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「うわ真っ暗じゃんか」
ふと外を見てぼやく。黒くて重たいカーテンを少しだけずらせば、そこは部屋の中と同じく明かりのない暗闇に覆われていた。
はあ、と小さなため息が零れる。いくら、もうすっかり日が落ちるのが早くなったとはいえ、まったく気づかなかったのは不覚だった。
取り急ぎ、作業を終わらせようと手を動かす。現像した写真をまとめ、後片付けをして。ようやく、暗室から隣の部屋に出た。
暗室、と言っても必要な機材や道具を運び入れただけの場所だ。元々はただの準備室で、だけれども、子供たちの部活動の一環としては、そこそこ役立っている。
「物は職員室に置いておきゃいいか……ったく、何やってんだか」
独り言がぼろぼろと落ちた。
暗室と、その隣の社会資料室の鍵を締め職員室に向かう。廊下も教室も、少しばかりの場所で電気が灯っているだけで、それはもう残っている人間が限りなく少ないことを表していた。
職員室の自分の席に戻り、鞄を手にする。出来上がった写真はまとめて引出しに入れておいて、帰り支度を済ませた。ここにも、もう人はいない。
廊下に出て、職員用の昇降口に向かおうとしたときだ。何か聞こえた気がして、足を止めた。
何せ夜の学校だ。怪談噺にはことかかないシチュエーションだが、正直俺はそういった類のものがひどく苦手で。
「勘弁してくれよ……」
我ながら情けない声が出る。だけど、もしも残っているのが生徒だとしたら、注意のひとつもしなくてはならない。
別に俺じゃなくてもいいだろう、という気持ちと。生来のお人好し気質が戦って、後者が勝ってしまった。
おそるおそる、何かが聞こえた方向へ足を向ける。
最初は掠れてなかなか聞き取りにくかったそれも、近づくにつれて明瞭になって。俺は、それが楽器の音なのだと気づいた。
案の定、誘われるようにたどり着いたのは音楽室だ。はあ、とため息をついて扉を開ける。
「熱心なのはいいけどもう真っ暗だぞ」
俺の声は確かに大きかったとは言いにくい。けれど、その曲は止まる気配すら見せなかった。
もう一度ため息をついて、二重になっている奥の扉を開ける。
「おい、いい加減に――」
瞬間、耳に。否、全身に浴びせかけられた音に、俺は凍りついた。
力強く、そして儚く。高く低く、圧倒的な熱量で奏でられるそれに、息をすることすら忘れたように立ち尽くしてしまう。
馬鹿みたいに、相手が演奏し終わるのを待っていた。
「……違うなぁ。ここ、もうちょっと強く……ああ、でもそうするとこっちが……あと曲の解釈が……」
俺のことなどまったく眼中にないその音の主は、手にしていたトランペットを下ろしたと思ったら開いた楽譜に目を落とし何やらぶつぶつと呟いている。
ええと、なんて言いながら楽譜に何かを書き込んでいる姿を見て、やっと我に返って。軽く頭を振り、近づいた。
「……先生?」
きょとん、とした顔が俺を見る。さらさらした髪が揺れて頬にかかり、邪魔そうにそれを耳へかける仕草を目で追った。
そうだ、確か彼は。
「……もう、外は暗いぞ。練習熱心なのはいいが、早く帰れ」
「えっ」
驚いた目が、窓のほうに向く。生憎、暗室と同じように黒く重いカーテンが閉まったそこからでは、外の様子を見ることはできなくて。
慌てた様子で駆け寄り、そのカーテンを持ち上げた。うわ、という声が聞こえる。
「うそ、真っ暗じゃん……マジか」
「気づかなかったのか?」
「えっと、はい。今日はそもそも活動日じゃなくて、ここにいたのも僕ひとりだったし」
「……ま、俺も似たようなもんだしな」
ぼそりとつぶやいた声は、彼の耳には入っていないようだ。ばたばたと楽譜をしまい、出ていたものを片づけ、帰る準備ができるのを見守る。
「あ、そうだ鍵」
音楽室の鍵を教卓の上から取り、俺にぺこりと頭を下げた。
「すみません、先生も帰るとこだったんですよね」
「そう言われりゃそうだが、気にすんな。鍵、返しておこうか?」
「いえ、僕が使ったんだし……僕が返しに行きます」
にこ、と笑って。とはいえ、じゃあよろしくと別れるのも違うだろうと、俺も苦笑する。
「ひとりで行かせるのもおかしいよな。ついてくわ」
「……はーい」
俺の言葉に、今度はくすくすと笑った。
「先生はこんな時間まで仕事?」
「いや、趣味」
言いながら廊下を歩き、職員室まで戻る。鍵がたくさん並んでかけられている場所に音楽室のそれを戻すのを見守って、彼を昇降口まで送ってやった。
「家どっちだ?もし方向同じならついでだし、車乗ってってもいいけど」
「えー、悪いからいいですよ」
そう言いながら靴を履く。どこからどう見ても、普通の男子高校生なのに。
「……お前、吹奏楽部だよな?」
「僕のこと、知ってんですね」
「有名だからな。天才って」
そうつぶやくと、若干眉が寄った。不満げなその表情に、ふ、と笑いが零れる。
「天才って持て囃すのは違うよな。たとえ生まれ持ったもんがあったって、努力しなきゃ大半はそんなものなくなっちまうもんな。偉いよ、お疲れ」
「え、っ、あ、え、あ、ありがと、ございます」
軽く頭を撫でてやれば、恥ずかしそうに。だけど嬉しそうに、彼は顔を赤くした。
櫻井 圭一。
親しい友人たちの間で、圭と呼ばれているのを知って三日。それから吹奏楽部の彼を、目で追っている。
俺の教科である近代歴史を選択授業として受けてくれていたのも、この間まで知らなかった。それぐらい、普段はおとなしくてあまり印象に残らない生徒だ。
授業態度はごくごく真面目。成績は――ちょうど真ん中。定期テストも平均点。
特徴を上げるなら、俺と同じぐらい身長があるくせに猫背でそうは見えないところと、男子にしては細い手足。それから、意外と足は速くて運動もできるらしいということぐらい。
ただ体はあまり丈夫じゃないようで。そう言えば夏の暑い日なんかは、よく休んでいたなと思い出す。
「あ、先生」
「おう。ちょっと手伝ってくれるか?」
「はーい」
あの日以来、向こうは向こうで懐いていい相手と判断したらしく。俺の姿を見ればひらひらと手を振って、ちょっとした頼みごとをすれば笑って頷いてくれるようになった。
現金なもので、そういう態度をとられるのに悪い気もしない。
「この資料、授業始まる前に配っといてくれ」
「ん、わかった」
「……敬語くらい使えよ」
「えー?だめ?いいじゃん。僕、亮吾先生のこと好きだし。話しやすい」
「野下先生、だろ」
「どっちでもよくない?」
「お前のこと圭って呼ぶぞ」
「いいよ別に」
お互いに言い合って、ふは、と吹き出す。
不思議なことにウマが合って、そんなくだらない会話を挨拶のように、日課のように交わすのが当たり前になっていった。
自分の椅子に座ったまま、大きく伸びをする。見計らったかのように、目の前にコーヒーが置かれた。
「お疲れ」
「サンキュ」
笑って受け取る。同僚で、元同級生の上川 健がいた。
眼鏡を押し上げ、彼も伸びをしたあとにでかい欠伸をこぼす。
「お前も疲れてんな」
「この時期はどうしてもな。期末テスト近いし」
「子供たちも大変だってぼやくけど、俺らもなかなかに大変だもんな」
「まぁ、んなもん知らねぇのが当然で、それでいいんだよ子供は」
違いない、と笑いながら受け取ったコーヒーの缶を開けて飲み干した。
ちら、と。職員室の壁、様々な場所の鍵がかけられているところに目をやる。
俺のその視線に気づいた健が、同じようにそこを見た。
「趣味は仕事終わってからにしろよ」
「あー、うん。ま、そうだよな」
俺が見ていたのは暗室の鍵ではないので、濁した返事になる。
「部活ってもう休みなんだっけか」
「そうだな、テストまで一週間だから……今日からもう休みじゃねぇの?」
「……なるほど」
ふと、思った。音楽室の鍵はそこにかけられたままで、だとしたら、彼はどうしているのだろう、と。
少なくとも俺の知る限りでは、吹奏楽部の部活動がある日は参加して。ない日は、音楽担当の教諭と話をつけているらしく、自由に部屋を使っているから。
あんなに楽しそうに、熱心に活動している彼が、一週間もトランペットに触れずにいられるのだろうか、と余計な心配が頭をよぎった。
変な心配をしてしまったら、少し姿が見たくなるのが人間ってもんで。
放課後、まだ帰っていないのを昇降口の靴で確認などしてしまう。
「……いや気持ち悪いな俺」
そう自嘲気味につぶやいてみても、気になるものはどうしようもない。どこかで吹いているのだろうか、とも思うし、また聞きたいとも思ってしまった。
教室を覗いてみたけれど、そこに生徒の姿はもうない。当然、彼の鞄もなくて。
廊下の窓から見える音楽室はしんと静まりかえっていて、念のため鍵を確認してはみたけれど、それは職員室の定位置に納まったままだった。
疑問が首をもたげる。どこにいるんだ、と。
「演奏できそうなとこ、っつったら……体育館の方か?あとは屋上……いや今の時期閉まってんな」
独り言をつぶやきながら渡り廊下を抜け、体育館へと向かった。
広いそこは、いつもなら部活動をする生徒たちで溢れているが、今日は何もない。
「……違うか」
言いながら、だけど。妙な感覚が、僅かに肌を刺した気がした。
「わかったかよ!」
足を止める。思いのほか大きい声が聞こえて、咄嗟にその方向を向いた。少しだけ開いた扉の向こうからだ。
体育館の扉の向こうなんて、用具室と相場が決まっている。まさか、と思って近づくと、もう一度声が聞こえた。
「三年は年明けが最後なんだよ!最後ぐらい先輩に花持たせてやろうと思わないのかよ!」
「だから、辞退しろって?」
返した声は、聞き覚えのあるそれで。俺が探していた声でもあった。
がっ、と鈍い音がする。さすがに立ち聞きしている場合ではない。誰かいるのか、とわざと離れた場所から大きな声を張り上げた。
ばたばたとした音がして、用具室から数人の生徒が飛び出してくる。特に見知ったものではないので、バツの悪そうな彼らに早く帰れよ、とだけ言った。
「……大丈夫か?」
「あ……亮吾先生……」
予想通り。他の生徒たちがいなくなってから、用具室の中を覗くと、圭が振り返った。
頬が赤くなっている。唇を切ったのか、拭った手の甲には血がにじんでいた。
「僕はなんもしてないからな」
「わかってるよ」
ほら、と言って持ち歩いているハンカチを出し、手と唇の血を拭ってやる。汚れるからいいと身を捩ったけれど、なんだか放っておけなかった。
「本当、先生お人好しだな。血がついちゃったじゃん」
「別に洗えばいいだけの話だろ、気にするなよ。ん、外側切れただけみたいだな」
一応他にも怪我がないかを見てやる。口の中は綺麗なもんだったし、頬も赤くはなっているが痣とかにはならなさそうだ。少しほっとした。
「あいつら、三年か?」
「三人が三年。あと二年が二人」
「年明けがどうとかって聞こえたけど」
「その辺聞いてたんだったらもーちょい早く止めに入ってくれてもよくね?」
「何の話なんだかわかんなかったんだよ。仮にデリケートなシーンだったら俺が気まずいじゃんか」
不満げに口を尖らせ、いて、なんて言うから。何やってんだと苦笑する。
「先生は年明けにさ、都のコンクールあるの知ってる?」
「いや?ずいぶんな時期だな」
「うん。だから例年、三年生は進路決まってる人たちしか出ないんだ。で、今回何人か出るんだけどさ、曲の中にソロパートがあって」
なんとなく察した。天才も楽じゃねえな、と胸中でだけつぶやく。
「俺がそこ担当すんの、半年ぐらい前に決まってさ。だけどそん時は、三年生たちも納得してくれてたんだよ」
「あー……時期的に、ちょうど受験だもんな。そもそも自分たちが出られるかどうか、わかんないやつらの方が多かったってことか」
よいしょ、とマットの上に座りなおして、圭は頷いた。
「わかるんだよ。言ってることは、さぁ」
「わかるのかよ」
「馬鹿にしてんの?」
「いや、純粋に感心してる。だって俺は、お前が努力してんの見ちまったからさ」
じろ、と人を睨んだかと思えば、そのすぐ後には頬を赤く染めて。
ぺたんと座り込んで、指先で居心地悪く弄るマットの上に、俺も腰を下した。
「半年前に納得してたってことは、自分たちが出られなくてもお前の実力ならって思ってたってことだろ?」
「……だと、いいんだけど」
「それが、卒業間近になって、いざ出られると思ったら惜しくなったと」
「身も蓋もねぇな、先生」
「事実だろ。横からぶんどれるほどの実力もないから、辞退しろだなんて言うんだよ」
今度は、驚いた目が俺を見て。はは、と笑う。
「実力があるなら、全員の前で勝負でもなんでもすりゃいいんだ。それをこんなとこへわざわざ呼び出して、なあ」
「……先生の方が怒ってんじゃん」
「言ってんだろ?俺はお前がずっと努力してきたんだろうなってのを見ちまったんだ、って」
それが、くだらない感傷で押しつぶされるほど厄介で面倒で、かつ空しいことはない。
三年には三年の想いがあるんだろうけれども、それでも。俺は、今まで吹奏楽部の奴らが部活動の無い日にも音楽室で練習している姿なんか、見たことがなかったから余計だ。
「日頃、お前よりも練習してねえ連中が、情だけで勝てるほど生易しいコンクールなら話は別だけどな」
「ちょっと怖いんですけど、センセ」
「何が」
「まるで、俺の演奏……が、すごく、好きだって言われてるみたい」
ぴた、と俺の口が止まる。
それから、考えた。なんで赤の他人の俺が、こんなに。しかも生徒相手に、子供相手に、腹を立てているのかと。
「……そうだな、お前の演奏は、好きだな」
「っ、え」
「あの夜遅くまで残ってた日に聞いただけだけどさ。うん、好きだわ」
「ちょ、え、あ、う」
目に見えて動揺する圭の顔を、じっと見つめる。
顔を赤くして、あわあわと両手を動かす姿は。
「……待って、照れる。恥ずかしい」
「なんでだよ、散々言われてんじゃねえの?お前ぐらい上手かったら」
「ないよ……だって俺、中学までは、ほんと下手で」
「は?」
ぽかんとした俺の顔を見た圭が、恥ずかしそうに視線を逸らした。
「吹くことは、好きだったんだけど。その、音程の取り方とかがたぶん下手くそだったっていうか、指や息の使い方もよくわかんなくてさ」
「……驚いた」
誰だ、こいつを天才なんて呼んだのは。
どれだけの努力の上に、あの音があるのかと思うと。胸の奥が締め付けられるような気がして、今すぐに抱きしめたくなって。自制心よりも先に、俺の体は動いてしまう。
「……せ、んせ?」
少しだけ震えた声に、我に返った。
「あ、いや、その、わ、悪い」
「……ん、だいじょぶ……あ、えっと、ちが、う」
ぱっと手を離した俺に、眉を八の字に下げて。頬だけじゃなく、耳まで赤くして、えっと、と口にする。
「……あん、しんする」
「え、っ」
「……もっかい、して、くれ、ますか……?」
ちら、と。相変わらず猫背なせいで、少し俺を見上げるように見てくるから、心臓に悪い。
とりあえず深呼吸を三回ほどして、改めて腕を回してみた。
圭の手が、俺の胸あたりの服を弱々しく掴む。
よく見れば、それは震えていて。
「……そりゃ、そうか」
「え……?」
「いきなり殴られて、怖くないわけねえよな。よしよし、大丈夫大丈夫」
さらさらと流れる髪を撫でれば、遠慮がちな手が背中に回された。
「泣きたいなら泣いていいぞ」
「泣かない、ですぅ」
うう、と小さく唸りながら額を肩にくっつけてくる、その行動がかわいらしく思える。
しばらくの時間、そうしていて。手の震えが治まったのを確認してから、ゆっくりと体を離した。
「もう大丈夫か?」
ん、と頷く。目尻が少し赤くなっていたものの、にこりと笑ってくれた。
「堂々としてろよ。お前が変に遠慮して、三年に譲る必要なんてないと思うぜ」
「……でも」
「今度何か言われたら、勝負で決めようって言えよ。全校生徒かき集めてやる」
暴論、と言いながら。笑う顔を見て、泣いて欲しくないと心から思う。
「……携帯、貸しな。俺の番号入れとくから、なんかあったら電話でもメールでもしろ」
「わ、悪い、よ。亮吾先生、僕の担任でもないし、吹奏楽部の顧問でもないのに」
「顧問に話通してもいいけどさ、そしたらまたお前チクっただのなんだの言われんだろ。俺なら何の関係もないから、逆に偶然装って助けてやれる」
「偶然?」
「そ、何回でも起きる偶然」
変なの、とまた笑うから。抱き寄せたくなるのを、なんとか必死に我慢した。
「なんでそんなことしてくれんのさ」
「ファンだからだよ。お前の」
これは掛け値なしの本音で、それを口にすれば、また顔が赤く染まる。
「くだらないことで、お前の演奏が聞けなくなったりしたら嫌だからな」
「……嬉しい」
ぽそ、と小さく言った声。その顔を直視したら、きっといろいろとまずいことになりそうで。
ほら携帯、と急かすことで、俺の胸に湧いたあまりよろしくないものをなんとか飲み込む。
頷いた圭が出した携帯電話で、俺の番号にかけると、互いに登録してから、携帯を返した。
「いつでもいいからな。夜中だってすっ飛んでいってやる」
「先生、それもはやファン通り越してね?」
「親衛隊でもいいぜ」
「昔のアイドルかよ」
「今どきの言い方ってなんだ?強火担か?」
「よく知ってんね。じゃあ僕、先生の推し?」
くだらない話をしながら立ち上がり、外に出て用具室の扉を閉める。
「鍵は?」
「ここ壊れてんだよ。生徒たちの間じゃ常識」
「マジか……直すよう言っとくわ。また俺の推しに何かあったら嫌だしな」
「もう」
笑いを含んだ声で。だけど、ふいっと体育館の入り口を向いたその、流れる髪から覗く耳が、また赤くなっているのには気づかないふりをした。
ふと外を見てぼやく。黒くて重たいカーテンを少しだけずらせば、そこは部屋の中と同じく明かりのない暗闇に覆われていた。
はあ、と小さなため息が零れる。いくら、もうすっかり日が落ちるのが早くなったとはいえ、まったく気づかなかったのは不覚だった。
取り急ぎ、作業を終わらせようと手を動かす。現像した写真をまとめ、後片付けをして。ようやく、暗室から隣の部屋に出た。
暗室、と言っても必要な機材や道具を運び入れただけの場所だ。元々はただの準備室で、だけれども、子供たちの部活動の一環としては、そこそこ役立っている。
「物は職員室に置いておきゃいいか……ったく、何やってんだか」
独り言がぼろぼろと落ちた。
暗室と、その隣の社会資料室の鍵を締め職員室に向かう。廊下も教室も、少しばかりの場所で電気が灯っているだけで、それはもう残っている人間が限りなく少ないことを表していた。
職員室の自分の席に戻り、鞄を手にする。出来上がった写真はまとめて引出しに入れておいて、帰り支度を済ませた。ここにも、もう人はいない。
廊下に出て、職員用の昇降口に向かおうとしたときだ。何か聞こえた気がして、足を止めた。
何せ夜の学校だ。怪談噺にはことかかないシチュエーションだが、正直俺はそういった類のものがひどく苦手で。
「勘弁してくれよ……」
我ながら情けない声が出る。だけど、もしも残っているのが生徒だとしたら、注意のひとつもしなくてはならない。
別に俺じゃなくてもいいだろう、という気持ちと。生来のお人好し気質が戦って、後者が勝ってしまった。
おそるおそる、何かが聞こえた方向へ足を向ける。
最初は掠れてなかなか聞き取りにくかったそれも、近づくにつれて明瞭になって。俺は、それが楽器の音なのだと気づいた。
案の定、誘われるようにたどり着いたのは音楽室だ。はあ、とため息をついて扉を開ける。
「熱心なのはいいけどもう真っ暗だぞ」
俺の声は確かに大きかったとは言いにくい。けれど、その曲は止まる気配すら見せなかった。
もう一度ため息をついて、二重になっている奥の扉を開ける。
「おい、いい加減に――」
瞬間、耳に。否、全身に浴びせかけられた音に、俺は凍りついた。
力強く、そして儚く。高く低く、圧倒的な熱量で奏でられるそれに、息をすることすら忘れたように立ち尽くしてしまう。
馬鹿みたいに、相手が演奏し終わるのを待っていた。
「……違うなぁ。ここ、もうちょっと強く……ああ、でもそうするとこっちが……あと曲の解釈が……」
俺のことなどまったく眼中にないその音の主は、手にしていたトランペットを下ろしたと思ったら開いた楽譜に目を落とし何やらぶつぶつと呟いている。
ええと、なんて言いながら楽譜に何かを書き込んでいる姿を見て、やっと我に返って。軽く頭を振り、近づいた。
「……先生?」
きょとん、とした顔が俺を見る。さらさらした髪が揺れて頬にかかり、邪魔そうにそれを耳へかける仕草を目で追った。
そうだ、確か彼は。
「……もう、外は暗いぞ。練習熱心なのはいいが、早く帰れ」
「えっ」
驚いた目が、窓のほうに向く。生憎、暗室と同じように黒く重いカーテンが閉まったそこからでは、外の様子を見ることはできなくて。
慌てた様子で駆け寄り、そのカーテンを持ち上げた。うわ、という声が聞こえる。
「うそ、真っ暗じゃん……マジか」
「気づかなかったのか?」
「えっと、はい。今日はそもそも活動日じゃなくて、ここにいたのも僕ひとりだったし」
「……ま、俺も似たようなもんだしな」
ぼそりとつぶやいた声は、彼の耳には入っていないようだ。ばたばたと楽譜をしまい、出ていたものを片づけ、帰る準備ができるのを見守る。
「あ、そうだ鍵」
音楽室の鍵を教卓の上から取り、俺にぺこりと頭を下げた。
「すみません、先生も帰るとこだったんですよね」
「そう言われりゃそうだが、気にすんな。鍵、返しておこうか?」
「いえ、僕が使ったんだし……僕が返しに行きます」
にこ、と笑って。とはいえ、じゃあよろしくと別れるのも違うだろうと、俺も苦笑する。
「ひとりで行かせるのもおかしいよな。ついてくわ」
「……はーい」
俺の言葉に、今度はくすくすと笑った。
「先生はこんな時間まで仕事?」
「いや、趣味」
言いながら廊下を歩き、職員室まで戻る。鍵がたくさん並んでかけられている場所に音楽室のそれを戻すのを見守って、彼を昇降口まで送ってやった。
「家どっちだ?もし方向同じならついでだし、車乗ってってもいいけど」
「えー、悪いからいいですよ」
そう言いながら靴を履く。どこからどう見ても、普通の男子高校生なのに。
「……お前、吹奏楽部だよな?」
「僕のこと、知ってんですね」
「有名だからな。天才って」
そうつぶやくと、若干眉が寄った。不満げなその表情に、ふ、と笑いが零れる。
「天才って持て囃すのは違うよな。たとえ生まれ持ったもんがあったって、努力しなきゃ大半はそんなものなくなっちまうもんな。偉いよ、お疲れ」
「え、っ、あ、え、あ、ありがと、ございます」
軽く頭を撫でてやれば、恥ずかしそうに。だけど嬉しそうに、彼は顔を赤くした。
櫻井 圭一。
親しい友人たちの間で、圭と呼ばれているのを知って三日。それから吹奏楽部の彼を、目で追っている。
俺の教科である近代歴史を選択授業として受けてくれていたのも、この間まで知らなかった。それぐらい、普段はおとなしくてあまり印象に残らない生徒だ。
授業態度はごくごく真面目。成績は――ちょうど真ん中。定期テストも平均点。
特徴を上げるなら、俺と同じぐらい身長があるくせに猫背でそうは見えないところと、男子にしては細い手足。それから、意外と足は速くて運動もできるらしいということぐらい。
ただ体はあまり丈夫じゃないようで。そう言えば夏の暑い日なんかは、よく休んでいたなと思い出す。
「あ、先生」
「おう。ちょっと手伝ってくれるか?」
「はーい」
あの日以来、向こうは向こうで懐いていい相手と判断したらしく。俺の姿を見ればひらひらと手を振って、ちょっとした頼みごとをすれば笑って頷いてくれるようになった。
現金なもので、そういう態度をとられるのに悪い気もしない。
「この資料、授業始まる前に配っといてくれ」
「ん、わかった」
「……敬語くらい使えよ」
「えー?だめ?いいじゃん。僕、亮吾先生のこと好きだし。話しやすい」
「野下先生、だろ」
「どっちでもよくない?」
「お前のこと圭って呼ぶぞ」
「いいよ別に」
お互いに言い合って、ふは、と吹き出す。
不思議なことにウマが合って、そんなくだらない会話を挨拶のように、日課のように交わすのが当たり前になっていった。
自分の椅子に座ったまま、大きく伸びをする。見計らったかのように、目の前にコーヒーが置かれた。
「お疲れ」
「サンキュ」
笑って受け取る。同僚で、元同級生の上川 健がいた。
眼鏡を押し上げ、彼も伸びをしたあとにでかい欠伸をこぼす。
「お前も疲れてんな」
「この時期はどうしてもな。期末テスト近いし」
「子供たちも大変だってぼやくけど、俺らもなかなかに大変だもんな」
「まぁ、んなもん知らねぇのが当然で、それでいいんだよ子供は」
違いない、と笑いながら受け取ったコーヒーの缶を開けて飲み干した。
ちら、と。職員室の壁、様々な場所の鍵がかけられているところに目をやる。
俺のその視線に気づいた健が、同じようにそこを見た。
「趣味は仕事終わってからにしろよ」
「あー、うん。ま、そうだよな」
俺が見ていたのは暗室の鍵ではないので、濁した返事になる。
「部活ってもう休みなんだっけか」
「そうだな、テストまで一週間だから……今日からもう休みじゃねぇの?」
「……なるほど」
ふと、思った。音楽室の鍵はそこにかけられたままで、だとしたら、彼はどうしているのだろう、と。
少なくとも俺の知る限りでは、吹奏楽部の部活動がある日は参加して。ない日は、音楽担当の教諭と話をつけているらしく、自由に部屋を使っているから。
あんなに楽しそうに、熱心に活動している彼が、一週間もトランペットに触れずにいられるのだろうか、と余計な心配が頭をよぎった。
変な心配をしてしまったら、少し姿が見たくなるのが人間ってもんで。
放課後、まだ帰っていないのを昇降口の靴で確認などしてしまう。
「……いや気持ち悪いな俺」
そう自嘲気味につぶやいてみても、気になるものはどうしようもない。どこかで吹いているのだろうか、とも思うし、また聞きたいとも思ってしまった。
教室を覗いてみたけれど、そこに生徒の姿はもうない。当然、彼の鞄もなくて。
廊下の窓から見える音楽室はしんと静まりかえっていて、念のため鍵を確認してはみたけれど、それは職員室の定位置に納まったままだった。
疑問が首をもたげる。どこにいるんだ、と。
「演奏できそうなとこ、っつったら……体育館の方か?あとは屋上……いや今の時期閉まってんな」
独り言をつぶやきながら渡り廊下を抜け、体育館へと向かった。
広いそこは、いつもなら部活動をする生徒たちで溢れているが、今日は何もない。
「……違うか」
言いながら、だけど。妙な感覚が、僅かに肌を刺した気がした。
「わかったかよ!」
足を止める。思いのほか大きい声が聞こえて、咄嗟にその方向を向いた。少しだけ開いた扉の向こうからだ。
体育館の扉の向こうなんて、用具室と相場が決まっている。まさか、と思って近づくと、もう一度声が聞こえた。
「三年は年明けが最後なんだよ!最後ぐらい先輩に花持たせてやろうと思わないのかよ!」
「だから、辞退しろって?」
返した声は、聞き覚えのあるそれで。俺が探していた声でもあった。
がっ、と鈍い音がする。さすがに立ち聞きしている場合ではない。誰かいるのか、とわざと離れた場所から大きな声を張り上げた。
ばたばたとした音がして、用具室から数人の生徒が飛び出してくる。特に見知ったものではないので、バツの悪そうな彼らに早く帰れよ、とだけ言った。
「……大丈夫か?」
「あ……亮吾先生……」
予想通り。他の生徒たちがいなくなってから、用具室の中を覗くと、圭が振り返った。
頬が赤くなっている。唇を切ったのか、拭った手の甲には血がにじんでいた。
「僕はなんもしてないからな」
「わかってるよ」
ほら、と言って持ち歩いているハンカチを出し、手と唇の血を拭ってやる。汚れるからいいと身を捩ったけれど、なんだか放っておけなかった。
「本当、先生お人好しだな。血がついちゃったじゃん」
「別に洗えばいいだけの話だろ、気にするなよ。ん、外側切れただけみたいだな」
一応他にも怪我がないかを見てやる。口の中は綺麗なもんだったし、頬も赤くはなっているが痣とかにはならなさそうだ。少しほっとした。
「あいつら、三年か?」
「三人が三年。あと二年が二人」
「年明けがどうとかって聞こえたけど」
「その辺聞いてたんだったらもーちょい早く止めに入ってくれてもよくね?」
「何の話なんだかわかんなかったんだよ。仮にデリケートなシーンだったら俺が気まずいじゃんか」
不満げに口を尖らせ、いて、なんて言うから。何やってんだと苦笑する。
「先生は年明けにさ、都のコンクールあるの知ってる?」
「いや?ずいぶんな時期だな」
「うん。だから例年、三年生は進路決まってる人たちしか出ないんだ。で、今回何人か出るんだけどさ、曲の中にソロパートがあって」
なんとなく察した。天才も楽じゃねえな、と胸中でだけつぶやく。
「俺がそこ担当すんの、半年ぐらい前に決まってさ。だけどそん時は、三年生たちも納得してくれてたんだよ」
「あー……時期的に、ちょうど受験だもんな。そもそも自分たちが出られるかどうか、わかんないやつらの方が多かったってことか」
よいしょ、とマットの上に座りなおして、圭は頷いた。
「わかるんだよ。言ってることは、さぁ」
「わかるのかよ」
「馬鹿にしてんの?」
「いや、純粋に感心してる。だって俺は、お前が努力してんの見ちまったからさ」
じろ、と人を睨んだかと思えば、そのすぐ後には頬を赤く染めて。
ぺたんと座り込んで、指先で居心地悪く弄るマットの上に、俺も腰を下した。
「半年前に納得してたってことは、自分たちが出られなくてもお前の実力ならって思ってたってことだろ?」
「……だと、いいんだけど」
「それが、卒業間近になって、いざ出られると思ったら惜しくなったと」
「身も蓋もねぇな、先生」
「事実だろ。横からぶんどれるほどの実力もないから、辞退しろだなんて言うんだよ」
今度は、驚いた目が俺を見て。はは、と笑う。
「実力があるなら、全員の前で勝負でもなんでもすりゃいいんだ。それをこんなとこへわざわざ呼び出して、なあ」
「……先生の方が怒ってんじゃん」
「言ってんだろ?俺はお前がずっと努力してきたんだろうなってのを見ちまったんだ、って」
それが、くだらない感傷で押しつぶされるほど厄介で面倒で、かつ空しいことはない。
三年には三年の想いがあるんだろうけれども、それでも。俺は、今まで吹奏楽部の奴らが部活動の無い日にも音楽室で練習している姿なんか、見たことがなかったから余計だ。
「日頃、お前よりも練習してねえ連中が、情だけで勝てるほど生易しいコンクールなら話は別だけどな」
「ちょっと怖いんですけど、センセ」
「何が」
「まるで、俺の演奏……が、すごく、好きだって言われてるみたい」
ぴた、と俺の口が止まる。
それから、考えた。なんで赤の他人の俺が、こんなに。しかも生徒相手に、子供相手に、腹を立てているのかと。
「……そうだな、お前の演奏は、好きだな」
「っ、え」
「あの夜遅くまで残ってた日に聞いただけだけどさ。うん、好きだわ」
「ちょ、え、あ、う」
目に見えて動揺する圭の顔を、じっと見つめる。
顔を赤くして、あわあわと両手を動かす姿は。
「……待って、照れる。恥ずかしい」
「なんでだよ、散々言われてんじゃねえの?お前ぐらい上手かったら」
「ないよ……だって俺、中学までは、ほんと下手で」
「は?」
ぽかんとした俺の顔を見た圭が、恥ずかしそうに視線を逸らした。
「吹くことは、好きだったんだけど。その、音程の取り方とかがたぶん下手くそだったっていうか、指や息の使い方もよくわかんなくてさ」
「……驚いた」
誰だ、こいつを天才なんて呼んだのは。
どれだけの努力の上に、あの音があるのかと思うと。胸の奥が締め付けられるような気がして、今すぐに抱きしめたくなって。自制心よりも先に、俺の体は動いてしまう。
「……せ、んせ?」
少しだけ震えた声に、我に返った。
「あ、いや、その、わ、悪い」
「……ん、だいじょぶ……あ、えっと、ちが、う」
ぱっと手を離した俺に、眉を八の字に下げて。頬だけじゃなく、耳まで赤くして、えっと、と口にする。
「……あん、しんする」
「え、っ」
「……もっかい、して、くれ、ますか……?」
ちら、と。相変わらず猫背なせいで、少し俺を見上げるように見てくるから、心臓に悪い。
とりあえず深呼吸を三回ほどして、改めて腕を回してみた。
圭の手が、俺の胸あたりの服を弱々しく掴む。
よく見れば、それは震えていて。
「……そりゃ、そうか」
「え……?」
「いきなり殴られて、怖くないわけねえよな。よしよし、大丈夫大丈夫」
さらさらと流れる髪を撫でれば、遠慮がちな手が背中に回された。
「泣きたいなら泣いていいぞ」
「泣かない、ですぅ」
うう、と小さく唸りながら額を肩にくっつけてくる、その行動がかわいらしく思える。
しばらくの時間、そうしていて。手の震えが治まったのを確認してから、ゆっくりと体を離した。
「もう大丈夫か?」
ん、と頷く。目尻が少し赤くなっていたものの、にこりと笑ってくれた。
「堂々としてろよ。お前が変に遠慮して、三年に譲る必要なんてないと思うぜ」
「……でも」
「今度何か言われたら、勝負で決めようって言えよ。全校生徒かき集めてやる」
暴論、と言いながら。笑う顔を見て、泣いて欲しくないと心から思う。
「……携帯、貸しな。俺の番号入れとくから、なんかあったら電話でもメールでもしろ」
「わ、悪い、よ。亮吾先生、僕の担任でもないし、吹奏楽部の顧問でもないのに」
「顧問に話通してもいいけどさ、そしたらまたお前チクっただのなんだの言われんだろ。俺なら何の関係もないから、逆に偶然装って助けてやれる」
「偶然?」
「そ、何回でも起きる偶然」
変なの、とまた笑うから。抱き寄せたくなるのを、なんとか必死に我慢した。
「なんでそんなことしてくれんのさ」
「ファンだからだよ。お前の」
これは掛け値なしの本音で、それを口にすれば、また顔が赤く染まる。
「くだらないことで、お前の演奏が聞けなくなったりしたら嫌だからな」
「……嬉しい」
ぽそ、と小さく言った声。その顔を直視したら、きっといろいろとまずいことになりそうで。
ほら携帯、と急かすことで、俺の胸に湧いたあまりよろしくないものをなんとか飲み込む。
頷いた圭が出した携帯電話で、俺の番号にかけると、互いに登録してから、携帯を返した。
「いつでもいいからな。夜中だってすっ飛んでいってやる」
「先生、それもはやファン通り越してね?」
「親衛隊でもいいぜ」
「昔のアイドルかよ」
「今どきの言い方ってなんだ?強火担か?」
「よく知ってんね。じゃあ僕、先生の推し?」
くだらない話をしながら立ち上がり、外に出て用具室の扉を閉める。
「鍵は?」
「ここ壊れてんだよ。生徒たちの間じゃ常識」
「マジか……直すよう言っとくわ。また俺の推しに何かあったら嫌だしな」
「もう」
笑いを含んだ声で。だけど、ふいっと体育館の入り口を向いたその、流れる髪から覗く耳が、また赤くなっているのには気づかないふりをした。
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