いとし、あやしや、あやかしの

あきら

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8 おまえだけ

 自分の荒い呼吸が抑えられなくて、思わず咳込む。大丈夫か、と優しげな声で気遣う言葉が聞こえるけれど、手を緩めてくれる気は一切ないらしい。

「何回イった?」
「っ、わ、かんな……」

 ふる、と小さく首を横に動かした。嬉しそうに細められた目の向こうで、これでもかというほどの欲が浮いている。
 長くて綺麗な指先が、俺の腹の上を滑った。そこを汚した白濁を拭い取って、おもむろに口に運ぶ。やめろと言いたいのに、言葉がうまく出てきてくれない。
 楽しそうに、人の腹の上で人が吐き出したそれをかき混ぜる。長い指が肌をなぞるから、それだけで俺の体はぴくぴくと震えた。
 真の唾液を纏ったその指が後ろに触れる。ぐ、と押し込まれるように力が入れば、そこは勝手に疼いた。

「や、やぁ、も……それ、やだぁ……」
「やだって言ったってやめてやれないって言ったじゃん」
「そ、じゃなく、て」

 たぶん、俺の言いたいことは伝わっていて。
 だけどわざと意地悪気に笑い、ゆっくりと指が体の中へと侵入してくる。
 びくりと跳ねれば、腰の下に置かれたクッションがずれた。

「尻尾、痛いだろ?腰上げて」
「ん、う」

 それは確かに気遣いなのだけれど。言われた通りにしようとすると、どうしても。

「で、きな、や、ぁああっ」

 自力で体を動かそうとすると、中の指が知らないところに触れてしまう。
 それでも、と震える足を動かすと、真の口元が笑っているのが見えた。

「ここな?」
「ひ、あ、ぁあ、っ」

 俺の腰の下にクッションを戻しながら、びりびりとした感覚が走る場所を柔く撫でられる。
 快楽を引きずり出されるような感覚に、無意識な涙が落ちた。

「っや、それ、やだ、ぁ」
「気持ちいいくせに。腰、揺れてる」
「ち、がう、ちがく、て、そこ、あつい……っ」

 言いたいことが伝わったかどうかわからない。そこを押されるのが、というよりは、媚薬効果があるらしい真の唾液が塗りこまれたせいで、内側が熱くて仕方なかった。
 ふ、と真がまた笑う。

「そのまま気持ちよくなってろよ」
「ぁあっ、あ、う、あぁああっ、あ、んぅっ」
「珠希、こっち」
「や、っ」

 本当に拒否の言葉なんて聞く耳を持ってはくれないらしい。顎を取られて正面に向かされ、口が塞がれた。
 ぐちぐちと音を立てて口内と胎内をかき混ぜられて、頭の中は真っ白になって。
 口の中に流れてくる唾液は勝手に喉の奥へと流れ、飲み込んでしまえばもうどうしようもなくなる。

「ま、こと……っ、まこ、とっ」

 唇が離れた瞬間、必死に縋りついて呼んで。頭を撫でられるただそれだけでも、ぞくぞくとした。

「は、やく」
「珠希?」
「はやく、も、っと、おく、きて」

 驚いたような顔が目の前にあって、それが柔らかく微笑む。ああ好きな顔だなんて考えていたら、軽く足が持ち上げられた。

「尻尾、痛くないか」
「だ、いじょぶ」

 こんなときまで、そんなこと気遣わなくたっていいのに。
 俺の返事に、安心したのか頷いて。ずるりと指が引き抜かれていく感覚と、そこに指よりも質量のある真自身が添えられる感触に、確かに期待する自分がいる。
 あつい、と覚束ない口が勝手に言葉を刻んで、それを満足そうにお前が聞いて。
 ぐずぐずになるまで慣らされた後孔が押し広げられるから、息を吐いて受け入れた。

「っ、あ……っ」
「は……お前、すごい、な」
「な、なに、っ、あ、だめ、それだめ、ぇ」
「ここだろ?」
「ひぅうっ!」

 弱い場所をごり、と擦られて。背中が反って、足が伸びる。
 行き場のない手が絡め取られて、ベッドに押し付けられた。ぎゅう、と指先にも力が入って、俺の短い爪が真の手の甲に小さな傷を作る。
 ごめん、なんて言葉を紡げるわけもなく、揺さぶられて。

「あ、ぁああ、あ、あ、あぁあああっ!」

 中を強く抉られる感覚。体の内側から、作り変えられていくような。
 同時に強すぎる快楽に翻弄されて、ぼろぼろと涙が落ちた。

「や、やあ、っ、と、とま、って、いっかい、おねが、っ」
「悪い、無理。気持ちよくないなら、やめる」
「っあ、あああ、っ!」

 びり、と頭の中まで痺れたような気がして、次の瞬間には意識が不意に途切れる。
 だけどそれをどうこう思う暇もなく、暴力的なまでの動きに引き戻された。

「や、ぁ……く、るし、おねが、ま、って」

 俺の声は、きっと届いていなくて。そもそも、俺の声が発せられていたのかどうかもわからない。
 口を開いて呼吸するのが精いっぱいで、漏れる言葉はすべて喘ぎ声のような気がしてくる。
 涙で滲んだ視界に浮かんでいるのは、見事なまでの文様と、暗い青色をした二本の角。
 それがたまらなく愛しく思えて、必死に手を伸ばした。

「珠希?」
「ふ、ぁ……」

 動きを止めた真に、気の抜けた息を返す。
 それから、俺が手を動かそうとしているのに気付いたのか、不思議そうにしながらも手を離した。

「ん、ぁ……お、おれも、さわり、たい……」
「あ、ちょ、ちょっと、こら、珠希」
「や、さわらせ、て」

 俺の指先が、頭を下げた状態の真の角に触れる。
 焦ったような声は無視をして、その角をゆるゆると撫でた。

「……こども、の、とき、いらい……?触らせて、くれんの」
「だめ、だって。こら、離せってば」
「なん、で」

 少しの間。その後、深く息を吐いたと思ったら、真の手が背中に差し入れられる。そのまま引き起こされて、繋がったまま向かい合って上に乗る形になった。
 整った顔がすぐ近くにあって、自分の頬が熱くなる。

「なに照れてんの」
「し、しかた、ないだろ……」
「散々誘っといて?」
「え」
「角、触るとかさぁ。ここ、お前のこれと同じぐらい、敏感なとこだから」
「ひ、っあ!」
 
 尻尾の根元をきゅうと掴まれて、信じられないほど甘ったるい声が出た。
 なんで知ってるの、と半泣きで問いかけると、真は小さく笑う。そのまま、ゆさりと動かされて俺の体は震えた。

「ま、お前にばっかり媚薬の効果でてんのも不公平だしな。いいぜ、触って」
「い、いい、やめ、る」
「遠慮すんなよ。時間はたっぷりあるし、何回だって抱いてやる」

 いい、と否定しようとした声は真の口腔に吸い込まれていく。
 水音をたてて蹂躙される口内に、どんどん頭は蕩けてしまって。結局、俺から何をどうこうできるわけもなく、意識が途切れるまでそのまま抱かれたのだった。
 


 んん、と唸るような声が無意識に落ちる。
 ぐしぐしと目を擦ると、こら、という声が聞こえた。

「擦るなって。赤くなるぞ」
「う、んぅ」
「あったかいタオル持ってきてやるから」

 なんだかよくわからなかったが、もぞもぞと頷く。言われた通り大人しく待っていると、少ししてまた声がした。

「当てるぞ」
「ん」

 いい香りの温かな感触が、閉じたままの瞼に触れる。優しく優しく拭かれて、それが離れていくのに合わせて自然と目が開いた。

「大丈夫か?水もあるぞ」
「ん……もらう」
「起きられるか?」

 言われたことをあまり深く考えないまま体を起こそうとして、結局できずにばたりとベッドに倒れこむ。
 そのとき、俺がどんな表情をしていたのかはわからないけれど。真が慌てた様子だったから、たぶん驚いていたんだろう。

「わ、悪い、ごめん、やりすぎた」
「え、あ……え、と……あ」

 自分がなぜ起き上がれないかを理解した瞬間、顔だけじゃなく全身が熱くなった。芋虫のように布団へもぐり込み、ううう、と唸る。

「寝てていいから、水だけ飲んどけよ。喉痛くなるぞ」

 うん、と答えて頭だけをかけ布団から出した。極めて普通を装っている、だけど心配そうな顔の真が見える。
 それがなんだかおかしくて、同時に愛しくて。好きだなぁなんて何回考えたかわからないことをまた考えた。

「ありがと」
「腕貸せよ。寄りかかっていいから」
「ん」

 差し出された腕にすがりついて体をずるずると起こし、ベッドに腰掛けた真の体に自分のそれを寄りかからせる。
 案の定全裸のままだったので、タオルケットを何とか巻きつけてから水を受け取った。

「風呂沸かしとくから。好きな時に入れよ」
「うん、ありがと……もーちょい、寝る」
「ご自由に。今日は何もないんだろ?」
「何もあるわけないだろ……ん?」

 俺が声をあげたのは、少しの違和感を覚えてのことだ。
 布団の中を覗きこんで、少し考えて。おそるおそる、俺はそれを外に出した。

「――珠希、その尻尾」

 真が驚いた顔をして、掛け布団からはみ出した俺の尻尾を見つめている。俺も同じ気持ちだ。
 だって、茶色くてばさばさの毛並だったその尻尾は、うっすらと白く変わっていたのだから。

「っ、え、耳、耳は?」
「正面からだとわかりにくいからちょっと後ろ向いてみ、見てやるから」
「う、うん」

 戸惑いながらも、言われた通り寝返りを打つようにして真に背中を向ける。
 優しい指が、俺の頭の上に生えた耳に触れた。

「耳も、やっぱり少し色変わってるな……珠希、こっち向いて」
「ほ、ほんと?」
「本当。嬉しくねえの?ずっと気にしてたじゃん」
「う、嬉しいよ、嬉しい、けど」

 やっぱり恥ずかしさが勝ってしまって、素直に喜べない。
 もう一度こっち向いて、と囁かれて、だけどその声音は恥ずかしさにやられてる俺よりももっとずっと素直に嬉しそうで、誘導されるみたいに反対を向いた。

「な、なに……近い」
「うん?目の色どうかなと思ってさぁ……やっぱりちょっと変わってるな」
「え、嘘」

 じっと俺の目を覗き込んで言う。
 目や毛の色が変化し始めていることは、嬉しかったけれど。

「……見て、わかるぐらい?」
「このぐらい至近距離だったらな。誰かに見せる予定あんの?」

 ないよ、と照れながら返した。

「お前以外、誰も、見ない」
「珠希」
「なに、っ」

 ちゅ、と音を立てて、俺の唇に触れたそれが離れていく。
 真のその口が嬉しそうに微笑めば、恥ずかしさを通り越して俺も嬉しくなった。

「これ、どんぐらいで全部変わんのかな」
「うーん……わかんね」
「早く全部変わりたい?」
「え?そ、そりゃまぁ。まだらってのもあれだし」
「じゃあとりあえず一眠りしてからだな」
「え」
「早く全部変わりたいんだろ?いくらでもエネルギーやるよ」
「いいって!前言撤回!ゆっくりでいいから!」

 どうやら、俺の見た目がみんなと同じ白い妖狐になるまでは、それほど時間はかからなそうだ。



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