一ノ瀬家の日常

江村愛美

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これが一ノ瀬家の日常なのですよ。

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話の前にひとつ言っておくと、第一話?(と呼べるのか分からないけど)は、この二次元の世界観?を少し説明するため話が長いです。
私の理想的にはショートショートって言うんですかね。あの、一話一話がとても短いやつ。そんな風にしたいと思っています。ですが、どうしても一話で色々説明しておかないと後で大変な事になりそうなので一話目はだらだらしてるかもです。
それでも大丈夫でしたら、どうぞ読んでやって下さい(土下座)。気が向いたらpixivの方で漫画載せたいと思ってます(名前一緒です)。どうぞ宜しくお願い致します。

  *       *       *

これは、とある兄弟達の繰り広げるバカらしい日常の物語。



「今日月曜日だよ、皆起きて」

静かな朝の六時過ぎに、薄暗い一ノ瀬家の寝室に小さな起こし声が投げられる。声の主は一ノ瀬家次男の一ノ瀬ゆう。平日や出掛ける予定のある日はこうして一人で皆を起こしている。一番手前の布団で寝ている長男きりの前で先程声を発したつもりが、暫くの間返事が無く、きりが口を僅かに開けたと思えば、

「ん、んん~あと五時間…」
「どんだけ寝る気だよオラァ!! とっとと起きろォ!!」

長男の怠けさに呆れるのを過ぎて怒る。目尻を尖らせてカンカンに怒っていると言わんばかりに表情に出す。そんなゆうを、きりの隣の布団で寝ていた三男のリョウが、体を軽く起こして眠そうに目を擦りながら見る。

「もうゆう兄、たまには静かに起こしてよ…」
「文句言うなら自分で起きろよ!! 僕だけ早起きすんの本当に大変なんだからな!?」
「はいはい、起きたよ」

リョウはゆうの説教にため息をつきながら布団を剥がして起き上がる。

「よし、じゃあご飯に…っておいコラ兄貴!! いい加減起きろこのぐうたら星人がぁ!!」
「ゴフッ!!」

三男のリョウが起きたにも関わらず長男のきりは宣告通り五時間寝ようとし、一発きりの腹に蹴りを食らわせる。

「――あ、朝から腹蹴られるのはマジでキツい…」
「十秒以内に起きないともう一発いくよ。いーち、にーい…」
「わーったよ! 起きりゃあいいんだろうが起きりゃあ!!」

腹に手を当てながら起き上がるきりに呆れ、ゆうはため息をつく。

「三男のリョウと末っ子のレイはもう起きてるってのに、本当お前はダメだな」
「だから何で比べるの? 身内差別? それともそんなに俺の事嫌いなの?」

きりはうるうるとした瞳でゆうを見つめ、ゆうは白ける。

「うん。嫌い」
「ハッキリ言うなぁあ!! 心折れちまうだろーが!!」
「どうぞ勝手に折れて下さい。早くご飯食べないと遅刻するよ」

きりに冗談半分で冷たくそう言い放つと、四人はリビングのテーブルの席につく。もうすでに用意されていた朝食にきりがよだれを垂らす。

「やっぱゆうの料理って旨そうだよな! 旨いけど!」
「はいはい、お世辞はいいから早く食べて。兄貴は準備にすっごい時間かかるんだから一番最初に食べ終わってね」

四人で合掌するとそれぞれが皿の中身をつつく。昨日の朝食のメニューは艶々の白米に焼き鮭、大根の漬け物、長ネギたっぷりのお味噌汁。朝から元気の出るしっかりとした朝食だった。朝食は朝早くからゆうが一人で毎日作っている。他の三人が作らないため、ゆうが作るしかないという仕方のない状況はゆう本人が一番理解しているものの、どこか不公平さを感じずにはいられなかった。

「ゆう、鮭ちょっとしょっぱいから喉痛くなる」
「今日塩の量間違えちゃって。てか文句言うなら自分で作れよな」

朝の微妙なテンションで会話を交えるきりとゆうの光景は珍しくはなかった。そんな食卓の中「あのさ…」とレイが口を開く。

「今日もやらない? BLごっこ…」
「今日こそはもうやらないよ。それやったら確実に遅刻するもん。てかそんな趣味ない」

末っ子の頼みをあっさりと断るゆう。予想していたのか、レイは機嫌を損ねる雰囲気を見せずに白米のつがれた茶碗に手を伸ばして食事を再開する。

「俺らどうせ授業サボるんだし別によくね?」
「サボったら昼食の弁当と夕食抜きにするよ」
「今日も授業頑張ろうな!!」
「兄貴は扱いやすいわ…」

全員が朝食を食べ終わる頃には、もうすでに七時を上回っていた。和室で着替えを黙々と始めるなか、長男がなにやらニタニタと笑っていた。

「………気持ち悪い」
「今日は秘密の近道通ろうぜ!」
「なんの企み?」

きりの提案に警戒心剥き出しのゆう。きりのその提案に、着替えている作業の手を止めてレイは含み笑いをする。

「もしかして怪しそうなことするの? いいなぁ。俺も混ぜてよ…。あ、登校しながらBLごっことかいいんじゃない?」

レイの不気味な笑みをゆうは困った顔で見つめる。ひとまずため息をはぁっと吐いて、今度は半目でレイを見つめる。

「なんでレイはこんなんになっちゃったんだろう。いつからサイコパスキャラになったの? 付け加えるとあっち系の趣味を持つ、正常の男にとって最も危険な種族」
「サイコパスじゃないよ、ただの腐男子…」
「腐男子って何!? 腐女子なら聞いたことあるけどなんか勝手にアレンジしてない!?」

いつものように弾む会話をいくつかすると、着替え終わった人から和室を出ていった。

「兄貴、もう出ないと間に合わなくなるんだけど…」

支度をし終わったゆうが、まだ和室に一人残って着替えをしているきりに急かすように呟く。チラ見した時計の時刻は七時四十分。学校までは約二十分かかる。長男のマイペースっぷりにはさしものゆうも諦めている。だって、今マイペースが直せるのならとっくの昔に直せているはずなのだから。

「よし、出来た! 早く行こうぜ!」
「兄貴を待ってたんでしょ。ったく…」

その会話を最後に、四人は家を出た。ゆうが最後に玄関を抜け、鍵を閉める。他の三人はちゃんと閉めてくれないからだ。
一ノ瀬家で一番苦労しているのはハッキリと目に見えているが、次男のゆうである。彼は平日に毎朝四時起き、四人分の朝食と弁当を作る。そして目覚まし時計役も務める。部屋の掃除も全て彼一人でやっている。お風呂場、台所、リビング、和室、トイレ、玄関、寝室等々。そろそろ曜日毎に役割分担をしようと考えている。月曜日と木曜日の放課後には五時から七時まで花屋のバイト。それから帰宅して四人分の夕食作り。正直かなりの疲労困憊が疑われる生活だが、ゆうはそれなりの体力があるため、あとはストレスとの戦いだと思っている。
兄弟に頼れる者がおらず、自分がもっとしっかりせねばと厳しい自己評価をつけている一面も。

「あ、そうそう」

ふいに掛けられたきりの声にアパートの階段を降りている足を全員が止める。

「さっきも言ったけどさ、近道、通ろうぜ!」
「だから、何の企み?」
「いや、正直歩いて二十分はスッゲーめんどくさいって思ってたんだよ。俺の言う近道通れば早くて十分弱でつけるぞ!」

「で、ここがその近道なの?」
「そう! 近道!」
「どこから得た情報なの!? って言うかここに道らしきもの見当たらないんだけど!?」

四人が来た場所は道という道がない森だった。アパートの裏側にある路地裏を抜けてすぐのところにある。ゆうの突っ込みにきりは右手で顎を押さえる。

「あのオネェバーの裏道だよ。訳ありでこの通路を作ったらしい。でも確かに…道って言うか………森?」
「あそこの定員から教えてもらったの!? 絶対何かあるよねそれ!!」
「運が悪いとオネェバーの定員に捕まるって」
「絶対嫌だからね!? そんな命懸けの近道なんかごめんだよ!!」

きりの情報原場所を聞いたゆうは引き戻ろうとする。なにせ、そのオネェバーはゆうにとってトラウマだったから。過去にオネェバーでゆうにとっての恐ろしいことが起き、それ以来ゆうはオネェバーの近くを通らないようにしている。

「折角来たのに戻んの!?」
「俺もゆう兄に賛成かな。だって捕まったら終わりじゃん」
「俺は別に良いと思うよ。オネェは嫌いだけど」

リョウとレイが意見を述べ合う。が、結果的に二対二の引き分けになってしまう。

「ひとつ言っとくけど、この道通らないともう間に合わないと思うよ? ここで結構モタモタしてたから」
「なに強制的にその道通らせようとしてんだよ!! 僕は絶対に嫌!!」

頑なにオネェバーの近道通行を拒否するゆうにきりは呆れる。

「じゃあお前だけいつもの道で行けば? 俺らはこっちの道で行くから」
「まぁ運次第だもんね。俺は取り敢えず通ってみるよ」
「俺も」
「え、え!? なんで僕だけ敵!?」

リョウとレイがきり側につき、ゆうが孤立してしまう。

「ちょっと待って!? リョウさっきは嫌って言ってたじゃん!!」
「う~ん、こうやってもめあってる時間が無駄かなって」
「マジかよ…」

ゆうは孤立したまま動くことが出来ず、結局…

「こっち通るなら通るって最初っから素直に言えよな」
「孤立するのは嫌なの!!」
「なかなか可愛らしい台詞だな」
「うっせー!!」

結局三人と対立するのは嫌で、きり達の通るオネェバーの裏道を通ることになった。幸い僅かな道らしきものがあり、四人はそれを辿って進んでいる状態。しかし、その道は幅が狭く、一人がやっと通れる広さで、前から順にきり、リョウ、レイ、ゆうの順番で歩いていた。オネェバーの店の裏側が道の隣から丸見えで、ゆうは顔を素早く背ける。

「神様、お願いですから奴等が現れませんように…」

しまいには恐怖のあまり天にお祈りを始めるゆう。それを見ていたきりがふいに足を止める。

「ゆ、ゆう………う、後ろ!!」

きりはゆうの後ろを恐ろしそうな目で見て、人指し指で後ろに何かがあると示している。

「えっ!? 何っ!?」

慌てて後ろを振り向くが、後ろには誰もいない。訳が分からずポカンとした顔できりを見る。すると――

「ぶあっはははははは!! あっははははは!!」
「………へ?」
「嘘だよ嘘! お前ビビりすぎだろあっはははは!」
「じゃあお前が後ろ歩けよ、俺の気持ち分かるから」

ゆうが薄暗い森に溶け込むように佇む。

「きり兄、ゆう兄が自分の事俺って呼ぶのはめちゃくちゃ怒ってるサインだからそれ以上茶化すのはやめて。俺らまで巻き込まれる」

リョウの自己中な意見にきりは一瞬白け、ゆうの暴走を招かない為にも茶化しをやめた。

「悪かったって、ごめん!」
「次ああいう事したら、分かってるよな?」
「冥土送りでしょ? 分かってるって!」

きりの軽い謝罪であっさり許し、四人は再び足を動かし始める。この道を通り始めてどれくらいの時間が経過したのか分からず、次男は次第にそわそわしだす。

「兄貴、この道通って遅刻したらマジで許さねぇからな」

ゆうの言葉に先頭のきりは後ろを向く。

「多分大丈夫だって! それに四人なら怖くないもんな!」
「一緒の登校を良いことにさりげなく道連れにしないで!?」
「まぁまぁ、そう怒んなって………俺も…」

きりは何故かその先の言葉を続けない。そして顔をひきつらせてゆうの後ろを見つめる。

「ゆう……後ろに、奴等が…」
「またそれ? 二回も引っ掛かると思う?」
「あんらまぁ! 今日は四人もいるのねんぇ!」
「っ………!?」

嫌な記憶のよぎる低い喋り声が辺りに響き渡る。そして、ゆうは後ろへそうっと振り向き――


「んぎゃあああああああ!!」
「四名様お見えよぉ~!」
「は、走れェエエエ!!」

道など気にすることなく四人は全速力で森を駆け抜ける。追っ手のオネェ軍団に見つかってしまえば最後、撒くまで追いかけ続けられる。

「だから嫌だって言ったんだよ!!」
「文句言う暇あったら囮にでもなれよ!!」
「ふざけんな!!」

死闘を繰り広げて数分。オネェ達の声が聞こえないことに気づく。

「あれ、奴等は?」

ゆうが辺りを見渡す。が、オネェ達の気配はない。四人は息を上げながら膝を持って呼吸を整える。めちゃくちゃに走ってしまったせいで、ここが今何処なのかさっぱり分からない状態になってしまっていた。

「お前のせいだぞクソ長男!!」

ゆうは怒ってきりを睨みながら指差す。

「なんで俺!? 同意を得ての行動じゃん!」
「学校に遅刻する以前の問題だかんなこれ!?」
「なんで俺達まで巻き込まれないといけない訳? きり兄とゆう兄だけで良くない?」
「おいコラリョウ!! なんつーこと言ってんだよ!!」

三男リョウの裏がチラリズムする。隣にいたレイもキレた表情を隠さない。

「ほんとだよ。撒けたからよかったけどこれからどうするつもりなの?」
「なんで下二人はそんなに冷たいの!? こっちだってイライラしてるの!」

ざわざわと一ノ瀬兄弟の喧嘩が始まり出す。きりは三人の前に立ち全員こ顔を睨む。

「大体ここ通ろうって言い出したの誰だよ!?」
「いやお前だろ!!」

きりの追求に三人が同時の素早い突っ込みを入れる。

「え? 俺?」
「それすら忘れちゃったの? 引くわ…」
「んだとテメェ! やんのかゴ………」

きりの言葉が途切れたとき、ゆうの後ろを怪しい人影が襲う。

「んまぁ、ゆうちゃんじゃないのぉ~! 相変わらず可愛い顔してるわねぇ!」
「はぁっ!? どうしてここに!? て言うかなんで僕!? 他にも三人いるじゃんかぁ!! ちょっとォオ!!」

ゆうはオネェ達の餌食となってしまう。その光景を三人は無心で眺めていた。

「いや傍観者気取ってねぇで助けろよお前ら!!」

ゆうが必死にもがく姿を見て、きりはゆうの前へとしゃがみこむ。その兄らしさにゆうは思わず涙目になる。何だかんだ言ってもやはり長男なのだなと。

「あ、兄貴っ…」
「ゆう…気合いだ!」

しかし、彼の一言で裏切られた。

「はぁああ!? ふざけんな!! 助けろよボケェ!! お前ら絶対ぶっ殺…んんんんん~! んんんんん!!」

  *       *       *

「いやぁ、間に合って良かったな! ゆうちゃん!」

あれから何だかんだあって、四人は学校へと到着した。今は下駄箱で靴を履き替えている最中。

「うっ…気持ち悪い。あのじょりじょりヒゲ野郎に僕のファーストキス汚された…」
「お前はノーマルキスで済んでるからまだ良いじゃん。俺なんかフレンチ・キスだぜ?」
「捕まったことあんの!?」
「あるよ? 今日のを除けたら三回くらい!」
「そんなに!?」

全員上靴に履き終わり、廊下へ続く通路を歩き出す。

「じゃあきり兄、ゆう兄頑張ってね!」
「二人もね!」

二階へ続く階段の所が四人の分かれ道。一年のリョウとレイはそのまま階段を渡らずに真っ直ぐ廊下を通り抜けた先にある1ー2の教室へ。二年のきりとゆうは階段を上がりすぐ横の2ー3の教室へ。
四人の通っている天空(あまぞら)学校は人数が少なく、一学年が一クラスしかない。西天町は都会に比べれば大分田舎で、大きな店もぽつりぽつりと立つ程度だった。コンビニは四人の住んでいる天空アパートのすぐ隣にある為、なにかと便利ではあった。

兄チームが教室へ着くと、きりがピシャリと戸を開きクラスメイトの視線を一斉に浴びる。そして少しすれば女子達は話題を戻して会話を始めたり、数人の男子が二人を迎えたりもした。

「あ、おはよー。一ノ瀬!」

彼は四人の幼馴染みである橘葵(たちばなあおい)。身長は至って平均的で、顔立ちも普通。ノーマル人間と言ったところか。
勢いよく開けた戸を閉めながらゆうは葵を見る。

「どっちに言ってんの?」
「二人」
「名前で呼べよ…紛らわしいな」
「別に大丈夫じゃない? お前ら兄弟なんだし略しても」

ゆうは葵の横を通り過ぎて自分の席へと向かう。それを追うようにきりと葵もついて来る。そして席に着くとゆうは背負っていたリュックサックを下ろし――

「そういうのマジでやめて? コイツとなんか兄弟じゃないから」

半目でゆうが葵にそう告げると、後ろにいたきりがゲラゲラと爆笑する。

「だーっははは!! まだ怒ってんのかよ! 情けねぇなぁ、ゆうちゃん♪」
「その名前で呼ぶな!! 嫌な記憶が掘り起こされる!!」

ゆうを茶化して満足したのか、きりは満足そうに笑いながら自分の席へと向かって行った。

「ったく、なんであんな奴が長男なんだよ。長男があれじゃあ僕ら一ノ瀬家はほぼ終わってるな」
「でもきり面白くね? なんつーか憎めないタイプ」
「………」

葵ときりの仲の良さが分からせてくれるきりの良さを告げられ、ゆうは口ごもる。しかしそれも一瞬だけで――

「でもまぁ確かに、それは何となく分かる気がする…かも」
「あはは、だろ?」

「今日もきりくんとゆうくん来てる!?」

突然、廊下からそんな大声が発せられた。発言者は天空やよい。この町のお偉いさんを父に持つ愛らしい姿の美少女。白髪で毛先はほんのりとピンク色をした短めの前髪をふわりとセットし、長い後ろ髪を二つのお団子で結って残り髪を垂らしている。
やよいは大勢の人が駄弁っている廊下をダッシュで突き抜けると、きり達のいる2ー3の教室へ向かった。そして勢いよく戸を開き――

「あっいた! 二人とも~! 私と遊ぼう!」
「………やっちゃん」

因みに言うと、天空やよいは一ノ瀬家兄弟のストーカー手前の存在である。やよいは四人の事が大好きで、常に傍にいたがる変わった人間なのだ。
彼等の事が好きすぎるあまり、アパートまで父親に買って貰い一ノ瀬家の家族にプレゼントしている。それが今住んでいる天空アパートだ。四人は世話になっているやよいをやっちゃんと呼び一定の関係を保っている。

「二人とも私と遊ぼう! 今日は私の水着写真集持ってきたから!」

そう言って彼女はどこからか自分の載った水着写真集を二人に見せる。スタイル抜群の彼女の水着写真集は男なら誰でも興奮する物だが、一ノ瀬家の人間は違った。

「ごめんね、やっちゃん。楽しそうだけど遠慮しとくよ」

ゆうの優しい対応に対してやよいは不満そうに頬を膨らます。

「なんでぇ!? 男の子ってこういうの好きでしょ!?」
「いやあの、やっちゃんと遊んだら僕ら死ぬ確率確実に高まるからさ」
「うん! 私の物になってくらなかったら殺すよ!」

こんな会話を普通にやり過ごす。やよいは一種のサイコパスで、四人の事が好きすぎるあまり自分の物にならなかったら殺してしまうと言う異常な思考を持つ。特に、やよいの言う事に対して反抗的な態度を取ると必ず半殺しの刑に遭う。なので四人はやよいとの距離を絶対に近づけないように心掛けている。クラスメイトの皆は、毎日起こるこの事態に慣れ普段通りの行動を続ける。

「やっちゃん、ごめんけど俺ら…いくら可愛い女の子でも殺人を犯しそうな人とは遊べないよ…」

ゆうの隣にきりが歩み寄り、やよいに対して気に障る事を言わぬよう考慮しながらそうっと告げる。

「え? 今私に反抗的な態度取ってるの?」

そう言うと、彼女はまたしてもどこからかカッターナイフを取り出す。そしてチキチキチキと刃を出す。

「ちちちち違うよっ!? 取ってないよっ!? 全然取ってない取ってない!!」

ゆうはきりの頭を「馬鹿っ!」と言いながら素早く叩き、大急ぎでさっきの言葉の誤解を解こうとする。

「本当に?」
「本当に!!」
「………そっかぁ! じゃあ仕舞おうっと!」
「ふぅっ…」

やよいがカッターナイフをどこかへ仕舞うと、彼女は教室に一歩入り込む。

「あ、やっちゃんダメ。入っちゃダメ」

きりの素早い突っ込みにやよいはポカンとする。

「なんで? だって二人のすぐ傍に行きたいんだもん」
「そんな可愛らしい台詞言ってもダメだよ。話すんなら休憩時間にね」
「話をするの? あ、私の写真集について語り合わない?」
「合わないよ。とにかくもうHRの時間が始まるからまたね!」
「………え? あ…」

ゆうはやよいを廊下へと向けさせ、背中を軽く押して教室から追い出す。そして戸をピシャリと閉めると、HRの時間を知らせるチャイムが鳴り響いた。チャイムに少し遅れて前側の戸がピシャリと開かれ担任の先生が入ってくる。そしてまた今日も平凡な一日が始まる。
HRの時間が終わり、次の授業科目の教室へと移動すると、教室と同じ席順でそれぞれ席につく。この時の席は偶然にもきりとゆうが隣同士だった。偶然にも。

「朝から数学とかどんだけなんだよ。帰りてぇ」

机に顔をべったりとつけながらきりがぼやく。きりの机の上には教材がひとつも置かれていない状態。また忘れてきたのだ。それを見たゆうはため息を吐き自分の教科書をきり側に寄せる。

「まーた忘れたの? いつもいつも勘弁してよね」
「忘れたんじゃねぇよ。お前がどうせ持ってきてると思って持ってこなかった」
「最悪だなお前! 人任せもいいとこだよ!」
「なはは! まぁまぁ怒んなよゆうちゃん♪」
「だっからその呼び方やめろっつってんだろうが!!」

 *        *        *

「今日は朝から国語かぁ。ついてないね」

1ー2の教室ではリョウとレイが一緒に教室の窓側の隅で駄弁っていた。古い木材で出来たロッカーに寄り掛かるレイはボケーッと遠くを見つめていた。その隣でロッカーに寄り掛かるリョウはスマホで太鼓の達人のアプリをしていた。

「国語かぁ。男同士が抱きついてる写真とか教科書にあったっけ…」
「ないよ」
「え? でもスポーツのヤツとかは…」
「お願いだからそういうので興奮するのやめて!! 授業中隠し通すの俺なんだからね!?」

これはツッコミが暫く続くと悟ったリョウはやっていたアプリを素早く閉じる。

「え?別に隠さなくていいよ?」
「いやいやあれは隠さないとヤバイレベルだから! 鏡で見たことある!? 興奮してるときの自分の顔! マジで気持ち悪いよ!? 同じ血が通っていることに吐き気感じるよ!? しかもめちゃくちゃ勃ってるし!」
「そんなとこ誰も見ないよ」
「あれブーメランみたいになってるよ!? 下手したら机持ち上げれる!」
「うるさいなぁ。別に趣味なんだからいいじゃん」
「こっちが良くねぇんだよ! お前の知らねぇ間にめちゃくちゃ恥かいてんだよ!」
「リョウ兄ちゃんのツッコミが多すぎて地の文がさっきからサボってるよ」
「いやお前のせいだろぉが!!」

  *       *       *

「はぁ。今日も何とか無事に終わったね」

茜色に染まる夕焼けを眺めながら四人は帰宅していた。狭い道路を堂々と四人横で並び、それぞれの手にはコーカロリーメイトの缶ジュースが持たれていた。右から順にレイ、リョウ、きり、ゆうの順番で並んでいる。

「兄貴まーた喧嘩したでしょ? 血臭いよ」
「バレちった? だってさぁ、先輩らが喧嘩吹っ掛けてくるもんだからさ。お相手しないと失礼でしょ?」
「ほんっと兄貴喧嘩強いもんね。僕兄貴と本気で喧嘩する勇気湧かないよ」
「あー、だからゆうは俺に喧嘩売らないのか」

きりの台詞を聞き終えてからゆうは缶を口につけてズズッと中身を飲み込む。そして少し間があいて、

「ガチのヤツは売らないよ。それ以外なら売りまくるけどね」
「お前なぁ! 兄をもっと大事にしろよ!」
「ははっ、じゃあ僕これからバイトだから適当に食べてね」
「おう!」

天空アパートの前につくと、ゆうは三人と別れアパートのすぐ隣にある花屋へとバイトに向かった。花屋につくと裏の入り口から入り、リュックに入れておいたバイト用のエプロンを取り出しロッカー室へと入る。中には煙草を吸っている男の先輩が一足先に入ってきていた。先輩の名前は大崎守。今年で21歳になる。ゆうと同じ時間帯にアルバイトをしている。ゆうは大崎先輩になんだかんだよくしてもらっている為、歳は離れているがダチのような存在。大崎先輩はかなりヤンキー面で、この花屋で話せるのはゆうを含めたごく限られたメンツのみ。
ゆうがドアをガチャリと閉めると大崎先輩はちらりとゆうの方を見やる。

「おお、ゆうじゃん。ちょっと遅かったね」
「先輩早いですね。なんで煙草持ってる手を上に上げてるんですか?」
「あぁ、癖だよ癖。俺んちでは換気扇の所で吸うからさ、なんか煙草吸うとき自然とその体勢になっちまうんだよね」
「あはは、なんか分かるかもです」

ゆうは大崎先輩の座っている長椅子の端にちょこんと座ると、

「僕にも一本くださいよ」
「バーカ、お前まだ中学生だろ。これは大人の楽しみだかんな」
「あはは、冗談ですよ。因みに言うと高校生です」

少し話すとゆうは立ち上がり先程取り出したエプロンに着替える。そして残りの荷物をいつも使っているロッカーに入れる。

「ゆうは真面目だからちゃんとした仕事就けそうだな。今は中学生だからまだ先の話だけど」
「先輩だって仕事めちゃくちゃこなしてるじゃないですか。あと中学生じゃなくて高校生です」
「俺、面がこれだからか知らないけど面接受けようとしたら追い出されてよ」
「悲しい現実ですね」
「だろ? お前も高校生ぐらいになったら気をつけないとな」
「もう高校生です」

ロッカーの開きをパタンと閉じるとマイ鍵で鍵を閉める。

「じゃ、先入りますね」
「あいよー」

 *        *        *

「たっだいまー」
「誰も居ないけどね」
「はぁ。今日はあんまし妄想出来なかったなぁ」

きり達は家に帰ると飲み干した缶を台所の隅に置く。レイは制服をリビングに脱ぎ捨てそれを放置したまま風呂に入る。きりは制服を脱がず畳み忘れた布団に寝転ぶ。リョウはそんな二人を見てため息をつき、制服を着替え出す。

「今日やっちゃん来てさ、もう寿命縮まるかと思ったよ」
「警察に訴えたいレベルだよね。訴えれないけど」
「ゆうはよくバイトみたいなめんどくさい事するよな。俺は今の内にゴロゴロしといた方が何倍も得と思うけど」
「同感。仕事なんて高校卒業してからでいいよね」

リョウは着替え終わると和室に入り、リモコンを探す。

「あれぇ? リモコンどこ置いたっけ」

いつも置いてあるテレビの上に無く、大して物の置かれていない和室を見渡す。するとレイが風呂からあがるガラガラという音が響いた。

「あ、タオル出してなかった。誰か取って~」

レイのSOSに二人はまるで興味を示さない。

「ちょっと~、聞いてる?」

2度目もダメだった。

「裸で歩き回っていいの? 男しかいない部屋で気持ち悪くない?」
「もぉわーったよ!! はい!」
「あ、ありがと。きり兄ちゃん!」

しつこいレイの命令にきりが諦めて干してあったタオルを渡す。リョウは未だにリモコン捜索中だった。

「おっかしいなぁ。リモコンってなんでこんなになくしやすいんだろ」
「リモコンってあの四角いやつ?」

タオルを取りに行った体でそのままリョウのいる和室へ向かったきりは、リョウの独り言に暇潰しで付き合う。

「それ以外に何があるの? きり兄も探してよ。このままじゃテレビ見れない」
「レンタルDVD見ればいいじゃん。この間借りたそなたの名は。ってまだ返してないでしょ?」
「えー、あれもう52回ぐらい見たよ。ゆう兄に無理やり見せられて」
「アイツそなたの名は。好きだよな。いくら好きでも一週間の間に二桁も見れねぇわ」
「あ、あった!!」
「え、何処?」

リョウはテレビの裏に落ちていたリモコンを手にとってきりに見せる。

「テレビの裏側入ってた」
「スッゲー誇りまみれじゃん。きたね」
「ティッシュで拭けば綺麗になるよ。あー良かった。そなたの名は。の53回目を見るところだったよ」

  *       *       *

「ただいまー」

午後七時過ぎに、バイト帰りのゆうが一ノ瀬家の家のドアをゆっくりと開く。すぐにガチャリと鍵を閉める音が聞こえ、それを合図に三人の人影がゆうへと襲いかかる!!

「俺今日寿司! 寿司が食べたい!」
「俺はレストラン行きたい!」
「本屋のある飲食店!」
「~~~っ、バイト帰って早々集まって来るなーっ!」

三人は疲れているゆうの元へ集まり飢えた犬のように騒ぎ立てる。ただでさえイライラしているゆうは眉間にシワを強く寄せて、三匹の野良犬をしばく。

「ううっ、叩かなくてもぉ」
「兄貴、お前一番立場上なんだからお前が作れよ! しかも給料日でもねぇのに群がるな!」
「ゆう兄、そんなこと言わないで! 知ってるでしょ!? きり兄の料理が汚物に等しいってこと!」
「働けば外食出来ると思うけどね!?」
「BL! BLが足りないんだ!」
「お前は論外だ!!」

それぞれの意見が交差して全てゆうの圧勝だった。三人は玄関の前で落ち込み、それを避けながらゆうはリビングへと入っていった。

〈これが一ノ瀬家の日常なのですよ。〈完〉

  *       *       *

――――作者コメ欄に突入―――――――――

と、こんな感じです。い、いかがでしたでしょうか? 「なんかこれリズム悪いな。」とか、「キャラ薄い。」とか、「え?これ○○に似てね?」とか、「何処で何が起こってるの?地の文下手くそ」とか、「誰が何喋ってるのか分からないんだけど」等の指摘・文句?コメントありましたらバンバン下さい! 全て受け止めます! あ、でもあまりにも酷いと心折れるかもです。下ネタありましたがこれからもあんな感じでガンガン入れていくと思うので、不快に思う方はやめておいた方がよろしいかと(汗) 面白いの大好き人間ですので、これからもネタバンバン考えるつもりです!! 応援してくれると、とても嬉しいです!! 

ここまで読んでくださり本当にありがとうございました!!
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