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犯人
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本当なら秀真と一緒に何を食べるか、ワクワクして食事について考えていたはずだった。
だが花音はまっすぐ空港まで行き、適当な店に入ればいいのに、レストラン街を歩いた挙げ句、人の多さに諦めた。
最終的に空港内にあるコンビニでおにぎりを一つ買い、ベンチに座ってもそもそ食べる。
(愛那さん、大丈夫かな。……っていうかあの男の人、秀真さんを狙って刺そうとした? 秀真さんはあの男性を知っていたみたいだけど、恨みを買っていたの?)
あまりに多くの事がありすぎて、花音は混乱する。
大好きなはずのシーチキンマヨネーズのおにぎりも、結局味が分からないまま、胃の中に入れるという形で食べ終えてしまった。
フライト時間が迫り、スマホを持っていない秀真とは連絡できないまま飛行機が飛び立つ。
(秀真さんには直接会えてお互いの気持ちを確かめたんだから、彼がスマホを新しくして連絡してくれるのを待たないと)
新千歳空港から札幌駅までJRに乗り、スーツケースを持つ人が多くいるなか一人静かに息をつく。
やがて帰った自宅は、朝に出たばかりだというのに、数日帰っていないように思えた。
「……色んな事がありすぎて、疲れてるんだ。……寝よう」
そのあとは何も考えず、熱いシャワーを浴びて倒れるように眠った。
結論から言えば、愛那は助かった。
秀真は翌日の日曜日に退院となり、秘書に新しいスマホの手配もしてもらった。
彼女が刺されて翌日なので、すぐに面会できない。
(今週の中頃に時間を作ろう)
主治医に礼を言って退院した秀真は、いまだ混乱の残る会社に戻り、落ちた株価――信頼回復を取り戻すための重役会議にさっそく顔を出した。
会長と社長が謝罪会見を開き、世間としては「瀬ノ尾グループは一応謝った」と認めてくれたようだ。
だが顧客からは「あそこの会社は信頼できない」と思われたかもしれないし、新規顧客も瀬ノ尾グループを使うのを躊躇うかもしれない。
詫びの意味も込めてホテルを低価格で使えるキャンペーンや、旅行会社でも通常価格よりも値段を抑えたツアーなど、取れる対策をとっていく。
同時に警察から、愛那が刺された事について事情徴収され、あの時見た犯人――金田という名前の元瀬ノ尾グループ本社総務部の男について、話さなければならなかった。
金田――金田勝は、今回の顧客情報を流出した張本人であった。
会社からは懲戒解雇を言い渡した上で、会社側からも金田に賠償を求めていた。
その決定が下ってから大した日が経っていないのに、今回の事件が起こってしまったのだ。
(逆恨みか……)
そうとしか考えられず、副社長室の椅子に座った秀真は眉間を揉む。
(愛那さんには詫びをして、金田の事は警察に任せる。そして別途、胡桃沢家には俺が原因で彼女が刺された事について、詫びを入れなければ……)
考えるだけでも気が重たい。
金田が引き起こした情報漏洩や、瀬ノ尾グループの周辺がきな臭くなる前、愛那の父から、しつこいほどに「愛那と結婚しないか?」と言われていた。
花音が東京に来た時、偶然愛那と鉢合わせたのが原因だとは気付いている。
愛那からの好意に気付いていない訳ではなかったが、彼女の誘いにも乗らなかったし、食事以外応じなかった。
花音と出会って以降は、愛那に「今度お食事でも」と誘われても「今は好きな人がいるんです」とハッキリ言って断っていた。
だから彼女も分かってくれていたと思っていたのだが、どうやら逆効果になったようだ。
(それでも、花音との未来は守らないと)
思い詰めたまま、日々あくせく働いた秀真が愛那の見舞いに向かったのは、結局復帰した週の金曜日になってしまった。
「秀真さん、来てくださったんですね」
ベッドに横になっている愛那は、化粧をしていなくても相変わらず美しかった。
自分を庇って刺された事については、詫びと礼を言わなくてはいけない。
だが愛那は秀真のスマホを盗っていった疑いがある。
色々話をしなくては……と思いながら、秀真は手土産を彼女に渡し、勧められたあとにベッドの脇に椅子を引き腰掛けた。
「まず……。俺のために怪我を負う事になり、申し訳ございません」
深々と謝罪すると、愛那が微笑んだ。
だが花音はまっすぐ空港まで行き、適当な店に入ればいいのに、レストラン街を歩いた挙げ句、人の多さに諦めた。
最終的に空港内にあるコンビニでおにぎりを一つ買い、ベンチに座ってもそもそ食べる。
(愛那さん、大丈夫かな。……っていうかあの男の人、秀真さんを狙って刺そうとした? 秀真さんはあの男性を知っていたみたいだけど、恨みを買っていたの?)
あまりに多くの事がありすぎて、花音は混乱する。
大好きなはずのシーチキンマヨネーズのおにぎりも、結局味が分からないまま、胃の中に入れるという形で食べ終えてしまった。
フライト時間が迫り、スマホを持っていない秀真とは連絡できないまま飛行機が飛び立つ。
(秀真さんには直接会えてお互いの気持ちを確かめたんだから、彼がスマホを新しくして連絡してくれるのを待たないと)
新千歳空港から札幌駅までJRに乗り、スーツケースを持つ人が多くいるなか一人静かに息をつく。
やがて帰った自宅は、朝に出たばかりだというのに、数日帰っていないように思えた。
「……色んな事がありすぎて、疲れてるんだ。……寝よう」
そのあとは何も考えず、熱いシャワーを浴びて倒れるように眠った。
結論から言えば、愛那は助かった。
秀真は翌日の日曜日に退院となり、秘書に新しいスマホの手配もしてもらった。
彼女が刺されて翌日なので、すぐに面会できない。
(今週の中頃に時間を作ろう)
主治医に礼を言って退院した秀真は、いまだ混乱の残る会社に戻り、落ちた株価――信頼回復を取り戻すための重役会議にさっそく顔を出した。
会長と社長が謝罪会見を開き、世間としては「瀬ノ尾グループは一応謝った」と認めてくれたようだ。
だが顧客からは「あそこの会社は信頼できない」と思われたかもしれないし、新規顧客も瀬ノ尾グループを使うのを躊躇うかもしれない。
詫びの意味も込めてホテルを低価格で使えるキャンペーンや、旅行会社でも通常価格よりも値段を抑えたツアーなど、取れる対策をとっていく。
同時に警察から、愛那が刺された事について事情徴収され、あの時見た犯人――金田という名前の元瀬ノ尾グループ本社総務部の男について、話さなければならなかった。
金田――金田勝は、今回の顧客情報を流出した張本人であった。
会社からは懲戒解雇を言い渡した上で、会社側からも金田に賠償を求めていた。
その決定が下ってから大した日が経っていないのに、今回の事件が起こってしまったのだ。
(逆恨みか……)
そうとしか考えられず、副社長室の椅子に座った秀真は眉間を揉む。
(愛那さんには詫びをして、金田の事は警察に任せる。そして別途、胡桃沢家には俺が原因で彼女が刺された事について、詫びを入れなければ……)
考えるだけでも気が重たい。
金田が引き起こした情報漏洩や、瀬ノ尾グループの周辺がきな臭くなる前、愛那の父から、しつこいほどに「愛那と結婚しないか?」と言われていた。
花音が東京に来た時、偶然愛那と鉢合わせたのが原因だとは気付いている。
愛那からの好意に気付いていない訳ではなかったが、彼女の誘いにも乗らなかったし、食事以外応じなかった。
花音と出会って以降は、愛那に「今度お食事でも」と誘われても「今は好きな人がいるんです」とハッキリ言って断っていた。
だから彼女も分かってくれていたと思っていたのだが、どうやら逆効果になったようだ。
(それでも、花音との未来は守らないと)
思い詰めたまま、日々あくせく働いた秀真が愛那の見舞いに向かったのは、結局復帰した週の金曜日になってしまった。
「秀真さん、来てくださったんですね」
ベッドに横になっている愛那は、化粧をしていなくても相変わらず美しかった。
自分を庇って刺された事については、詫びと礼を言わなくてはいけない。
だが愛那は秀真のスマホを盗っていった疑いがある。
色々話をしなくては……と思いながら、秀真は手土産を彼女に渡し、勧められたあとにベッドの脇に椅子を引き腰掛けた。
「まず……。俺のために怪我を負う事になり、申し訳ございません」
深々と謝罪すると、愛那が微笑んだ。
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