにして抱きついた。
「秀真さん、危ない!」
愛那は花音の声を聞き、チラッと男の方を見てから秀真を庇うように抱き締めた。
その腰に、男が持っていた包丁がドッと刺さる。
「っあぁ……っ!」
「愛那さん!! ……っ、お前、金田……!」
秀真は男と面識があるようで、彼の名前を呼び激しく睨みつける。
「花音! 病院の人を呼んできて!」
「はい!」
膝から崩れ落ちた愛那を秀真は支え、金田と呼ばれた男は「あぁああぁ……!」と奇声を上げ走り去っていった。
(どうしよう!)
花音は病院に駆け込み、総合案内の女性にまくし立てた。
「外で秀真さんが刺されたんです! 違う、愛那さんが! 男が刃物を持っていて、刺されました! お願いします、助けてください!」
女性はすぐに然るべき場所に連絡をしてくれ、間もなく手の空いている看護師や緊急外来の医師たちが駆けつけた。
花音も一緒に外に出ると、秀真は愛那を抱き留めたまま座り込んでいる。
「秀真さん! 愛那さんは!?」
「早く! お願いします!」
秀真は強張った顔で、駆けつけた病院関係者に向けて声を上げる。
そのあと警察も呼ぶ流れになり、愛那が運ばれて一旦場が収まった時、秀真が申し訳なさそうに言った。
「……すまない。夕食を一緒にとって空港まで送りたいと思っていたけど、できなさそうだ」
「いいえ、気にしないでください。大変な事になったのは、私も分かっていますから。犯人が捕まって、愛那さんも助かるよう祈っています」
「ありがとう。もうすぐ秘書が来るはずだから、スマホも取りあえず解約して新しくする。連絡できるようになったら、すぐメッセージか電話をよこすから」
「はい」
最後にギュッと抱き締められ、花音は病院の前で秀真と別れる事にした。
花音は二十時台の便で帰る予定なので、早めの夕食を食べたら空港に向かうつもりだった。
「一緒に夕飯食べようか」
「そうですね、病院内の食堂なら……」
言いかけたが、秀真が病衣を脱ぎ始めて「えっ?」と声が漏れる。
「元気になってからは主治医からある程度なら……って外出許可が出ているから、たまにその辺の散歩やコンビニにも行っているんだ」
病室内にはクローゼットもあり、秀真はそこから適当に服を出す。
着替えを見てはいけないと思い、花音はとっさに後ろを向いた。
「でも、夕方には病院食が出るんでしょう? 怒られません?」
「大丈夫」
そのうち「もういいよ」と声がしたので振り向くと、ジーパンを穿き長袖Tシャツを着た彼が立っている。
「秘書さんは? 夕方に来るんでしょう? スマホの事とか伝えないと」
「部屋で待っていてもらうように、書き置きをしておく。そんなに何時間も待たせる訳じゃないから、大丈夫」
そう言って秀真はメモにサラサラと秘書へのメッセージを書き、「行こうか」と病室を出た。
スタッフステーション前で、彼は「少し出て来ます」と看護師に告げる。
「あまり遅くなってはいけませんよ」
「はい」
先ほどのベテラン看護師に言われ、秀真は素直な返事をしたあとにエレベーターのボタンを押した。
やがて二人はゴンドラに乗り込み、一階まで下りると病院から出る。
「花音、何が食べたい?」
秀真が聞いてきた時、花音は前方からやってくる人影を見て「あ」と声を漏らした。
――愛那だ。
顔を強張らせた花音を見て、秀真もすぐ前を向いて「愛那さん……」と呟く。
そして彼は自分の体の陰に花音を隠し、庇おうとした。
けれど花音は、自分も戦うと決めたのだからと懸命に秀真の隣に立つ。
やがて愛那は二人の前に立ち、いつもの微笑みを浮かべたままお辞儀をした。
「秀真さん、お話が……」
愛那がそこまで言った時、死角――病院の前庭にある木陰から、一人の男がこちらに向かって突進してきた。
(何!?)
動くものを視界に捉え、花音はギョッとしてその男を見る。
(嘘!)
見間違いでなければ、男は手に刃物を持っていた。
「秀真さん!」
声を上げ、花音は危険を知らせる。
――が、その前に愛那が秀真に飛びつくようにして抱きついた。
「秀真さん、危ない!」
愛那は花音の声を聞き、チラッと男の方を見てから秀真を庇うように抱き締めた。
その腰に、男が持っていた包丁がドッと刺さる。
「っあぁ……っ!」
「愛那さん!! ……っ、お前、金田……!」
秀真は男と面識があるようで、彼の名前を呼び激しく睨みつける。
「花音! 病院の人を呼んできて!」
「はい!」
膝から崩れ落ちた愛那を秀真は支え、金田と呼ばれた男は「あぁああぁ……!」と奇声を上げ走り去っていった。
(どうしよう!)
花音は病院に駆け込み、総合案内の女性にまくし立てた。
「外で秀真さんが刺されたんです! 違う、愛那さんが! 男が刃物を持っていて、刺されました! お願いします、助けてください!」
女性はすぐに然るべき場所に連絡をしてくれ、間もなく手の空いている看護師や緊急外来の医師たちが駆けつけた。
花音も一緒に外に出ると、秀真は愛那を抱き留めたまま座り込んでいる。
「秀真さん! 愛那さんは!?」
「早く! お願いします!」
秀真は強張った顔で、駆けつけた病院関係者に向けて声を上げる。
そのあと警察も呼ぶ流れになり、愛那が運ばれて一旦場が収まった時、秀真が申し訳なさそうに言った。
「……すまない。夕食を一緒にとって空港まで送りたいと思っていたけど、できなさそうだ」
「いいえ、気にしないでください。大変な事になったのは、私も分かっていますから。犯人が捕まって、愛那さんも助かるよう祈っています」
「ありがとう。もうすぐ秘書が来るはずだから、スマホも取りあえず解約して新しくする。連絡できるようになったら、すぐメッセージか電話をよこすから」
「はい」
最後にギュッと抱き締められ、花音は病院の前で秀真と別れる事にした。
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