the trip voice

あきら

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9 理由

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 弱々しく押し返してくる手を取る。ちゅう、とそれに吸い付くと、信じられないものでも見るような目がこちらを向いた。
 落ち着けよ、と薄い唇が言う。衝動のままに塞ぎたくなるそれをじっと見つめて、落ち着いてると返した。

「お、おれだぞ?よく見ろよ」
「知ってる。湊だ」
「な、だったら、ほら」
「だけど、俺がずっと聞いてた『さく』だ」
「だ、だから」
「まだ違うって?」

 俺のアカウント名を口走りそうになったことが何よりの証拠だ。にやりと笑って追い詰めると、それは、と口の中でもごもごと唸る。

「じゃああのマイクなに。あのパソコンは?」
「げ、ゲーム、実況とか、好きで、やってみたくて」
「ふうん。じゃ、あの箱の中身は」
「うぇ」

 変な声を出して視線を動かす。俺のそれを追った湊の顔が、あからさまに引きつった。
 それはそうだろう。俺が見ているのは、例の箱だ。

「彼女いないんだよな?そう言ったな?そんで、俺と違って、好きでもないのに付き合えないって言ったよな」
「あ、う、うぁ」
「で、なんでお前あんなん持ってんの。何に使うわけ?」

 何度か動いて言いかけた口から言葉は出てこない。強情も、ここまでくると立派だ。
 気づかれないよう息を吐いて、ほとんど無理矢理湊の履いているものを取り去った。

「や、やだ、やだって」
「別にいきなり突っ込んだりしねェよ。手と足だけ貸せ」
「あ、やっ、ぇうっ」

 言いながら、想像通りに柔らかい後孔を軽く指で探る。
 びく、と跳ねて出した声は甘ったるくて、画面越しのそれなんかよりもひどく刺激的に俺を揺さぶった。

「ここ、弄ってただろ?」
「ひ、あ、や、やめ、っ」
「もっと声出せよ。俺、お前の声がねえとイけないんだからさ」

 ばかぁ、と胸やけしそうな罵倒に口角が上がる。
 本当にどうしようもないほど、俺はこの声に狂っているのかもしれない。そんな風に思いながら指を引き抜くと、自分のスウェットを軽く下げ屹立した自分自身を湊の足の間へ滑り込ませた。

「手貸して。こっち、一緒に、そう」
「っあ、あう、っ、や、ぁあっ」
「やだって言いながらしっかり感じてんじゃん」

 びくびくと震える足に唇で触れる。こんな緩い刺激でも、限界は近くて。

「ん、っ……湊、大丈夫だから自分の気持ちいいように手、動かして」
「っあ、ま、まって、うごかな、っ、あ」
「擦れんの、だめ?気持ちいいだろ」
「し、らなっ、あ、あぁ、っ、や、こ、こんな、のっ」

 隠そうと横を向いた頬を、ぽろりと涙が伝った。
 そんなものにすら煽られて、だけど気持ちよくなってもらいたくて、ゆっくりと腰を動かす。

「っあ、ぁあああ、っ、だ、だめ、おれも、だめっ」
「早くね?いつももうちょっと保つだろ」
「っ、だ、って、だって、あ、ぁあああっ!」

 理性が蕩けてきたのか、俺の言葉に否定も返ってこない。背中を反らして達した薄い腹の上へ、白濁が飛んだ。
 どろりとした目が俺を見る。俺を見ているようで、どこか焦点の合わないそんな目だ。

「だ、って……こんな、の、もぅ……セックス、じゃん……」
「っ」

 今まで聞いたことがないほどに甘くとけた声と言葉に、情けないかな俺もまた、湊の体へと欲を吐き出した。



 そのまま逃げ出しそうだからと、湊を捕まえたまま二人で一緒にシャワーを浴びて。
 改めてベッドに彼を座らせ、その足元に俺が座る。譲るつもりもなくて、その顔を正面から見上げた。

「教えて。お前が『さく』なんだろ?」

 何度か繰り返した問いに、唇がきゅ、と結ばれる。まだ言わない気かと思っていると、しばらくの後それはゆっくり解けて息を吐き出した。

「……お前、学生の身分でどっからあんな金出してんの」
「湊がそれ言う?荒稼ぎしてるくせに」
「っつったって、俺の場合ほとんど引っ越し費用と機材に消えるし。それに、俺が本当にやりたいのは――」

 何か言おうとして、きっとできなくて、言葉に詰まる。
 港の言葉の後に続くのは、おそらく『あんなのじゃなくて』だろう。だけど、それを口にしてしまったら、『さく』を好きな俺に悪いと考えている。
 馬鹿だなあ、と胸中でつぶやいた。勝手に俺が、お前の声を好きになってたってだけの話なのに。

「――話、しようぜ」
「うん……ありがと」

 礼なんて言われる筋合いもない。手招きされるまま、お邪魔します、とベッドの上で二人座り直す。

「……透が、あの、ジョーって人?」
「そう。すげえ貢いだ」
「馬鹿」

 なぜだか泣きそうな声音で言うので、肩に手を回し寄りかからせた。僅かな抵抗はあったものの、こつりと頭が俺の肩に乗る。

「お前怖いんだよ。平気で何回もスパチャ投げやがって」
「そんぐらいしか気持ち伝える手段ないんだから仕方ねえだろ」
「いやまあ、ほとんどお前からの金で機材とか買ったけどさ……」

 妙に正直なことを言うので、小さく笑った。
 少しの時間沈黙が横切って、先に俺が口を開く。

「なんで、配信始めたんだ?」
「え」
「他になんかやりたいことあったんだろ?なんであんな配信してたんだよ」

 気まずそうに至近距離の目が伏せられて、睫毛が震えるのが見えた。
 黙ったまま、湊の返事を待つ。言いたくないなら、と思い直したとき、ぽつりと零した。

「……誰かに、必要とされたかったから、かな」

 その声音はひどく寂しそうで。独り言のように紡ぐ言葉を、黙って受け止める。

「俺、ずっと――好きな人がいたんだよね。ずっと」
「……そっか」
「その人がさ、俺のこと好きになってくれるはずもなかったから、友達でよかったんだ。ずっと、いい友達でいたかった」

 なのに、と。震える肩が小さく思えて、もっとこっちへと軽く引き寄せた。

「俺、馬鹿だからさ。我慢できなくて、とうとう言っちゃったんだ、ずっと好きだったって」
「別に、何も悪いことねえだろ」
「……ありがと。でもやっぱり、友達としては好きだよって返されちゃってさぁ。どうしようもなくなって、それで」

 恥ずかしそうに、指先がシーツの上で丸を描く。
 それを眺めていると、半分は成り行き、という言葉が聞こえた。

「もともと、歌とか台本読みとかはやってたんだ。動画も投稿してて――でもあんまり伸びなくて。そしたら、リスナーさんがASMRの配信はどうかっておすすめしてくれてさ」
「……は?」
「それで、もらった台本読んだりし始めて」
「っ、待て。待て待て待て」

 慌てて湊の話を遮る。

「台本読みまではまだわかる。あのメンバー限定配信はどういうことだよ」
「え、っと、それ、は……」

 言いにくそうに口ごもって。もぞもぞと足先を動かしたあと、酔った勢い、とこれまたくだらないくせに納得のいく答えが返ってきた。

「その、最初は……限定で飲み配信とか、してて。そんで、その、酔った勢いで……あーいうことしたら、その、意外と、盛り上がってしまいまして」

 だからか、ともう一度納得する。道理でメンバー限定配信のときはたいてい酔ってるわけだ。

「だからってお前」
「でも!実際にしてるわけじゃねぇからな!」
「……ん?」
「だから、ほんとにしてるわけじゃねぇの!そういう、それっぽい声と音出してるだけなの!」

 まあ、それはなくもない話だ。所詮ASMRなわけだし。聞いているこちら側がそれっぽく聞こえ、満足できれば構わないし。
 とはいえ、と新しく疑問が頭をもたげる。

「……でもお前、こっち」
「ひゃっ?!」

 横から腕を回し、足に触れる。軽く力を込めて開かせ、太腿の付け根をなぞった。

「弄ってただろ?」
「っ、や、め」
「柔らかかったし、指簡単に入った」

 なんでそんなことを言うんだと言いたげな涙目が俺を睨みつける。
 かと言って、引いてやる気がこれっぽっちもない俺は、優しく微笑んで言葉を促した。
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