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一緒に戦わせてください
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「すみません」
「あら、瀬ノ尾さん、どうかされましたか?」
ベテラン看護師が顔を上げ、にこやかに応対する。
「お聞きしたいのですが、僕が病室に運ばれてすぐ、家族と秘書以外の人が来なかったでしょうか?」
尋ねられ、看護師は「少しお待ちくださいね」と言ってステーション内にいるもう一人の看護師に話を聞く。
と、彼女の声が直接聞こえた。
「若くて綺麗な女性がいらっしゃいましたよ? 婚約者だと仰っていたので、部屋を教えましたけど……」
〝若くて綺麗な女性〟と聞いて、二人が脳裏に浮かべたのは同じ人物だった。
「……もしかして……」
「……多分、そうだ。愛那さんだ」
秀真は険しい表情になり、ひとまず看護師に「ありがとうございました」と告げて病室に戻る事にした。
「俺のスマホは、指紋認証のモデルを使っているんだ。だから寝ている間に、指でロックを外す事は可能だったかもしれない。そのあと、認証方法などを変えてしまえば向こうのものだ」
「でもそれって、犯罪でしょう? スマホは盗難された訳ですし……」
花音の言葉に、秀真は頷く。
「秘書が来たら携帯会社に行って解約してもらい、警察に盗難届も出す」
秀真がすぐ対応すると知り、ひとまず安堵する。
「……彼女が俺のスマホを持っていったなら、花音の電話に無言で対応したのも納得できる。多分、メッセージもすべて見られただろう」
自分たちのプライベートな会話を見られたと分かって、花音は悪寒を覚えた。
「……愛那さんの親御さんに、結婚を迫られていたのでしょう?」
春枝から聞いた話を口にすると、秀真は決まり悪そうに頷く。
「黙っていてすまない。俺は花音一筋だし、君の耳に入れるべきじゃないと思った。自分で片付けて、何事もなかったように花音と接しようと思っていたのが、すべての間違いだった」
「終わった事は仕方ありません。今も愛那さんや親御さんは、結婚を迫っているんですか?」
(いざとなれば、私が正面に立ってハッキリ言わないといけないかもしれない。秀真さんがこれだけ頑張ってくれていたなら、それぐらい私も受けて立たないと)
胸に決意を宿して秀真に尋ねると、彼は固い表情で頷く。
「入院する前は、かなり頻繁に愛那さんや親御さんから連絡があった。食事の誘いなどを断っていたら、うちの会社の顧客情報が漏洩して、その対応に追われるようになった。疑いたくないが、あまりにタイミングが良すぎる」
「……春枝さんは、処分する人も決まったと仰っていました」
「……ああ。総務部にいる社員が、どうやら顧客情報を外に流したらしい。上司に聞いても、お調子者っぽい性格ではあったが、仕事に対する責任感はある人物だと言っていた。普通、何か問題を起こす者は、一貫性がある場合が多い。……それでも、ストレスが堪った挙げ句という事も考えるから、一概には言えないが……」
秀真は難しい顔で言い、溜め息をつく。
彼と一緒に考えたいと思うが、社内の事に花音が口出しする訳にいかない。
だから自分のできる事を……と思った。
「もし、また愛那さんが訪れてくる事があれば、私を呼んでください。きちんと納得してもらえるまで、私が説明します」
キッパリと言い放った花音を、秀真は驚いて見る。
だが嬉しそうな、けれど苦しそうな、微妙な顔で首を横に振った。
「俺が断らなきゃいけない事だ。花音に迷惑を掛けられない」
「でも、心配はさせてください。秀真さんは私を選んで、結婚したいって思ってくれているんでしょう?」
花音は前のめりになり、両手で彼の手を握った。
自分でもこれほど積極的になれると思わなかったが、知らないところで秀真がズタボロになったのを、これ以上看過できないと思った。
彼の事を愛しているからこそ、結婚して夫になる人だと思うから、自分も役立ててほしいと強く思ったのだ。
「守られるだけの存在じゃ嫌なんです。私の事を奥さんにしてくれるなら、一緒に戦わせてください」
かつてピアノから逃げた花音とは思えない、強い意志がそこにあった。
秀真の事だけはどうしても譲れない、諦められないと思うからこそ、花音は自分でも驚くほどの強さを見せた。
彼女の言葉を聞き、一瞬言葉を詰まらせた秀真だったが、花音の瞳の奥に宿る凛とした光を見て微笑んだ。
「……ありがとう。必要になったら、応援を頼みたい。それでいい?」
「はい!」
きちんと自分の事も頼りになる存在として数えてくれると言い、花音は満足して頷いた。
「あら、瀬ノ尾さん、どうかされましたか?」
ベテラン看護師が顔を上げ、にこやかに応対する。
「お聞きしたいのですが、僕が病室に運ばれてすぐ、家族と秘書以外の人が来なかったでしょうか?」
尋ねられ、看護師は「少しお待ちくださいね」と言ってステーション内にいるもう一人の看護師に話を聞く。
と、彼女の声が直接聞こえた。
「若くて綺麗な女性がいらっしゃいましたよ? 婚約者だと仰っていたので、部屋を教えましたけど……」
〝若くて綺麗な女性〟と聞いて、二人が脳裏に浮かべたのは同じ人物だった。
「……もしかして……」
「……多分、そうだ。愛那さんだ」
秀真は険しい表情になり、ひとまず看護師に「ありがとうございました」と告げて病室に戻る事にした。
「俺のスマホは、指紋認証のモデルを使っているんだ。だから寝ている間に、指でロックを外す事は可能だったかもしれない。そのあと、認証方法などを変えてしまえば向こうのものだ」
「でもそれって、犯罪でしょう? スマホは盗難された訳ですし……」
花音の言葉に、秀真は頷く。
「秘書が来たら携帯会社に行って解約してもらい、警察に盗難届も出す」
秀真がすぐ対応すると知り、ひとまず安堵する。
「……彼女が俺のスマホを持っていったなら、花音の電話に無言で対応したのも納得できる。多分、メッセージもすべて見られただろう」
自分たちのプライベートな会話を見られたと分かって、花音は悪寒を覚えた。
「……愛那さんの親御さんに、結婚を迫られていたのでしょう?」
春枝から聞いた話を口にすると、秀真は決まり悪そうに頷く。
「黙っていてすまない。俺は花音一筋だし、君の耳に入れるべきじゃないと思った。自分で片付けて、何事もなかったように花音と接しようと思っていたのが、すべての間違いだった」
「終わった事は仕方ありません。今も愛那さんや親御さんは、結婚を迫っているんですか?」
(いざとなれば、私が正面に立ってハッキリ言わないといけないかもしれない。秀真さんがこれだけ頑張ってくれていたなら、それぐらい私も受けて立たないと)
胸に決意を宿して秀真に尋ねると、彼は固い表情で頷く。
「入院する前は、かなり頻繁に愛那さんや親御さんから連絡があった。食事の誘いなどを断っていたら、うちの会社の顧客情報が漏洩して、その対応に追われるようになった。疑いたくないが、あまりにタイミングが良すぎる」
「……春枝さんは、処分する人も決まったと仰っていました」
「……ああ。総務部にいる社員が、どうやら顧客情報を外に流したらしい。上司に聞いても、お調子者っぽい性格ではあったが、仕事に対する責任感はある人物だと言っていた。普通、何か問題を起こす者は、一貫性がある場合が多い。……それでも、ストレスが堪った挙げ句という事も考えるから、一概には言えないが……」
秀真は難しい顔で言い、溜め息をつく。
彼と一緒に考えたいと思うが、社内の事に花音が口出しする訳にいかない。
だから自分のできる事を……と思った。
「もし、また愛那さんが訪れてくる事があれば、私を呼んでください。きちんと納得してもらえるまで、私が説明します」
キッパリと言い放った花音を、秀真は驚いて見る。
だが嬉しそうな、けれど苦しそうな、微妙な顔で首を横に振った。
「俺が断らなきゃいけない事だ。花音に迷惑を掛けられない」
「でも、心配はさせてください。秀真さんは私を選んで、結婚したいって思ってくれているんでしょう?」
花音は前のめりになり、両手で彼の手を握った。
自分でもこれほど積極的になれると思わなかったが、知らないところで秀真がズタボロになったのを、これ以上看過できないと思った。
彼の事を愛しているからこそ、結婚して夫になる人だと思うから、自分も役立ててほしいと強く思ったのだ。
「守られるだけの存在じゃ嫌なんです。私の事を奥さんにしてくれるなら、一緒に戦わせてください」
かつてピアノから逃げた花音とは思えない、強い意志がそこにあった。
秀真の事だけはどうしても譲れない、諦められないと思うからこそ、花音は自分でも驚くほどの強さを見せた。
彼女の言葉を聞き、一瞬言葉を詰まらせた秀真だったが、花音の瞳の奥に宿る凛とした光を見て微笑んだ。
「……ありがとう。必要になったら、応援を頼みたい。それでいい?」
「はい!」
きちんと自分の事も頼りになる存在として数えてくれると言い、花音は満足して頷いた。
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